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4章 仮面の少女

4章 エピローグ 〜動き出す物語〜

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「──おーい、アルマス、起きろー」

俺は軽く揺さぶりながらアルマスを起こす。
揺さぶられたアルマスは、ゆっくりと身体を起こすと、瞼を擦りながら俺を見る。

「……ぅぅ……?……孝志?……ここは……?」

しかし、割と直ぐ起きたな。これで起きなかったら耳元で叫ぼうかと思ったのに……チェッ。


──そして、起こされたアルマスは現状が全く理解できないでいた。
ついさっきまで洞窟の最奥に居たのに、目が覚めたら洞窟の外で寝ていたのである。

あの気持ち悪い感覚を思い出し吐き気が催すが、身に起こっている大きな疑問の前にその気持ち悪さは打ち消されてしまった。

そう……何故この場所に居るのかと言う疑問。

一瞬、孝志が自分と隣で眠ているダークエルフを洞窟から運び出したんじゃないかと思ったが、非力な彼だとそれは考え難いかった。
しかも、時計を見て気絶してから1時間も経ってない事を知り、その考えを完全に捨てる。
マッピングで事前に情報を得ていたアルマスは、あの洞窟の構造を把握しており、攻略には最低でも3時間は掛かると推測していた。
しかも、あそこに出現する魔物のレベルが非常に高いので、ひ弱な孝志ひとりだと攻略なんて不可能だ。

念の為、アルマスは自分のスキルを確認してみる。
解放されたスキルは第1スキルだけで、他のスキルは発動していない。だったら尚更の事だ。

確かに戦術に特化した第二スキルが発動していたなら、上手くいけば攻略も可能だとアルマスは思っていたが、使用された形跡はない。

ならば孝志はどうやってあの場所から脱出できたのだろうか?
考えても仕方ないと思ったアルマスは直接孝志に確認を取る事にした。

「マスターは、いったいどうやってあの洞窟を攻略したのですか?」

「ん?聞いちゃうそれ?良いよ、教えてやるよ、俺の活躍を」

孝志はこれ以上ない程のドヤ顔で前振りを決めた。
そんな孝志の表情を見て、アルマスは心底可愛いと思う。

……が、したり顔で語る【活躍】の内容を聞いて、アルマスは眉を釣り上げた。


「……マスター、そこに正座なさい……」

「え?なんで?いやだけど?」

「いいから!早く!」

「あ、はい」

アルマスが声を荒げると孝志は大人しく従う。
こうして怒られると素直に言う事を聞くチキンハートなのも、アルマスにとってはどうしようもなく可愛い所なのだが、今は孝志の為にも説教が大事だと気を引き締めた。


「──マスター……なんで私が怒ってるか解りますね?」

アルマスの問い掛けに数秒悩んだ後、孝志は何かに思い至ったらしく凄い悲しそうな顔で答えた。

「……あれだろ?暗黒魔弾砲を覚えられなかった事を怒ってるんだろ?」

「……そんな訳で無いでしょう……マスター、貴方は自分が何をしたか本当に解っているのですか?」

「え?俺なんかヤバかった?」

自分に人差し指を指しながら、訳がわからないと言ったような顔をする。


普段頭がキレる癖に、変な所で鈍感なのは相変わらずよね…

そう思うが、孝志にはどうしても自分の行いの非常識さに気付いて欲しいと、アルマスは真剣に話しを続ける。


「では誰か別の人物で例えましょう。そうですね……では、ある所に橘雄星が居たとしましょう」

「ッ!?……チッ…!橘の野郎っ!ある所に居やがって…!」

「そんな場面でキレないで?」

あの世界の時から思っていたけど、ほんと孝志って橘のクソ野郎のこと嫌いよね。
この世界に来るまで、特にあの男に何かされた記憶無いんけど……まぁいいわ。

アルマスは話を続ける事にした。


「橘雄星の前に両親が無く、友達が一人もいない少女が現れました……そんな彼女の事を可哀想だと思った橘雄星は、彼女の現状も確認せずにその場から連れ出しました……マスターから見て彼の事をどう思いますか?」

「…あの野郎…!誘拐じゃねーか!……あ」

「……つまり?」

「うわっ!?おれヤベェなっ!」

ここに来て、自分の非常識さを認識したようだ。
孝志は頭を抑えて「この歳で前科ついちまった…」と呟いている。

そして孝志の話を振り返ると確かに、そのテレサという子は信じられないほど可哀想な境遇に置かれた少女だろう。
だけど、素性も知らない子を連れ出すなんてとんでもない事だ。

「友達も居なく、両親も他界していると聞いて、マスターは勝手に彼女を行き場の無い孤独な少女だと思い込んだのでしょうが、そこを確認しないといけない」

「はい…」

孝志は大人しく説教を聞き入る。

「良いですか?一緒に行動するなとは言いません。ですが今日の夜会う時に、素性をしっかりと確認しなさい。それから呪いについても、人に迷惑の掛からない為にどう行動するのか、それも互いに確認なさい……それでどうしても思い付かなかったら私に相談しなさい……良いですね?」

「はい。今回は誠に申し訳ありませんでした」

「ふふっ、素直で可愛い♡」

「ああん?」


──おっと……つい本音が。
私は笑って誤魔化す事にした。

「オホホホ」

「笑って誤魔化そうとすな!」

み、見破られてしまった……

しかし、解って貰えて良かった。

だけどなぜ孝志にあのスキルの影響が無かったんだろう?
第4スキルが発動していた訳でもないのに……もしかしたらステータスカードにも記載されない隠された能力でもあるのだろうか?

けど、ずっと一緒に居る私が気付かないものかしら?


──アルマスの中には小さな疑問が残るのだった。

そして孝志の説教が終わったアルマスは現在地を確認する為、自身に備えつけた能力【ワールドマップ】を発動する。

弘子との旅でも、この能力を何度も使って来たんだっけ……と、アルマスは感傷に浸りながらワールドマップを眺め今いる地点を確認するのだった。


──そして、現在地を知ったアルマスは驚きのあまり目を見開きその場に立ち尽くすのだった。


───────────


急に凄い顔で黙り込んだアルマスを見て俺は思った……もしかして脳に異常が発生したんじゃないかと。

……いや、もともとおかしかったわコイツ。
最近は少しまともになってきたが、偶にこちらの何気ない一言で興奮したりするからやっぱりまだ何処かおかしい筈。

普通に考えてみたら、洞窟内で使用していた解析やマッピングみたいな能力を使っている最中なんだろうけど、表情が険しかったので話かける事にした。


「ボーッと突っ立ってどうしたの?」

するとアルマスはゆっくり俺に視線を向ける。
その顔は喜びとも困惑ともとれる、複雑な表情を作っていた。

「マスター……一刻も早く獣人国へ向かうべきなのは心得ています。ですが、一箇所だけ、寄りたい場所があるのですが……宜しいでしょうか?」

…?急にどうしたんだろうか?
俺の疑問とは裏腹に、アルマスは説明もそっち退けで話し続けていた。

「この森林を奥へ進んだ場所に古城があります。周囲には幻影の魔法を展開しているのでここからでは見えませんが、ここからすぐ近くにあります──それに、もしかしたら移動手段が手に入る可能性がありますよ?」

「いや、待ってくれ!どういう場所なんだ?」

「あ、すいません。はい………以前、私を従えていたマスターと一緒に暮らしていた城です」

「以前のマスター?」

アルマスに俺のスキルとなる以前に、別のマスターがいる事は聞いていた。
前のマスターの事なんてあまり興味が無かったから、詳しく聞かなかったけど…

「もう100年以上前ですので、家主は亡くなっていると思いますが、あの方に仕えていたエルフが存命かつ、あの城で暮らしている可能性が高いです。エルフは人間に比べて遥かに長寿ですし、彼自身とても義理堅い男でしたから…」

家主が亡くなったと口にした時、アルマスはとても悲しそうに目を少しだけ潤ませていた。
かつて仕えていたマスターとは、恐らく、その亡くなった家主のことだろう。

俺も急がなくてはならないので少し悩んだが、移動手段が見つかる可能性があるというので、アルマスの提案に頷くのだった。

というよりも、ここから歩きで獣人国へ向かうとなると到着までに3日は掛かるとテレサが言っていた。
それだと、ぶっちゃけテレサの転移スキルのインターバルを待った方が速い。

……そう考えると、アルマスが以前仕えていたマスターの住処へ立ち寄っても寄り道にはならないだろう。

……俺は起こしてもまったく起きようとしない、未だ気を失っているミーシャをアルマスに担がせると、そのまま古城へと向かうのだった。



──孝志はアルマスがかつて支えていたマスターなんて、自分にとって無関係なものだと思っている。

その人物が自分の産まれるずっと前に、行方不明となった祖母だなんて思いもしない。

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