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5章 明かされる真実と『狂』の襲撃者

5章 エピローグ 〜普通の勇者〜

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~アルマス視点~


──目を覚ますと、私は見慣れない天井を見上げていた……いや、見慣れないと言うより懐かしい天井。

ここは戦闘を繰り広げていたエントランスから少し離れた所にある、私が向こうの世界へ行くまで就寝に使っていた部屋だ。
どうやら私は今、この部屋の使い慣れていたソファーに仰向けで寝かされているみたい……綺麗な状態を維持してくれていたみたいね……嬉しいわ……それにしても──

──ああ、本当に懐かしい。
それに、誰がこの部屋まで運んでくれたんだろう?


………………


………………ッッ!!?


だが、懐かしむ気持ちは束の間、寝ぼけ頭が覚醒したアルマスは状況を理解し、直ぐにベッドから起き上がろうとする。

しかし疲労が激しく思う様に力が入らない。
結局、仰向けで寝かされたソファーから起き上がる事は出来なかった。


──クッ……スキルの連続使用が堪えたみたいね。
普通の状態の孝志ならともかく、ミーシャとか言う馬鹿エルフの所為で弱体化したあの子をカバーするのは、流石に無茶が過ぎたみたいだわ……

思わずアルマスはミーシャへ恨み言を呟く。
ミーシャの禁呪(ワード)は対象と自分自身を転移させる能力。
そしてそれとは別にもう一つ、相手の能力値を大幅に下げる効果を兼ね備えていたのだ。

ただでさえ弱い事を気にしている孝志が、この事実を知ったらますます落ち込むと考え、アルマスは敢えて能力低下の事を教えなかった。


──私が無理をすればカバー出来ると思っていたのに……なんて無様なんだろう。


気を失う直前の事を思い出しアルマスは自分自身に落胆した。


ユリウスがフェイルノートを連れて立ち去った後、敵が完全に去った事で安心したアルマスはその場で気を失ってしまった。

実は2回目のバリアを壊された辺りでアルマスの体力は限界を迎えており、あの時から気力だけで何とか立っている状態だった。
これまでバリアを壊された経験のなかったアルマスは、まさかバリアを破られる事が大きな疲労に繋がる事を、自分自身気付いて居なかったのだ。


──それにしても、誰が私をここまで運んでくれたのかしら?
そんなことより、孝志は大丈夫かな……?


一番に孝志を想うアルマスだったが、その心配は直ぐに解決する。


「──おはようアルマス。急に倒れたから、一応心配したぞ?」

目覚めたアルマスに気遣いの言葉を掛けてきたのは孝志だ。
その姿を見て、アルマスは安心した様に体の力を抜く。

「……良かった、無事で。オーティスも居たから安心はしていたけど……ごめんね、頼りにならなくて」

──本当に自分が情けなくなる。
バリアは簡単に壊されるし、アクセルも3倍までしか能力を引き出してあげられなかった。
この子が弱体化しているのは言い訳にならない……私がその分、しっかりカバーすれば良いだけの話なのに……合わせる顔がないわよ。


目が覚めて孝志の姿を観れたのはアルマスにとってこの上なく最高の目覚めなのだが、それ以上に自分が情けなくてしょうが無かった。

アルマスは自身に掛けられていた布団を頭まで被り顔を隠す。

それから互いになんの反応も無く、数秒ほど時間が過ぎるのだが、アルマスの脳裏にある疑問が浮かんだ。


──そういえば、誰が私を此処に運んでくれたのかしら?
いや、普通に考えてアレクセイね……孝志はポーションを大量に持っていたんだから、それを使って回復させたんだわ。
もしオーティスが私を担いで運んだんだったら、あの男絶対に許さないけど……

最悪の可能性を想定しながら、アルマスは頭まで被っていた布団から顔を出し、この件を孝志に尋ねる。


「──私を此処へ運んだのはアレクセイ?オーティスだったら後で復讐するけど…?」

「ん?ああ、アレクセイさんポーション使って回復させたけど辛そうだったから、俺が抱きかかえて、此処まで運んで来たんだ……感謝しろよ?この城無駄に広いから疲れたんだぞ?」

この言葉を聞いたアルマスの心臓は、一瞬、その全ての活動が停止した。
そして次に心臓が動き出す時、彼女は心身共にこれ以上ない程の幸福感に満たされるのであった。


「え、た、たか孝志が連れて来てくれたの!?本当に!?オーティスとかじゃなくて?……そ、それに抱き抱えてって、まままさかお姫様抱っこ!!?」

「チッ、うるせぇ女だな……仕方ないだろ?お前気絶してて上手くおんぶ出来なかったんだから。それにオーティスさんとかだとアルマスは性格的に嫌がると思ったから俺が仕方なく運んだんだよっ」

──あ、やっぱり孝志が、しかもお姫様抱っこしてくれたんだ……!

アルマスはあまりの嬉しさに顔が過去最高のニヤケ顔になってしまったので、それを隠す為もう一度布団を頭まで被った。


──ウソッ……?死ぬほど嬉しいんだけど……?さっきまでナーバスな感じだったのに全部吹き飛んじゃった……お姫様様抱っこって……やだもう、キャ~~!!

アルマスの妄想は止まらない。
普段、自分は孝志の母親だと思い込んでいながら、邪な感情を抱くとは……本当にとんでもない女である。

既に見せられる表情ではない。
にも関わらず、孝志は更にアルマスの表情が崩れる様な言葉を畳み掛ける。


「それと、何かして欲しい事とかあるか?」

「えっ!?ど、どうして!?」

「いや、気付かない内にだいぶ無理をさせていたみたいだから、少しは労ってやろうと」

え、本当にどうしたの?幾ら何でも優し過ぎる……頭おかしくなったのかしら?嬉死ぬからやめて欲しいだけど……?

いやいやいやいやいや、こんな事で死んではダメでしょ!今はチャンスなのよ!普段は逆立ちしたってやってくれそうに無いような事をお願いするチャンスなのっ!

完全に下心で支配されたアルマスは、恥じらいも無く自身の欲望を孝志にぶつける。


「じゃ、じゃあ、手を握ってくれない?」

「それは無理」

「え?話が違う……」

あえなく却下された。

まぁアルマス自身もダメ元で頼んだ事ではあったが、即答されてしまったので少し落ち込んでしまう。

だが次に見せた孝志の行動は、実に予想外なものだった。


「──ふっ、冗談だよ。今回だけだからな?」

「……ふえ……?」

そう言うと孝志は布団の中に入れてあったアルマスの左手を取り出し、その手を優しく握りしめる。
そしてアルマスは布団で顔を覆い隠したまま、思わず目を見開くのだった。


──え?どうして?天国なの?私死んでるの?

………ごめんね、孝志。
貴方を守り切れず、こんな世界に呼び出させてしまって悪いんだけれど、今はちょっぴりだけ、この世界に来て良かったと思ってるわ。
だって、こうやって手を握って貰えるんですもの……こんな幸せな事が起きてしまって良いのかしら?


調子に乗りまくったアルマスは、在ろう事か自分の指を孝志の指に絡め始めた。
……いわゆる恋人繋ぎという奴だ。

された側の孝志は一瞬怒りに表情を歪めたが、それでも数回深呼吸を行い気持ちを落ち着かせる。


──いやなんで無抵抗なの??
ここまで来ると絶対なにか良からぬ事を企んでるからだと思うけど、それでも今が幸せ過ぎるから後から何かされても許しちゃう。

誰にも渡さないわ……私だけの子よ…!!

魔王テレサも、橘穂花も、奥本美咲とか言う勘違い女にも、孝志は絶対に渡さないわ…!

ああ……本当に愛おしい……大好きよ、うふ、うふふ、うへへ♡

そしてアルマスは孝志に手を握ってもらいながら、そのまま深い眠りにつくのであった。

因みに、この時にアルマスが見た夢の内容は、人に話せる様なものでは無かったと、後に彼女は弘子とアレクセイにだけ自慢気に語ったと言う。


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~孝志視点~


「…………zzZ……ウヒヒ……♡」

「そのまま永眠しな」

そう言いながら、孝志は頭まで被っている布団をめくり、アルマスの顔を布団から出した。

それによりアルマスのウヘ顔が孝志の目に晒される。


「うわぁ、ひどい顔だな……」

今まで孝志に見えないとこでは散々披露して来たウヘ顔だが、孝志に直接観られるのはコレが初めての事だ。

変態丸出しの顔に孝志は思わず後ずさってしまう。

……だがドン引きばかりもしてられない。
松本孝志には、どうしても達成しなければならない使命があるのだから。

彼は当初の予定通り道具袋から一本のマジックペンを取り出す。それを利き手に持ち反対の手でアルマスの前髪をめくった。

「さっきはやる前に起きたからな…」

そしてそのまま、アルマスのオデコに『う◯こ』の絵をマジックペンで書くのであった。

──そう、この男はこれを描きたいが為に、アルマスを早く寝かせようと体を許していたのだ──!!


「……これでさっきの事は許してやるよ」

そう呟いた孝志の顔は満足気だが、この男……アッシュ戦でのやり取りを根に持っていたのである。

実にみみっちい男だ。

しかも仕返しの内容が寝ている相手の隙をついて顔に落書きを書くというモノ。
最早しょうもない以外の言葉が見つからない。


「──とりあえず、これで気が済んだぜ」

そして用事の済んだ孝志は、静かにその場から立ち上がりアルマスの側から離れるのだった。


「──いつもありがとな、アルマス。早く元気になれよ」

最後に本人が耳にすれば卒倒するような言葉を残し、孝志は部屋を後にした。


──────────


部屋を出ると、ラクスール王国で暮らしていた宮殿並みに長い廊下が広がっている。
違いがあるとすれば、床にレッドカーペットが敷かれていない事と、至る所に飾られていた肖像画が無いこと位だろう。
そして孝志にとってもそれらが無い方が過ごし易い。

加えて、ラクスール王国の様な堅苦しさも此処にはない為、これからこの城で暮らして行くとなると孝志ならテンションを上げる筈だが……

ユリウスの裏切りやフェイルノートの出現など、面倒事が発生してしまったので気分は重かった。


「──アルマスはダウンしてるし……あの様子だと、最低でも明日一日は安静にさせないとな」

今日一日で色々な問題が発生したが、アルマスと出会ってから何かと彼女を頼りにしてきた孝志にとって、一番堪えたのはアルマスが倒れてしまった事だ。

アルマスはあまり役に立ててない事を悲観していたが、孝志にとっては彼女が一緒に居てくれるだけで、見知らぬ地に転移させられても安心する事が出来ていた。

ぶっちゃけ本人が気付いてないだけで、孝志は少し彼女に依存気味だ。
アルマスがこの事を知れば泣いて喜ぶ事だろう。


「──後でお粥でも作ってやるか……アレクセイさんに後でいろいろ聞いておかないとな……別に心配してる訳じゃないからなっ!」

気持ち悪い独り言を呟いた孝志は、ドアの前から立ち去ろうと動き出すが、ここである人物が孝志の背中から声を掛けて来るのであった。


「よぉ。随分なげぇこと部屋にいたじゃねぇか……そして今の気味の悪りぃ独り言は聞かなかった事にしてやんよっ!」

後ろから声を掛けられた孝志は呟きを聞かれた事を少し恥じらいながらも、声のした方へ振り向く。
すると、そこには先ほど自身と戦闘を繰り広げたアッシュの姿があった。

「アッシュかよ……いや、この城で動けるのは俺とオーティスさん以外だと、今はお前しか居ないけど……」

「あん?なんだぁ?なんか言いたい事でもあんのかぁ?ああん?」

「…………いや、お前…………もう帰れよ」

「…………はぁぁぁあああんん!!!???」

──うるせぇ……!!
静かに出来ないならほんとうに帰ってくれないかな……?

孝志は言葉には出さなかったが、耳を塞ぐ事で『お前煩いぞ?』アピールをするも、アッシュにジェスチャーは通じず……更に煩く話続けるのだった。


「それにさっきも言っただろ?このまま魔王軍に帰れないってよッ!」

「まぁ……そうなんだが……」

──そうなんだよ……フェイルノートが立ち去ってしばらくして城へ入って来たと思えば、このアッシュ……真っ先にオーティスさんに勝負を吹っ掛けて来た。

結果は見事に瞬殺。
しかもこの前にユリウスさんにも負けてたみたいだし、短い時間で三連敗した事になる。

そしてアッシュを倒したオーティスさんも命までは取る気が無い様で、見逃すのだが……

……この後のコイツの行動が意味不明。



『──このままオメオメと帰れるかッッ!!俺はここで暮らすッ!オカマ野郎とトチ狂った魔法使い、それにキザ野郎をぶっ殺すまではな……!!』

トチ狂った魔法使いと言われたオーティスさんは思わず攻撃しそうになっていたが、何とか堪える事が出来たようだ。
恐らく、中二病だから他人に罵られる事には慣れているので我慢出来たんだろう……恩人だからこんな事言いたくないけど、もう中二病なんて辞めたら良いのに。


それでも無理やり追い返せば良いだけの話なのに、オーティスさんもアレクセイさんもアッシュが城に残る事に何故か乗り気。

アレクセイさんが言うに『邪神は再び攻めてくる可能性が高い。戦力は少しでも多い方が良いはずよ』との事だ。

それとこれは俺にはあまり解らない話だが、アレクセイさんもオーティスさんも、アッシュはそれなりに信用できる性格らしく、俺の護衛も兼ねて残ってもらえば助かると判断したそうだ。

俺は当然、こんなイカレヤンキーなんてお断りだったが、鬱陶しい事にヤンキー自身も──

『へっ……思えばてめぇと出会ってから、強いヤツらと立て続けに戦えてる気がするぜ……てめぇと一緒だと、面白いヤツらとまだまだ戦えそうだ……!宜しく頼むぜ!相棒ッ!』


──と相棒宣言までしてくる始末。
向こうの世界でもやたらヤンキーやギャルには懐かれて来たが、まさかこの世界でも同じ現象が起こるなんて……俺ってなんかフェロモン出してる?

と言うかコイツもコイツで急に心開き過ぎだろ……俺なんにもしてないのに……むしろ罵倒してた分、関係はマイナススタートな気もするけどその辺は良いんだろうか?

まぁ、コイツ見るからにバカそうだから、何も考えていないんだろうな……悩みがなさそうで羨ましい。
俺も生まれ変わったら馬鹿になりたいぜ……!



──そんなアッシュは、俺がアレクセイさんのいる所を目指し歩いている今も、何食わぬ顔で後ろから着いて来ている。


「……おいっ、ちょっといいか?」

「…………なに?」

「いや、いくらなんでも不公平だと思ってよ」

「……なんのことだ?」

「……だってよぉ、てめぇは俺の名前知ってんのに、俺がおめーの名前しらねーのは……その、不公平じゃねーかよぉ」


──なにコイツ言いながら照れてんの?
さては三連敗して頭やられやがったか……ヤンキーは普段脳みそ鍛えてないからな。

……まぁ名前位は教えといてやるか……これからおめーとかてめぇとか言われるのも嫌だし。


「俺の名前は松本孝志。見ての通り……と言うか、何処からどう見ても普通の勇者だ。宜しく頼む」

「……普通の勇者?………ハッ!」

この発言にアッシュは大袈裟に首を左右に振ると、ゆっくりと孝志に近付く。

また、ついさっきまで敵だったアッシュに対し、孝志は警戒心を抱いていない。
何だかんだ言って、孝志自身もアッシュが騙し討ちや不意打ちをする様な男では無いと分かっているのだろう。

そして、アッシュは孝志の目前に立つと、右手を差し出して握手を求めるのだった。


「てめぇみてぇな普通の勇者が居るかよ……ま、しばらく世話になるぜ、孝志!」

「…………う、うん」

──普通だっつんてんだろ……?
やっぱヤンキーって面倒くさいわ……

孝志は嫌だと思いながらも、仕方ないので差し出されたアッシュの右手を取り、握手に応じるのだった。


こうして十魔衆序列六位・アッシュが仲間に加わるのだが、これからどんどん十魔衆が味方に増えてゆく事は、当然……孝志が知る由もない。





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