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5章 明かされる真実と『狂』の襲撃者
魔王軍完全崩壊 〜アルベルト視点〜
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~アルベルト視点~
ノックもなく部屋に入って来たのは一人の女性。
そして、女性の後ろから一人の男性が続くように部屋の中へと入って来るのだった。
──もちろん、両者とも魔王城の住人なのでアルベルトの顔馴染み。
先頭を歩く女性は、十魔衆序列七位【ミイルフ=ラワーブレイン】
アッシュと同じく人間そっくりな見た目で色白な肌、そして金髪のセミロングヘアーが特徴の女性。
もう一人の男性は、十魔衆序列八位【サイラム=ボンゾルフ】
彼も左右のこめかみから龍のツノが生えてるところ以外は人間と何ら変わりない容姿。
また、武士の様な時代錯誤で世界観を無視した羽織を身に纏っている。
この男は龍人族で、種族的にはテレサと同じだが実力は天と地の差。
彼女に比べたら同族かつ十魔衆でもゴミのような存在に過ぎない。
そして部屋を訪れた二人は、今だ跪きこうべを垂れているアルベルトへ近づいて行き、先頭を歩いていたミイルフがアルベルトに話掛ける。
……それも笑いながら。
「──ちょ、土下座とかまじウケるんですけど!」
加えて大変独特な口調で。
普段なら受け流しているとこなのだが、最悪な状況もあってアルベルトは彼女の言動に怒りを露わにする。
「煩いぞミイルフ、今はお前に構っている暇は無いのだ!」
「うわぁ土下座しながらマジおことか、マジでないわ……あーしもがーざすに萎えぽよなんだけど……」
「な、なんて……?」
ミイルフの特殊言語を理解する事が出来なかったアルベルトは思わず内容を聞き返してしまう。
ミイルフの異様な話し方には前々から理解しがたいモノがあったが、これまで直接やり取りをする機会がなかった。
なので議会で彼女から発言があっても聞き流して居たのだが、今は面と向かって話掛けられてる為、そう言う訳にもいかない。
どう会話するべきか悩むアルベルトだったが、そこへ一緒に入って来たサイラムから説明が施される。
「──ミイルフ殿は、土下座は良くないと申して居られるぞアルベルト殿」
「そ、そうなのか……?」
「いや、マイルドにはしょり過ぎっしょ!……でもあざす!」
ピースサインを額に当て、感謝の意をサイラムに示すミイルフ。
それに対しサイラムの方は腰を折った綺麗なお辞儀で返すのだった。
一緒に入って来て尚且つ解説まで出来る割に、この二人の関係には何とも言い難いチグハグさが垣間見れる。
もちろん、仲が悪いという訳ではない。
二人のやり取りに面食らうアルベルトだったが、ここでようやくテレサに見られた恐怖心が土下座から立ち上がれるまでに回復するのだった。
そして立ち上がるのを見届けてからミイルフはアルベルトへ質問を投げ掛ける。
「今さっき、テレピッピがここ来てたっしょ?」
「テレピッピ?」
「テレサ様の事です、アルベルト殿」
「おお……マジか……」
──あの化物にとんでもない呼び名を付けるな、この女……
アルベルトは命知らずのミイルフに驚愕する。
だが先程の自分自身も、人の事は言えない状況だと考え直し、自分の方が命知らずだったな……と、苦笑いしながら首を横へ振るのだった。
「ああ、来て居たぞ──そして用件は魔王軍を離反するとの事だった。何やら自分を受け入れてくれる人物が現れたという信じ難い話だ」
此処までの説明で驚いた表情を見せる二人を見て、やれやれと首を振りながらアルベルトは話を続ける。
「私は魔王軍をまとめる立場だからな……彼女の離反には困り果てて居るが、お前達にとっては嬉しい話なのでは?なんせあの魔王が居なくなってくれるのだからな」
気楽なものだと思いながら最後まで言い終えるアルベルト。
そしてミイルフから返って来た反応は、予想通り喜びに満ち溢れたモノだった。
「──うはっ!デジマ!?テレピッピ魔王軍抜けたん!?テンアゲなんですけど!!」
「…………おい、サイラム」
「……ミイルフ殿は、魔王様が抜けて気持ちがあがると申しておられる」
「……解説助かる」
──しかし、何でサイラムにはこんな言葉の意味が理解出来るのだ?
まぁ、細かいことを問い質すのは辞めておこう。
ミイルフの言語の意味を解説されたアルベルトは、やはりかと皮肉交じりの笑みを浮かべミイルフと会話を続ける。
「ふん……お前達は気楽でいいな……醜き魔王が消えて、さぞ清々しい気分だろうよ」
「……はぁ?」
「…………」
「な、なんで少し怒っているのだ?しかもサイラムまで……お前らは魔王が居なくなった事を喜んでいたのでは無いのか?」
アルベルトにとってこれは予想外の反応だった。
今の会話の中で二人に怒りを買うような言葉など、全く思い当たらないからである。
だが思い当たらなくて当然……何故なら次に聞かされた二人の怒る理由は、アルベルトの予想と大きくも掛け離れたものだったからだ。
「いやマジで笑えないんだけど?さっきまでテンアゲだったのが直下でテンサゲなんだけど?マジでイミフ。ギルティ一歩手前だわこれ」
「右に同じく……言葉に気をつけよ、アルベルト殿」
「ど、どう言う意味だね?」
「いや、イミ聞いてくるとかコイツまじ頭やばたにえん。秒でポコパンしたいんだけど」
「…………サ、サイラムッ!」
「ミイルフ殿は『どう言う意味か聞いてくるアルベルト殿を今すぐ袋叩きにしたい』……と申しておられる」
「……解説ありがとう。しかし良くわかるな?」
「ミイルフ殿とは付き合いが長い故に、話してる間に嫌でも覚えたでございまするでそうろう」
「…………」
お前もなかなか癖の強い喋り方だぞ?……とアルベルトは心から思う。
だが、そんな事を考えているアルベルトとは裏腹にミイルフとサイラムの怒りはいまだ衰えぬようだ。
「──つーかさ?トップのアンタがそんなこと平気で言うやつだからテレピッピもみんなから避けられてんじゃないの?死ねよマジで」
「なんだとっ?!」
「ミイルフ殿の言う通りでありまする。アルベルト殿が率先して魔王様を貶めるが故、付け上がる輩が増えるのです」
「…………サイラム?お前まで…………うっ!なんか胃が急に痛くなってきた……」
──今日はトラブル続きで、挙げ句の果てに自分よりもずっと年下の女に死ねと言われたのだ……無理もないかも知れん。
もう少し自身の体を労わるとしよう。
……ん?いや待てよ?
こやつら何か変だぞ?
「……さっきから黙って聞いて居れば……お前達は魔王を嫌ってたのでは無いのか?──話しをしている限り、どうも嫌ってる様に感じないのだが?」
先程から『そうとしか思えない』発言が繰り返されている為、アルベルトはまさかと思いながらも確認を取った。
「はぁ?きらう訳ないっしょ?皆んな顔がどうとか言って避けってけど、あーしに言わせればコワカワだかんね?」
「いや、アレがコワカワで済むレベルなのか?」
アルベルトが魔王を『アレ』呼ばわりした事に、礼儀に重んじるサイラムは不快感を抱くが、その辺はあまり気にならないミイルフは態度を変えず言葉を返した。
「誰も見た目のこと言ってないつーの!……なんてかさぁ雰囲気がカワイイ?……後はテレピッピ優しいじゃん?あーしらに怖い思いさせない為に頑張ってくれてるしさ。あーしが可愛いと感じるのはそう言う健気なとこ」
そしてサイラムも後に続くように語り始める。
「うむ。私はミイルフ殿の様に可愛らしいと考えた事はない──自分の場合は、テレサ様の底知れぬ強さに惚れ込み、それと同時にあの方を主人と認め忠誠を誓ったのだ……あの方が魔王の地位を退こうとも忠誠心は変わらん」
「お前ら……」
二人が魔王をこれ程まで思っていたなど、アルベルトは知り得なかった。
何故なら、アルベルトは十魔衆を取りまとめてる立場に居るが、全員の情報を知っている訳ではない。
直接的な部下であるザイスやミーシャの情報は概ね把握しているが、それ以外の者はからっきしだ。
禁呪どころかユニークスキルの詳細すら解ってない。
なので当然、それぞれの者が魔王へどう言った感情を抱いているかなど知る由もないのだ。
「──なるほど……お前ら二人が私を含む他の上位十魔衆とあまり交流を計らなかったのはそれが理由か……」
ただ確定事項としては、アルベルトを含む上位十魔衆は魔王を嫌悪していると言うこと。
その事実があるから、アルベルトは確認もとらずにミイルフやサイラムも自分達と同じ感情を抱いて居ると考えていた訳である。
「そんな感じ。あんたらがテレピッピきらってんの知ってたからね?──そんなヤツらとテレピッピお気にのあーしがフレンドする訳ないじゃん?…………あっ、そういえばあーしら以外でもアッシュとか割とテレピッピのことリスペクトしてるみたいだったけど?」
「アッシュが?……そういえば、アイツからも魔王の悪口など聞いた事なかったな」
──くそっ……まさかこんなにも人望があったとは……正気なのかコイツら?あの容姿だぞ?
アルベルトはこの事を尋ねずには居られなかった。
「雰囲気が可愛いと感じるのはわかった。理解できないが分かった。だが魔王の容姿はどうなのだ?」
「はぁ?見られない様にきぃつかって仮面つけてっしょ?なんであんたはその優しさと気遣いがわかんないのかなぁ?」
「まぁそれはそうなのだが…」
「だしょだしょ?あと何考えてるかよくわかんねだけど、みーしゃんもアンタらが議会でテレピッピの悪口言うと、おこ顔してたからあの子もスキっしょ」
「…………みーしゃん?」
「ミーシャ殿でございまする」
「いっそのこと素直にミーシャと呼んではどうだ?その方が文字数少ないだろ?」
──だが、ミーシャもそうなのか。
アルベルトは自身の直接的な部下の名前が出て来た事に驚きを隠せなかった。
「そいえば、みーしゃん別の任務行ってるみたいだけど、大丈夫なん?いつ帰ってくる?」
「──ん?あ、ああ……大丈夫なはずだ……いつ帰って来るかは不明だが」
……私の命令で戦死させてしまった事は黙っていよう。
この二人、魔王軍の者とは思えない位に情に熱い。
私が捨て石になるような命令を下したと知られたら、この場で襲い掛かって来るかも知れない。
そしてアルベルトから虚偽の報告を受けたミイルフは、残念そうな表情を浮かべた。
「そっか~……みーしゃんいつ帰って来るかわかんないのか~。あの子もテレピッピラブっぽいから『一緒に連れて行こう』と思ったんだけどなぁ~」
「まあ良いではないかミイルフ殿。二人だけで追い掛けるとしましょう」
「りょ」
「ちょっと待ちたまえ二人ともッ!」
あまりにも不穏な会話を、さも当たり前の様に繰り広げ始めた二人に嫌な予感がし、アルベルトは会話を中断させるため間に割って入る。
「──お前達はさっきからなんの話をしているのだ……?」
この問いにミイルフは一切の躊躇いも無く──
「だからテレピッピが、魔王軍を捨てて出て行くってんなら、追いかけるっきゃないっしょ!」
とあっさり白状した。
口調から察するに全く悪びれた様子は無し。
これに至ってはサイラムも同じ思いがあるようだ。
「右に同じく。テレサ様が此処を離れるのなら、私も主人を追いかけてこの城を去るのみ」
「……本気なのだな──まさかお前らが魔王にそこまで入れ込んでるとは思いもしなかったぞ?態度にも現れてなかったしな」
これにはミイルフもバツが悪そうに答えた。
「……まぁ、それを言われたら弱いんだけどね~……あーしら二人さ、所詮は十魔衆でもペーペーだから、あんたみたいにガマン出来るパワーが無い感じなんよ──いままでもテレピッピとコミュりたくていろいろガンバったけどムリだった」
「うむ……無理に話し掛けて主人を傷付けてしまっては元も子もない……今のところ魔王様とまともに会話できるのは、アルベルト殿と序列一位のカルマ殿……後は三位の【ルナリア嬢】くらいだろう」
「ちょ待てし!ルナリアは嬢で、なんであーしは殿なワケ?まじワケワカメ!」
「す、すまぬ…」
「まぁいいけどね?──ツーわけで、あーしら二人、今からテレピッピ追いかけるから!今までなんだかんだありがとね!」
二人はこれ以上話す事は無いと手を振り、この場から立ち去るのだった。
「──ちょ待てし」
「「ん?」」
しかし、そんな二人をアルベルトは呼び止める。
二人はアルベルトの口調にヤバみを感じながらも、同時に彼の方を振り返った。
「一緒に行くし。秒でしたくするから置いてくなし」
「うわっ!まねしやがったっ!アンタがその口調だとマジキモイんだけど……!」
「………………」
「アルベルト殿、ミイルフ殿は本当に気持ち悪いと言っておられる」
「解説せんでも解っとるわ!!」
サイラムの冷静な頼んでもない解説に、つい声を荒げて突っ込んでしまうアルベルト。
そしてミイルフは険しい表情でアルベルトを見つめる。
「てか急にどったの?別にテレピッピ好きでもないあんたについて来られてもめんでぃ~なんだけど?」
アルベルトは不満そうな視線をミイルフから浴びているが全く動じる事はない。
今まで何とも思って無かった相手だったが、今回で取り繕っても効果がない相手と判断した。
なのでも彼女への気遣いは不要。
アルベルトは遠慮なく不満をブチまける事にした。
「考えても見よ。ザイスが死に、お前達まで十魔衆を抜けるのだぞ!?──勇者に特攻を仕掛けたアッシュも恐らく死んでるだろうし、今の状況を立て直すのはもう不可能だ……」
アルベルトは近くの椅子に腰を掛け、先程から猛烈に襲い掛かる胃の痛みを少しでも和らげようとする。
そして、アルベルトが頭を抱えていると、ミイルフは不思議そうな顔で首を傾げるのだった。
「──え?アッシュ死んだってどゆこと?あいつフツーに生きてんだけど?」
「……なに?何故その様な事がお前にわかる?」
「さっきも言ったっしょ?アッシュはテレピッピを嫌ってないからアンタと違って普段も仲良くやってんの。ツーわけでさっきTELあったし」
「TEL……?ああ、魔通信のことか……って本当に生きてるのだな!?」
アルベルトが声を荒げた事でウザそうな表情をみせるミイルフだが、もうバカにするのにも飽きた頃なので何も言わずに話を続けるのだった。
「──なんかさ良く分かんないんけど、アイツも十魔衆抜ける的なコトを言ってたよ」
「抜けるっ?!何でだ??魔王を追いかけるというお前らと違って、アッシュには動機など無い筈だぞ!?」
「そんなのしんねーし。でもなんかー、やるべきことが見つかったー的なこといってたし」
「……もう本当に良い加減にしてくれ……そう簡単に抜けていいものじゃないぞ魔王軍は……それに十魔衆だぞ?──ッ!」
言ってる最中、急激に胃の痛くなるアルベルト。
この日を迎えるまで何だかんだ上手く立ち回って来たアルベルトにとって、今の状況には非常に耐え難いモノがある。
痛みを和らげる為椅子に腰掛けていても、一向に痛みは治らなかった。
──魔王や目の前の二人に続いて、生きていたアッシュも十魔衆を抜ける……?
いくらなんでも十魔衆を軽く見すぎではないか?
……くそッ!これもすべて魔王が勝手に抜けるのが悪いのだっ!!
──少し可哀想ではあるが、ご覧の通りテレサを軽視し過ぎているこの男にも原因がある。
もしも普段からアルベルトがテレサを敬って居れば、ミイルフやサイラムも少しはアルベルトに対して気遣いの言葉の一つも掛けていた事だろう。
十魔衆全員が魔王を嫌ってると勘違いし、その様に振舞って来たのが完全に仇となっている。
少なくとも魔王に惚れ込んでいるミイルフ……そして魔王に忠誠を誓っているサイラムを今更魔王軍に引き留めるのは不可能だ。
──十魔衆の二人が死亡し、三人が離反したと言う事になるか。
離れて行く連中は全員下位序列ではある。
しかし、魔王軍の最高戦力が一度に半分も減ってしまっては……もう本当に、我が魔王軍は終わりだろうな。
どう考えても、立て直しのビジョンなど思い浮かばない、うん、無理だな──
──良しっ!そうと決まれば是が非でも二人に着いて行く他あるまい…!
アルベルトは二人に納得してもらう為、最もらしい意見を述べるのだった。
「それに私を連れて行けば何かと特だぞ?ビギニングアイで、周辺の地も探れるし。第一お前達はどうやって魔王を探すつもりなのだ?」
「……それはそうかもだけど……」
「……確かに」
「ふふ……私のビギニングアイならば、魔王を簡単に見付ける事が出来る……連れて行って損は無いと思うのだが?」
「う~ん……まぁあーしらもテレピッピが追いかけて行ったヤツかどんなんか気になってたし?早く会いたいではあるけど……」
「うむ……魔王様に害をなさない人物か、早く見切りをつけたいのも事実なり……」
二人は数分ほど考え込んだ末『魔王に失礼な言動をしない』事を条件にアルベルトの同行を認めるのだった。
アルベルトとしては勇者孝志と敵対した時の場合や、自分へのテレサの好感度なんかを踏まえると、一人で会いに行く度胸など無かった。
なので同伴を認められた事を大いに喜ぶのだった。
──あっ、そういえばカルマが紹介したい者達が居るとか嬉しそうに言っていたような気が……まぁ大した話ではあるまい。
それに私はもう魔王軍所属では無くなった訳だしな。
今はこれから仕える勇者孝志……いや、勇者孝志様の事を最優先に考えねばならない。
あの魔王を受け容れたのだから、我々も大丈夫とは思うが、お会いした時には最大級の誠意をお見せしよう。
先程までの胃痛が嘘のように、今のアルベルトは晴れやかな気分だ。
──かくして孝志とは本当に無関係な所で、異様なまでに忠誠心の高い魔族が誕生してしまった。
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