上 下
9 / 64

第9話

しおりを挟む
エリッサが聖獣レグルスとの運命的な出会いを果たしていたその一方、カサルはノーティス第二王子の元を訪れると、エリッサが失踪したことについて楽しげな様子で話をしていた。

「ついにやりましたよノーティス様、あの忌々《いまいま》しい存在であるエリッサがようやく自分の使命を理解し、我々の前から消え去ってくれました。いやいや、こうなることをどれだけ待ち望んだことか…」

カサルはノーティスを前にして、心の底から嬉しそうな表情でそう言った。

「ククク、いなくなってくれたのならなによりだな。…しかしまぁ、ずいぶんと時間をかけてくれたな…。あれだけ周りから嫌われ続けていたのだから、本当ならもっと早く周りのためを思っていなくなってくれるのが一番だろうに…」

ノーティスはやや不満そうな表情を浮かべながら、カサルに対してそう言葉を漏らした。

「まったくでございます…。相手の気持ちを理解できる普通の人間なら、きっともっとはやく自分から身を引くのでしょうに…。それさえできないとは、やはり最初から生まれてくるべきではなかった存在であると言わざるを得ませんね…。ノーティス様にもこれまで多大なる迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ございませんでした」

カサルはそう言うと、少し自信の頭を下げ、謝罪の意を伝えた。
それを見たノーティスはやや機嫌を戻し、カサルにこう言葉を返した。

「まぁまぁ、めでたい場であることに変わりはないのだ。お前もこれを機に気持ちを切り替え、これまで以上に私に尽くしてくれればいい。お前の家族もそれを望んでいるのだろう?」
「もちろんです!私の身はノーティス様あってこそなのですから!エリッサという足かせがなくなった今、ノーティス様に対する私の心を妨害するものはなにもないのです!」

エリッサがいなくなったことがそれほどまでにうれしいのか、カサルは過剰なほどノーティスに対して忠誠の言葉を伝える。
それを聞いたノーティスは機嫌を良くし、カサルに対してあることを伝えた。

「…それでは、我々の絆が一段と深くなったことを記念し、お前に最初の命令を下したい」
「はい!なんでもどうぞ!」

大きな声で誠意を見せるカサルに、ノーティスは自身の言葉を続ける。

「ここから西側に行った場所に、足を踏み入れる余裕もない危険地帯があるのを知っているな?」
「はい。…確か、一度その中に入ってしまったら、見たこともないような怪物に襲われ、二度とは出てこられないという噂のある場所ですね…?」
「ああ。しかしそのうわさ、実はこうなることを見込んでこの私が流したでっちあげなのだよ」
「ど、どういうことですか??」

得意げにそう語るノーティスは、カサルに対して詳しい説明を始めた。

「…聖獣の存在を知っているな?我が王宮に伝わる秘伝書にも、その存在はかつて確かにあったと記されている。一度なついた人間の望みを次々に叶えてくれる、人間にとって夢のような存在であるとな」
「そ、そうだったのですか…。そ、それで?」
「実は、王宮に伝わる秘伝書には上巻と下巻があり、これまで下巻の方は長きに渡って発見されておらず、その存在はもはや幻とさえ言われていた。…それがついこの間、幻だと言われていた下巻が発見されたのだよ…!」
「な、なんと!!(これもエリッサの呪いから解き放たれたおかげだな!)」

驚きを隠せない様子のカサルに、ノーティスは説明を続ける。

「そこにはこう書かれていたんだ。今でいうあの危険地帯、あそこにかつて、王宮に大きな力をもたらした聖獣を封印した、と…」
「そ、そんなことが…!?」
「私はそれを知り、すぐにあの地に関する嘘の噂を流した。立ち入ったものは次々に怪物に殺され、二度とは出てこられなくなる場所だとな」
「さすがはノーティス様!いついかなる時も次の手次の手を考えておられるのですね!」

カサルの持ち上げにノーティスは一段と気をよくし、その表情を上機嫌で染める。

「はっはっは。だからこそその地の調査を、お前に任せたいのだ。おそらくあの場所には聖獣が眠っており、目覚めの時を今か今かと待っているはず。お前が聖獣を調査して目覚めさせ、私になつかせることができれば、もうこの世界で我々に手に入らないものはなくなるぞ!どうだ、やってくれるな!」
「はい!もちろんでございます!」

ノーティスの言葉に対し、カサルは自身の頭を大げさなくらいに下げ、自身の気持ちの高ぶり様を表現した。

「(ほら見たことか!エリッサがいなくなった途端に、俺の人生は完全にいい方向に進み始めている!やっぱりあいつは俺たちにとって不吉な存在であることに違いはなかったのだ!)」

そしてカサルは顔を上げ、改めてノーティスと向き合うと、彼に対してこう言葉を告げた。

「エリッサがいなくなり、代わりに聖獣が我々のもとに来てくれるというのなら、これはもう神が我々に施しを与えてくれているとしか思えませんね(笑)」
「あぁ、その通りだ。これまで長きに渡ってエリッサという十字架を背負い続けてきた我々への、ご褒美なのかもしれないな(笑)」

…二人はすっかり聖獣が自分たちの者になることを確信している様子だった。
その聖獣が自分たちでなく、エリッサにしかなつかないことを知った時、果たして彼らはどのような表情を見せてくれるのだろうか…?
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

婚約破棄宣言は別の場所で改めてお願いします

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【どうやら私は婚約者に相当嫌われているらしい】 「おい!もうお前のような女はうんざりだ!今日こそ婚約破棄させて貰うぞ!」 私は今日も婚約者の王子様から婚約破棄宣言をされる。受け入れてもいいですが…どうせなら、然るべき場所で宣言して頂けますか? ※ 他サイトでも掲載しています

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))  書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。 ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。 不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。 ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。 伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。 偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。 そんな彼女の元に、実家から申し出があった。 事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。 しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。 アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。 ※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

婚約破棄ですか、すでに解消されたはずですが

ふじよし
恋愛
 パトリツィアはティリシス王国ラインマイヤー公爵の令嬢だ。  隣国ルセアノ皇国との国交回復を祝う夜会の直前、パトリツィアは第一王子ヘルムート・ビシュケンスに婚約破棄を宣言される。そのかたわらに立つ見知らぬ少女を自らの結婚相手に選んだらしい。  けれど、破棄もなにもパトリツィアとヘルムートの婚約はすでに解消されていた。 ※現在、小説家になろうにも掲載中です

陰謀は、婚約破棄のその後で

秋津冴
恋愛
 王国における辺境の盾として国境を守る、グレイスター辺境伯アレクセイ。  いつも眠たそうにしている彼のことを、人は昼行灯とか怠け者とか田舎者と呼ぶ。  しかし、この王国は彼のおかげで平穏を保てるのだと中央の貴族たちは知らなかった。  いつものように、王都への定例報告に赴いたアレクセイ。  彼は、王宮の端でとんでもないことを耳にしてしまう。  それは、王太子ラスティオルによる、婚約破棄宣言。  相手は、この国が崇めている女神の聖女マルゴットだった。  一連の騒動を見届けたアレクセイは、このままでは聖女が謀殺されてしまうと予測する。  いつもの彼ならば関わりたくないとさっさと辺境に戻るのだが、今回は話しが違った。  聖女マルゴットは彼にとって一目惚れした相手だったのだ。  無能と蔑まれていた辺境伯が、聖女を助けるために陰謀を企てる――。  他の投稿サイトにも別名義で掲載しております。  この話は「本日は、絶好の婚約破棄日和です。」と「王太子妃教育を受けた私が、婚約破棄相手に復讐を果たすまで。」の二話の合間を描いた作品になります。  宜しくお願い致します。  

婚約者と妹が運命的な恋をしたそうなので、お望み通り2人で過ごせるように別れることにしました

柚木ゆず
恋愛
※4月3日、本編完結いたしました。4月5日(恐らく夕方ごろ)より、番外編の投稿を始めさせていただきます。 「ヴィクトリア。君との婚約を白紙にしたい」 「おねぇちゃん。実はオスカーさんの運命の人だった、妹のメリッサです……っ」  私の婚約者オスカーは真に愛すべき人を見つけたそうなので、妹のメリッサと結婚できるように婚約を解消してあげることにしました。  そうして2人は呆れる私の前でイチャイチャしたあと、同棲を宣言。幸せな毎日になると喜びながら、仲良く去っていきました。  でも――。そんな毎日になるとは、思わない。  2人はとある理由で、いずれ婚約を解消することになる。  私は破局を確信しながら、元婚約者と妹が乗る馬車を眺めたのでした。

【完結済】どうして無能な私を愛してくれるの?~双子の妹に全て劣り、婚約者を奪われた男爵令嬢は、侯爵子息様に溺愛される~

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
優秀な双子の妹の足元にも及ばない男爵令嬢のアメリアは、屋敷ではいない者として扱われ、話しかけてくる数少ない人間である妹には馬鹿にされ、母には早く出て行けと怒鳴られ、学園ではいじめられて生活していた。 長年に渡って酷い仕打ちを受けていたアメリアには、侯爵子息の婚約者がいたが、妹に奪われて婚約破棄をされてしまい、一人ぼっちになってしまっていた。 心が冷え切ったアメリアは、今の生活を受け入れてしまっていた。 そんな彼女には魔法薬師になりたいという目標があり、虐げられながらも勉強を頑張る毎日を送っていた。 そんな彼女のクラスに、一人の侯爵子息が転校してきた。 レオと名乗った男子生徒は、何故かアメリアを気にかけて、アメリアに積極的に話しかけてくるようになった。 毎日のように話しかけられるようになるアメリア。その溺愛っぷりにアメリアは戸惑い、少々困っていたが、段々と自分で気づかないうちに、彼の優しさに惹かれていく。 レオと一緒にいるようになり、次第に打ち解けて心を許すアメリアは、レオと親密な関係になっていくが、アメリアを馬鹿にしている妹と、その友人がそれを許すはずもなく―― これは男爵令嬢であるアメリアが、とある秘密を抱える侯爵子息と幸せになるまでの物語。 ※こちらの作品はなろう様にも投稿しております!3/8に女性ホットランキング二位になりました。読んでくださった方々、ありがとうございます!

婚約者を奪われた私は、他国で新しい生活を送ります

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルクルは、エドガー王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。 聖女を好きにったようで、婚約破棄の理由を全て私のせいにしてきた。 聖女と王子が考えた嘘の言い分を家族は信じ、私に勘当を言い渡す。 平民になった私だけど、問題なく他国で新しい生活を送ることができていた。

処理中です...