33 / 98
第33話
しおりを挟む
オクト様は詳しい説明を始めた。
「ある噂を耳にしたんだ。ラルク様の元には、困っている人々が助けを求めて訪れる。そして、ラルク様はその実力でどんな依頼でも結果を出されるのだと」
「いやいやぁ、僕は全然そんなつもりはないのですが、気づいたらみんなを助けてしまっているんですよ~!人気すぎて困ってしまいます~!」
はっはっはーと笑いながら、お兄様は嬉しそうに言葉を発する。
「そんなラルク様に、僕たちも依頼を持ってきたというわけです!」
「き、騎士様がじきじきにこの僕に依頼ですか…??」
「ああ。なんでも最近、王都から少し離れた場所に魔獣が湧き出ているという知らせがもたらされた。この私とガラルはその退治に向かうこととなったのだが、せっかくならラルク様の力を見てみたいと思ってな」
「(ま、魔獣だって…!?)」
…それまで上機嫌だったお兄様の表情が一転、今度は泣きそうな子供のような表情を浮かべる…。本当にわかりやすいんだから…。
「(い、いくらこの僕でも魔獣と戦うなんて無理に決まっている!…ただここで逃げてしまったら、これまで僕の事を夢中になってくれた女性たちの期待を裏切ってしまうことになる…!そんなことを知られたら、あんなに届いていたラブレターだって一通も来なくなるかもしれない…!街を歩いたら、へなちょこラルクだと言われて笑われてしまうかもしれない…!ど、どうすれば…!)」
頭を抱えて考え込んでいるお兄様。私はそんなお兄様を少しだけいじめたくなってしまった。
騎士の二人には聞こえないくらいの声の大きさで、お兄様に言葉を発する。
「当然行くのでしょうお兄様??あれほどに威勢のいいことを言われていたのに、まさか断ったりされませんよね??かっこいいお兄様の姿を、私に見せていただけるのでしょう??」
「うっ…」
「今から楽しみですね~!騎士様からも一目置かれる存在のお兄様が、どれほど華麗に魔獣たちを倒されていくのか!」
「うぅっ…」
「あぁもちろん、その場には私も行かせていただきますので!お兄様の活躍される姿を見逃すわけにはいきませんから!」
「うぅぅっ…」
私はお兄様をからかうことが楽しくなってきてしまい、止まらなくなってしまう。しばらくその会話が続いたのちに、お兄様は泣く泣く決心された様子。
「わ、分かりました!行こうじゃありませんか!このラルク、騎士様の期待を裏切ったりはしませんとも!(泣)」
涙声でそう決意表明をするお兄様の姿をぽかんと見つめる二人。
「な、なぜ泣いている??べ、別に無理にとは言わないが…」
「こ、これは男のうれし涙です!こうして自分の力が必要とされている事実に、涙を流さずにはいられないのです!どうぞお気遣いなく!…うぅぅ…(泣)」
「あ、私もいっしょに行かせていただきます!お兄様だけじゃ不安なので」
「「へ??」」
私の言葉を聞いた二人は、そろってぽかんとした表情を浮かべた。
「し、しかしそれは危険だ…。か弱い女性があのような場所に足を踏み入れてしまっては」「団長!!ちょっと!!!」
ついさっきまでとは一転、今度はガラル様がオクト様を捕まえ、私たちに聞こえない程度の声の大きさでなにやら秘密の会話を始めた。
「やはり運命は団長に味方をしているのです!セイラ様の前で魔獣たちを瞬く間に倒し続けたなら、きっとラルク様よりも団長の方へと心が動くに違いありません!!」
「ガラル…。だから私は別にそんな気があるわけじゃ…」
「団長!!前だってそうやって奥手であり続けたがために、セイラ様との関係を進めることができなかったではありませんか!今ですよ!今がチャンスなのですよ!ラルク様は確かにお強いのでしょうけれど、騎士団団長であるあなたにはかなわないでしょう!そこにチャンスを見出すのです!!魔獣たちの攻撃からセイラ様をお守りし、そのハートをつかむのです!」
「はぁ…。お前というやつは…」
…どうやら秘密の会議を終えたらしい二人は、改めて私たちに言葉を発した。
「セイラ様、ぜひ一緒にいらしてください!あなた様の事は、騎士団を代表する僕ら二人が絶対にお守りいたしますから!」
「…」
なぜだかテンションの高いガラル様、その横で頭を抱えるオクト様、そして私の隣では泣きながらびくびくと震えているお兄様。…異様でしかない光景だけれど、なんだか私にはそれが面白く、楽しく感じられたのだった。
――――
数日の準備期間を経て、ついに私たちは問題の魔獣発生地点へと向かうこととなった。
「ね、ねぇセイラ??心の中じゃ怖くて仕方ないんじゃない??今ならまだキャンセルできるよ!!僕の方から二人には伝えておくから、無理はしなく」「さぁ行きましょー!」「うぅぅ…(泣)」
後ろ向きなお兄様を引きずり、私たちは目的地を目指して出発したのだった。
「ある噂を耳にしたんだ。ラルク様の元には、困っている人々が助けを求めて訪れる。そして、ラルク様はその実力でどんな依頼でも結果を出されるのだと」
「いやいやぁ、僕は全然そんなつもりはないのですが、気づいたらみんなを助けてしまっているんですよ~!人気すぎて困ってしまいます~!」
はっはっはーと笑いながら、お兄様は嬉しそうに言葉を発する。
「そんなラルク様に、僕たちも依頼を持ってきたというわけです!」
「き、騎士様がじきじきにこの僕に依頼ですか…??」
「ああ。なんでも最近、王都から少し離れた場所に魔獣が湧き出ているという知らせがもたらされた。この私とガラルはその退治に向かうこととなったのだが、せっかくならラルク様の力を見てみたいと思ってな」
「(ま、魔獣だって…!?)」
…それまで上機嫌だったお兄様の表情が一転、今度は泣きそうな子供のような表情を浮かべる…。本当にわかりやすいんだから…。
「(い、いくらこの僕でも魔獣と戦うなんて無理に決まっている!…ただここで逃げてしまったら、これまで僕の事を夢中になってくれた女性たちの期待を裏切ってしまうことになる…!そんなことを知られたら、あんなに届いていたラブレターだって一通も来なくなるかもしれない…!街を歩いたら、へなちょこラルクだと言われて笑われてしまうかもしれない…!ど、どうすれば…!)」
頭を抱えて考え込んでいるお兄様。私はそんなお兄様を少しだけいじめたくなってしまった。
騎士の二人には聞こえないくらいの声の大きさで、お兄様に言葉を発する。
「当然行くのでしょうお兄様??あれほどに威勢のいいことを言われていたのに、まさか断ったりされませんよね??かっこいいお兄様の姿を、私に見せていただけるのでしょう??」
「うっ…」
「今から楽しみですね~!騎士様からも一目置かれる存在のお兄様が、どれほど華麗に魔獣たちを倒されていくのか!」
「うぅっ…」
「あぁもちろん、その場には私も行かせていただきますので!お兄様の活躍される姿を見逃すわけにはいきませんから!」
「うぅぅっ…」
私はお兄様をからかうことが楽しくなってきてしまい、止まらなくなってしまう。しばらくその会話が続いたのちに、お兄様は泣く泣く決心された様子。
「わ、分かりました!行こうじゃありませんか!このラルク、騎士様の期待を裏切ったりはしませんとも!(泣)」
涙声でそう決意表明をするお兄様の姿をぽかんと見つめる二人。
「な、なぜ泣いている??べ、別に無理にとは言わないが…」
「こ、これは男のうれし涙です!こうして自分の力が必要とされている事実に、涙を流さずにはいられないのです!どうぞお気遣いなく!…うぅぅ…(泣)」
「あ、私もいっしょに行かせていただきます!お兄様だけじゃ不安なので」
「「へ??」」
私の言葉を聞いた二人は、そろってぽかんとした表情を浮かべた。
「し、しかしそれは危険だ…。か弱い女性があのような場所に足を踏み入れてしまっては」「団長!!ちょっと!!!」
ついさっきまでとは一転、今度はガラル様がオクト様を捕まえ、私たちに聞こえない程度の声の大きさでなにやら秘密の会話を始めた。
「やはり運命は団長に味方をしているのです!セイラ様の前で魔獣たちを瞬く間に倒し続けたなら、きっとラルク様よりも団長の方へと心が動くに違いありません!!」
「ガラル…。だから私は別にそんな気があるわけじゃ…」
「団長!!前だってそうやって奥手であり続けたがために、セイラ様との関係を進めることができなかったではありませんか!今ですよ!今がチャンスなのですよ!ラルク様は確かにお強いのでしょうけれど、騎士団団長であるあなたにはかなわないでしょう!そこにチャンスを見出すのです!!魔獣たちの攻撃からセイラ様をお守りし、そのハートをつかむのです!」
「はぁ…。お前というやつは…」
…どうやら秘密の会議を終えたらしい二人は、改めて私たちに言葉を発した。
「セイラ様、ぜひ一緒にいらしてください!あなた様の事は、騎士団を代表する僕ら二人が絶対にお守りいたしますから!」
「…」
なぜだかテンションの高いガラル様、その横で頭を抱えるオクト様、そして私の隣では泣きながらびくびくと震えているお兄様。…異様でしかない光景だけれど、なんだか私にはそれが面白く、楽しく感じられたのだった。
――――
数日の準備期間を経て、ついに私たちは問題の魔獣発生地点へと向かうこととなった。
「ね、ねぇセイラ??心の中じゃ怖くて仕方ないんじゃない??今ならまだキャンセルできるよ!!僕の方から二人には伝えておくから、無理はしなく」「さぁ行きましょー!」「うぅぅ…(泣)」
後ろ向きなお兄様を引きずり、私たちは目的地を目指して出発したのだった。
391
お気に入りに追加
3,762
あなたにおすすめの小説
【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています
愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる