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第2話

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グリスが自身の住まう第二王宮で今後の展望を妄想していた時、彼から婚約破棄されたソフィアはに招き入れられていた。

「こちらに来るのは久しぶりですね…。前に来た時からそこまで時間は立っていないと思うのですが、随分と間が空いてしまったように思われます」
「それでも構わないとも。俺はこうして君と再会できたこと、うれしく思うよ」
「ありがとうござます、エルク第一王子様」

そう、たった今ソフィアが立っているこの場所は他でもない、エルク第一王子が統括する第一王宮そのものである。
彼女は第二王宮を追放されたその足で、そのまま第一王宮に招き入れられたのだ。

「にしてもグリスの奴、勝手な真似をしてくれる…。あいつが君の事を心から愛している、絶対に幸せにするなどと何度も言うものだから、俺としても二人の婚約関係を喜んで受け入れることにしたというのに…」
「彼の性格は、思っていたよりもかなり曲がってしまっているようですね…」

ソフィアがグリスとの婚約を果たす前、良い関係になっていた相手と言うのが他でもない、このエルクだった。
しかし二人は良い関係ではあったが決して恋仲というわけではなかったため、どちらかから今以上に関係を深める言葉が発されたわけではなく、友人としての関係が続けられていた。
しかしそんなある日の事、ある事件が起こった。

「やはりグリスの奴は、俺が君の事を好いていると思い、君の事を略奪でもするつもりで婚約を仕掛けてきたのだろうな…。それが俺に対してこの上ない嫌がらせになると信じて疑わず…」
「おそらく、そういうことだったみたいですね…」
「やれやれ…。俺たちは互いに良き友人としての関係を抱いているのだから、婚約するという話を聞いたらむしろうれしいに決まっているだろうに…。それを嫌がらせになるなどと…」
「あの時グリス様、私たちの婚約をエルク様が喜んでいるという事を知ってなんだかイライラした感情を見せていましたもの。…やっぱり最初から、エルク様に嫌がらせをすることしか考えていなかったみたいですね…」
「はぁ…。まったく、どこまでも幼稚な…」

どうしてそこまでグリスがエルクの事を嫌がるのか、そこにははっきりとした理由があった。

「そもそもあいつ、いつになったら王子としての正しいふるまいを覚えてくれるのか…。女性の使用人に手を出したり、隣国の貴族令嬢を口説こうとしたり、果てはすでに夫を持っている女性に積極的にアプローチをかけていったり…。僕はそのたびにあいつを注意しているんだが、どうやらそれを逆恨みしている様子…」
「以前にも、エルク様がきちんと王としての仕事を果たされている一方で、ご自身の仕事をないがしろにしていることを貴族会から苦言を呈されて、怒っていたことがありましたしね…。生まれ持った性格だから治らないと言われればそれまでなのかもしれませんけれど、ちょっとひどいですよねこれは…」
「はぁ……」

そう、グリスがエルクの事を気に入らない理由はシンプルで、すべて逆恨みであった。
エルクは第一王子として非常にすぐれた素養と能力、それにふさわしい性格を併せ持っており、貴族会や隣国王子、貴族令嬢ともいい関係を築いていた。
一方でグリスの方は傲慢、自意識過剰と言った性格がきっかけとなって周囲からの評判は最悪であり、しかもその事を本人は周りのせいにしていた。
第二王子としてまともな振る舞いができていないだけでなく、その事を正面から指摘されれば逆ギレをするような性格であり、自身が悪いなどとは一切考えない。
そして第二王子としてのプライドは一人前に持っており、その立場を馬鹿にされることは絶対に聞き入れなかった。

「グリス様、これから大丈夫でしょうか?一応私が彼の隣でブレーキ役になろうと思っていたのですが、こうして追い出されてしまいましたし…」
「今までは俺もあいつの事をかばい続けてきてはやったが、これ以上問題を起こすというのならもうそれもできなくなるな…。聞いた話によれば、貴族会なんかはもうすでにグリスの事を排除する方向で水面下に話を進めているらしい…。貴族たちがついてこなくなった王になど存在価値はないから、そんなことになってしまったならそれこそあいつは本当に終わってしまうわけだが…」
「……」

一応、兄として最低限の心配は持っているエルク。
しかしそれもどこまで持ち続けることが出来るかは、彼自身も非常に疑問に思っているところだった。

「…少なくともこれ以上問題を起こさなければ、新しく貴族会がグリスを糾弾する要素もなくなるかもしれないが…」
「それがエルク様、実はもう一つお伝えしなければならないことがございまして…」
「???」

ソフィアは恐る恐る、といった様子でエルクにそう前振りすると、こう言葉を続けた。

「…グリス様、エルク様の幼馴染のお一人を略奪愛するつもりだと張り切っておられる様子で…」
「……………」

…その時エルクの見せたため息は、彼のこれまでの人生の中で最も大きなものだっただろう…。
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