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第16話

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「ど、どうしよう…。お食事会に参加することにはしたけど、着ていく服の事を何にも考えてなかった…」

エリッサは部屋に置かれた鏡に向かいながら、そこに映る自分の姿を見つめていた。
というのも、今の彼女には服が一着しかなく、それも家出をする時に来ていた物であるから、なかなかパーティーに着ていくには不釣り合いなデザインのものだった。
幸いなことに、出会ったあの日のレグルスの力により、彼女の傷口とともに服の方の傷や汚れもきれいさっぱり直されていたものの、それでもパーティーには向かない服であることに変わりはない。

「こ、困った…。一応は招待されている身だし、きちんとしたものを着て行かないとだめだよね…」

かといって、服の買い出しにあてられるお金をエリッサが持っているはずもなく、どこかに誰か頼れるような人がいるわけでもない。

「…うーん、ど、どうしよ」ドッカアアァァァン!!!!!
「っ!?!?!?」

そう頭を抱えていたエリッサのもとに突如、すさまじい爆音が響き渡った。
エリッサが一体何事かと周囲を見回してみると、ついさっきまで閉まっていた部屋の扉が完全に粉砕され、そこにはかなり上機嫌な様子のレグルスがお座りをしていた。
…全く現実離れしたその光景を目にして、エリッサは完全にぽかーんとした表情を浮かべたが、彼女はすぐにレグルスの思いを読み取った。

「レ、レグルス…。わ、私とのお出かけを楽しみにしてくれているのはうれしいんだけど、なにもそこまで喜ばなくても…」
「♪♪♪」

そう、レグルスはエリッサと二人で王宮のパーティーに参加できることを知るや否や、このような調子で喜びを表現し、その日が来るのを心の底から楽しみにしている様子だった。
それは今日も今日とて変わらない様子で、エリッサと一緒に出掛けることが楽しみなあまり、今日は彼女の部屋の扉を完全に粉砕してしまったのだ。

興奮を隠せない様子で現れたレグルスだったものの、部屋の中で鏡に向かい、すこし浮かない顔をするエリッサの事を見て、瞬時にエリッサの心情を理解したようだった。
その証拠に、レグルスはそのままエリッサの前まで歩み寄って目をつむると、いつも彼が物を生み出すときと同じ行動をとり始めた。

「(レ、レグルス…??)」

短い時間だけその場がまばゆい光に包まれ、その空間を静寂が支配する。
そして次の瞬間には、キラキラと輝く氷のようなものに包まれた箱がその場に姿を現した。
レグルスは自身の頭でその箱に頭突きをすると、その中から艶《つや》やかで上品な雰囲気を放つ洋服たちがドサッと湧き出てくる。

「ひえっ!?」

空中に湧き出てきた洋服たちは、そのまま大地に引かれて落下していき、途端にエリッサとレグルスは無数の服の下敷きになる。
エリッサはまるで溺れる人間のように服の山を手探りでかき分けると、ようやく服の海から浮上することに成功した。

「ぷはぁっ…。や、やりすぎだよレグルスー…」

そう言葉を口にし、やや苦笑いを浮かべるエリッサだったものの、その表情はこの状況を大いに楽しんでいるそれであった。
変わらずエリッサのそばにいるレグルスは、いかにも自分の事をほめてほしそうに尻尾を振り、期待のまなざしを彼女に向けている。

「あ、ありがとう、レグルス♪」
「♪♪♪」

エリッサにやさしく体をさすられ、レグルスはこの上なく心地よさそうな表情を浮かべる。
パタパタと可愛らしく尻尾を振るその姿を見て、エリッサの方もまた満たされた表情を浮かべていた。

…しかしその時、ある一つの問題が起こった。

「で、でもどうしよう…。今度は服がありすぎて、選べなさそう…」

エリッサは今まで、自分で自分の服を選んだことがなかった。
与えられたものをそのまま着るか、二人の姉がいらないと言ったものが自分に回ってくるかだったため、そういった機会がなかったのである。

「し、しかもどの衣装もすっごく高級そうで、私には不釣り合いかも…」

小さな声でそうつぶやいたエリッサ。
その声を、彼女の事が大好きなレグルスが聞き逃すはずはなかった…。

「…!!」
「…??」

レグルスは自身の尻尾でエリッサの事をトントンと叩き、彼女の事を振り向かせる。するとなになにやら胸を張り、どこか自分に任せろというような雰囲気を放った。
エリッサは最初こそその意図が分からなかったものの、すぐにレグルスの言いたいことを感じ取った。

「…レ、レグルスが私の服をチェックしてくれるの?」
「♪♪♪」

レグルスはうれしそうに自身の首を縦に振り、エリッサの言葉に答えた。

「じゃ、じゃあ…えっと…………。こ、これはどう??」

エリッサはあたりに散乱する服の中から一組の組み合わせを選び取り、自分の体に添わせる形でレグルスに評価を求めた。

…途端、レグルスは『えぇ…』と言いたげな表情を浮かべ、エリッサの事をジト目で見返した…。

「だ、だめっ!?じゃ、じゃあこっちはどう!?」

エリッサはめげずにそのまま次の組み合わせをコーディネートとすると、同じ形でレグルスの方を向き自分の姿を見せてみる。

すると、今度はレグルスは『はぁ…』と言いたげな表情を浮かべ、自身の頭をガクっとその場に伏せた…。

二度続けてレグルスからの評価を得られなかったエリッサは、その心の中にあることを察する…。

「(…わ、私ってもしかして、服を選ぶセンスがない…??)」

…それから先、エリッサのファッションセンスをレグルスが鍛えるという光景は、日をまたいで朝まで続けられた…。
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