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第1話
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「ソフィア、君との婚約関係は今日をもって終わりにすることに決めた」
広く優雅な雰囲気に包まれている第二王室の中で、時の第二王子であるグリスは悠々とした口調でそう言葉を発した。
「最初はかわいいと思ったからぜひとも君の事を婚約者にしたいと思い、僕はその思いのままに君をここまで連れてきた。…ただ、最近目が覚めたんだ。どうやら僕には君以外に、ふさわしい婚約相手がいるらしい。その人物との思いを断ち切ることはできないとね」
グリスは最近、ソフィア以外のある人物と非常に親しい仲になっていた。
その事は彼に近しい人物ならばだれしも知っていることであり、当のソフィアさえもその事はうすうす察していた。
だからなのか、グリスの一方体な言葉に対してソフィアはなにも言い返さない。
「もともと無理な話だったんだよ。僕と君とでは婚約者として釣り合わないというか、圧倒的に僕の方が人気なわけだろう?君との関係を選ばなかったとしても、僕はどこからも引く手あまただったわけだ。それに対して君は、僕に捨てられてしまったらいよいよ相手がいなくなってしまうほど婚約相手となる候補がいないわけだろう?そんな二人が婚約を結ぶのは、後々の事を考えれば却ってよくないと思うんだ」
いろいろと適当な言葉を並べるグリスであるものの、結局のところ彼はただただソフィアの事を見下しているだけであり、どこまでも自分本位な考えを捨てられないという事に尽きる。
ソフィアが何も反論をしてこないのを良いことに、言いたい放題好き勝手な言葉を羅列しているその姿こそ、彼の性格をよく表していると言ってもよかった。
…するとその時、それまで静かに言葉を受け入れていたソフィアが初めて言葉を返した。
「婚約破棄、ということでしたら、私たちの関係はもう終わってしまったという事ですか?」
「あぁ、そう言う事になるな。ソフィア、君の言いたいことはよくわかっている。僕との婚約を破棄するなど、とても受け入れられないと言いたいんだろう?しかし、これはもう僕が第二王子として決定したことなのだ。だからもう覆すことはできない」
「……」
「君が僕に未練たらたらなのは見ればわかる。そこに婚約破棄を突き付けるのは決して簡単な事ではなかった。だが、もう君では僕は満足できないんだよ…。だからこれは仕方のない事なんだ。あきらめてくれ」
「……」
ソフィアはまだ何も自分の思いを口にしていないというのに、彼女の思いを勝手に決めつけて一方的な言葉を繰り返すグリス。
そんな彼を前にして、ソフィアはその心の中でこう言葉をつぶやいた。
「(私としては、婚約破棄は別になんら構わないのだけれど…。だって最初からグリス様に強引に決められた婚約関係だったし、もともと私はある人と結ばれることになっていたのに、それに嫉妬したグリス様が勝手に私たちの関係に割って入っただけで、彼がこの関係に本気じゃない事は最初から分かっていたわけで…。そうなると、この婚約破棄はわたしにとってはむしろありがたいんだし…)」
現実にはソフィアの思っていた事はグリスの予想とは正反対で、彼女自身この婚約破棄を心から喜んでいた。
しかしそれを口にしたところでグリスからは「負け惜しみ」だの「苦し紛れ」だのと言い返されるのは目に見えているため、あえて彼女は心を大人にして黙っているだけだった。
そうとは知らないグリスは、相変わらず自分のペースで言葉を続けていく。
「まぁ後になって君は僕に手放されたことの重みをよくよく理解することだろう。今でこそ冷静な雰囲気を浮かべているようだけれど、それも今だけの話。すぐに僕の存在が恋しくてたまらなくなるとも」
「……」
その自信はどこからくるのか、と言い返したくなるソフィアだが、ここでも彼女は心を大人にしてその言葉を自分の胸の中にしまい込む。
ゆえに二人の婚約破棄は非常にスムーズに行われ、どちらかが異議を唱えることもなかったために関係の破棄はすぐに成立した。
――――
「これで…これでようやく彼女との関係を深めることが出来る…!エルクのやつ、これで少しは僕の事を意識せざるをえなくなることだろう…!」
ソフィアを追い出した直後、グリスは自身の部屋で一通の手紙を書き上げながら、不気味なほどうれしそうな表情を浮かべながらそう言葉をつぶやいた。
その手紙の送り先は他でもない、たった今彼が心を奪われているある一人の女性のもとである。
「エルクの奴…。第一王子だからっていつまでも僕の事を下に見やがって…!でも、自分が最も愛する幼馴染の女が僕に引き抜かれ後あっては、きっと穏やかではいられないことだろう…!僕らが正式に関係を結び、その事をお前に伝えた時、一体どんな絶望の表情を見せてくれるのか、今から楽しみだよ…!」
そう、グリスが関係を噂されている相手と言うのは、エルク第一王子が慕っていると言われている彼の幼馴染だった。
…エルクに対して一方的な劣等感を抱き続けているグリスは、略奪愛を行うためだけにソフィアとの関係を切り捨て、彼女に近づこうと計画したのだった。
「もうすぐだ…!もうすぐお互いの立場を逆転させてやるさ…!」
広く優雅な雰囲気に包まれている第二王室の中で、時の第二王子であるグリスは悠々とした口調でそう言葉を発した。
「最初はかわいいと思ったからぜひとも君の事を婚約者にしたいと思い、僕はその思いのままに君をここまで連れてきた。…ただ、最近目が覚めたんだ。どうやら僕には君以外に、ふさわしい婚約相手がいるらしい。その人物との思いを断ち切ることはできないとね」
グリスは最近、ソフィア以外のある人物と非常に親しい仲になっていた。
その事は彼に近しい人物ならばだれしも知っていることであり、当のソフィアさえもその事はうすうす察していた。
だからなのか、グリスの一方体な言葉に対してソフィアはなにも言い返さない。
「もともと無理な話だったんだよ。僕と君とでは婚約者として釣り合わないというか、圧倒的に僕の方が人気なわけだろう?君との関係を選ばなかったとしても、僕はどこからも引く手あまただったわけだ。それに対して君は、僕に捨てられてしまったらいよいよ相手がいなくなってしまうほど婚約相手となる候補がいないわけだろう?そんな二人が婚約を結ぶのは、後々の事を考えれば却ってよくないと思うんだ」
いろいろと適当な言葉を並べるグリスであるものの、結局のところ彼はただただソフィアの事を見下しているだけであり、どこまでも自分本位な考えを捨てられないという事に尽きる。
ソフィアが何も反論をしてこないのを良いことに、言いたい放題好き勝手な言葉を羅列しているその姿こそ、彼の性格をよく表していると言ってもよかった。
…するとその時、それまで静かに言葉を受け入れていたソフィアが初めて言葉を返した。
「婚約破棄、ということでしたら、私たちの関係はもう終わってしまったという事ですか?」
「あぁ、そう言う事になるな。ソフィア、君の言いたいことはよくわかっている。僕との婚約を破棄するなど、とても受け入れられないと言いたいんだろう?しかし、これはもう僕が第二王子として決定したことなのだ。だからもう覆すことはできない」
「……」
「君が僕に未練たらたらなのは見ればわかる。そこに婚約破棄を突き付けるのは決して簡単な事ではなかった。だが、もう君では僕は満足できないんだよ…。だからこれは仕方のない事なんだ。あきらめてくれ」
「……」
ソフィアはまだ何も自分の思いを口にしていないというのに、彼女の思いを勝手に決めつけて一方的な言葉を繰り返すグリス。
そんな彼を前にして、ソフィアはその心の中でこう言葉をつぶやいた。
「(私としては、婚約破棄は別になんら構わないのだけれど…。だって最初からグリス様に強引に決められた婚約関係だったし、もともと私はある人と結ばれることになっていたのに、それに嫉妬したグリス様が勝手に私たちの関係に割って入っただけで、彼がこの関係に本気じゃない事は最初から分かっていたわけで…。そうなると、この婚約破棄はわたしにとってはむしろありがたいんだし…)」
現実にはソフィアの思っていた事はグリスの予想とは正反対で、彼女自身この婚約破棄を心から喜んでいた。
しかしそれを口にしたところでグリスからは「負け惜しみ」だの「苦し紛れ」だのと言い返されるのは目に見えているため、あえて彼女は心を大人にして黙っているだけだった。
そうとは知らないグリスは、相変わらず自分のペースで言葉を続けていく。
「まぁ後になって君は僕に手放されたことの重みをよくよく理解することだろう。今でこそ冷静な雰囲気を浮かべているようだけれど、それも今だけの話。すぐに僕の存在が恋しくてたまらなくなるとも」
「……」
その自信はどこからくるのか、と言い返したくなるソフィアだが、ここでも彼女は心を大人にしてその言葉を自分の胸の中にしまい込む。
ゆえに二人の婚約破棄は非常にスムーズに行われ、どちらかが異議を唱えることもなかったために関係の破棄はすぐに成立した。
――――
「これで…これでようやく彼女との関係を深めることが出来る…!エルクのやつ、これで少しは僕の事を意識せざるをえなくなることだろう…!」
ソフィアを追い出した直後、グリスは自身の部屋で一通の手紙を書き上げながら、不気味なほどうれしそうな表情を浮かべながらそう言葉をつぶやいた。
その手紙の送り先は他でもない、たった今彼が心を奪われているある一人の女性のもとである。
「エルクの奴…。第一王子だからっていつまでも僕の事を下に見やがって…!でも、自分が最も愛する幼馴染の女が僕に引き抜かれ後あっては、きっと穏やかではいられないことだろう…!僕らが正式に関係を結び、その事をお前に伝えた時、一体どんな絶望の表情を見せてくれるのか、今から楽しみだよ…!」
そう、グリスが関係を噂されている相手と言うのは、エルク第一王子が慕っていると言われている彼の幼馴染だった。
…エルクに対して一方的な劣等感を抱き続けているグリスは、略奪愛を行うためだけにソフィアとの関係を切り捨て、彼女に近づこうと計画したのだった。
「もうすぐだ…!もうすぐお互いの立場を逆転させてやるさ…!」
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