DONKAN

すずかけあおい

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DONKAN③

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「……触っちゃったよ」
 自己嫌悪しているような声が聞こえるので顔をあげたら、整った顔が目の前にあった。幹人は動きが固まり、朋春はぐんっと背後に頭を引いた。
「触ったらいけないの? 僕、朋春くん好きだよ?」
「いけないに決まってる。幹人は可愛くて純情だから、俺みたいな不純な心代表みたいなやつが触れていいわけがない」
 そう言いながらも腕に力を込めるので、幹人も彼の背中に腕をまわしてみた。朋春の身体が強張ったかと思ったら身体を離された。
「やっぱりだめだ」
「どうして?」
 朋春は深いため息をつき、真剣な瞳で幹人を見つめる。
「俺は幹人が大事だから、汚すわけにはいかない」
「汚す?」
「俺だってそういう欲があるんだよ」
「そういう欲ってなに?」
 本当にわからなくて聞くと、朋春は手で額を押さえて天井を仰いだ。自分はまたなにか失敗しただろうか。
「教えて?」
 朋春の胸もとに手を添えて目を覗き込むと、相手の頬がわずかに赤くなった。
「わかっててやってる?」
「なにを?」
 またため息をつかれて焦る。やはり失敗をしたようだ。
「ごめん。僕、またなにか嫌なことしちゃったんだね」
 自分でよくわからない時点でだめだ。気持ちは伝えられたけれど、これでは振られる未来しかない。
 朋春は幹人の両肩に手を置き、首を横に振る。
「違う。いや違わない」
「えっ。ごめんなさい!」
「謝るくらいなら太腿撫でないで」
「あ……」
 無意識に触れていた。恥ずかしいやら申し訳ないやらで慌てて手を離すと、朋春はほっとしたように表情を和らげた。
「幹人は好きな子になにしたい?」
「好きな子?」
「そう。好きになった相手にしたいこととか、その相手としたいこととか、ある?」
 好きな人――朋春となにをしたいか。答えはすぐに浮かんだ。
「手をつなげたら嬉しいな」
 想像しただけで頬が熱く火照る。小さい頃はよく手をつないでいたけれど、大きくなってからは全然しない。だからまた手をつなげたらいいな、なんて思った。
 朋春は神妙な顔をして、また首を左右に振る。
「俺は好きな子に、もっといろいろしたい」
 先ほどもいろいろと言っていたけれど、なんだろう。
「たとえば?」
「えっちなこと」
 一瞬呼吸が止まったと思う。聞いた言葉が理解できずに一度首をかしげる。
「えっ……ち……」
 ようやく理解して顔から火があがりそうなほどになり、熱すぎる頬を両手で押さえる。朋春がそういうことをしたいなんて知らなかった。相手は誰だろう。
「朋春くん、好きな子いるの?」
 やはり振られるのか、と思うとつらいけれど、せめて誰が好きなのかを教えてもらいたい。もしかしたら幹人も知っている人かもしれない。知ったところでどうするわけでもないけれど、聞いておきたかった。ふたりがつき合ったときにはきちんと祝福できるように。
 朋春は目を見開いて固まっている。聞いてはいけないことだったのだろうか。
「まだ気がつかないの?」
「え?」
「俺の好きな子、今俺の目の前にいるんだけど」
「目の前?」
 朋春の目の前には今幹人がいて――。
「ぼ、僕⁉」
 驚きすぎて声がうわずった幹人に少し呆れたような顔をした朋春が、しっかりと頷いた。朋春の好きな子が自分なんて想像もしたことがない。
「えっと……」
 好きな子とえっちなことをしたいと言っていた。つまりそれは幹人としたいというわけで――刺激が強すぎてくらりと眩暈がした。
「待って、それは……」
「だからふたりきりになりたくなかったんだ。我慢できなくなる」
 朋春は渋い顔をしながら幹人の腰を引き寄せ、また腕の中に閉じ込めた。先ほどまで体温や優しいにおいにどきどきするだけだったのに、今度は心が疼いて止まらない。
 整った顔がゆっくりと近づいてきて、ぎゅっと目を閉じた。
「……?」
 でもなにも起こらないのでそっと目を開けてみると、朋春が至近距離で幹人をじっと見ていた。
「止まってほしい? 止まらなくてもいい?」
「え、……えっと」
 どう答えるのが正解なのかわからない。止まって、と言ったら朋春は止まるだろう。止まらなくてもいい、と言ったらどうなってしまうのか。
「なーんて」
 大きな手がぱっと離れて、朋春が明るく微笑む。たった今の真剣な瞳が嘘のように朗らかな表情を浮かべ、幹人の手に触れた。
「まずは清い交際からだな」
「う、うん」
 幹人の手を包むように握り、朋春が小さく深呼吸をした。
「幹人が好きです。つき合ってください」
「はい。僕でよければ」
「えっ」
「えっ?」
 今度はなんだろう。朋春が驚いた顔のまま固まっている。
「幹人は俺が好きなの?」
「うん。さっき言ったじゃない」
「幼馴染として好きってことじゃなくて?」
「幼馴染としても好きだけど、そうじゃない意味でも好きだよ。手をつないだり、ぎゅってしたり、……キ、キスしたいくらい好き。ただの幼馴染だったら、……キスしていいなんて言わないよ」
 恥ずかしすぎるけれど、朋春とならキスもしてみたい。えっちなことは――刺激が強すぎて想像することができない。それでも朋春がしたいなら幹人が嫌と言うはずがない。
「じゃあさ」
「なに?」
 朋春がまた真剣な表情になり、わずかに緊張する。彼が幹人の手を握る力がさらに強くなった。
「キスしていい?」
「えっ」
「さっき、していいって言ったよね? だから、さ」
「……う、うん。いいよ?」
 でも少し怖い。唇と唇がくっつくだけなのだろうけれど、とても大変な事態だ。
 端整な顔が徐々に近づいて来て、きつく目を閉じる。瞼の向こうには朋春の気配があり、心臓が激しく脈打って破裂しそうになる。頬もひどく熱い。本当にキスされるのだろうか。
「と、朋春くん……あの」
 緊張しすぎてどうしようもなくなり、目をつぶったままで思わず口を開いた。
「大丈夫。わかってるから」
「え?」
 柔らかい声に少しだけ瞼をあげると、やはり彼の顔がすぐ近くにある。心臓が跳ねあがりすぎて口から出そうだ。激しく脈打つ胸もとを手で押さえたら、朋春の顔の位置がずれた。幹人の強張る頬に優しく唇が触れる。小さな温もりがふに、と当たってすぐに離れて行った。
「まずはこのくらいから」
「う、うん」
「ゆっくり、な?」
「……」
 頬へのキスでも心臓が壊れそうなのに、これ以上なんて――幹人の心臓はもつだろうか。

(終)
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