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6章 勇者と、魔族と、王女様
魔王の生まれた日
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~ユリウス視点~
現在、ユリウスはフェイルノートを連れて十魔衆会議にゲストとして参加していた。
場所はアルベルトとミーシャが、かつて孝志襲撃の作戦を練っていた部屋だ。
因みに、ユリウスが話し合いに参加した理由は、テレサがどんな状況なのかを知りたかったからである。
ブローノと穂花は安全な場所に待機させ、ウインターは気絶しすぎて体調が悪いらしく寝込んでいた。
しかもウインターは、フェイルノートの封印を解いた功労者という事で、それなりの待遇を受けられるみたいだ。
「──では会議を始めるでありんす。カルマはんはまとめ役を嫌がるさかいに、あちきがアルベルトはんに変わって司会進行を務めやす……異論はないかえ?」
今話しているのが十魔衆序列三位、ルナリア=インファラス。
桃色の派手な羽織を身に付けており、綺麗に手入れされた茶色の長髪が印象的な魔族の女性である。
身体的に魔族と思われる特徴が無いので、アッシュ同様一目で魔族と判断するのは難しいだろう。
そんな彼女がアルベルトに変わり、一時的に会議の進行を取り纏める事となった。
この場所には現在、ユリウスとフェイルノート……そして残った十魔衆が全員集まった事となる。
「すまないルナリア。面倒なことをやらせてしまって」
「気安く話し掛けないでおくれやす。取り仕切るのはあちきでありんすよ」
「……そうだったね」
「第一、あんさん序列一位なのに、面倒な事を下の者にやらせて……良いご身分でありんすなぁ」
「人に指示したりするのは苦手なんだ」
「黙りんしゃいっ!勝手にいろいろ連れて来てからにっ!邪神様を味方に引き入れたのはええけども、人間を勝手に魔王城へと招き入れよってっ!後で弁明せぇな!」
「……わかった」
二人のやり取りを観てユリウスは思った……酒は嫌いだけど、カルマとは良い酒が飲めそうだと。
出会った時から彼に対して、自身と通じるものを感じていたユリウスだったが、立ち振る舞いや扱われ方が自分とそっくりなんだと気が付いた。
ユリウスがそんなどうでもいい事を考えていると、隣に座って居たフェイルノートが難しい顔をしながらユリウスに語り掛ける。
「……ユリウス……不味いぞ、あのルナリアという者」
「え?どうした?お前がそんな事を言うなんて……」
「あの者……若干喋り方が我と被っとる……」
「心底どうでも良いぞっ!しかも言うほど被ってないしっ!」
ユリウスとフェイルノートのどうでも良いやり取りに誰も聞き耳立てる事なく、会議は今も進行している。
「──にゃんにゃん♡もぉ~……ルナリアちゃん怒ったらダメだにゃん。そんなんじゃシワが増えてしまうよぉ?」
「年寄りは黙りんしゃい!」
「……ああん?このクソガキがにゃっ!…………じゃなくて、そんな酷いこと言ったら傷付くにゃん♡」
そして、速攻でキャラを崩壊させているのが、十魔衆序列四位ネネコ=サンダルソン。
身長はテレサよりも低く、まさに少女と断言出来る外見だが、年はそれなりに食っている。
ルナリアが二十代なのに対し、ネネコはアレクセイと同じ推定600歳超えの長寿だ。
……因みに語尾は『にゃん』だが、犬型の獣人である。
「──十魔衆とは癖が強い奴らが多いのう。今まで取りまとめて居た輩には同情するわい」
「……さっき城で会った魔族も癖が強かったしな」
十魔衆は今のところ、カルマ以外は特殊な性格の様に感じる……だからテレサは嫌で逃げ出したんだろうか?
ユリウスはどうしてもそう捉えてしまい、彼女へ対する同情心がますます強まって行く。
因みに城で会った魔族とはアッシュの事である。
「──はははは……ナイフ舐めんの止めらんねぇなぁッッ!!直接舐めてると鉄分豊富だからさぁ~~、ついつい舐めちゃうんだよねぇぇぇッッ!!これがぁぁッッ!!」
この明らかにヤバいのが序列五位アイヌス=オソマ。
長身で赤い肌が特徴。鬼人族の男性だ。
彼は必要以上にナイフを舐めしゃぶりながら会話へと加わる。
と言うか話をちゃんと聴いていたのかすら非常に怪しい。
そして、そんな彼を観た二人は──
「「ヤバイなこいつ(こやつ)」」
互いに声をハモらせ、こんな感想を漏らしていた。
と言うより、寧ろこれ以外の感想など思い浮かばないだろう。
このアイヌスに対しては、遠回しな物言いは必要ない……純粋にヤ・バ・イ。
既に此処でやって行く自信など、とっくの昔に失くして居るユリウスだが、最後のアイヌスが決定打となった。
そもそも良く考えてみればテレサが居るから魔王城に来たのであって、彼女が居ないのならユリウスが此処へ留まる理由など無いのだ。
なんせ彼の本来の目的は、フェイルノートの確保と獣人国の制圧だからである。
──よしっ!テレサも居ないと解ったし、コイツらもテレサの居場所を知らなそうだし、隙を観てブローノ王子と穂花を連れて魔王城を離れるとするかっ!フェイルノートも助けた恩とかで一緒に行動してくれるみたいだからなっ!
手掛かりはないが、魔王城に留まったままでは身動きが取れないと悟り、ユリウスは魔王城から抜け出す算段を建て始めるのであった。
「──しかし……魔王はんが居なくなった言うことは、魔王がおれへん事になるさかい……面倒になるでありんすなぁ」
「えぇ~?アイツ見た目最悪だったしぃ~?居なくなって私はせいせいするにゃん。やっぱり仕えるならアレクセイさま位美しくなくっちゃにゃん♡」
「あんしは何百年前に死にはった魔王の名前を出してどないしたいんや?」
「ぶーぶー!アレクセイさま、きっと何処かで生きてるもんっ!……ああ、とても【男らしかった】アレクセイさま♡むふふ……今もアレクセイさまの【男らしい】写真は宝物として飾ってるのにゃ!」
「むぅ?魔王アレクセイはんは、当時の勇者に殺されたのでは無かったかえ?」
「私見てたけど~あのズルしてアレクセイさまを倒した勇者、結局アレクセイさまにトドメ刺さなかったにゃん!だから生きてるにゃん!それにエルフだし、突然変異種の私と同じで寿命はまだまだ沢山ある筈にゃん!」
「筈、とは……また随分と曖昧どすなぁ」
「うるさいにゃ!直接観ていない癖に!」
互いに睨み合うルナリアとネネコ……だがそこへ──
「ははははッッ!!そんな事よりお前らぁッ!!鉄分取りたければナイフ舐めろぉぉ!!レバーじゃたんねぇぞぉッッ!!アレは鉄分少ねぇよぉッッ!!はははッッッ!!」
アイヌスが全く関係ない話題で、口論となった二人の間に割って入る……これにより二人の熱が急激に冷めてゆく。
「…………冷静になるとしやすかい」
「…………同感にゃ」
イッちゃってる男の介入で正気となった二人は、互いに先程までの言動を恥じると共に冷静さを取り戻す。
すると、この落ち着いたタイミングを見計らったかの様に、先ほどから黙って会議の様子を見ていたカルマが徐に口を開くのだった。
「──魔王の事でだが、実は皆んなに提案がある」
「ふにゃ?」
「あんさんが提案とは珍しいでありんすなぁ?どないしはったんや?」
「はははッッ!ナイフうめぇぇッッ!!」
二人は同時にカルマの方を向き、残った一名は執拗にナイフを舐め続ける。
若干一名、カルマに興味を示さない男が居るが、肝心の二人が自分の方を向いてくれた事で、カルマは考え着いた提案を口にする事に決めた。
「実は、魔王に相応しい人物が居るんだ。僕らの中の誰かが魔王に昇格は出来ないし、それなら彼に任せてみてはどうだろうか?」
「にゃにゃ!?」
「……ほぅ……実力の方は如何かぇ?」
ネネコは信じられないと言いたげな鳴き声を上げたが、ルナリアの方は興味深そうに、その魔王候補について詳しい詮索を始めた。
そしてアイヌスは、もはや反応すらしなくなった。
「──実力は折り紙付きだ。流石に魔王テレサ程ではないが、僕よりも強い存在なのは間違いないよ?なので実力的には魔王軍で一番だから、角は立たない筈だよ?」
「……信じられないにゃ……けど、アンタがそこまでいうにゃら、嘘じゃない筈なのにゃ」
「そやね……あんさんがそこまで言うんやったら、あちきはその話信じるでありんすよ?」
カルマは自信満々にその強者について語った。
しかも自分を下げてまで強く押してくるので、二人は虚言だとは到底思えず、既にその魔王候補に大きな期待を抱くのであった。
カルマは魔王候補についての話を続ける。
そして、話の続きは驚愕する様な内容だった。
「信じてくれたみたいで嬉しいよ。それに、実は既にその人物はこの魔王城に連れて来て居るんだ」
「「!!??」」
二人は驚きのあまり椅子から立ち上がり、互いに同じ様なオーバーリアクションを披露した。
そしてカルマは──
──少し離れた所に居るユリウスを見た。
それに釣られる様に、ルナリアとネネコもユリウスの方へ視界を移した。
「……………んん!?」
…………んん!?
唖然と口をへの字に曲げるユリウス。
どうして一斉に見られているのか、彼には理由が解らない。
魔王城を抜けると決めて居たが、一応、この場の話はしっかりと聴いていた。
だからこそ、新しい魔王について話をしているこのタイミングで、自分が一斉に視線を浴びる理由が思い当たらなかったのである。
だが、カルマの言いたい事を察したルナリアとネネコは、呆れた様に首を振りながらカルマをジト目で見つめた。
「──あんさん悪ふざけも大概にしい?お気に入りか知らんけども、人間如きが魔王になれるわけがないでありんしょう?」
「カルマ死ね、にゃ♡」
期待を裏切られたと考えた二人は、割とガチ目で怒りを覚えるが、カルマはユリウスが認められる存在だと確信があるので怯む事なく話を続ける。
「……疑われる事は解っていたよ──ルナリア。君には他者の能力を見極める力を持っていたね?それで一度ユリウスを見てくれないかな?」
「はぁ?なんであんしが人間如きに能力をつかわなアカンの?いややわぁ」
「……見れば全部わかるよ?もし、君の期待を裏切る様な結果になったら、君に能力を使わせた責任はしっかり取らせて貰う……どうだろうか?」
「…………ふぅ~……あんさんがそこまで言うなら…………しかし、人間の能力を見たところで…………ッッ!!??なんでありんすかこれはッッ??」
ルナリアは自らが所得したスキル【能力見識】でユリウスの能力を覗き見る。
このスキルはフェイルノートがテレサに使った【見識魔眼】ほどの性能は無く、隠蔽を看破る事までは不可能だが、特に能力を隠して居なかったユリウスへ対しては普通に通用した。
ユリウスの能力を確認したルナリアは、彼の能力が極めて高く、能力詳細こそ解らないのもも、複数のユニークスキルを所持していたのに大きな驚きを隠せなかった様だ。
固まった姿勢のままユリウスを凝視している。
……そこには若干だがユリウスへの恐怖も感じられ、少し表情は強張っていた。
ルナリアが恐れてしまう程、ユリウスの力は絶大だったのだ。
「あ、あの……魔王とかそういった役職はちょっと……」
流石のユリウスも状況を察したらしい。
カルマが自分を魔王に仕立て上げようとしてる事に気付き、彼に恨みを覚えながらも何とか断りを入れようと動き出す。
……だが、ユリウスが席を立ち上がった瞬間、今まで会議には無関心だったアイヌスが意外な動きを見せるのだった。
「──ははは、ルナリアさんよぉ~なぁにびびってんだ、よッッ!!」
さっきから鉄分を過剰に摂取し、完全に空気だったアイヌスが、ユリウスの力を推し量るかの様に手に持っていたナイフを投げつけた。
──しかし、音速で放たれたそのナイフを、ユリウスは瞬時に抜いた魔神具で簡単に切り伏せると、そのままアイヌスの目前まで一瞬で距離を詰めた。
そしてレーヴァテインを彼の首元へと突き付ける。
「…………なんのつもりだ?」
「…………はは、ははははッッ!!お前ぇ強いじゃないかぁはッッッ!!!ははははは!良いぜ!俺もお前に仕える事に異論はなくなったぜっ!」
「──!?しまった……」
ユリウスは自らの額を手の甲で抑えた。
剣でナイフを弾くまでは良かった……あれ位はそれなりの強者なら出来なくはない。
だが──アイヌスの懐に潜り込んで首元に剣を突き付けたのは余計だったのだ。
この時、ユリウスは唾液が大量に付着したナイフを投げられた事にイラッとし、神速のスキルまで使用していた。
そのせいで、この場に居る十魔衆に魔王としての素質……自らの力を示す結果となってしまったのだ──!
ユリウスの尋常ならざる踏み込みの速さを目の当たりにし、フェイルノート以外の者はカルマも含めて言葉を失う。
「──みんな、今のでユリウスの力は理解できただろうか?」
「し、信じられないにゃ……私にも全く見えなかったにゃん……」
「……あちきは直接能力をみたさかいに、その人間さんの恐ろしゅうさはようわかる……ユリウスはん、あんたまだまだ力隠しとるんやろ?」
「いや……全力だぞ?」
ユリウスはしれっと嘘を吐くが、そんなこと……フェイルノートが許さない。
「因みにコヤツ、魔神具を持っておるぞ?」
「お、おいっ!」
フェイルノートはあっさり告げ口した。
もちろん善意など微塵もない……ただユリウスの慌てる姿が観たかっただけである。
「にゃッッ!?本当かにゃッッ!?」
「信じられんわぁ……アッシュの小僧でもあれだけ強うなるんやから、あんさんが持ったらいったいどないまで強うなるんや……」
「僕は知っていたけどね……ここまで来たら流石に異論を唱える者はいないだろう?──では、魔王はユリウスで決まりだね?」
カルマがそう話すと、ルナリア、ネネコ、アイヌスは軽く頷き、ユリウスの前に片膝を着いた。
そしてカルマも三人がそうするのを確認してから、自身も同じ様にユリウスの前に膝を着く。
そして全員がユリウスへ忠誠の言葉を捧げた。
「「「「我ら十魔衆は、ユリウス・ギアードを新たな魔王と認めます」」」」
「……………………………………………………………………………………………………え?」
「クハハハハッッ!!ウケるのじゃ!!」
─────────
──翌日、魔王軍全土に激震が走る。
それは、魔族の間にある通達が為されたからだ。
まずは魔王が離反した事。
これにはテレサが嫌いな者達の中に喜ぶ者も多少はいたが、容姿はともかく、彼女の圧倒的な実力を認める者が殆どだった為、最強の存在が居なくなった事に魔族達は絶望したと言う。
また、畳み掛ける様に十魔衆が半分以上居なくなった事も一緒に公表され、それにより十魔衆は解体……残った四人の十魔衆は新たに組織化された【四天王】に配属となった。
メンバーはカルマ、ルナリア、ネネコ、アイヌスの四人である。
そしてもう一つ………
魔王テレサに代わり、新たな魔王の誕生が報じられる。
その者は元魔王テレサには及ばないものの、十魔衆では太刀打ち出来ない実力を誇る存在だと、大きく取り上げられた。
その者は人族……名をユリウス・ギアード。
この情報は立ち待ち魔王軍全土に広がり、歴史上初めて、敵対民族からの魔王誕生に、誰もが大きな動揺を隠せなかったと言う。
それはあまりの衝撃だった様で大騒ぎとなり、テレサの時とは違い、人族の領土へと話が広まるのは時間の問題だろう。
──最早、ユリウスに逃げ場など無かった。
……因みに、邪神の復活は良くも悪くも更なる混乱を招くと言う事で、状況が落ち着くまで存在を伏せられる事となったが、当の本人はユリウスの現状が面白過ぎて上機嫌らしい。
こういう恩知らずな所が実に邪神である。
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