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第14話

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そしてそれからしばらくの時が経過し、いよいよエリスとリーウェルは婚約式典に向け、本格的な準備に移る期間を迎えていた。

「エリス、貧相な貴族家の生まれである君とて、このグラスの美しさは理解できるだろう?式典の当日はこのグラスを参加者の全員に振舞ってやろうと思っている。その方が僕だけでなく、君の家の評判も上がるというものだろう?」

心から得意げな表情を浮かべながら、リーウェルはエリスにそう言葉をかける。
エリスは今日、彼の元を一人で訪れており、そこに彼女の母マリンの姿はなかった。
マリン自身は、自分は気を利かせて二人きりにしてやったと言葉を発していたものの、それは建前であり、彼女は今頃王都中心部の高級な洋服店で買い物に明け暮れている最中であるという事を、エリスはすでに知っていた。

「どうしたエリス?まさかこのグラスの美しさが分からないというのか?まさかそこまで感覚が貧相なのか?」
「いえ…そういうわけでは…」
「おいおい、勘弁してくれよ。小さいことかもしれないが、こういう感性のようなところは非常に大事なんだ。僕は貧乏人に見られることが一番嫌いなんでね」
「はい…」

普段と変わらぬ雰囲気で言葉を発するリーウェルを前に、エリスは完全にマリッジブルーになってしまっていた。
彼からどんな言葉をかけられようとも、どんなアプローチを受けようとも、その心が動かされることはなかった。

するとその時、リーウェルが自身の懐から一つの小さな箱を取り出し、そのままエリスの前に向けて差し出した。

「エリス、これを君に」
「…これは?」

エリスの言葉を受け、リーウェルはその箱をゆっくりと開けて見せる。
するとそこから、およそ庶民には手が出ないであろう額の輝かしい宝石が顔をのぞかせた。

「まぁ…」
「エリス、僕の婚約者となった君は、これくらいのものは毎日手に入るんだ。これで君も低級貴族の名を捨てて、上流階級の仲間入り。どうだ?うれしいか?」

リーウェルはそう言葉を告げると、そのまま箱の中から宝石を乱暴に取り出し、エリスの手を開かせてそこに宝石を置いてみせた。
…するとリーウェルは、間髪を入れることなくその表情に不気味な笑みを浮かべながら、こう言葉を続けた。

「それじゃあ…。その見返りというわけではないが、早速…!」
「っ!!!」

リーウェルは自身の手をエリスの体に這わせ、その体をまさぐろうと試みる。
それを受けてエリスは反射的にリーウェルの手をはねのけ、自身の体を防御する態勢をとった。
…エリスに拒否される形となったリーウェルは当然、面白くないといったその表情をその顔に浮かべる。

「…なんのつもりだ?」
「それはこちらのセリフです!いきなりなんですか!」
「いきなりではないだろう。きちんと君に対価は支払ったのだから、その体を差し出すのは当然の事じゃないか。…まさかそんな簡単なことから教えてやらないといけないのか?」
「知りません…!そんなの知りません!!!」
「ったく…。これだから若い女は調子に乗って…」

その雰囲気にイライラを隠す様子もないリーウェルだったものの、エリスのあまりに強い抵抗心を見て、結局この場で無理矢理エリスを押し倒すことは諦めた様子。

「まぁいいさ。しかし分かってるだろう?もう僕と君は婚約関係になることが決まっているのだ。いつまでも知らないだのと言って逃げることはできない事を、きちんと理解しておけよ」
「……」
「おっと、今更キャンセルなど許されないぞ?すでに式典の詳細も決まり、着々と準備は進められているのだ。これをひっくり返すなどとなれば、君の家一つがつぶれるだけでは済まないほどの損害が出るのだからな?まぁその時は君の体をもって負債の返済ができるよう手助けをしてやってもいいが♪」
「(最低……)」

エリスはリーウェルの事を鋭い目つきで見つめ、自身の感情を目で伝える。
それに対しリーウェルは、もはや自分の優位は揺るがないことを確信しているからか、それさえも愉快そうな表情を浮かべて楽しんでいる様子だった。

「なんだ、その目は。この僕に反抗するとでもいうのか?まぁやれるものならやってみるがいいさ。君がなにをしようとも、時期に君のすべてはこの僕のものとなり、君は僕を拒否することなどできなくなる。絶対にね♪」
「……」

その言葉にエリスは返事をしなかったものの、もはや彼女の抵抗が持つのも時間の問題であろうことは、誰の目にも明らかだった。

「(私、本当にこんな人と婚約するの…?本当にこの人が私を幸せにするの…?)」

その思いはエリスの中で、日に日に大きくなっていく一方だった。
しかしその感情から逃れるすべは、彼女にはなにもなかった…。
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