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第72話
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セイラたちがいつもと変わらない様子でオクトたちと会話をしていたその裏で、伯爵家のレリアはその心を動揺させていた。
「な、なによ祝勝会って…!?」
騎士の城にて魔獣退治の祝勝会が開催される。その情報を入手したレリアはいらだちを隠せず、その体を震わせていた。
「(…なるほど、どうせセイラね…。自分よりも優れた存在である私の事が気に入らないから、こんな回りくどい方法を使って私の事を攻撃しようとしているんだわ…。ほんと、どこまでも性格の悪い女…)」
レリアは自身の部屋の窓越しに外を見つめながら、にやりと笑みを浮かべた。
「(…そっちがその気ならいいでしょう。あなたにはいろいろと借りがあるのだから、この際まとめて返してあげることにしましょう。伯爵様の件といいラルクの件といい食事会の件といい、忘れたとは言わせないわよ…?)」
…もはやレリアの存在はセイラの眼中にもなさそうであるが、あくまでこれは彼女との戦いであると認識している様子のレリア。彼女はその胸に何かを決心したようで、そのまま自分の部屋を飛び出してクライム伯爵の元へと向かっていった。
――――
「伯爵様、少しよろしいかしら?」
「あぁ、レリアか。一体どうした?」
レリアはややその瞳を潤わせながら、泣きつくような口調で言葉をつづけた。
「…伯爵様、騎士様が魔獣退治の祝勝会をするという話はお聞きになりましたか?」
「あぁ、知っているとも。何を隠そうこの俺も、その会には乗り込んでやろうと思っているからな」
「その祝勝会、きっと伯爵様とこの私を陥れるためのものだと思うのです…。私、辛くて辛くて死んでしまいそうです…」
「レ、レリア…」
レリアはその雰囲気をそのままに、より悲観的な口調で言葉を続ける。
「…その祝勝会、開くよう働きかけたのはきっとセイラであると思うのです…」
「セイラって…。確か、あのバカ兄貴の元婚約者だったっていう?」
「そうです…。私と彼女はファーラ様が伯爵で会ったときからの付き合いなのですが、私がどれだけ彼女に寄り添おうとしても、彼女は私を遠ざけるばかりか、裏で私の事をひどくけなしていたのです…。ファーラ様もそんな彼女に愛想を尽かして婚約破棄の形になったのですが、どうやらいまだに私の事を恨んでいる様子…。この祝勝会もきっと、私に対する恨みから起こったものに違いありません…」
「……」
「…私たちは招待を受けていませんよね?それはつまり、私たち以外の人間たちを集めて、ありもしない私たちの悪口を吹き込んで回るに決まっています…。そうすることで、私たちを孤立させるつもりなのでしょう…」
「なるほど、な」
迫真の口調から放たれるレリアの言葉は、彼女に心を許すクライムには大きく刺さった様子。
「確かに、くそまじめな騎士連中がわざわざそんなことをするのは不自然だとは思っていたが…。なるほど、セイラたちはレリアの事を逆恨みしているというわけか…。それでこんな性格の悪いやり口を…。けっ……この俺を相手に、なかなか面白いことを考えるじゃないか…」
…実際には祝勝会を騎士に提案したのはラルクであり、しかもその動機も伯爵家への攻撃などでなく、ただの下心満載のものだということなど、二人には想像もできない様子…。
「安心するといいレリア。やつらのくだらない思惑なんて、この俺がすべてぶち壊してやるとも。少し自分たちの方がうまく行っているからって、調子に乗ったことを繰り返していたらどうなるか、しっかり教えてやろうじゃないか」
すっかりレリアに乗せられたクライムの姿を見て、レリアはその心の中でにやりとほくそ笑んだ。
「さすがは私の愛するクライム様…。ファーラ様は全然頼りにならなくて、私の事を一度も守ってはいただけませんでしたので、クライム様にそう言っていただいて私、本当にうれしく思います…!」
レリアはそう言いながら、クライムとの距離を少しづつ縮めていく。それはやがてゼロとなり、二人はお互いの体を絡ませあい、その存在を確かめ合う。
「すべてあのバカ兄が招いたことだ。やつらだって今まではあんなのが相手だったからうまく行っていただけの事。俺のような本物が相手になったなら、奴らに勝算などひとかけらもないとも♪」
「素敵ですわ、クライム様ぁ♪」
甘い言葉を吐きながらレリアはクライムの胸に顔を押し付け、クライムもまた彼女の体を自身の胸元へと抱き寄せる。
「…伯爵家に泥を塗るというのなら、お前たちの方を沼に沈めてやるとも…。楽しみにしているんだな…」
「♪」
クライムの頭の中には、すでにセイラを追い詰める作戦が整いつつあった。それを実現させることで、レリアの心をつかむと同時に、失われた伯爵家の威厳を取り戻そうという考えだった。
…しかし、その作戦が成功することはないのだった…。これほど自信に満ちていた二人は後に、自分たちでも信じられないほどの羞恥と落胆を味あわせられることになるのだから…。
「な、なによ祝勝会って…!?」
騎士の城にて魔獣退治の祝勝会が開催される。その情報を入手したレリアはいらだちを隠せず、その体を震わせていた。
「(…なるほど、どうせセイラね…。自分よりも優れた存在である私の事が気に入らないから、こんな回りくどい方法を使って私の事を攻撃しようとしているんだわ…。ほんと、どこまでも性格の悪い女…)」
レリアは自身の部屋の窓越しに外を見つめながら、にやりと笑みを浮かべた。
「(…そっちがその気ならいいでしょう。あなたにはいろいろと借りがあるのだから、この際まとめて返してあげることにしましょう。伯爵様の件といいラルクの件といい食事会の件といい、忘れたとは言わせないわよ…?)」
…もはやレリアの存在はセイラの眼中にもなさそうであるが、あくまでこれは彼女との戦いであると認識している様子のレリア。彼女はその胸に何かを決心したようで、そのまま自分の部屋を飛び出してクライム伯爵の元へと向かっていった。
――――
「伯爵様、少しよろしいかしら?」
「あぁ、レリアか。一体どうした?」
レリアはややその瞳を潤わせながら、泣きつくような口調で言葉をつづけた。
「…伯爵様、騎士様が魔獣退治の祝勝会をするという話はお聞きになりましたか?」
「あぁ、知っているとも。何を隠そうこの俺も、その会には乗り込んでやろうと思っているからな」
「その祝勝会、きっと伯爵様とこの私を陥れるためのものだと思うのです…。私、辛くて辛くて死んでしまいそうです…」
「レ、レリア…」
レリアはその雰囲気をそのままに、より悲観的な口調で言葉を続ける。
「…その祝勝会、開くよう働きかけたのはきっとセイラであると思うのです…」
「セイラって…。確か、あのバカ兄貴の元婚約者だったっていう?」
「そうです…。私と彼女はファーラ様が伯爵で会ったときからの付き合いなのですが、私がどれだけ彼女に寄り添おうとしても、彼女は私を遠ざけるばかりか、裏で私の事をひどくけなしていたのです…。ファーラ様もそんな彼女に愛想を尽かして婚約破棄の形になったのですが、どうやらいまだに私の事を恨んでいる様子…。この祝勝会もきっと、私に対する恨みから起こったものに違いありません…」
「……」
「…私たちは招待を受けていませんよね?それはつまり、私たち以外の人間たちを集めて、ありもしない私たちの悪口を吹き込んで回るに決まっています…。そうすることで、私たちを孤立させるつもりなのでしょう…」
「なるほど、な」
迫真の口調から放たれるレリアの言葉は、彼女に心を許すクライムには大きく刺さった様子。
「確かに、くそまじめな騎士連中がわざわざそんなことをするのは不自然だとは思っていたが…。なるほど、セイラたちはレリアの事を逆恨みしているというわけか…。それでこんな性格の悪いやり口を…。けっ……この俺を相手に、なかなか面白いことを考えるじゃないか…」
…実際には祝勝会を騎士に提案したのはラルクであり、しかもその動機も伯爵家への攻撃などでなく、ただの下心満載のものだということなど、二人には想像もできない様子…。
「安心するといいレリア。やつらのくだらない思惑なんて、この俺がすべてぶち壊してやるとも。少し自分たちの方がうまく行っているからって、調子に乗ったことを繰り返していたらどうなるか、しっかり教えてやろうじゃないか」
すっかりレリアに乗せられたクライムの姿を見て、レリアはその心の中でにやりとほくそ笑んだ。
「さすがは私の愛するクライム様…。ファーラ様は全然頼りにならなくて、私の事を一度も守ってはいただけませんでしたので、クライム様にそう言っていただいて私、本当にうれしく思います…!」
レリアはそう言いながら、クライムとの距離を少しづつ縮めていく。それはやがてゼロとなり、二人はお互いの体を絡ませあい、その存在を確かめ合う。
「すべてあのバカ兄が招いたことだ。やつらだって今まではあんなのが相手だったからうまく行っていただけの事。俺のような本物が相手になったなら、奴らに勝算などひとかけらもないとも♪」
「素敵ですわ、クライム様ぁ♪」
甘い言葉を吐きながらレリアはクライムの胸に顔を押し付け、クライムもまた彼女の体を自身の胸元へと抱き寄せる。
「…伯爵家に泥を塗るというのなら、お前たちの方を沼に沈めてやるとも…。楽しみにしているんだな…」
「♪」
クライムの頭の中には、すでにセイラを追い詰める作戦が整いつつあった。それを実現させることで、レリアの心をつかむと同時に、失われた伯爵家の威厳を取り戻そうという考えだった。
…しかし、その作戦が成功することはないのだった…。これほど自信に満ちていた二人は後に、自分たちでも信じられないほどの羞恥と落胆を味あわせられることになるのだから…。
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