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第31話
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伯爵との会話を終えたオクトは、席を立ち部屋を後にして廊下へと出た。そのまま屋敷を出ようと足を進めていた時、ある人物の待ち受けを受けた。
「いらしていたのですね、オクト様!」
「あぁ、レリア様。お邪魔しています」
騎士らしく、麗しいたたずまいのオクトを見て、レリアはその心を弾ませる。
「(オクト様ったら、何度も何度もここを訪れて…。これはもう決まりでしょう!やっぱり私に会いに来られているのよ!私の事を好いてくれているに決まっているわ!)」
「それじゃあ、私はこれで」
「え??」
いったいどんな誘い文句をかけられるのかと期待していたレリア。しかしその期待が裏切られ、オクトはそのまま自分の横を通り過ぎていった。
「(あ~、もしかして恥ずかしいのかしら…。騎士なら鍛錬が忙しくて、女性と遊ぶ時間もないでしょうし。団長ともなればなおさら。そういうところもかわいいじゃない♪)」
去っていくオクトの背中を見つめながら、レリアはこれからの未来をその心に思う。
「(そうよ、はじめからオクト様と結ばれればよかったのよ。ラルクなんて下品な男が現れたから少し気持ちが揺れてしまったけれど、どちらを選ぶかと言われたら圧倒的に騎士団の団長でしょうに。私としたことが、ついうっかり♪)」
…もうすでに自分たちと騎士団との関係が冷え切っていることにも気づかず、のんきな妄想をするレリアだった…。
――――
食事会から戻ったセイラとラルクは、相変わらずのスローライフを送っていた。
「あーあ…。強引に食事会が終わりになったせいで、あの場にいた美しい女性たちとの会話の時間を絶たれてしまった…。なんと悲しむべきことか…」
机に突っ伏し、心の底から残念そうな雰囲気を醸し出すお兄様。レリアの言葉を力強く突っぱねたあの時のお兄様のオーラは、今はかけらも感じられないくらいになっていた。
「いいじゃないですか。お兄様から誘ったって、どうせ断られるだけなのですから。傷つかずに済んだというものです」
「きょ、今日も厳しいなぁ……しかし!!」
「??」
「これを見てくれセイラ!!」
急にテンションを戻したお兄様は、手に持っていた一枚の紙を私の前に提示した。
「なんですかいきなり……。これって…新しい騎士の募集ですか??」
「ああ、これから貴族や王に仕えたいと考える、新しく騎士を目指したい者を募集しているらしい!」
「そ、それがどうしたんですか……?あの、まさかとは思いますけれど…」
「そのまさかだ!!僕はセイラを守る騎士となるべく、応募しようと思うんだ!!」
「はぁ~…」
やっぱりいつものお兄様だ…。
「前だって見ただろう??僕の顔を見ただけで盗賊の奴ら、尻尾を撒いて逃げ出していたじゃないか!才能があるんだよ僕には!セイラもそう思うだろう!」
どや顔で腕を組み、普段のように調子のいいことを考え始めるお兄様。あれはいろいろな勘違いが重なった結果で……と説明するもの面倒なので、私はただただ静かにお兄様の言葉を聞くことに徹する。
「子供のころから思っていたんだ!僕には誰も知らない、剣の才能があるんじゃないかと!けれどそれを説明するには、昔の話からはじめないといけない!…あれは今から10年くらい前だろうか、その時僕は…」
お兄様の話を適当に聞き流しながら、私はあることを思い出していた。
「(騎士団と言えば……オクト団長様やガラル副団長様は、お元気にされているだろうか?)」
会ったことは数回しかない。私がまだファーラ伯爵のもとにいたころ、婚約の事前挨拶といった形で短い時間だけ話をしたことがある。
「(とはいっても、もう覚えられてもいないだろうなぁ…。騎士団のリーダーともなると、それはそれは美しい女性たちに求婚されるのだろうし…)」
少なくとも彼らにとってみれば私なんて、小さな小さな存在だろう。…次に会ったときは、はじめましての感じで話をした方がいいんだろうか??いやそもそも、もう私が彼らのような階級の人たちに会えるようなことなんてないだろうけれど…。
「そして僕が現れたその時、周りにいた人々は仰天したんだ!あなたはどれだけ力をお持ちなのですかと!それはそれはものすごい景色だった!!」
まだまだお兄様の語るストーリーは終わらないらしい。楽しそうに話をするその姿はなんだかほほえましいので、今日はお兄様を張り倒することはせず、私は最後まで聞き届けることにした。
その時だった。私が想像さえしていなかった人物が、私たちの屋敷を訪れてきたのは…。
「いらしていたのですね、オクト様!」
「あぁ、レリア様。お邪魔しています」
騎士らしく、麗しいたたずまいのオクトを見て、レリアはその心を弾ませる。
「(オクト様ったら、何度も何度もここを訪れて…。これはもう決まりでしょう!やっぱり私に会いに来られているのよ!私の事を好いてくれているに決まっているわ!)」
「それじゃあ、私はこれで」
「え??」
いったいどんな誘い文句をかけられるのかと期待していたレリア。しかしその期待が裏切られ、オクトはそのまま自分の横を通り過ぎていった。
「(あ~、もしかして恥ずかしいのかしら…。騎士なら鍛錬が忙しくて、女性と遊ぶ時間もないでしょうし。団長ともなればなおさら。そういうところもかわいいじゃない♪)」
去っていくオクトの背中を見つめながら、レリアはこれからの未来をその心に思う。
「(そうよ、はじめからオクト様と結ばれればよかったのよ。ラルクなんて下品な男が現れたから少し気持ちが揺れてしまったけれど、どちらを選ぶかと言われたら圧倒的に騎士団の団長でしょうに。私としたことが、ついうっかり♪)」
…もうすでに自分たちと騎士団との関係が冷え切っていることにも気づかず、のんきな妄想をするレリアだった…。
――――
食事会から戻ったセイラとラルクは、相変わらずのスローライフを送っていた。
「あーあ…。強引に食事会が終わりになったせいで、あの場にいた美しい女性たちとの会話の時間を絶たれてしまった…。なんと悲しむべきことか…」
机に突っ伏し、心の底から残念そうな雰囲気を醸し出すお兄様。レリアの言葉を力強く突っぱねたあの時のお兄様のオーラは、今はかけらも感じられないくらいになっていた。
「いいじゃないですか。お兄様から誘ったって、どうせ断られるだけなのですから。傷つかずに済んだというものです」
「きょ、今日も厳しいなぁ……しかし!!」
「??」
「これを見てくれセイラ!!」
急にテンションを戻したお兄様は、手に持っていた一枚の紙を私の前に提示した。
「なんですかいきなり……。これって…新しい騎士の募集ですか??」
「ああ、これから貴族や王に仕えたいと考える、新しく騎士を目指したい者を募集しているらしい!」
「そ、それがどうしたんですか……?あの、まさかとは思いますけれど…」
「そのまさかだ!!僕はセイラを守る騎士となるべく、応募しようと思うんだ!!」
「はぁ~…」
やっぱりいつものお兄様だ…。
「前だって見ただろう??僕の顔を見ただけで盗賊の奴ら、尻尾を撒いて逃げ出していたじゃないか!才能があるんだよ僕には!セイラもそう思うだろう!」
どや顔で腕を組み、普段のように調子のいいことを考え始めるお兄様。あれはいろいろな勘違いが重なった結果で……と説明するもの面倒なので、私はただただ静かにお兄様の言葉を聞くことに徹する。
「子供のころから思っていたんだ!僕には誰も知らない、剣の才能があるんじゃないかと!けれどそれを説明するには、昔の話からはじめないといけない!…あれは今から10年くらい前だろうか、その時僕は…」
お兄様の話を適当に聞き流しながら、私はあることを思い出していた。
「(騎士団と言えば……オクト団長様やガラル副団長様は、お元気にされているだろうか?)」
会ったことは数回しかない。私がまだファーラ伯爵のもとにいたころ、婚約の事前挨拶といった形で短い時間だけ話をしたことがある。
「(とはいっても、もう覚えられてもいないだろうなぁ…。騎士団のリーダーともなると、それはそれは美しい女性たちに求婚されるのだろうし…)」
少なくとも彼らにとってみれば私なんて、小さな小さな存在だろう。…次に会ったときは、はじめましての感じで話をした方がいいんだろうか??いやそもそも、もう私が彼らのような階級の人たちに会えるようなことなんてないだろうけれど…。
「そして僕が現れたその時、周りにいた人々は仰天したんだ!あなたはどれだけ力をお持ちなのですかと!それはそれはものすごい景色だった!!」
まだまだお兄様の語るストーリーは終わらないらしい。楽しそうに話をするその姿はなんだかほほえましいので、今日はお兄様を張り倒することはせず、私は最後まで聞き届けることにした。
その時だった。私が想像さえしていなかった人物が、私たちの屋敷を訪れてきたのは…。
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