12 / 217
1章 五人の勇者
王者との対面
しおりを挟む俺はマリア王女の案内で、ブローノ王子と面会する部屋の前まで来ていた。
「それじゃ、中に居るお兄様と先に話して来るから、少し待っててくれる?……それはもう楽しみに待ってて頂戴」
「そんなにハードル上げて大丈夫ですか?」
「はっ!今の内に吠えてなさい!」
「いきなりどうして?」
俺の返事を殆ど聞かずに、マリア王女はブローノ王子が待っている部屋の中げと入って行ってしまった。
どんだけ早く合わせたいんだよ……
───────────
「では孝志様、中へどうぞお入り下さい」
1分も経たない内に中から出て来たのは、マリア王女ではなく見知らぬメイドさんだった。
多分、昨日の執事さんと同じで王族に専属で仕える方なのだろう。
見た目は初老の女性といった感じで、年齢はダイアナさんと同じ歳くらい…そして品良く上品な女性だ。
若く見える訳では無いが、純粋に綺麗な歳の取り方をしている印象。
「わかりました、では失礼致します」
俺はそのメイドさんに礼を言って中へと入った。
基本、俺はユリウスさん以外の年上には礼儀正しいのである。
それとマリア王女は同じ歳みたいだし、ちょっとアレだから王女様だけど別に礼儀はいいかって感じ。
まぁ一応は敬語で話してるし文句を言われる筋合いは無いだろう。
中へ入ると、ソファーに座っていた男性が居たが、俺が入って来たのを確認すると直ぐに立ち上がった。
男性はマリア王女と同じ金髪で、顔は男前なのだが普通のイケメンという感じ。
間違いなく俺なんかよりは男前だが、橘の様に圧倒的さはない。
ただ一つ……その男性がとんでもない黄金のオーラを身に纏って見えるのは気のせいだろうか?
そんな事を考えている俺の思考をかき消す様に、その男性が話しかけてきた。
「ようこそ、勇者松本孝志。私はブローノ・ラクスールと言います。この国の第一王子です。どうかよろしく頼む」
そう言うとブローノ王子は真剣そうな面持ちで手を差し出してきた。
バチモンのマリア王女とは違って、気品溢れる王族といった感じがヒシヒシと伝わって来る。
いや、マリア王女も最初はこんな感じだったっけ?
確か俺が『気安く話してもいいか?』と言った辺りから腹黒になった気がする。
そう思うとなんて器量の小さい女なんだ。
「松本孝志です。今日はお呼び頂き光栄でございます。こちらこそ宜しくお願いします」
そう言うと俺は差し出された手を丁重に握り返した。
「妹のマリアが君にどうしても会えとしつこくってね。君に対してもそうだったのでは?…この子は気に入った相手に対してはいつもこうなんだ」
「お、お兄様っ!私は別に気に入ったから連れてきた訳ではありません!こ、この王族を甘く見ている彼をお兄様に合わせて、王族とはいかに素晴らしいかを教えたかっただけです!」
ブローノ王子の指摘に、マリア王女は顔を真っ赤にしながら慌てた様に反論する。
こいつ……お兄様の前だからってキャラ作ってんじゃないよ!俺のこと普段バカにしてる癖によ!
「マリアがそう言うならそう言う事にしておこう。客人の前で言い争いなんて無礼だからね……松本孝志、立ち話もなんだし良かったら座って楽に話さないか?」
そう言ったブローノ王子は高級そうなソファーに手を差し、俺が座れる様に誘導してくれた。
……もうはっきり言おう、この人は超やばい。
もちろん良い意味で。
マリア王女みたいに誘いを断ってキャピキャピ言い合う様な雰囲気では無い。
本物の王族ってのがわかった気がする。
顔がイケてるからどうとかではなく、もちろん凄く男前だが、それ以上に存在感というかオーラが圧倒的に凄まじい。
橘の様に顔だけの上っ面ではなく、実際に話をしてみて解った事だが立ち振る舞いから客人に対する対応まで、何もかもがイケメン。
そして国王さんの様に無意識に威圧感で押してくる感じもなければ、第一王女のなんとかさんみたいに見下した感じなんかは特に全く感じない。
…だからと言って取っつきやすい軽い感じって訳でもなく、自然とついて行きたくなる存在。
初めて会うタイプだ……生きるカリスマとでも言っておこうか?
いや、なんか悔しいがマリア王女がしつこく紹介したがっていたのも凄くわかる。
さっきまでは兄を紹介する位でいちいち改まってどこまでも面倒くさいヤツだな、とマリア王女に対して本気でそう思っていた。
でもこの人に会った今なら解る……俺だってこんな兄がいたら、自分に失礼な態度のヤツに会わせてやりたいって思うからな。
そしてこう言ってやるんだ『俺に何かしたらこの兄が黙ってないぞ?』ってな!
絶対大人しくなるからソイツ。
そして当然俺も大人しくなります……はい。
ただし、ブローノ王子の前だけでな。
「ではお言葉に甘えて失礼させて頂きます」
礼をした俺は案内されたソファーへ向かいそこで腰を下ろした。
最初は先に座るのは無礼じゃないかとも思ったが客として招かれた以上、逆に先に座らないほうが無礼かもしれないと思い大人しく座った。
王族の作法がわからないので、客人でも王族優先かも?と思ったが例え間違えたとしても、この人に限ってそれをとやかく言うようなことはないだろう。
俺が座ったのを確認した後にブローノ王子とマリア王女は、俺の対面になる様に低いテーブルを挟んだ向かい側に座った。
ブローノ王子が見ていないタイミングでマリア王女と目が合ったが、ニヘラッとでも効果音が付きそうなニヤケ顔でこちらを見てきた。
…くっ、すげぇムカツクが何も言わないでおこう。
沈黙は美徳であり、加えて俺は誰よりも寛大な精神を持っているのである。
精神Sだから軽く見て流せる的な?
──後で覚えとけ(寛大さゼロ)
10
お気に入りに追加
4,045
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私のお父様とパパ様
棗
ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。
婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。
大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。
※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。
追記(2021/10/7)
お茶会の後を追加します。
更に追記(2022/3/9)
連載として再開します。
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
幸子ばあさんの異世界ご飯
雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」
伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。
食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる