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5章 明かされる真実と『狂』の襲撃者

ファーストコンタクト

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~フェイルノート視点~

弘子の展開した結界によりデルラット最奥地に封印されたフェイルノートだったが、それも束の間、彼女は既に結界から力技で抜け出しており、現在は自身の脇の下に担いだウィンターと共に孝志が居る古城を目指して移動していた。

因みに、フェイルノートは自身の転移魔法で洞窟内からとっくに抜け出して居るが、転移の使えない弘子は今だにデルラット深穴を攻略中。
よって結界で封じ込められたにも関わらず、フェイルノートは封印者より先に地上に出た事になる。

ただ、フェイルノートが使える転移魔法は、テレサやミーシャの様な正確性は無く、自由な場所への転移は出来ない。あくまでも建物や洞窟などから抜け出す程度の能力である。

それでも、転移してからは目標の勇者を目指し全速力で移動しているので、既に古城周辺の森林に突入し、目的地である古城の直ぐ近くにまで迫っていた。

そして、今もジェット機並みの猛スピードで駆け抜けている最中だが、フェイルノートが途中で方向転換し、明らかに別の場所を目指して移動をし出した為、ウィンターは声を張り上げてフェイルノートを問い質す。

「ちょっ!勇者の所へ向かってたんじゃないんですかっ!?」

フェイルノートは必死で自分にしがみ付いているだけだと思っていたウィンターが、向かう先を変えたことに目ざとく気付いた事を以外に思うも、直ぐに笑いながら質問に答えた。

「ククッ……気が変わってのう……少し寄り道して行くぞ」

「寄り道って?……直ぐにでも勇者を倒すんじゃなかったんですか?」

因みに猛スピードで移動しているので、本来なら能力値の低いウィンターではまともに会話などできないが、フェイルノートが魔法を使って彼を保護しており、影響を受けず会話が可能となっている。

「少し面白い気配を感じてのう……どういう訳かそれは唐突に現れたのじゃ。距離も結構近いし、見に行くぞ」

「あのう……この後、人間と合流する約束が有るんです……出来れば寄り道せず、早めに用事を済ませておきたいんですが……」

そう言ってウィンターは弱気に抗議するが、先程まで言いなりだった彼が意見をしてくれた事を少し嬉しく思う。
ティファレトに封印される前は、出会った生物とは常に殺し合って来た為、こうやって会話が出来る事に新鮮味を感じていた。

「ああ……さっき話していた、お主をあの場所まで護衛してくれた例の協力者の事か………ま、後でいいじゃろ……捨て置け」

このフェイルノートの返答に、ウィンターはブンブンと首を振って反論する。

「そんな……怒られますってっ!あの男、人間の癖に恐ろしく強いんですからっ!」

フェイルノートはウィンターを担ぎ上げてる為、互いに身体を密着させた状態だ。
なので、大声を出した声がまじかに聞こえ、少し眉を吊り上げた。

「うるさいのう……人間如きが何だと言うんじゃ。其奴が何か言ってきても、妾がなんとかする──もううるさいから黙っておれっ!」

「……えっ、さっき言いたい事は何でも言って来いって言ったのに?」

「………言ったことに従うとは言っとらんじゃろ?」

「……そんな御無体な……」

「何が御無体じゃ、若造が」

フェイルノートは「ククッ」っと笑い、ウィンターの抗議を黙らせるかの様に魔力を込めて加速する。

それでもよっぽどその人間が怖いのか、ウィンターはめげずにフェイルノートへ抗議を続けるが、彼女はそれを聞き入れる事なく新たな目標を目指して走り続けた。


──それから数分ほど走り続け、その相手と距離が数百メートルまで近づいたころ異変が起こった。

「うぷっ……おげぇッ!」

ウィンターが唐突に吐き出してしまったのだ。

「うわぁ!?汚いわ!たわけが!」

フェイルノートは咄嗟に避けたので自身に掛かることこそ無かったが、ウィンターの品の無さに顔を顰める。
思わずお仕置きとして軽くゲンコツをお見舞いしようとするが、ある疑問を思い立つ。

……ウィンターには魔法でプロテクトをかけていて、移動速度や振動の影響を受けないから、吐き出す事など無いはずだ、と。

そして、少し考えてからその原因に気が付く。

「……ああ……あれか……」

目指している先から、この世のモノとは思えない程の禍々しい邪悪な呪いの威光を感じた。
恐らくウィンターが吐き出したのは、この禍々しい呪いの所為だろう。


……妾ほどになれば、こんな呪いの影響など受け付けんが、能力の低いウィンターでは近付くだけでキツい筈じゃ。
……此奴は少し離した方が良いかもしれんのう。

フェイルノートは来た道を引き返し、その場から1キロほど離れた場所にウィンターを置き、それから再び目標へと向かった。

白目を剥いているウィンターを心配に思うも、この先に待ち受ける異様な存在への興味には勝てない。

……ま、後で回復させるから大丈夫だろう……そう言い聞かせてフェイルノートは元凶の元へと向かうのだった。

幸い、フェイルノートが付け狙っている存在も、彼女が向かって来ている事には気が付いている様だが、自分を追い掛ける存在に興味があるのか、立ち止まり到着を待っていた。

故に、二人は簡単に出会う事が出来たのだった──


──フェイルノートが到着した場所に居たのは背の小さな少女だった。

そして、頭には角が生えているが幻術で隠しており、フェイルノートの見識眼でようやく見抜く事が出来る。

なぜ幻術で角を隠しているかはフェイルノートにとっては謎だったが、その程度の疑問は彼女の顔を見た瞬間に吹き飛ぶのだった。

「……くく……お主は信じられないくらいに醜いのう~……お主程の醜女は見た事がないわ……呪いか?」

彼女から振りまかれる恐怖の影響はフェイルノートには全く無かった……が、容姿の方でも別の呪いを持っていたらしく、そちらの方は抑止する事が出来ないようだ。
加えて場所が薄暗い森林だけに、フェイルノートの目にはますます不気味に映るのだった。

──そして、自身の能力すらも超える呪いの力に、フェイルノートは感心するも、それと同時に心の底から不憫に思う。
相当な力を持っている自分に醜く観られてしまうのだから、この世界で、この者の容姿がまともに見える存在など居やしないだろう。


そんな中、フェイルノートから自身へ対する酷い言葉を聞いた少女は、頬を膨らませ不貞腐れた様な口調で言い返した。

「……むぅ~~っ!面と向かって言わなくても良いじゃんか~!気にしてるのに~~!」

うむ……言ってる事は可愛らしいが、見た目のせいで可愛いとは全く思わん。


そしてフェイルノートにむくれていた少女だったが、言い終えた後に何かに気が付いたらしく、途端に表情を驚きに変えフェイルノートを見つめた。

「……僕の顔を見てその程度の反応なんだ……それに見られても影響が無いなんて……凄いかも……ちょっと嬉しい…!」

「……醜いと言われて喜ぶのかぁ?歪んでおるのう」

「別にそんなつもりは無いんだけどな~……何でもいいや!けど一日に普通に話せる人と二人も出逢えるなんて……うん!今日は凄い日だ」

少女は見た目とは裏腹、和やかな雰囲気を場に持ち込んで来るのだが、フェイルノートはもう戦いたくてウズウズしていた。

直接顔を合わせると、やはり目の前の少女からは底知れぬ強さが垣間見える。
フェイルノートがこれまで戦った者達の中で、文句無く最強だった存在……それがティファレト。
目の前の少女から、それに匹敵するだけの強さをフェイルノートは感じ取っていた。


本来なら今すぐにでも戦いを挑みたかったが、戦う前に、一つだけ気になってる事がある。

どうやら目の前の少女は自身に隠蔽を施しているらしく、詳しい能力が解らなかった。
それもかなり強力な隠蔽で、これを打ち破るのは並大抵な事では不可能だが……

生憎フェイルノートは、そんな隠蔽なんて容赦なく掻い潜れる優れた【見識魔眼】有している。

フェイルノートはその魔眼を使い、少女の能力を覗き見る事にした。


どれどれ……


…………


…………


…………あっ、やば。

彼女の潜在能力を確認したフェイルノートは、震え上がろうとする全身を必死に抑え、額から大粒の汗を流しながら立ち尽くすしかできなかった。

そして思った……戦いを吹っ掛ける前に魔眼で能力を観といて良かったと。


「──それで?僕に何か用なの?」

急に黙り込んだフェイルノートに痺れを切らした少女は、返しを待たずに自分に対する要件を訪ねる。

「………何でもないのじゃ。それと、良く見たらお主、美少女じゃのう」

「……急にどうしたの?心が篭ってないから嘘ってわかるよ?」

「はは……」

テレサからの指摘に、フェイルノートは冷や汗を浮かべながら苦笑いを浮かべた。

テレサの能力を覗き見た時に感じた今まで味わった事のない、自分を圧倒的に上回る身の毛もよだつ彼女の異常な強さに、もうフェイルノートは完全に臆してしまっている。

と同時に開口一番に暴言を吐いてしまった事を悔いた……とんでもない失態だったと。

本当はもっと取り繕って先程までの失態を取り返したかったが、精神的に大きなダメージを負ってしまったので、今は精神回復の為になんとしても話を切り上げたかった。

「急いでおるのじゃろう?……もう行くと良い」

「なんか急だなぁ……まぁいいや!急いでいるのは確かだし……じゃあ、また今度ゆっくり話そう!僕と目を合わせて話が出来るなんて凄い事だからね──それじゃ!」

そう言って手を一度だけ振り、少女は振り返らずにそのまま飛び去るのだった。

フェイルノートはテレサが見えなくなるまで、その背中を見送った。


………


………


──テレサが見えなくなった瞬間、フェイルノートは離れた所に置いたウィンターの側へと、いの一番に駆け寄った。

「おいっ!起きんかっ!こらっ!」

「………ぐぇ」

ほっぺたをパチパチと叩くが相当力を抑えてもウィンターには痛いらしく、潰れたカエルの様な声を漏らした。

「……ええ~い!『マインドヒール』!!」

そんなウィンターに対して、今度は回復魔法を使う…元々回復で起こすつもりだったが、あまりの事に忘れてしまい、叩き起そうとしてしまった様だ。

マインドヒールの効果で精神的消耗から回復したウィンターの意識は次第に覚醒して行く。

「……う~~……ん?……一体なにg──」

「ななな、なんじゃアレは!?なんじゃアレは!?」

「ふぇ?!」

目が覚めた瞬間にフェイルノートに強く揺さぶられるウィンターだが、フェイルノートが落ち着いたところで彼女から詳しい話を聞いた。

──話を聞いた後で、自身が知り得る情報をフェイルノートへ提供する。


「まま、ま、魔王!?アレほどの存在が魔王程度の器に収まっておるのかっ!?」

「て、程度って………まぁ、醜い容姿に呪いの圧……そして高い戦闘能力。小さい龍人の少女と言ってましたから、間違いないと思いますよ?そんな条件が一致する存在なんて、そうは居ないでしょうから」

魔族の中で最強の存在である魔王を卑下にしたフェイルノートの言い草が腑に落ちないウィンターだったが、魔族の間で邪神と恐れられた存在が、魔王にここまでの恐怖を抱いているのがあまりに意外だった。

確かに、ウィンターは魔王テレサが歴代魔王の中でも圧倒的な強さだと知っていたが、それでも邪神と比べたら目劣りするだろうと確信していたのだ。

「そ、そんなに強いんですか?」

「強いどころちゃうわ!とんでもないぞアレは!しかも……初対面では妾と同じくらいか、それ以下の存在にしか感じられんかったのに隠蔽なんぞ使いよって…!能力を観て心臓が飛び出たわい」

「え?てことは、フェイルノートさんでも勝てないんですか?」

「あ、当たり前じゃわ……あんなの化け物とか、そんな次元の相手じゃないぞ?……妾と妾を封印した女神ティファレトが二人掛かりで勝負を挑んでも、アレが本気を出したら傷一つ付けられずに負けてしまうだろうよ」

「そ、それほどですか…?」

「ああ……あれこそが正しく怪物の中の怪物……敵に回すとまず生き残れないと思っておれ………初対面で醜いとか言ってしもうたが、あの時の自分を殺してやりたい…」

「えぇ…そんなこと言ったんですか…?」

「言ったっ!!そして後悔しかない!!」

途端に頼もしく無くなったな、とウィンターは心から思ったが、流石に口に出しては言えない。

そして、自身を含めた大勢の魔族が、魔王の悪口を当たり前の様に言っていた事を改めて恐ろしく思った。
邪神が恐れるほどの相手に対して、なんて恐ろしい事をしていたのだろうと。



「……と言う事じゃウィンターよ!非常に申し訳ないが世界征服は諦めよ!」

「……魔王様に勝てないからですか?」

申し訳ないと言いながら、全く申し訳なさそうに見えないフェイルノートに嫌味っぽく返してしまうウィンターだが、フェイルノートは完全に開き直っていた。

「うむ!世界征服を目指してしまうと、あの魔王と戦う必要が出て来るじゃろう?……だからのう、妾達はあの魔王と同盟を組むべきだと思うのじゃ!」

「はぁ……魔王様の力がフェイルノートさんの言う通りでしたら、それしか無いですが……けど、僕は魔王様に近付けないですよ?」

「ただのう~……同盟を組むにしても、第一印象が最悪だし……なにか取り返す方法はないかのう………」

「……僕は無視ですか…?」

「あっ!そうじゃ!いい事を思い付いたぞ!」

「あ、無視ですね……はい、何でしょう?」

フェイルノートはある事を思い付き、手をパンッと叩いた。

因みに、ウィンターの言葉など頭には入っていない……無視である。

そしてフェイルノートは徐に、たったいま思い付いた案を述べた。

「今から向かう場所に居る勇者じゃ!」

「勇者ですか?」

「そうじゃ!どうやらあの魔王、能力はズバ抜けておるが、残念な事に索敵能力は高くないらしい。城には隠蔽が施されているとは言え、この近くの城に潜んで居る勇者の存在に気付かず飛び去ったようじゃ」

……確かフェイルノートさんは勇者索敵で、彼らの現在地を知る事が出来たんだっけ?
そんな事を思考しながらも、ウィンターは黙ってフェイルノートの言葉に耳を傾けていた。

「だからのう……我等で、あの城に居る勇者を仕留め、其奴の首を魔王テレサに献上するのじゃ!……あの勇者の首を土産に、魔王に取り繕うぞ!」

「な、生首ですか…?」

「ククッ……いつの時代も、魔王が一番喜ぶのは勇者の首じゃからのう~!」

ウィンターはエゲツない事を考えるな~、と思いながらも、フェイルノートの意見に反対する事は無かった。


──もはや一切の躊躇いはない。
フェイルノートは既に目と鼻の先まで近づいている勇者を、一刻も早く仕留める事を決心するのだった。




──そして、知らないとは実に恐ろしいことだ。

テレサとの結託を強く願うフェイルノートは、テレサに孝志の首を差し出すという……史上類を見ない最悪手を決行しようとしているのだ…!


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