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第33話

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 オクト様は詳しい説明を始めた。

「ある噂を耳にしたんだ。ラルク様の元には、困っている人々が助けを求めて訪れる。そして、ラルク様はその実力でどんな依頼でも結果を出されるのだと」

「いやいやぁ、僕は全然そんなつもりはないのですが、気づいたらみんなを助けてしまっているんですよ~!人気すぎて困ってしまいます~!」

 はっはっはーと笑いながら、お兄様は嬉しそうに言葉を発する。

「そんなラルク様に、僕たちも依頼を持ってきたというわけです!」

「き、騎士様がじきじきにこの僕に依頼ですか…??」

「ああ。なんでも最近、王都から少し離れた場所に魔獣が湧き出ているという知らせがもたらされた。この私とガラルはその退治に向かうこととなったのだが、せっかくならラルク様の力を見てみたいと思ってな」

「(ま、魔獣だって…!?)」

 …それまで上機嫌だったお兄様の表情が一転、今度は泣きそうな子供のような表情を浮かべる…。本当にわかりやすいんだから…。

「(い、いくらこの僕でも魔獣と戦うなんて無理に決まっている!…ただここで逃げてしまったら、これまで僕の事を夢中になってくれた女性たちの期待を裏切ってしまうことになる…!そんなことを知られたら、あんなに届いていたラブレターだって一通も来なくなるかもしれない…!街を歩いたら、へなちょこラルクだと言われて笑われてしまうかもしれない…!ど、どうすれば…!)」

 頭を抱えて考え込んでいるお兄様。私はそんなお兄様を少しだけいじめたくなってしまった。
 騎士の二人には聞こえないくらいの声の大きさで、お兄様に言葉を発する。

「当然行くのでしょうお兄様??あれほどに威勢のいいことを言われていたのに、まさか断ったりされませんよね??かっこいいお兄様の姿を、私に見せていただけるのでしょう??」

「うっ…」

「今から楽しみですね~!騎士様からも一目置かれる存在のお兄様が、どれほど華麗に魔獣たちを倒されていくのか!」

「うぅっ…」

「あぁもちろん、その場には私も行かせていただきますので!お兄様の活躍される姿を見逃すわけにはいきませんから!」

「うぅぅっ…」

 私はお兄様をからかうことが楽しくなってきてしまい、止まらなくなってしまう。しばらくその会話が続いたのちに、お兄様は泣く泣く決心された様子。

「わ、分かりました!行こうじゃありませんか!このラルク、騎士様の期待を裏切ったりはしませんとも!(泣)」

 涙声でそう決意表明をするお兄様の姿をぽかんと見つめる二人。

「な、なぜ泣いている??べ、別に無理にとは言わないが…」

「こ、これは男のうれし涙です!こうして自分の力が必要とされている事実に、涙を流さずにはいられないのです!どうぞお気遣いなく!…うぅぅ…(泣)」

「あ、私もいっしょに行かせていただきます!お兄様だけじゃ不安なので」

「「へ??」」

 私の言葉を聞いた二人は、そろってぽかんとした表情を浮かべた。

「し、しかしそれは危険だ…。か弱い女性があのような場所に足を踏み入れてしまっては」「団長!!ちょっと!!!」

 ついさっきまでとは一転、今度はガラル様がオクト様を捕まえ、私たちに聞こえない程度の声の大きさでなにやら秘密の会話を始めた。

「やはり運命は団長に味方をしているのです!セイラ様の前で魔獣たちを瞬く間に倒し続けたなら、きっとラルク様よりも団長の方へと心が動くに違いありません!!」

「ガラル…。だから私は別にそんな気があるわけじゃ…」

「団長!!前だってそうやって奥手であり続けたがために、セイラ様との関係を進めることができなかったではありませんか!今ですよ!今がチャンスなのですよ!ラルク様は確かにお強いのでしょうけれど、騎士団団長であるあなたにはかなわないでしょう!そこにチャンスを見出すのです!!魔獣たちの攻撃からセイラ様をお守りし、そのハートをつかむのです!」

「はぁ…。お前というやつは…」

 …どうやら秘密の会議を終えたらしい二人は、改めて私たちに言葉を発した。

「セイラ様、ぜひ一緒にいらしてください!あなた様の事は、騎士団を代表する僕ら二人が絶対にお守りいたしますから!」

「…」

 なぜだかテンションの高いガラル様、その横で頭を抱えるオクト様、そして私の隣では泣きながらびくびくと震えているお兄様。…異様でしかない光景だけれど、なんだか私にはそれが面白く、楽しく感じられたのだった。

――――

 数日の準備期間を経て、ついに私たちは問題の魔獣発生地点へと向かうこととなった。

「ね、ねぇセイラ??心の中じゃ怖くて仕方ないんじゃない??今ならまだキャンセルできるよ!!僕の方から二人には伝えておくから、無理はしなく」「さぁ行きましょー!」「うぅぅ…(泣)」

 後ろ向きなお兄様を引きずり、私たちは目的地を目指して出発したのだった。
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