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第67話
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王国の経済界に大きな影響力を持つカタリーナ家。その令嬢であるシャルナが家出した一件でつい先日まで大騒ぎになっていたものの、ある意味ラルクのおかげでその一件は解決し、3人の親子はこれまで通り元の屋敷で生活を送っていた。
そんなさなか、シャルナとクライムを婚約させることを目論むライオネル上級伯爵は、事前予告もなしにカタリーナ家に乗り込んできたのだった。
「ライオネル様、ご壮健そうで何よりでございます(来るなら連絡しろよなぁ…)」
「アーロン君も、財閥の長として活躍しているそうじゃないか。うわさは聞いているよ?」
「いえいえ。上級伯爵という、我々のような凡人にはできぬ仕事をされているライオネル様には、敵いなどしませんとも」
「上級伯爵など、名前だけのただのお飾りだよ。すでに貴族としての地位は息子に譲ったのだからね」
突然のライオネルの襲来にあっても、焦ることなく完璧な立ち回りを見せるアーロン。さすがは一財閥の頂点に立つ男である。
「息子…ファーラ様の事でございますね?あまりお会いできてはいませんが、ご活躍されているとお聞きしております」
「あぁ、今日はそのことで話があるんだ。…時にシャルナ様はいらっしゃるかな?」
「え、えぇ…。おりますけれど…」
しかし、ライオネルが突然にシャルナの名前を出したことで、彼はやや違和感を覚えた。持ち掛けられる話はどうせ、金銭に関する相談だろうという予想が外れてしまったためだ。
「…実は、伯爵の位はこれまでファーラに任せていたのですが、あやつの最近の仕事ぶりはなかなか芳しくない…。ゆえに、私は自らの後継者をファーラではなく、クライムにすることとしたのだ」
「な、なんと…」
「それに伴い、ぜひともシャルナ様にはクライムの婚約者となっていただきたい。伯爵家とカタリーナ家、互いのきずなを深めあい、これから先も良い関係を維持していくことは、あなたにとっても悪い話ではないでしょう?」
なかなかに悪い表情を浮かべ、ライオネルはアーロンにすり寄る。アーロンが娘であるシャルナことを自分の駒のようにしか思っておらず、婚約相手は自分にとってより都合のいい者を選ぼうとしている、という話をライオネルは知っていた。だからこそ伯爵夫人というこの上ないエサを吊り下げることで、アーロンは間違いなく自分になびくであろうとライオネルは確信していた。
…しかし、それはシャルナが家出する以前の話。今のアーロンは考えを根底から改めているということを、伯爵は知らなかった…。
「どうだいアーロン君。君の資金力と、私たちの政治力が組み合わされば、きっと」
「お断りします」
「………え?」
「ですので、お断りします」
「………は?」
…あまりにあっけない光景に、ライオネルは言葉も出ない様子…。
それもそのはず。彼の中では、仮にも上級伯爵である自分の申し出を断られるはずなど、それも自らの娘が伯爵夫人となることができる話を断られることなど、想像さえもしていなかったのだから。
「な、なぜだ!?君の娘が伯爵の夫人になれるのだぞ!?そうなれば君だって、貴族家としての影響力を併せ持つことだってできるんだぞ!?なぜ断る!?」
「理由など決まっていますよ。シャルナにはもう、彼女が身を捧げるにふさわしい相手がいるのですから」
「なっ!?は、伯爵よりもふさわしい相手、だと…!?」
信じられない言葉を連発してくるアーロンを前に、ライオネルはたじたじになってしまう。しかしこのまま引き下がることは、彼のプライドが許さない。
「…さ、さては、君はシャルナ本人の意思を無視しているのではないか?彼女とて、伯爵夫人になれるという話を持ち掛けられたら、断ることなどできないだろう。しかしそうなっては困る理由が何か君にはあるから、彼女の気持ちを無視して君が勝手にそう言っているだけなのだろう?」
「そ、そんなことはいたしません…。確かにかつてはそうだったかもしれませんが、それではいけないとある方によって教えられたのです」
「ならば、この場にシャルナ様をお呼びいただきたい。直接本人に話をしてみようではないか」
「か、かまいませんけれど…。これ以上はやめておかれた方が…」
「なんだなんだ?やはり自信がないのか??くっくっく…。さぁ、早く読んできてくれたまえ♪」
「は、はぁ…」
アーロンはやれやれといった様子で席を立ち、シャルナを呼びに行った。その間ライオネルは余裕の感情を取り戻していたものの、それも刹那の間に過ぎなかった。
「どうも、シャルナ様。私は伯爵家にて上級伯爵をしております、ライオネルでございます」
「シャルナでございます」
「さて…。詳しいお話はすでにお聞きになっているかもしれませんが、改めて。我が息子であり、現在は伯爵でもあるクライムと、ぜひ婚約関係を結んでいただきたいのです!私の目には、二人の相性は間違いなく完璧であると映っています!シャルナ様も、間違いなく幸せになることができることと」
「お断りします!!」
「…………」
「お断りします!私にはもう、心に決めた素晴らしい方がいらっしゃいますので!!」
「…………」
「(……だからやめておけと…)」
…シャルナは気弱で、言われたことを断れない性格…。そう聞いていたライオネルには、目の前の現実が信じられなかった…。ただ断るだけならず、こんなにも大きな声で堂々と断られることなど…。
「……」
もはや放心状態になってしまっているライオネルの姿が見るに堪えなくなったのか、アーロンはそのまま流れるように言葉をかけた。
「さ、さぁライオネル様はもうお帰りのようだ!シャルナ、帰りの支度を手伝って差し上げなさい!」
「はい!お父様!」
…ライオネルはそれからしばらく、心ここにあらずな状態が続いたのだという…。
そんなさなか、シャルナとクライムを婚約させることを目論むライオネル上級伯爵は、事前予告もなしにカタリーナ家に乗り込んできたのだった。
「ライオネル様、ご壮健そうで何よりでございます(来るなら連絡しろよなぁ…)」
「アーロン君も、財閥の長として活躍しているそうじゃないか。うわさは聞いているよ?」
「いえいえ。上級伯爵という、我々のような凡人にはできぬ仕事をされているライオネル様には、敵いなどしませんとも」
「上級伯爵など、名前だけのただのお飾りだよ。すでに貴族としての地位は息子に譲ったのだからね」
突然のライオネルの襲来にあっても、焦ることなく完璧な立ち回りを見せるアーロン。さすがは一財閥の頂点に立つ男である。
「息子…ファーラ様の事でございますね?あまりお会いできてはいませんが、ご活躍されているとお聞きしております」
「あぁ、今日はそのことで話があるんだ。…時にシャルナ様はいらっしゃるかな?」
「え、えぇ…。おりますけれど…」
しかし、ライオネルが突然にシャルナの名前を出したことで、彼はやや違和感を覚えた。持ち掛けられる話はどうせ、金銭に関する相談だろうという予想が外れてしまったためだ。
「…実は、伯爵の位はこれまでファーラに任せていたのですが、あやつの最近の仕事ぶりはなかなか芳しくない…。ゆえに、私は自らの後継者をファーラではなく、クライムにすることとしたのだ」
「な、なんと…」
「それに伴い、ぜひともシャルナ様にはクライムの婚約者となっていただきたい。伯爵家とカタリーナ家、互いのきずなを深めあい、これから先も良い関係を維持していくことは、あなたにとっても悪い話ではないでしょう?」
なかなかに悪い表情を浮かべ、ライオネルはアーロンにすり寄る。アーロンが娘であるシャルナことを自分の駒のようにしか思っておらず、婚約相手は自分にとってより都合のいい者を選ぼうとしている、という話をライオネルは知っていた。だからこそ伯爵夫人というこの上ないエサを吊り下げることで、アーロンは間違いなく自分になびくであろうとライオネルは確信していた。
…しかし、それはシャルナが家出する以前の話。今のアーロンは考えを根底から改めているということを、伯爵は知らなかった…。
「どうだいアーロン君。君の資金力と、私たちの政治力が組み合わされば、きっと」
「お断りします」
「………え?」
「ですので、お断りします」
「………は?」
…あまりにあっけない光景に、ライオネルは言葉も出ない様子…。
それもそのはず。彼の中では、仮にも上級伯爵である自分の申し出を断られるはずなど、それも自らの娘が伯爵夫人となることができる話を断られることなど、想像さえもしていなかったのだから。
「な、なぜだ!?君の娘が伯爵の夫人になれるのだぞ!?そうなれば君だって、貴族家としての影響力を併せ持つことだってできるんだぞ!?なぜ断る!?」
「理由など決まっていますよ。シャルナにはもう、彼女が身を捧げるにふさわしい相手がいるのですから」
「なっ!?は、伯爵よりもふさわしい相手、だと…!?」
信じられない言葉を連発してくるアーロンを前に、ライオネルはたじたじになってしまう。しかしこのまま引き下がることは、彼のプライドが許さない。
「…さ、さては、君はシャルナ本人の意思を無視しているのではないか?彼女とて、伯爵夫人になれるという話を持ち掛けられたら、断ることなどできないだろう。しかしそうなっては困る理由が何か君にはあるから、彼女の気持ちを無視して君が勝手にそう言っているだけなのだろう?」
「そ、そんなことはいたしません…。確かにかつてはそうだったかもしれませんが、それではいけないとある方によって教えられたのです」
「ならば、この場にシャルナ様をお呼びいただきたい。直接本人に話をしてみようではないか」
「か、かまいませんけれど…。これ以上はやめておかれた方が…」
「なんだなんだ?やはり自信がないのか??くっくっく…。さぁ、早く読んできてくれたまえ♪」
「は、はぁ…」
アーロンはやれやれといった様子で席を立ち、シャルナを呼びに行った。その間ライオネルは余裕の感情を取り戻していたものの、それも刹那の間に過ぎなかった。
「どうも、シャルナ様。私は伯爵家にて上級伯爵をしております、ライオネルでございます」
「シャルナでございます」
「さて…。詳しいお話はすでにお聞きになっているかもしれませんが、改めて。我が息子であり、現在は伯爵でもあるクライムと、ぜひ婚約関係を結んでいただきたいのです!私の目には、二人の相性は間違いなく完璧であると映っています!シャルナ様も、間違いなく幸せになることができることと」
「お断りします!!」
「…………」
「お断りします!私にはもう、心に決めた素晴らしい方がいらっしゃいますので!!」
「…………」
「(……だからやめておけと…)」
…シャルナは気弱で、言われたことを断れない性格…。そう聞いていたライオネルには、目の前の現実が信じられなかった…。ただ断るだけならず、こんなにも大きな声で堂々と断られることなど…。
「……」
もはや放心状態になってしまっているライオネルの姿が見るに堪えなくなったのか、アーロンはそのまま流れるように言葉をかけた。
「さ、さぁライオネル様はもうお帰りのようだ!シャルナ、帰りの支度を手伝って差し上げなさい!」
「はい!お父様!」
…ライオネルはそれからしばらく、心ここにあらずな状態が続いたのだという…。
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