53 / 98
第53話
しおりを挟む
この一件を気に、オクト騎士団長との距離を間違いなく縮めることができる。心の中にそう確信するレリアは、伯爵との抱擁の熱も冷めぬうちに、数名の使用人を伴って騎士の城へと足を進めていた。
「(頭の悪い伯爵も、そろそろ捨て時かしらね…。結局、セイラに罰を受けさせるといっているのに何にも進展していないし、それどころか私へのプレゼントだって少なくなる一方じゃない。そんな体たらくを見せびらかしておいて私には愛してほしいだなんて、虫が良すぎるのよ)」
…そもそもその原因を作ったのはほかでもない自分自身であるというのに、そんなことは全く頭の中からなくなっている様子…。
「(オクト様…。前に会った時から、少し時間を空けたのも私の作戦通り…。きっと今頃、オクト様は私に会いたくてうずうずされているに違いないもの♪)」
…レリアがこれほどまでに自信過剰になっていることには、ある理由があった。彼女は伯爵が魔獣の件で動き回っていた最中、数名の騎士たちと関係を持っていたのである…。
「(あの中級の騎士、名前は何と言ったかしら…。少し胸を押し付けるだけで私の誘いに乗ってきて、ほんとちょろかったわ♪それにその部下の騎士も、私の甘い声におびき寄せられて…。まぁ仕方ないわよね。天性の魅力がある私に直接言い寄られたら、断れる男なんてどこにもいないもの♪)」
…名前も思い出せないほどの短い関係で終わったということは、決して相手を手籠めにできたわけではない……ものの、彼女にとって大事なのは関係を築くことではなく、彼らから聞き出したある秘密を手に入れることだった。
「(私の前じゃ、魔獣計画はすべてうまくいっていると言っていたのに…。あの伯爵はうそをついていたのね。しかも生み出された魔獣を退治したのは、他でもないあのラルクだって話じゃない。…私の誘いを断った愚かな男のくせに、ほんと気に入らないわ…)」
…本当に活躍しているのはセイラの方なのだが、彼女の意志でそのことは伏せられており、騎士たちもまたそのことは知らされていなかった。だからこそレリアの耳に入った情報も、魔獣の退治に当たっているのはラルクだという話だった。
「(ラルクも気に入らないけれど、問題なのは伯爵の方よ。仮にも婚約者の関係にある相手を欺くだなんて、ほんと最低な人間のすることだわ。そんなの、切り捨てられて当然よね?)」
伯爵との関係を切り捨てる思いを固めたとことで、彼女は騎士の城に到着した。迎えに現れた若い騎士たちに迎え入れられるままに、オクトの待つ団長室へと向かうのだった。
――――
「お久しぶりでございます、オクト様!ずっとずっとお会いしたく思っておりました!」
「お世辞はいらない。レリア様、今日は何の用だ?」
「(まぁ、表情をこわばらせて…。私と話をすることを、まだ恥ずかしがってるのかしら…♪)」
レリアの目には、低い口調で言葉を返すオクトの姿は自分への恥ずかしさからくるものだと映った様子。しかし彼女はそこには触れず、そのまま本題に入ることとした。
「…どうしても、オクト様のお力をお貸しいただきたいのです…」
「僕の力を?なんのために?」
「実は…。伯爵様が秘密裏に生成を行っていた魔獣たちが暴走し、伯爵家は大変なことになってしまっているのです…」
「ほぅ…」
まさかレリアが自分の方から魔獣の一件を認めてくるとは思っていなかったオクトは、やや意外そうな表情を浮かべる。
「…そして私は、ある噂を聞いたのです。伯爵様によって生み出された強力な魔獣たちであっても、オクト様の手にかかれば簡単に退治することができるのだと…!」
レリアが適当な騎士に関係を迫ったのは、その秘密を聞き出すためであった。
「…オクト様、私たちを助けてはいただけませんか?伯爵様は今もなお魔獣と戦っておられるのです…。あまり時間の猶予もありません…。だからこそあなた様に…」
「だがそもそも、魔獣の勝手な精製などタブー中のタブーだ。そんな禁忌を犯した人間を、騎士が簡単に助けることはできない」
「(…まぁ、そうなるわよね)」
ここまでは計画通りな様子のレリア。彼女はここで一段と深刻そうな表情を浮かべ、それをオクトにひけらかした。
「…このようなことはあまり言いたくはないのですが、実は魔獣の生成を伯爵様に迫ったのは、かつて伯爵様と婚約関係にあったセイラなのです…」
「……」
「…どうやら彼女は伯爵様の権力を手にするだけでは飽き足らず、魔獣の力をもって強引に人々を自分の意のままにあやつろうとしていたのです…。しかしその影響が自分に及ぶことを恐れて、一人伯爵家から離れていったのでしょう…」
「……フーーッ……」
レリアがまだ話している最中であったが、オクトはふところからたばこを取り出し一服を始めた。セイラのもとを訪れた時には、タバコに火をつけてもいいか確認をしたオクトだったものの、レリアの前ではそうしなかった。
「…セイラは本当にどこまでも自分勝手な女なのです…。私たちは散々振り回されて、挙句の果てにこのような事態にまで陥ることになってしまい……。だというのに彼女には、味方をする人物がいるらしいのです。彼女の事を好きだという人物もいるらしいのです。私は彼らに聞いてみたいですね、いったい彼女のどこにそんな魅力があるのかと。オクト様もそうは思われませんか?」
「…」
…もはやたばこに怒りをぶつけるだけでは収まらない様子のオクト…。彼はまずいったいなにからレリアに説明するべきかと、自身の頭を抱えた…。
「(…彼女は本当に私に助けを求めているつもりなのか?私に嫌われることをわざと言っているようにしか聞こえないが…。いやいや、私の神経を逆なでしてイライラさせるためにここまで来たというなら、ここで感情的になってしまってはそれこそ向こうの思うつぼ…。本当ならこの場で蹴飛ばしてやりたいが、気持ちを抑えるしかないか…)」
騎士ならではの自制心に従い、なんとかオクトは高ぶる感情を想いとどめる。
「…本当なら助けに応じる理由はないが、被害が広がって周囲の人々が魔獣によって傷つけられるのは騎士としていただけない。ひとまず、魔獣退治の依頼に応じることとしよう」
「ありがとうございますオクト様!!(ほらやっぱり!私が頼めば来てくれるということは、やっぱり私に気があるってことじゃない!今にみてなさいよセイラ、ラルク!私はオクト様と結ばれた後で、あなたたちにちゃーーんと罰を与えてあげるんだから♪)」
「(頭の悪い伯爵も、そろそろ捨て時かしらね…。結局、セイラに罰を受けさせるといっているのに何にも進展していないし、それどころか私へのプレゼントだって少なくなる一方じゃない。そんな体たらくを見せびらかしておいて私には愛してほしいだなんて、虫が良すぎるのよ)」
…そもそもその原因を作ったのはほかでもない自分自身であるというのに、そんなことは全く頭の中からなくなっている様子…。
「(オクト様…。前に会った時から、少し時間を空けたのも私の作戦通り…。きっと今頃、オクト様は私に会いたくてうずうずされているに違いないもの♪)」
…レリアがこれほどまでに自信過剰になっていることには、ある理由があった。彼女は伯爵が魔獣の件で動き回っていた最中、数名の騎士たちと関係を持っていたのである…。
「(あの中級の騎士、名前は何と言ったかしら…。少し胸を押し付けるだけで私の誘いに乗ってきて、ほんとちょろかったわ♪それにその部下の騎士も、私の甘い声におびき寄せられて…。まぁ仕方ないわよね。天性の魅力がある私に直接言い寄られたら、断れる男なんてどこにもいないもの♪)」
…名前も思い出せないほどの短い関係で終わったということは、決して相手を手籠めにできたわけではない……ものの、彼女にとって大事なのは関係を築くことではなく、彼らから聞き出したある秘密を手に入れることだった。
「(私の前じゃ、魔獣計画はすべてうまくいっていると言っていたのに…。あの伯爵はうそをついていたのね。しかも生み出された魔獣を退治したのは、他でもないあのラルクだって話じゃない。…私の誘いを断った愚かな男のくせに、ほんと気に入らないわ…)」
…本当に活躍しているのはセイラの方なのだが、彼女の意志でそのことは伏せられており、騎士たちもまたそのことは知らされていなかった。だからこそレリアの耳に入った情報も、魔獣の退治に当たっているのはラルクだという話だった。
「(ラルクも気に入らないけれど、問題なのは伯爵の方よ。仮にも婚約者の関係にある相手を欺くだなんて、ほんと最低な人間のすることだわ。そんなの、切り捨てられて当然よね?)」
伯爵との関係を切り捨てる思いを固めたとことで、彼女は騎士の城に到着した。迎えに現れた若い騎士たちに迎え入れられるままに、オクトの待つ団長室へと向かうのだった。
――――
「お久しぶりでございます、オクト様!ずっとずっとお会いしたく思っておりました!」
「お世辞はいらない。レリア様、今日は何の用だ?」
「(まぁ、表情をこわばらせて…。私と話をすることを、まだ恥ずかしがってるのかしら…♪)」
レリアの目には、低い口調で言葉を返すオクトの姿は自分への恥ずかしさからくるものだと映った様子。しかし彼女はそこには触れず、そのまま本題に入ることとした。
「…どうしても、オクト様のお力をお貸しいただきたいのです…」
「僕の力を?なんのために?」
「実は…。伯爵様が秘密裏に生成を行っていた魔獣たちが暴走し、伯爵家は大変なことになってしまっているのです…」
「ほぅ…」
まさかレリアが自分の方から魔獣の一件を認めてくるとは思っていなかったオクトは、やや意外そうな表情を浮かべる。
「…そして私は、ある噂を聞いたのです。伯爵様によって生み出された強力な魔獣たちであっても、オクト様の手にかかれば簡単に退治することができるのだと…!」
レリアが適当な騎士に関係を迫ったのは、その秘密を聞き出すためであった。
「…オクト様、私たちを助けてはいただけませんか?伯爵様は今もなお魔獣と戦っておられるのです…。あまり時間の猶予もありません…。だからこそあなた様に…」
「だがそもそも、魔獣の勝手な精製などタブー中のタブーだ。そんな禁忌を犯した人間を、騎士が簡単に助けることはできない」
「(…まぁ、そうなるわよね)」
ここまでは計画通りな様子のレリア。彼女はここで一段と深刻そうな表情を浮かべ、それをオクトにひけらかした。
「…このようなことはあまり言いたくはないのですが、実は魔獣の生成を伯爵様に迫ったのは、かつて伯爵様と婚約関係にあったセイラなのです…」
「……」
「…どうやら彼女は伯爵様の権力を手にするだけでは飽き足らず、魔獣の力をもって強引に人々を自分の意のままにあやつろうとしていたのです…。しかしその影響が自分に及ぶことを恐れて、一人伯爵家から離れていったのでしょう…」
「……フーーッ……」
レリアがまだ話している最中であったが、オクトはふところからたばこを取り出し一服を始めた。セイラのもとを訪れた時には、タバコに火をつけてもいいか確認をしたオクトだったものの、レリアの前ではそうしなかった。
「…セイラは本当にどこまでも自分勝手な女なのです…。私たちは散々振り回されて、挙句の果てにこのような事態にまで陥ることになってしまい……。だというのに彼女には、味方をする人物がいるらしいのです。彼女の事を好きだという人物もいるらしいのです。私は彼らに聞いてみたいですね、いったい彼女のどこにそんな魅力があるのかと。オクト様もそうは思われませんか?」
「…」
…もはやたばこに怒りをぶつけるだけでは収まらない様子のオクト…。彼はまずいったいなにからレリアに説明するべきかと、自身の頭を抱えた…。
「(…彼女は本当に私に助けを求めているつもりなのか?私に嫌われることをわざと言っているようにしか聞こえないが…。いやいや、私の神経を逆なでしてイライラさせるためにここまで来たというなら、ここで感情的になってしまってはそれこそ向こうの思うつぼ…。本当ならこの場で蹴飛ばしてやりたいが、気持ちを抑えるしかないか…)」
騎士ならではの自制心に従い、なんとかオクトは高ぶる感情を想いとどめる。
「…本当なら助けに応じる理由はないが、被害が広がって周囲の人々が魔獣によって傷つけられるのは騎士としていただけない。ひとまず、魔獣退治の依頼に応じることとしよう」
「ありがとうございますオクト様!!(ほらやっぱり!私が頼めば来てくれるということは、やっぱり私に気があるってことじゃない!今にみてなさいよセイラ、ラルク!私はオクト様と結ばれた後で、あなたたちにちゃーーんと罰を与えてあげるんだから♪)」
144
お気に入りに追加
3,685
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる