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1章 五人の勇者

第二王女 マリア

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どうやら俺たちはこの国で行われた勇者召喚というもので呼び出されてしまったみたいだ。
簡単な自己紹介を済ませた後に、何故ここに自分たちが呼び出されたのかを教えてくれた。


─────────


俺たちの世界にいる人間が、こちらの世界に来ると【勇者】という称号が与えられるらしい。
この勇者という称号はこの世界で産まれた人間には与えられる事はないと。

何故そうなったかと言うと、大昔に女神と呼ばれる存在が間違ってあっちの世界の人間を寿命以外で殺してしまったらしい。

死んでしまったその者はもうあちらの世界では蘇生する事が出来ないらしく、女神はこちらの世界へと転移させたのだ。

その時に、その者が生きやすい様に勇者の称号を女神が与えたのが始まりだと。
それで当時、魔王という存在に苦しめられていたこの世界は彼により救われたのだ。


ただ、女神は彼を転移させる際に誤って彼に勇者の称号を与えるのではなく《あっちの世界からこちらの世界へ転移した者》にこの称号が備わる様にしてしまったのだという。

この世界の女神という存在は、人々を救うことはなくだから魔王も放置していた。
故にその者が力をつけて魔王を滅ぼしたのは奇跡的な偶然だそうだ。

その証拠にこの世界では何度も勇者召喚が行われているらしいが、女神からの警告などは一切無いらしい。
この世界で女神を崇拝する者はまず居ないのだが、信仰心がなくても特に何かされる事もないとか。

本当に人の世に興味が無い女神様なのだ。


ただ、勇者の称号は一度に7人までしか与えられず、加えて最初に呼び出した勇者が1人でも生き残ってるなら、その者が死ぬまで新しく勇者を呼び出す事が出来ない。

召喚されるのは毎回ランダムで、1人だけの時もあれば、7人より多い場合もある。
そして7人以上だった場合でも勇者に選ばれなかった異世界人は手厚く保護されるのだという。

因みに、俺たちが呼び出されたのは、何日か前に前回呼び出された勇者が寿命で亡くなったからだとか。

それと勇者が年老いて戦えなくなってもその者を殺す事はない。
そんな事をしてそれを新しい勇者達に知られでもしたらと恐れているのだ。

そして魔王というのも倒す度に違う場所で、違う生命として何度も蘇る。
ただ一度倒すと何十年は蘇らず、その間平和は保たれるため積極的に殺しに行ってるそうだ。


─────────────


ひとしきりの説明の後は魔王討伐の段取りやら誰が勇者を育てるのだとか話していたのだが、橘が余計な事ばっかり言うので揉めに揉めた。

もちろん、揉め事の発端は全て橘雄星。
俺はなんかヤバそうなので、最初の自己紹介以外では口を開く事はなく、この場は様子見を貫いた。

橘のヤツがアリアンと名乗っていた赤い長髪の美女にケンカを売ったり、国王にタメ口だったりでやばい雰囲気だったがそれでもなんとか無事?に先程謁見を終えることが出来た。

ただ謁見の終わりのこれから解散というタイミングを見計らって、俺はどうしても個人的に橘達を抜きにお願いしたいことがあったので、意を決して国王に時間をもらえないかと尋ねた。

生憎、国王は他国に今回の勇者召喚の詳細報告などがあったので無理だったが、第一王女と第二王女で良ければ時間がとれるらしい。

ぶっちゃけ国王は厳つくて怖かったから逆に気が楽だけどな。
それにバイトの癖で目上の人間にはどうしても低姿勢になってしまう。

それでも、ある程度権力がある人じゃないと聞いてくれるか解らない話なので、俺と近い年齢で王女の地位にいる彼女達が相手なら問題ない。


ついでに、橘が怒らせてしまった所為でアリアンさんが殺気立ってしまっているのが怖い。
明日になれば機嫌が直る様にも見えなかったので、最初に指導員と紹介してくれたユリウスさんが稽古をつけてくれないかお願いした。

一応許可は貰ったが、あの4人はアリアンさんが指導し、ユリウスさんが俺ひとりの面倒を見てくれる様だ。

因みに魔王についての詳しい話や訓練は明日からとなっている。


─────────

解散となってからは三十分ほど休憩を挟んでから、年配のメイドさんにとある一室の前まで案内された。
案内してくれたメイドさんは、先に部屋の中へ入り、俺を招き入れる準備をしてくれている様だ。
そんなに気を遣わなくてもいいと思うけど……まぁ、あまり口出しする事ではないので黙っていよう。


この部屋の前へ到着するまでに廊下を歩いて来た訳だが、廊下がとにかく長い。
それに至る所に部屋があるが、生活感はまるで無く、なんの部屋なのか見当も付かない。

そして何より、廊下には綺麗なレットカーペットが中央に敷かれており、汚れ所かチリ一つ落ちていない。
思わずカーペットはが敷かれてくない、端っこを歩いて来ちまったぜ……
そんな控えめな俺を見て、メイドさんは優しそうな笑みを浮かべてクスクスと笑っていた。


──部屋の前で待つこと数秒。
客を招き入れる準備が出来たようで、孝志を案内したメイドが部屋から顔を出して中へと通した。
ただそこには第一王女ネリーの姿はなく、中には第二王女マリアと、年齢はバラバラのメイドが数名いた。

俺は高そうな装飾の施されたソファーへ案内される。


位置的に、マリア王女と孝志が対面する形となる。
お互いに軽く会釈した後、マリア王女が孝志へ挨拶の言葉を述べた。


「お待ちしておりました、異世界の勇者。確かお名前は松本孝志と言いましたか?先程玉座の間でも自己紹介しましたが、こうして向かい会いながら話をするのは初めてなので、この場で改めてもう一度自己紹介致します……私はラクスール王国第二王女、マリア・ラクスールと申します」


マリアは礼をしながら、孝志に対して丁重な自己紹介を行なった。
孝志はあまりに完成された礼儀作法に思わず息を呑んだ。
そして、この様な優雅な立ち振る舞いを見る機会など、普通に生きていれば絶対に無かったと心から関心するのだった。


それと、孝志が心奪われた事がもう一つ……それは彼女の容姿だ。

青い瞳に長くて綺麗なブロンドの髪。
鼻筋の通ったその顔はあまりにも綺麗で、後光がさす様な錯覚が見えていた。
彼女が女神と名乗ったら、孝志はノータイムでその言葉を信じてしまうだろう。

息を呑む美しさというモノを、孝志は産まれて初めて味わうのだった。


「ご丁寧に、ありがとうござます。自分は松本孝志と申します。どれだけの事が出来るか分かりませんが、宜しくお願いします」

俺も相手に合わせるように頭を下げた礼を行った。

そして互いに自己紹介を改めて行った後、マリア王女が申し訳無さそうに口を開いた。

「……それと、この度同席予定だったネリーが先程体調を崩してしまいました。なので本日は私のみの会合となります……ご容赦を」

別段気にしていなかったが、とりあえずこの謝罪は受け取る事にしよう。


「了解しました、マリア……様……?」


そしてマリア様、と口にした後で俺はある違和感を覚えた。

この場は先程の重苦しい空気が一変している事もあって、いざマリア王女と話してみると、彼女とは王女としてではなく、同年代の美人な女子と話している様に思えてきた。


人間一度そう思えてしまうと、なんか様づけで呼んでる事に違和感を感じてしまうものだ。


まぁ優しそうな人だし、急に怒ったりもしないだろう……俺はダメ元である事を提案する事にした。


「貴方は言葉遣いも丁寧ですし、実はわたくし好感を持っておりますよ?」

「それより……いま王様が居ないのでタメ口で話してもよろしいでしょうか?」

「……え?ダメに決まってるでしょ??言葉遣いに好感を持てると言った矢先よ!?」

あっ、凄くタイミングが悪かった…!
砕けた口調で話す許可を貰う……その事を頭の中で強く考えていたせいで、ほとんど相手の話を聞いてなかった……

さっきの言葉はマリアが関心の言葉を述べた直後のものだった為、カウンターみたいに決まってしまったらしく、マリア王女はかなり怒った表情だ。


孝志が非常に焦る……が──

うわぁ……どうしよう……けどまてよ?
もう一度無礼な事を言っちゃってるし、一回も二回も同じじゃね?
……なんていう、とんでもない開き直りをする。


──よし!タメ口は却下されたが今度はフレンドリーにいってみよう!勇者だから急に殺される事もないだろうしな!

そう思った孝志は、未だムッとした表情を浮かべているマリアに対して意気揚々と言葉を発した。

「いや、実はさっきから凄い真面目なんですけど~もういいかなぁ~って。ここは王様居ないですし、さっきの場所みたいな怖い雰囲気ないですし?」

「タメ口では無いけどフランク過ぎない?」

「え?フレンドリーでもダメなんでs──」

「ダメよ」

しかし、孝志は食い気味で断られるのだった。

そしてこう思う……なんて心の狭い女なんだ、と。


「え~…解りましたよ……じゃあ敬語で話せば満足してくれるんですね?」


「……貴方、急に感じ悪くなったわね」


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