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第11話

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「伯爵様、アルバース王国から例のものが送られてきました!」
「おぉ!来たか!」

自室にてくつろぐグレムリー伯爵のもとに、部下の人間がある知らせを持ち込んだ。
カレンが自分たちの元から去ってからはや数日、大きなイベントを終えてしまったためにある意味暇をしていた伯爵にとって、その知らせは心から待ち望んでいた物であった。

「荷台はどこにある?もう到着しているんだろう?」
「はい、今門の前にて積載物の確認を行っているところです。もうしばらくしたら受領の手続きは完全に…」
「構わん構わん!とりあえず様子だけでも見させてもらうぞ!」

伯爵は送られてきた金貨をいち早く見たくて仕方がないのか、知らせを聞くや否や自室から勢いよく飛び出していき、たった今王国から到着したばかりの荷台の元を目指して駆けだしていく。
その最中、廊下を全力で駆けていく伯爵の姿に気づいたエレナ。

「(伯爵様……?…!?、そうだわ、間違いないわ!伯爵様があんなに息巻いて走り出していくなんて、カレンの身と引き換えに約束されていた金貨が届いたんだわ!!)」

エレナは伯爵のもとに何が起こったのかをすぐに察し、そのまま伯爵の後を追って駆け出していく。
その姿はさならが、獲物を見つけて興奮する動物のようにも見て取れた。

――――

「おい、どうなってる?」
「こ、これはこれは伯爵様…。わざわざのご確認、恐れ入ります」
「構わないさ。それで、これを届けてくれたアルバースの方はどちらに?会って礼を言いたいのだが」
「そ、それが…自分の役目はこれを届けるところまでだからとおっしゃって、急ぎ引き上げていかれました」
「なんだ、そうなのか…。この喜びを分かち合いたかったのだが、まぁいいとしよう」
「伯爵様!!届いたのですね!!」
「…エレナ??」

門の前に到着した荷台を見つめる伯爵のもとに、うれしそうな表情を浮かべたエレナがその姿を現す。

「伯爵様のお姿を見て、一目で分かりましたよ!伯爵様がおっしゃっておられたものが到着したのだと!」
「はっはっは、もうバレてしまったか。よし、エレナ、せっかくなら一緒に金貨の確認を行うか?」
「はい!ぜひ!」

伯爵は自身の隣にエレナを呼び寄せると、そのまま彼女の肩に手をまわし、自信に満ち溢れたような表情を浮かべながら荷台にかけられた布をほどいていく。
荷台はその全体が木でおおわれ、入り口となる場所に布がかけられている構造であるため、その布さえとってしまえば中の様子がすべて見えるようになる。
伯爵の手により、荷台に乗せられた金貨がその姿を現した時、二人はそろって恍惚とした表情を浮かべて見せた。

「すごい……これが……本物の金貨……綺麗……」

うっとりとした表情を浮かべながら、しみじみとした口調でそう感想を口にするエレナ。
…しかしその一方、伯爵は途端にどこかいぶかしげな表情を浮かべ始める…。

「こ、これは……ま、まさか……」
「…伯爵様?」
「い、いや、なんでもない!」

その様子に気づいたエレナは、伯爵の事を不思議そうな表情で見つめ、疑問の声をあげた。
エレナからそう言葉を向けられた伯爵は、なにかをごまかすかのように取り繕うような雰囲気で言葉を返したものの、その内心では大きな動揺と焦りを感じていた。

「(こ、これは……私が命じて前に作らせた偽の金貨じゃないか…!!!い、一体どうしてこんなところにこれが…!!!)」

偽金貨は本物の金貨とそん色のないクオリティではあるものの、作った当事者の目をごまかすことまではできない。
伯爵にしてみれば、自分が過去に作った偽金貨がどうしてこれほど大量に自分のもとにあるのか、理解できない状況であった。

「(そ、それも……ここにある全部が偽物の金貨じゃないか…!!なにかの偶然で私の作った偽金貨が紛れ込んだわけではなく、狙ってすべてが偽物で揃えられている…!!い、一体どういう…どういうことなんだ…!?)」

その光景を見せつけられた伯爵は、その心の中にいろいろな可能性を考え始める。

「(ま、まさかこれはなにかのメッセージなのか…!?誰かが私の過去の罪を暴くべく、このような事をしたのか…!?あるいは、アルバース王室が私に宣戦布告の意思をもってこんなことをしたのか…!?わ、分からない…私は誰から狙われているというのだ…!?)」
「は、伯爵様、本当に大丈夫ですか…?」
「だ、大丈夫だエレナ、何も心配はいらない…(こ、こんなことが屋敷の者たちにバレてしまったら、私は貴族として完全に終わってしまう…!な、なんとかそれだけは防がなければならない…!)」
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