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1章 五人の勇者

橘雄星がやって来る。

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「精神がSランクですか!?知力も凄く高いですし孝志さんのイメージにピッタリの能力値ですね!」

「あ、ありがとう」

天使って何回いわせたいんだこの子は!
……いや待てよ?俺って腕力Fのイメージなの?


「それとスキル欄に《???》ってあるのも秘密兵器みたいで良いですね~」

「ありがとう、でもしょーもないのかもよ?」

「それだったらそれで良いじゃないですか。それで私の孝志さんに対する態度も、評価も、お、想いも……変わったりしませんから」

「そっか……なんか穂花ちゃんと話をしていると元気になってくるよ。この世界に来てから一人で頑張らなきゃって思ってたけど、穂花ちゃんが居てくれて良かったよ」

無論おべっかでも何でもなく本心で思ったことを言った。

正直、精神と知力以外はかなり低く、スキル《???》もなんだかよくわからない。
なのに彼女は俺の能力を見て、いいところだけを見つけて褒めてくれる。本当に良いな、この子は。


「……ぁぅ……今の言葉……今までで一番嬉しいかも…です………ぅぅ」

俺の言葉を聞いた彼女は、これでもかというくらいに顔を真っ赤にして顔を伏せてしまった。


これから「大げさだな~」と声を掛けようとした時である。
人生において一番関わりたくないあの男がやって来たのだ。


「やぁ、少し話せるかな?」

「………うん」

やって来たのは橘雄星その人である。
あろうことか橘が話掛けた相手は俺である。


そして一緒に来ていた中岸と奥本は俺に目もくれず穂花ちゃんの方へと向かって行く。


「穂花ちゃんはこっちおいで!ネリーさんに紹介したいからさ!」

奥本が穂花ちゃんの手を引っ張りながら言う。


「きゅ、急に!?何で?!」

奥本のあまりの力(腕力B)に穂花ちゃんは離れた所にいる第一王女の所まで引っ張られてしまった。


一緒に来た中岸も、一瞬こちらを睨むと何も言わずに 
後に付いて行った。
睨まれることした覚えないけど……まぁいいか。



あ、やべ、気が付いたら橘と二人きりになってる──!?


────────


「え~っと、君は確か同じクラスの……山本孝志くんだったね?」

山本だぁ?コイツ舐めやがって……訂正もめんどくさいので、とりあえず合わせる事にした。


「おう!そうだぞ!おれ山本だぜ!同じクラスだけど改めて宜しくな橘!」

俺が返事を返すと橘は一瞬、ムッとした表情を見せるがすぐに切り替え本題に入る。


「……あまり妹を困らせないで貰いたいんだけど?」

「穂花ちゃんのことか?」

とりあえず適当に自分が考えついた《山本》のキャラを演じてみることにした。


「穂花ちゃんって……あのさ、だれが穂花の事を名前で呼んで良いって言ったんだ?」

「え?穂花ちゃんだけど?」

俺は呆気に取られながらもそう答えると橘は苦虫を噛んだような顔をみせる。


「……穂花は兄の贔屓目で見ても凄く良い子なんだ」

「マジでそれな!」

「………」

「続けたまえ」

「だから一人で寂しそうにしている君の事がほっとけ無かったんだよ、きっと」

「そんな感じには見えなかったけど?」

「……解ってないね。だから君が調子に乗って名前で呼んでも嫌だとは言えない」

「何で嫌だってわかるんだ?」

「ずっと一緒に居るからね。穂花が産まれた時からずっと一緒なんだ。当然、穂花の事なら何でもしってるさ」

よく恥ずかしげもなくサラッとそんな事が言えるよな……言い回しがストーカーっぽいぞ?


「とりあえず忠告としては穂花の側に気安く近寄らないこと、穂花と名前で呼ばないこと……いいね?」

「考えておくね」

「考えておくって……忠告はしたからな?」

そして橘は手を振り去って行く。


「それじゃあね、松本くん」

「いや、名前知ってるんかい」

「ああっ!いや、これはその……」

それに橘はあたふたしだした。
あんまり言いたくないけどこういう時の反応だけは穂花ちゃんにちょっと似ているな……コイツの場合ウザいだけなんだけど。

正直もう相手するのが面倒くさいから、あたふたしている橘をおいて俺はその場から離れたのだった。

それより初めてまともに会話するのにあんな態度で来るのか。

本当に無理だなコイツとは。しね。


─────────


橘の元を離れ俺の周りに誰もいなくなったタイミングを見計らってマリア王女が近づいてくる。

穂花ちゃんは気付いていなかったが、近くに寄ってきて人のステータスカードを覗き見ようとしてきたり、橘達が近寄ってきたらそそくさ距離を空けたり本当に俺の周りをうろちょろしていた。

……国王が居なかったら本当にやりたい放題だな。


「あの男……強烈だったわね」

「そうですね……てかさっきから周りうろちょろしてましたけど、なんか用ですかぁ??」

それと実はさっきから何度も笑われた事を根に持っているので、つい思った事をキツい口調でぶち撒けた。


「腹立つわね~。気安く話しかけても良いと昨日別れ際に言ったし、まぁ良いわ……どうせそんな言い方なのは、さっきから私が笑ってたこと根に持ってるからでしょおぉ?」

バレてるし………それに語尾が小馬鹿にした感じだし、ドヤ顔も腹立つな~。


因みに一緒に居たはずの第一王女は穂花ちゃんを連れていった橘達の所で談笑しているようだ。


「マリア王女は第一王女のなんとかさんみたいに橘の所には行かないんですか?」

「ネリーよ……あの勇者には興味無いわね。彼有能そうには見えないんだもの」

「でも超イケメンですよ?」

「はんっ!ブローノ兄さんの方がイケてるわ!」

お前もブラコンかよ……いや、穂花ちゃんをブラコン呼ばわりはいけないな、あの子は節度を守っているからな。


「失礼ですけど、自分はブローノ王子を知りませんので」

「そういうことなら紹介しましょう!ユリウスとの訓練が終わったら、ダイアナの案内で昨日の部屋へ来なさい」

うおっ!めんどくさっ。


「王子様ならそのうち顔合わせる事になるんじゃないですか?」

「そうよ、本当は2日後にある勇者歓迎パーティーで貴方たちに挨拶する予定だったけど、前倒しで会わせてあげるわね!」

うわぁ……すごい笑顔だな。

別に王子様に会いたくねぇし、疲れてるし、これから訓練でもっと疲れると思う………今回は悪いけど別の日にして貰おう。


「せっかくのお誘いですけど、訓練の後は疲れてるでしょうし遠慮します」

「……もう一回聞くわよ?私は言葉を選ぶの……同じ問い掛けにもう一度NOと言ったら解ってるわよね?……訓練が終わった後はどうするのかしら?」

「ブローノ王子に、会いてぇよ……っ!」

「いいわ!会わせてあげるわね!」


脅迫かよ……悪いと思って損したわ。
しかし厄介な女だぜコイツは!



──無理矢理約束を押し付けられた俺は、その後すぐユリウスさんに呼ばれて彼の元へと向かった。

穂花ちゃんはこちらの様子を遠目で気にしているようだったが、中岸と奥本に挟まれて抜け出せそうにない。
別れるにしてもちゃんと挨拶はしたかったが、流石にあそこへ向かう度胸は無いので、そのままユリウスさんと修行の話に入った。







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