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第5話

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――ユーゲント騎士とミリアの会話――

「…というのが、私が受けた婚約破棄におけるすべてです」
「やれやれ…。伯爵の奴、裏で何か考えているのだろうとは思っていたが、まさかここまで乱暴なやり口を…」

ドリス伯爵とセシーナがその距離を縮めている一方、ミリアは騎士であるユーゲントの元を訪れていた。
彼女が受けた婚約破棄が果たして正当なものであるのかどうか、それはユーゲント自身がその目で確認しておきたいと思ったようで、こうして直接彼女の話を聞く流れとなったのだ。

「ドリス様はおそらく、最初から私の事をセシーナへの踏み台としか考えていなかったのでしょう。だから最終的に私を追い出すことに何のためらいも持たず、同時にセシーナに近づくことを考えたのだと思います」
「はぁ…。これはもう黙って見過ごすわけにはいかないな…。ただでさえセシーナは貴族家の間でも問題児だと見られているのに、そこに伯爵が交わったならこれほど面倒なことはない。早めにくぎを刺しておくのが正解か」

ユーゲントは冷静に、それでいて的確に状況を分析し、ドリスの思惑を阻止するべく計画を始めた。
その計画こそ、ドリスを伯爵としての貴族家から追い落とすことになる。

――それからしばらくして――

「久しぶりだな、伯爵よ」
「ユ、ユーゲント騎士様!?!?」

誰かと何かの約束をしていたのか、街の中でなかなかに派手な格好をしているドリス。
そんな彼のもとに姿を現したのは、彼が約束していた人物ではなく、ユーゲントであった。

「ど、どうして騎士様がこんなところに!?!?」
「伯爵、生憎だがお前の待ち人はここには来ないぜ?」
「は、はい…!?!?」

事態が全くの見込めない伯爵に対し、ユーゲントは淡々と事実のみを口にしていく。

「伯爵、お前は今日セシーナと約束をしていたんだろう?大方、双方の今後の事について相談でもするつもりだったんだろうが」
「そ、それは…」
「不思議だよなぁ。ついこの間までミリアという婚約者を持っていたお前が、もう次の相手を見繕っているのか?もてる男はすごいねぇ」
「そ、そういうわけでは…」

どこか言葉を返しずらそうな雰囲気を見せる伯爵であるが、ユーゲントはそのまま言葉をゆるめない。

「ミリアから聞いたんだがな。お前は彼女の事を全く愛していなかったそうじゃないか。むしろそれどころか、彼女にセシーナになるよう命じ続けて、そのゆがんだ心を満足させようとしたとも」
「!?!?」

その事は他言無用であったはずのもの…。
それをすでにユーゲントに知られてしまっているという事実に、伯爵はその心をドキリと震わせる。

「ミリアを捨ててセシーナを選ぶだなんて、ちょっと俺には考えられないなぁ…。知らないのか?セシーナの本性がどんな人間であるのか…」
「ほ、本性…?」

ユーゲントはそう言葉を発すると、それまで自身の懐に抱えていた一部の資料をそのまま伯爵に向けて差し出した。
伯爵は何のことか理解できない様子だったものの、流れのままに差し出された資料を受け取り、その内容に目を通していく。
…すると直後、その体を大きく震わせながらこう言葉を発した。

「こ、これは…!?セシーナの過去に関するものですか…!?」
「彼女がどれだけ自分を偽り、どれだけその事で周りをだまし続けてきたのか、に関する書類だとも。それを見るに、セシーナは全く素直でも健気でもないようにしか見えないが?どこからどう見てもただの性悪な貴族令嬢にしか見えないが?」
「ま、まさか…こんなことが…」

それまでセシーナに対して抱いていた幻想が、音を立てて崩れていく。
しかし話はまだそこでは終わらない。

「ミリアはそんなセシーナの幻想にとらわれたお前を、助け出そうとしていたのになぁ。お前はそんな彼女の愛情に気づかず、それどころかその愛情にあだで返すかのような事をしたというわけだ。婚約破棄という名目のな」
「…!?!?」

伯爵は自身の体の震えを抑えることが出来ない。
それほどまでにユーゲントから告げられた事実は重いものだった。

「こんなろくでもない男に、伯爵としての座を与え続けるわけにはいかないよな」
「ちょ、ちょっと待ってくださいユーゲント様!!それはあまりに!!」
「あまりに?ミリアはお前がこうなる未来を防ごうとしていろいろと動き回っていたんだろう?そんな彼女の事を追い出すという事は、お前はすでに自分で伯爵の位から降りることになんの抵抗もないという事だろう?なのになんでそんな慌てているんだ?」
「う…」
「まぁ心配するな。セシーナの悪だくみもそのうちすべて表に出る。そうなった時、お前も一緒にそうなればいいだけの話。それを選んだのはお前自身なのだからな」
「……」

…一瞬にして自分の運命を狂わせてしまった伯爵は、その事を未来永劫後悔し続けることになるのだろう。
せめて自分の隣にミリアがいてくれればと思う伯爵のもとに、すでに彼女はいないのだから…。
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