そして何もなかった

平 昌綱

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最大の喧嘩と模試

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 ある日、全国模試の結果が返ってきた。クラス中がざわざわとし、結果を見た生徒たちが一喜一憂している。僕も封筒を手に取って自分の結果を確認した。まぁまぁいい感じだ。総合点ではクラスの中でも上位に入るくらい。少しだけ胸を張りながら、静かに机に戻った。

そんな中、ふと目に入ったのは青子だった。いつも通り真剣な表情で結果を見つめている。数日前、彼女が不機嫌だった時についちょっかいをかけてしまい、喧嘩になったことを思い出した。今はちょっと気まずいし、わざわざ話しかける必要もないだろうと思って、そっとしておくことにした。

ところが、僕の背後から突然声がかかった。

「結果どうだった?」

振り向くと、青子が自分の封筒を手に立っていた。その表情は、いつものように少し気の強い、挑むような目つきだった。僕は「なんだよ」と思いながらも、少し得意げに結果を見せた。

「まあまあだったよ。ほら、これ。」

すると青子も、自分の結果を僕に見せてきた。一瞬目が合うと、彼女は「どや」と言わんばかりの顔をしている。でも、総合点を見ると僕のほうが圧勝だった。

「アホやー」と冗談半分にからかう僕。余裕の笑みを浮かべていた。

しかし、その瞬間、青子の目がキッと細まり、彼女が突然僕の椅子を蹴り飛ばした。僕が座っていたプラスチックの椅子は軽くて、衝撃がそのまま僕に伝わってきた。

「おい、何するんだよ!」と僕は少し怒り気味に声を上げる。

「調子に乗ってるからでしょ!」と青子も負けじと反論する。

こうしてまた喧嘩が始まった。言葉の応酬が続き、クラスの他の生徒たちが笑いながら「また始まったぞ」と囃し立てる。僕は負けじと煽った。

「だって総合点で見たら、僕の勝ちだし。負け惜しみなんじゃないの?」

「数学なら私のほうが上だし!」

そう、彼女の数学の点数だけは僕を上回っていたのだ。僕も数学が苦手というわけではない。むしろ得意なほうだと思っていた。でも、青子にはどうしても勝てなかった。今回も数学だけは完全に負けてしまった。

「総合点で見るのが普通だろ」と僕が再び煽ると、青子の顔がますます険しくなる。言い争いはだんだんヒートアップし、ついに本気の喧嘩に発展しそうな雰囲気になった。

その時だった。教室の前を通りかかった先生が立ち止まり、軽く笑いながらこう言った。

「おいおい、今日はこの辺で夫婦喧嘩はおしまいにしとけ。」

クラス中が笑いに包まれる。僕と青子もつられて顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。「なんだよ、夫婦喧嘩って」と僕が呟くと、青子は「ほんと、バカじゃないの」と呆れたように笑った。

喧嘩っぽい言い合いだったけれど、不思議と楽しかった。後から考えれば、こんなことで笑い合えるのも高校生だったからなんだろうなと思う。

でもその日の放課後、僕は青子に思いっきりホウキで叩かれた。バシン!という音が響いて、驚いて振り返ると、彼女が「次は負けないから!」と言い放って颯爽と去っていった。悔しさとちょっとした恥ずかしさが混じった顔をしていたけれど、その目はどこか楽しそうだった。

青子とのあの時間。痛さと笑いの余韻が、今でもなんだか懐かしく胸に残っている。
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