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番外編 私の気持ち

私の◯◯な人

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《これは孝志達が異世界召喚される当日の話》



~穂花視点~


「おはよう穂花ちゃん、今日もお家に上がらせてもらってるよ」

「おはよう由梨お姉ちゃん。今日も宜しくね」

朝起きると隣に住んでる幼馴染の由梨お姉ちゃんが家に上がって一緒に朝食を食べる。
親同士も非常に仲が良いこともあり、朝食時に彼女が我が家に入り浸っている光景はすでに当たり前のものになっている。

お父さんとお母さんは共に朝が早く、私達が目を覚ます頃には会社へ向かっているため、由梨お姉ちゃんが朝食を作ってくれる事が多い。
ただ今日の朝は由梨お姉ちゃんは忙しかったらしく、簡単なトーストと野菜サラダだ。
でも十分美味しい!


私が黙々とバターを塗ったトーストを食べていると、既に食事を食べ終わりソファーで朝のコーヒーを飲んでいたお兄ちゃんが私に近寄ってきた。

「ほらほら、寝癖が付いてるよ」

そう言いながらお兄ちゃんは私の髪を直すと、ついでに頭を撫でてきた。

「もう!やめてよ!お兄ちゃん!恥ずかしいよ!」

私を撫でた後、お兄ちゃんは幼馴染の由梨お姉ちゃんと一緒に微笑みながら私を見ているのだ。


私はそんなお兄ちゃんが……




……死ぬほど嫌いです。


嫌い、大嫌いじゃなく、死ぬほど嫌い。
いや殺したい。


まず、この兄はどこで気が狂ったか知らないが、妹である私を女として見ている……もちろん義理などでは無い。血の繋がった兄妹なのにも関わらずだ。

さっき頭を撫でられた時も本当は殺してやろうと思っていた。
母親がしてくれるならともかく、何で異性の兄に気安く髪を触られなければいけないのか。


私は俗に言う反抗期という年頃に入っているのだが、両親との仲は良好だ。
何故ならこの兄が居るせいで多少疎ましく思える事を言われてもイラついてこない。
あの時、兄にされた事に比べたらマシと思えるからだ。

なんせこの兄は異常な事に、私が自分に惚れているんだと生まれ変わってもあり得ない様な勘違いをしているので、スキンシップがやたら激しい。

頭を撫でるのは当たり前で、隙あらば手を繋いで来ようとする。

手を繋ぐのは毎回上手いこと回避して、一度も許したことは無い。
だけど頭を撫でて来られるのは、朝のやり取りの様に由梨お姉ちゃんが見ていたり、不意打ちだったりすると逃げ切れない。
不意打ちはともかく、由梨お姉ちゃんが見ている前で避けると感じ悪く思われるから逃げ辛いのだ。

学校の友達に兄の異常性を語っても

「自慢乙」
「羨ましいなぁ」
「イケメンに撫でられたい」

とまともに聞いて貰えない。


冗談じゃない!顔の系統は同じで遺伝子も同じなの!
周りはイケメンと言っても、身内の自分にとっては何がイケメンなのかさっぱり分からないよ!


……超無理。


───────


この日、学校帰りに買い物予定があったのだが、家に財布を忘れてしまった。

実に不本意ながらも、仕方ないので近くの高校に通う兄に、昼休みに取りに行くからお金を借して欲しいとメールを送ったんだけど、それが余りにも大きな間違い。

返信には
「じゃあ、放課後にウチの高校の校門前で待ち合わせね、一緒に買いに行こう」

と書いてあった。

いやいや、お金だけ渡してよ!後で返すって言ってるじゃん!
もしくは代わりに買って来て!お金なら倍払うから!
昼休み借りに行くって話が、どう行き違ったら一緒に帰る話になるの!?


……もう遅くなってしまうが一旦家に帰ろうかとも考えたが、仕方なく兄の通う高校での待ち合わせに了承した……断ったら流石に兄に悪いからね────


───と言うのは大嘘で、もしかしたら兄と同じ高校に通う【あの人】に会えるんじゃないかと思い至り、行くことに乗ってやった。

どうせ話掛ける勇気なんて無いのだが、それでも顔をチラッとだけ……見えたりして?
ス、ストーカーじゃないからね!


───等という下心で上手くいく訳もなく。

結局、あの人に会えなかった…
別にいいもん!どうせ直ぐに会えるもん!制服姿見たかっただけだもん!あわよくば奇跡的に一緒に帰れるんじゃないかと思っただけだもん!……だもん!


当然、帰りは由梨お姉ちゃんも一緒で、少し前から一緒に帰る様になった奥本美咲さんも一緒だ。

私が思い人の顔を見れず落ち込んでいる所につけ込み、気色悪い事に兄は私と手を繋ごうとする。

心の中でボロクソに罵倒しつつ、私は心底嫌なので奥義《ツンデレ》を披露して上手く躱していく。

ツンデレとは攻撃的な属性のはずだが、私には最強の防御属性である。
そしてもちろん、私のツンデレにデレなど一切無い。
最早ただのツンツンだ。
むしろツンコロ(ツンツンした態度でいつかキルすると言う意味  ※穂花オリジナル)



これだけの事があっても兄を邪険に出来ないのには理由がある。

私は性格的に両親や周りの目をどうしても気にしてしまう。

兄は同性には嫌われるが、異性には恐ろしくモテる。
もし私が兄に逆らって、そのせいで周りの女子が離れて行ったらどうしようと考えてしまう。
考えすぎとも思うが兄の異常なモテっぷりを見る限り、可能性はゼロではない。


そして一番の理由は、私が由梨お姉ちゃんの事を好きだという理由だ。

兄に対して盲目的な所を除けば、美味しいご飯も作ってくれるし、遊んでくれるし、私が子供の頃は抱きしめて可愛がってくれた、優しくて好きな人だ。

もし私が兄と仲違いしてしまったら、一緒に居る時間も少なくなると思うし、何より由梨お姉ちゃんが悲しい思いをしてしまうだろう。

だからわたしは兄にあなたが嫌いだ、と口に出して言えない…
もっと上手に立ち回れと思うかも知れないが、私には我慢以外に方法が思い浮かばない。


だから、言いたい事はとりあえず我慢して耐える。

兄に頭を撫でられたのがすごく嫌だった……でもそうとは言わない、我慢する。

兄に手を繋がれそうになった気色悪い……でも言わない、我慢する。


頭を撫でて欲しい人は別に居る。
手を繋ぎたいほど大好きな人はあの人だ。

言いたい言いたい全部言いたい!


でも言いたいことは心で思うだけで口にしない。
我慢人間、それが橘穂花の正体なのだ……私はそんな情けない自分の事が兄と同じくらい大嫌いだ。


────────


そして帰り道、今も我慢しながら4人で仲良く(笑)歩いている。
いつもの様に恥ずかしいやり取りを繰り広げながら。


「もう~雄星~由梨にばっかり構い過ぎ~、私にも構ってよ~」

「何言ってるのよ…美咲は昨日 雄星とデートに行ったんでしょ?だったら今日は私の番よね?」

適当に相槌を打ってた私だったが、今の由梨お姉ちゃんのセリフを聞いて、兄に詰め寄る。


「え!?お兄ちゃん昨日、美咲さんとデートに行って来たの?!どうして?!」

昨日は父の誕生日だったからだ。
この男は学校で用事があるからと、昨日は外で夕飯を食べて来たはずなのに、実際は美咲さんとデートをしていたと言うのだ。

「ハハッ、内緒って言ったじゃないか~」

こ、こいつ!全く悪びれない……本当に意味がわからない!

私が怒りボルテージが過去最高になった、その時だった。
突然、私達の周りを強く眩しい光が覆った。


私はあまりに急な事に思わず目を強く瞑った──


───────────


──光が収まるのを感じた私は、ゆっくりと目を開けた。

すると、周囲は大勢の兵士で囲まれていて、見上げた先にはゲームやアニメに出てくる、王様のような格好した男性が高価そうな椅子に座っていた。


この光景を目の当たりにして、私は大きな不安に襲われた。
説明はまだだが、恐らくただ事ではない何かに巻き込まれてしまったのは間違いなさそうだ。

そして不安になった原因のひとつが一緒に来ているメンツ。

兄はもちろんの事、美咲さんも正直あまり好きではない。
若干、私をライバル視している所があるから。

由梨お姉ちゃんにしても、兄と居る時は周りが見えないポンコツに落ちてしまう。
こんな所に来てしまった以上は四六時中ずっと一緒だろう。つまり四六時中ずっとポンコツ。


どうしよう……お家に帰りたい……あの人に会いたい。

ここにあの人が居たらどんなに良かっただろうか。
それだけでどんな状況であっても、この世界に来て良かったと心から思えただろう。
きっと吊り橋効果で仲良くもなれただろうし……


私がそんな事を考えていると、1人1人が自己紹介を行っていく事になった。

兄、由梨お姉ちゃん、美咲さんと順番に自己紹介して行き、最後に私の番となった。

「…橘穂花と言います…宜しくお願いします……」

不安でどうしても消え入りそうな声になってしまう。

自己紹介が終わり、これからどうなるのか再び考え込み始めた時だった──


「では最後に一番後ろの者……名を聞かせてくれぬか?」

…?ああ、私が最後じゃ無かったんだ…

どうやら私たち以外にもこの世界に呼び出された人が居るみたい。
……たった一人でなんて……可哀想だ。

どんな人だろう?私は気になって振り返る事にしたが
、私が振り返るより速くその人物が名乗りを上げた。



「私は松本孝志と申します、宜しくお願い致します」


その声を聞いた私は、それはもう首が捻れるかというくらいの勢いで振り返った。



そして振り返った先に居たのは──





──私の大好きな、あの人だった。



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