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第29話

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婚約破棄、間違いなくノーティス第二王子はそう口にした。
エリッサがその言葉に驚きを感じる間も与えず、ノーティスはそのまま自分の言葉を続ける。

「わざわざレグルスをこの場に連れてきてくれたこと、大いに感謝しているぞエリッサ。我々は短い時間でありながらも婚約関係を結ぶ夫婦となったのだ。それゆえにお前の持つものは一度すべてこの俺のものとなっており、それをどうするも俺の自由である。俺はお前のレグルスをわが物とした後で、お前に対して婚約の破棄を通告する。理由はなんでもいいが……そうだな、お前がこの俺に不敬を働いた、ということでどうだ、シュルツ?」
「承知しました、そのように手配いたしましょう」

シュルツは自身の頭を下げ、ノーティスからの指示を聞き届ける。
そして、二人がそこまで会話を行った段階で、エリッサがようやく自身の口を開いた。

「え、えっと…。ど、どういうことでしょうか…?」

たどたどしい様子でそう言葉を発するエリッサに対し、ノーティスはさも当たり前のような口調でこう返した。

「どういうこと?当たり前のことだろう?誰がお前などと好き好んで婚約をするというのだ?まさか第二王子であるこの俺が本気でお前の事を愛しているとでも思っていたのか?それこそ自意識過剰というものだな…。今一度鏡を見て本当の自分を見つめなおすことをお勧めするよ」

終始相手をイラつかせる口調と雰囲気で、高らかにそう言葉を放ってみせるノーティス。
この場における目的を果たした彼にしてみれば、もはやエリッサに対していらぬ気づかいをする必要はなくなっており、それゆえにまさに独善的な王というにふさわしい行動をとり始めていた。

「おい、なにぼーっとしているんだ?お前はもう俺の婚約者ではないんだぞ?さっさとこの場から消えてもらいたいものだが?」
「…」

エリッサは目の前で一体何が起こっているのか理解できない様子であったものの、彼女から見たところで、当然ノーティスに対する愛情やこだわりは一切なかった。
それゆえに、エリッサはノーティスから言われた通り、その場を去ろうとする。
そんな彼女の姿を見て、ノーティスは今一度嫌味を告げにかかる。

「あーあ、残念だったねぇ~。第二王子であるこの俺と婚約ができるものと思って、うきうきでこの場まで来たっていうのに、まさかこんな形で夢がついえるだなんてねぇ~。でも仕方ないよなぁ、それだけお前にはなんの魅力もないってことなんだからなぁ~」

心の底から楽しそうにそう言葉を発するノーティスに対し、エリッサは特に何も言葉を返しはしなかった。
彼女は言葉を返すだけ無駄だと思ったのだろう、その隣にレグルスを伴いながら、この部屋を後にしようとしていた。
しかしその時、ノーティスが低い口調でエリッサに対し、こう言葉を言い放った。

「おい、その聖獣はここに置いて行けよ。なに勝手に持って帰ろうとしているんだ?」

…エリッサに対して衝撃的な婚約破棄を告げたかと思えば、今度は聖獣を自らのもとに置いて行けと口にしたノーティス。
その狙いは当然、レグルスの力をエリッサから切り離し、自分一人だけのものとするためである。

「一度婚約した時点で、お前の聖獣はこの私の支配下に下ったこととなる。その後婚約破棄を通告してお前だけを追い出したのだから、その聖獣はれっきとした俺の持ち物だ。お前が連れて帰るのはルール違反だぞ?」
「…」

…めちゃくちゃな言い分を繰り返すノーティスの言葉を、ただただ静かに聞き入れているエリッサ。
彼女はそのままレグルスの方に視線を移すと、その目を見つめながらこう言葉を告げた。

「レグルス、ノーティス第二王子からのお言葉だから、きちんと聞き届けてね。いい、あなたはのよ?わかった?」

エリッサの言葉に、最初こそどこか困惑したような表情を浮かべていたレグルスだったものの、次の瞬間にはエリッサの思いを理解したようで、レグルスはかけられたその言葉にやや笑みを浮かべて答えてみせた。

「…それではノーティス様、私はここで失礼させていただきます。後の事はよろしくお願いいたします」
「くすくすくす…。強がっているのか?どうしても婚約破棄が嫌だというなら、この場で泣いて懇願してみたらどうだ?そうすれば少しは考え直してやらないでもないぞ?」
「えっと…。別に興味はないので…。それはじゃあ、さようなら…」
「…」

…どこか冷めたような雰囲気を見せるエリッサの様子に、ノーティスはつれない思いを隠せない。

「(な、なんだよ面白みもない…。少しくらい泣きついてこられる方が暇つぶしになるというのに…。まぁよかろう、当初の目的は達せたからな…♪)」

ノーティスは部屋に残されたレグルスの事を見つめながら、その心の中で勝利を確信していた。
彼はまずレグルスに向け、主人としての最初の言葉を告げる。

「ついてこいレグルス。これからお前には第二王子であるこの片腕として、やってもらわなければならないことが山ほどあるのだからな♪」
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