19 / 98
第19話
しおりを挟む
レリアの姿を見た伯爵は、それまでの悲観的な表情を吹き飛ばし、一転して満ち足りた表情を浮かべた。
「待っていてくれたのかいレリア!」
「当然ですわ!だって一秒でも早く伯爵様にお会いしたかったのですから!」
ライオネルにこってり絞られた反動からか、伯爵はすぐさまレリアに抱き着いて自分の心を癒し始める。
そんな二人の姿を見て、レーチスは静かにその場を後にしていった…。
「伯爵様、ライオネル様のお話とはなんだったのですか?」
「あ、ああ…」
愛しのレリアの前ではいい格好をしたい伯爵に、ありのままを話すことなどできるはずもなかった。
「ど、どうやらセイラには味方をする謎の男がついているらしいんだ…。そいつのせいで、レーチスの計画が邪魔されたのだと…。話によると、相当な実力者らしい…」
「へぇ…」
相当な実力者で、セイラに気を許す男。その言葉を聞いたレリアは、当然のようにその心の中であることを想いつく。
「(そんなに強い男が味方をしているだなんて…。もしかして、どこかの有力な貴族の息子だったりするのかしら?それくらい優良物件だったら、私のものにしてしまいたいわね…♪)」
かつてセイラの元を訪れた際、レリアはラルクの顔は見ているはずだったが、やはり興味を持たない彼の事は印象として残らなかったらしく、覚えてもいないらしい。
「ねぇ伯爵様、その男の話をもっと詳しく聞かせていただけませんか?セイラがそれほどに入れ込む相手がどこの誰なのか、気になってしまいます」
それは建前であり、その内心では…
「(もちろんそんなのはうそ。もしもその相手がこんなゴミ伯爵よりもかっこのいい使える男だったら、私が寝取ってやるんだから♪)」
こうしてレリアは、そのターゲットをラルクへと向けるのだった…。
――――
一方のセイラとラルクは、ある意味大変な日々を送っていた。というのも…
「あ、あいつらこの辺りじゃ有名な3人組だったが…。それをたった一人でねじ伏せたというのは本当ですか!!」
「お、俺はあいつらに家族を大変な目にあわされたんだ…!仕返しをしてくれたこと、本当に感謝しているよ!!」
「ぜひ今度、彼らを破ったあなたのその体術を教えてほしい!!」
目をキラキラと輝かせる人々に囲まれているのは、セイラ…ではなく…。
「いやいやそれほどでもありませんとも!!!まさかさまさか…!こんな急にこの僕の時代が訪れることになろうとは…!!!」
うっきうきな様子で人々の歓声に答えるのは、同じくその表情を輝かせるラルクであった。
「(まったくお兄様ったら…。すぐ調子に乗るんだから…)」
一方のセイラは、そんなラルクの事をジト目で見つめる。
どうしてこんなことになっているかというと、3人組がレーチスに対して語った言い訳がそのまま噂話として広まっていき、結果としてこれほどまでに大きく知れ渡ることとなってしまったためだった。
あの3人組はこれまでに、人々から嫌われるような仕事を数々こなしてきていた。そしてそれに歯向かおうとする者がいたなら、暴力を用いて一方的に鎮圧を図っていた。それはたとえ相手が女子供であろうとも変わらず…。
そんな憎むべき3人組をたった一人で蹴散らしたラルクという存在が、人々からもてはやされないはずがなかった。
「いやいやみんなありがとう!!これからもみんなのために頑張らせてもらうからね!!」
「ぜひ私と付き合って!!!あなたのような勇敢な方と結ばれたいの!!」
「か、彼と結ばれるのは私よ!!」
「なによなによ!私はずっと前から彼の事を追ってたんだから、私の方が結ばれるべきよ!!」
「いや~、モテる男というのも大変だなぁ~。今度神様に、僕の分身を作ってもらうよう頼まなくっちゃいけないなぁ~♪」
「はぁ~…お兄様、もうこのあたりで…」
調子に乗るラルクを、いつものようにノックダウンさせようかとセイラが考えていた時、一人の女の子が駆け足でラルクの前に姿をあらわした。
「これ、あげる!!」
そう言って女の子が差し出したのは、小さな石を連ねて作られた可愛らしいブレスレットだった。ラルクはその場に身をかがめ、女の子と同じ目線をとる。
「私のお母さん、前にあいつらに連れていかれたの…。けど、昨日帰ってきたんだよ!お母さんの話だと、あいつら急に自分たちの基地から逃げ出していったんだって!だから、そのお礼!」
心の底から浮かべているであろう、その明るい笑み。ラルクは朗らかな表情で、差し出された贈り物を丁寧に受け取った。そこには、ついさっきまでのお調子者の雰囲気はかけらもなく、むしろ紳士的な様子さえ感じられた。
「ありがとう、ずっとずっと大切にするよ。…けれど、本当にすごいのは僕じゃないんだよ?」
「すごいに決まってるよ!だから、将来私が結婚してあげる!」
突然の電撃告白を行ったと思えば、その女の子は足早にその場を後にしていった。
「告白されちゃいましたね、お兄様♪」
「こ、こまったなぁ…」
二人は、特にラルクはこのような様子で、日を追うごとに有名人になっていった。
そしてこの騒ぎは瞬く間に貴族家たちの耳にも入ることとなり、ラルクが信じられないほどの強さを持っているという噂は、日に日に真実であるかのように語られていく…。
「待っていてくれたのかいレリア!」
「当然ですわ!だって一秒でも早く伯爵様にお会いしたかったのですから!」
ライオネルにこってり絞られた反動からか、伯爵はすぐさまレリアに抱き着いて自分の心を癒し始める。
そんな二人の姿を見て、レーチスは静かにその場を後にしていった…。
「伯爵様、ライオネル様のお話とはなんだったのですか?」
「あ、ああ…」
愛しのレリアの前ではいい格好をしたい伯爵に、ありのままを話すことなどできるはずもなかった。
「ど、どうやらセイラには味方をする謎の男がついているらしいんだ…。そいつのせいで、レーチスの計画が邪魔されたのだと…。話によると、相当な実力者らしい…」
「へぇ…」
相当な実力者で、セイラに気を許す男。その言葉を聞いたレリアは、当然のようにその心の中であることを想いつく。
「(そんなに強い男が味方をしているだなんて…。もしかして、どこかの有力な貴族の息子だったりするのかしら?それくらい優良物件だったら、私のものにしてしまいたいわね…♪)」
かつてセイラの元を訪れた際、レリアはラルクの顔は見ているはずだったが、やはり興味を持たない彼の事は印象として残らなかったらしく、覚えてもいないらしい。
「ねぇ伯爵様、その男の話をもっと詳しく聞かせていただけませんか?セイラがそれほどに入れ込む相手がどこの誰なのか、気になってしまいます」
それは建前であり、その内心では…
「(もちろんそんなのはうそ。もしもその相手がこんなゴミ伯爵よりもかっこのいい使える男だったら、私が寝取ってやるんだから♪)」
こうしてレリアは、そのターゲットをラルクへと向けるのだった…。
――――
一方のセイラとラルクは、ある意味大変な日々を送っていた。というのも…
「あ、あいつらこの辺りじゃ有名な3人組だったが…。それをたった一人でねじ伏せたというのは本当ですか!!」
「お、俺はあいつらに家族を大変な目にあわされたんだ…!仕返しをしてくれたこと、本当に感謝しているよ!!」
「ぜひ今度、彼らを破ったあなたのその体術を教えてほしい!!」
目をキラキラと輝かせる人々に囲まれているのは、セイラ…ではなく…。
「いやいやそれほどでもありませんとも!!!まさかさまさか…!こんな急にこの僕の時代が訪れることになろうとは…!!!」
うっきうきな様子で人々の歓声に答えるのは、同じくその表情を輝かせるラルクであった。
「(まったくお兄様ったら…。すぐ調子に乗るんだから…)」
一方のセイラは、そんなラルクの事をジト目で見つめる。
どうしてこんなことになっているかというと、3人組がレーチスに対して語った言い訳がそのまま噂話として広まっていき、結果としてこれほどまでに大きく知れ渡ることとなってしまったためだった。
あの3人組はこれまでに、人々から嫌われるような仕事を数々こなしてきていた。そしてそれに歯向かおうとする者がいたなら、暴力を用いて一方的に鎮圧を図っていた。それはたとえ相手が女子供であろうとも変わらず…。
そんな憎むべき3人組をたった一人で蹴散らしたラルクという存在が、人々からもてはやされないはずがなかった。
「いやいやみんなありがとう!!これからもみんなのために頑張らせてもらうからね!!」
「ぜひ私と付き合って!!!あなたのような勇敢な方と結ばれたいの!!」
「か、彼と結ばれるのは私よ!!」
「なによなによ!私はずっと前から彼の事を追ってたんだから、私の方が結ばれるべきよ!!」
「いや~、モテる男というのも大変だなぁ~。今度神様に、僕の分身を作ってもらうよう頼まなくっちゃいけないなぁ~♪」
「はぁ~…お兄様、もうこのあたりで…」
調子に乗るラルクを、いつものようにノックダウンさせようかとセイラが考えていた時、一人の女の子が駆け足でラルクの前に姿をあらわした。
「これ、あげる!!」
そう言って女の子が差し出したのは、小さな石を連ねて作られた可愛らしいブレスレットだった。ラルクはその場に身をかがめ、女の子と同じ目線をとる。
「私のお母さん、前にあいつらに連れていかれたの…。けど、昨日帰ってきたんだよ!お母さんの話だと、あいつら急に自分たちの基地から逃げ出していったんだって!だから、そのお礼!」
心の底から浮かべているであろう、その明るい笑み。ラルクは朗らかな表情で、差し出された贈り物を丁寧に受け取った。そこには、ついさっきまでのお調子者の雰囲気はかけらもなく、むしろ紳士的な様子さえ感じられた。
「ありがとう、ずっとずっと大切にするよ。…けれど、本当にすごいのは僕じゃないんだよ?」
「すごいに決まってるよ!だから、将来私が結婚してあげる!」
突然の電撃告白を行ったと思えば、その女の子は足早にその場を後にしていった。
「告白されちゃいましたね、お兄様♪」
「こ、こまったなぁ…」
二人は、特にラルクはこのような様子で、日を追うごとに有名人になっていった。
そしてこの騒ぎは瞬く間に貴族家たちの耳にも入ることとなり、ラルクが信じられないほどの強さを持っているという噂は、日に日に真実であるかのように語られていく…。
579
お気に入りに追加
3,685
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる