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2章 クレイジースキル

不穏な影

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──俺は外出許可を貰い、今は城の入り口を守る門番と話をしている。
日中立ちっぱなしの仕事お疲れ様です。


「では勇者様、くれぐれも今お教えした場所へは近付かない様に……ではお気をつけて」

「はい、では行って参ります」

俺は礼儀正しく頭を下げた。
自分で言うのも何だが、ユリウスさんが相手の時がおかしいだけで基本俺は礼儀正しい男なのである。


「先程お出かけになられた勇者方も、貴方様の様に礼儀正しければ良かったのですがね」

「……すいません」

なんか身内の恥みたいになってるんですけど?
全然身内じゃないのに!普通に嫌いな奴らなのに!

……俺は何とも言えない気持ちのまま、門を出る事になった。


──このまま町へ向かうつもりだったのだが、俺はある事を試してみたくなった。
なので町へは向かわずに、まずは別の場所へと向かう事にした。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


~???視点~


俺は勇者が城の外へ出る姿を見て、思わず笑みをこぼしていた。


──俺の名前はザイス=ヴァン。
コウモリ族であり、身体中が青紫色で背中にはコウモリ翼が生えている。いかにも魔族と言った風貌だ。
現在、主人からとある命令を受けてこのラクスール王国の城の前に立っている。

主人から受けた命令とはラクスール王国で召喚された勇者の偵察を行う事だ。

俺は魔王軍で最強の十人により結成された組織【十魔衆】のメンバーの一人。序列九位。
この序列というのは単純に戦闘能力の高い順で並んでおり、俺は十魔衆で九番目の強さだから序列九位。

そして何故、こんな風貌の俺が城の前に立っているにも関わらず、誰も騒ぎ立てないかと言うと、俺は【透明化】のスキルと【気配消失】スキルを兼用し、完全に他者には感知されない状態となっている。

俺にしか扱えない【ユニークスキル】と言うものだ。
そして、十魔衆がそれぞれこのユニークスキルを所持している。

ただ、城の中への侵入は、城全体に魔族除け最上級の魔法が掛かっており入る事が出来ない。
なので城の付近に潜伏し勇者が出て来るのを待っている。

どうやって勇者と判断するのかと言うと……俺は勇者を判別できる特殊スキルを取得しており、それを使って勇者だと見抜いている。


そして主人から受けた命はもう一つあり、その内容は可能で有れば暗殺せよとの事。
俺は多少強引でも偵察だけでなく、この暗殺を決行するつもりだ。

……何故なら、そうした方が主人が喜ぶからだ。


因みに、俺の言う主人とはあんな醜い魔王では断じてない。

今回、我々を支配する魔王は力こそ圧倒的に最強なのだが、いかんせん醜く過ぎる。顔を見た瞬間に気を失ってしまう程だ。
なので、殆どの者が出来るだけ魔王の顔を見ないように心掛けている。

しかし、何を思ったのか、序列十位のダークエルフの女が魔王の顔をガン見し気を失ったと聴く。
何を思ったのか知らないが、実に愚かな話だ。


──醜いだけなら、顔を合わせなければ我慢出来ないこともないのだが、魔王は全くと言って良いほど人間に殺意や敵対心を抱いて居ない。

数日前なんかは、このラクスール王国の最大戦力の2人を簡単に追い詰める程の力をみせながら、最後は命を奪わずに見逃すと言う暴挙に出た。

これが何かの作戦なら解るが、あの魔王の場合は単なる情なのだから始末が悪い。
魔族なのに、まるで人間の様な甘い考え方なのだ。

その無駄な甘さと醜い容姿が相まって、これでは誰も付いて来ないだろう。忠誠は上辺だけのものだ。

にも関わらず誰一人として反逆しないのは、単に魔王が強すぎるのだ。
例え魔王以外の魔族、魔物の全てで挑んだとしても、まったく勝ち目がないからみんな従順に従っているに過ぎない。


でなければ誰があんな醜い女などっ!!


……話を戻すとしよう。

先ほども勇者が出て来たのだが、その時は三人一緒になっていたので流石に手出し出来なかった。
3人まとめてでも始末するべきか?……とも思ったが、ここは慎重になるべきだと判断し手を出さなかった。

それに、もしかしたらもっと大きなチャンスが巡って来るかも知れない……そう思った。

そして案の定、数時間後にたった1人で出てきた勇者が居た。待って正解だったな。

さっきの3人にしてもそうだが、今まで直接乗り込んで来た魔族が居ない故に油断しているのだろう。
護衛も付けてなく、全くの無防備。

しかもこの勇者に限っては、町へは向かわずに人気のない草原を目指して歩いて行く。

ククッ、まるで殺してくれと言っているようなものじゃないか!


──俺は迷わずこの黒髪の勇者の後を追った。


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