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6章 勇者と、魔族と、王女様

疲れた心を癒してくれる少女

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その後、直ぐにテレサの下へと向かう。
途中までヤンキーも当たり前の様に着いて来たが、ある程度テレサに近付くと呪いの影響が有ったらしい。

ヤンキーは俺とテレサがこれから会うという話を本当に疑って居たらしく、呪いの影響を感じ取る事でようやく信じてくれたみたいだ。

去り際に『マジで魔王と知り合いだったんだな……しかも呪いも平気とか……てめぇ如きが信じらんねぇ』と一言残して引き返して行った。
てめぇ如きと言う単語がかなり引っ掛かったが、アッシュなんて所詮呪いを克服出来ないクソ雑魚だし、相手にする価値はないだろう。
俺は自分にそう言い聞かせ、城に呪いが届かない場所で待機しているテレサの下へ急ぐのだった。


──アルマスの体調が著しく無いので、念のため城から300メートル以上離れた所でテレサと落ち合う約束をした。
木々で周りの景色を見渡せないが、テレサが脳内音声で道案内してくれているので迷う事は無い。
声に従って林の中を進んで行くと、木の数が段々と減って行き、次第に広い範囲で辺りを見渡せる様になって来た。


更に少し進んで行くと──


──割と直ぐにテレサを見付ける事が出来た。

テレサは自分で用意したと思われる、大自然には不釣り合いの大きくてフカフカな敷物の上に腰を掛け、俺が来るのを待っていたようだ。

目が合ったテレサは嬉しそうにブンブンと手を振っているが此方には近付いて来ない。
城に怪我人が複数居るのを教えてたので、出来るだけ城に近づかない様に気を遣って居るのだろう。

そして、俺がふかふかシートの側まで近付くと、さも当たり前の様にテレサは抱き着いて来る。



「──よしよ~し、テレサはやっぱ可愛いな~……もう俺本当に疲れた今日は……」

少し飛び付き気味で抱き着いて来たテレサは、そのまま俺の胸板に顔を埋めて嬉しそうにしていたが、俺の言葉を聞いて我に返ったのか……真剣な面持ちとなった。

「……その事だけど……孝志、僕が居ない間に何があったの?あの感じだとさっき話していたフェイルノート…?って人と凄い戦闘があったと思うんだけど?」

抱きついたまま顔を上げ、テレサは心配そうに孝志を見つめる。

近過ぎる距離感に照れ臭さを感じながらも、テレサが居ない間に何が起こったのか……孝志は詳しく報告する事にした。


───────


「──てな事があったんだよ。俺もう凄い疲れてさ、今日一日だけで一生分疲れたよ……疲れた心を癒しておくれテレサぁ~」

「うん……頑張ったね、孝志。ほ~ら……ゆっくり休んでね?僕の事は好きにしてもいいから」


──現在、正座の姿勢で座っているテレサの腰周りに顔を埋めながら、彼女に頭を撫でて貰うという……孝志の癖に甘々展開を満喫していた。

また、孝志自身も甘え過ぎだと自覚は有るが、割と精神が消耗しているので、自分の事を心から受け容れてくれるテレサに遠慮なく癒して貰っている。

……いや、彼の本音を言うと、この状況に陥る前に止めて欲しかったのだが、一切拒まれ無かったので今に至ってしまった。


「……好きにして良いとか……あんまそんな事を言わない方が良いよ」

「え?どうして?」

「いや、俺は紳士だから良いけど、悪い奴だったらスケベなこと要求するかも知れないよ?」

すると、テレサは孝志の頭を抱き締めながら顔を真っ赤にして反論する。


「そ、そんなことお願いしてもダメだから!ぼ、僕はそんなにチョロくないんだからね!」

「いや、テレサはめっちゃチョロいよ」

「チョロくないっ!………で、でも、孝志だったら……ちょっと位なら……」

「……やっぱりチョロいじゃねーか」

けど顔を真っ赤にして反論している姿は実に可愛らしい。
さっきまで歳食ったヤツらとずっと一緒に居たから、テレサと話してるとホント癒されるなぁ。


「テレサが戻って来るまで、周りには年寄りしか居なかったから、テレサと話せて嬉しいよマジで」

アレクセイさんとか、フェイルノートとか、アルマスとハルートも結構長生きみたいだし。
オーティスさんと裏切り親父は三十代だけど……もう三十路は年寄りのカテゴリーで良いか!

孝志がそんな事を思いながら黙っていると、テレサは少し困った様な表情で口を開く。

「あんまり年齢の事とか言わない方が良いよ?失礼だから」

「いやほんとだって……!アッシュとか言う魔族以外、皆んな三十歳超えてたんだぞ?しかも半分は三桁だよ?俺のお陰でだいぶ平均年齢下げれたからね?」

「そ、そうなんだ……アッシュ?なんか聞いたことあるような……ないような……?」

「いや、アンタの部下ですやん……十魔衆とか言ってたぞ?しかもテレサ、あいつの教育全然できてなかったですよ」

「なんで敬語…………あっ!思い出した!アッシュって、前に勝負を挑んで来た人だ!」

アッシュの事を思い出した様で、テレサは手をポンっと叩いた。


「あいつマジで何やってるの?」

「へへ……でも、悪い人では無かったよ?僕の呪いには参ってたみたいだけど、戦った後に『あざーしたッ!!』ってお礼言ってくれたし」

勝負挑んで負けたら『あざーした』って……あいつ骨の髄までヤンキーなんだな。
面倒くさいので、これ以上アッシュの件は追求しない事にした。


──状況を説明した後、孝志はテレサと会話を楽しんだ。
こうして話をするだけで心が休まる相手というのは、今の彼にとって一番必要な存在かも知れない。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


~テレサ視点~

あれから孝志と思う存分話をした。随分長いこと話し込んだから数時間は経ったと思う。
孝志とならいつまでだって話をして居られるけど、いつの間にか辺りが真っ暗になっていたので、本当に名残惜しかったけど別れる事になった。

別れ際、冗談半分で『一緒に寝る?』って勇気を出して言ってみた。
すると孝志は真剣に悩んだ後──

『興奮するから無理』

と言って断った。
僕に興奮してくれるなんて……嬉しい……!!

それからは明日も夕飯後に会って話をする約束をして、孝志は城へと帰って行く。
僕はその凛々しい去り行く後ろ姿を、見えなくなるまでずっと見送った。

…………早く明日にならないかな?
待ち切れないから時間を速める魔法を覚えて、今すぐ明日の夜にしちゃおうかな?……冗談だけど。


でも──


孝志と会話している時は決して表情に出さなかったが、テレサの心の中には、ある後悔の念が渦巻いていた。
それは、自分が不在だった僅かな時間の間に、孝志が死んでしまう様な危機的状況に追い込まれてしまって居たこと。


「そうか……僕が少しの間居なくなったせいで、孝志はそんな酷い目に遭ったんだね……あれ?」


──思わず声に出して呟くが……気が付くと、テレサの眼からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。
詳しく話を聴いた限り、孝志は一歩間違えれば死んでしまう状況だったらしい。
なので無意識に想像してしまったのだ……孝志の身に万が一が起きていた時の……そんな孝志のボロボロな姿を。

そして孝志がそうなる事は、テレサにとってこの世のモノとは思えない程の絶望を意味している。
次第にテレサは大粒の涙と一緒に、身体中から大量の汗をかき震え出す。


「……あぁ……良かった……父さん、母さん──孝志を護ってくれてありがとう……」

テレサは天に向かって深くお辞儀をした。
孝志が死なずに居てくれた事に心から感謝を込めて。


「それから、神様……僕は今まで以上に不幸になっても構いません。だからどうか、孝志だけは何があっても死なせないで下さい」


──ううん、違うよね。願うんじゃない……僕が死なせない様に頑張らなきゃ……そうだ、もう絶対に……何があっても孝志の側を離れない。
これからはずっとずっとずっと孝志の近くに居よう。
孝志は僕が命懸けで絶対に護るんだっ!


──テレサは自らの心に誓いを立てるのだった。
もはや余程の事が在ろうとも、テレサが孝志の側を離れる事は決して無いだろう。
テレサが孝志へ抱く思いは、想像するよりも底無しに途方もないほど深いモノなのだ。

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