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第2話

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――ルドレー男爵視点――

「た、大変です男爵様!!」
「い、一体何事だドリス…。まだ会合に向かい時間にはなっていないはずだぞ…」
「そ、それどころではないのです男爵様!!」

ドリスはこれまで見たことのないほどに血相を変えた様子で、僕の元を訪れてきた。
普段冷静な男がこれほど取り乱していることから察するに、かなり大きな事件が起こったのであろうことは確かなようだが…。

「なにがあった?きちんと説明しろ」
「それが…。エレーナ様のお姿が、どこにもないのです…!お屋敷の中も付近一帯もくまなく探しているのですが、まったく見つからず…」
「……」

ドリスがもたらしてきたその報告は、僕にとっても非常に驚くべきものだった。
なぜなら、エレーナが出て行ってくれないかという話をドリスにしたのがつい昨日の事だったからだ。

「…もしやエレーナは、僕たち二人の会話を聞いていたということか?おいドリス、昨日僕の部屋にやってきたとき、お前珍しく扉を開けたままにしていたな?あの時は特別気にならなかったから聞かなかったが、まさかあれはこれを誘導させるためのmのだったのか…?」
「……」

…ここで沈黙をするという事は、僕の言っていることが図星であることのなによりの証明ではないか。

「…ドリス、だからお前は僕がエレーナとの婚約関係を考え直そうとしているという事に否定的だったのか?それを本人に聞かれていると知っているからこそ僕の言葉を遮ろうとしていたのか?」
「…すべては、エレーナ様の望まれたことです…。エレーナ様はかねてより、男爵様の言動に思うところがあったご様子でした。だからこそ、その真意を確かめてほしいと私にお願いをされたのだと思います。私はエレーナ様のお願いを聞き届け、昨日男爵様の元にお話をしに伺いました」
「…それで?」
「私は男爵様がエレーナ様の事を愛しておられるものだと信じておりました。だからこそエレーナ様からのお願いを聞き届けたのです。…しかし、あの場で男爵様が口にされた言葉は、エレーナ様への愛ではなく後悔でした…。さらにそれだけにとどまらず、自分からいなくなってくれたほうが助かるとも…。それを聞いたエレーナ様は、ならばその通りにしてあげようと思われたのでしょう…。他の誰にそれを告げることもなく…」

なるほど、僕の知らないところでそんな会話が繰り広げられていたという事か。
エレーナのやつ、裏で勝手な事をするくせに結局なにも残せていないのだな。

「ドリス、別になんの問題もない。これはエレーナが僕に送ってくれたプレゼントだとは思わないか?」
「プ、プレゼントとは…?」
「彼女はほかでもない、今僕が最も気にかけている女性であるサテラの姉だ。そして姉というものは、妹の幸せを心から願うもの。つまり、エレーナは僕とサテラの事を結び付けようとしてくれているのだよ。その身を婚約者の立場から崩すことを選んでな」
「だ、男爵様、それは違います!きっと今頃エレーナ様は」
「違わない!ドリス、お前にはこの僕が特別に目をかけているという事を忘れるんじゃないぞ?たとえお前であっても、これ以上僕に対して反抗的な態度を繰り返すというのなら僕にも考えというものがあるからな」
「……」

実際問題、エレーナがいなくなろうと男爵家にはなんの影響もないのだ。
そもそも僕は最初からこの展開を望んでいたわけであり、その望みをエレーナが聞き届けてくれただけのことなのだから。

「分かっただろうドリス、これは他でもないチャンスなんだよ。もうエレーナの事に構ってなどいられない。いち早くサテラの事を手に入れるために動き始めなければならない」
「で、ではエレーナ様の事はこのまま放置されるという事ですか…?今まで本当に良い働きをされてきたというのに…」
「仕方がないだろう、婚約というものは常にその状況や勢力図が変わっていくものなのだ。たとえエレーナとの関係が良好なものであろうとも、僕にとって彼女以上に魅力的に思える人物が現れたのならば、貴族家に生きる男として鞘替えを行うのは当然の事。ドリス、賢いお前なら分かるだろう?」
「……」

ドリスはやや顔を伏せ、僕の言葉に対して無言の抵抗を行ってくる。
しかし、それももう意味のない話となる。
なぜなら、すぐにドリスも理解することになるからだ。
どちらの言っていることが本当に正しいのかという事を。

「もう一度言うぞ。エレーナの事はもう放っておけ。これから先、僕に彼女の手が必要となる可能性など皆無だ。ただいなくなって構ってほしいだけの幼稚な女に付き合う時間は、今の僕にはない。そんな時間があるなら僕はサテラとの距離を縮めていきたい。まだほとんど接点のない状態だが、せめてエレーナの立場をだしに使えば一気に距離を縮められるかもしれない。ドリス、いちはやく動き出せるための準備を整えてもらおうか。これはもう決まった事なのだからな」
「……」

それが僕の本心であり、正直な思いだった。
もうエレーナに対する思いなど、何も残っていない。

…その行動こそ、後に男爵家を大きく揺るがすことになるとも知らず…。
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