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第18話
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重く厳かで、息をすることさえも苦しさを感じさせるライオネル上級伯爵の自室。そこに呼び出しを受けたのは、レーチスだけでなくファーラも同じだった。
二人は扉の前で顔を合わせ、会話を始める。
「は、伯爵様も呼び出しを受けたのですか…?」
「な、なんだお前もか…。ま、まさか僕に黙って何か余計な事をしたわけではないだろうな!?」
「(うっ!?)」
”余計な事”に心当たりしかないレーチスはその心臓をドキリとさせたが、それを表に出すわけにはいかなかった…。
「も、もちろんそんなことはございませんとも…。は、伯爵様の方こそ、なにかまたお父様のご機嫌を損ねるようなことをされたのではないですか?」
「(うっ!?)」
そしてファーラもまた、心当たりを挙げればきりがなかった…。レリアとの関係ばかりを優先し、セイラをみすみす家出させてしまった事、以前にあると言っていた婚約誓書をなくしてしまっていること、さらには今に至るまでセイラとの関係を修復できていない事…。
しかしファーラもまた、その心を表に出すことなどできるはずもなく…。
「な、なにを言うか!?そんな事があるはずなかろう!?」
互いに察知されたくない思いを抱えながら、いざライオネルの待つ部屋の中へと足を進めるのだった…。
――――
「…」
「…」
「…」
机を挟んで向かい合う3人。ライオネルに対して、ファーラとレーチスは隣に並んで腰掛ける。しばらく無言の時間が続いたのち、最初に口を開いたのはライオネルの方だった。
「…一体なんでこんなことになっているのか、説明してもらおうか…?」
「「(ひっ!?)」」
心当たりしかない二人は、低く鋭いその声を聞いて心を震え上がらせる…。
「ち、父上…?いったい何のことでしょうか?」
「わ、わたくしも…。全く何のことか…」
「そうか、分からないか。それじゃあ順を追って聞いていくことにしよう」
二人にとって生きた心地のしない尋問の時間が、たった今始まった。
「ファーラよ。セイラとの婚約の話はどうなっているんだ?あれから全く進展がみられないが?」
「そ、それにつきましては…。お、思った以上にセイラが頑固でして…。僕の言う事を全く聞かないばかりか、一方的なわがままばかり繰り返しておりまして…」
「ほう。伯爵ともあろうお前が、セイラ一人に振り回されていると?」
「も、申し訳ございません…。で、ですがご安心ください!必ずやセイラの心はわがものとしてみせます!伯爵としてミスなどしませんとも!」
「前にも同じことを聞いたが?」
「う…」
冷や汗をだらだらと流しながら、手先を震わせる伯爵。セイラに対する高圧的な態度とはまるで正反対だ。
「話はそれだけではない。なんでも、騎士団が我々の事に目をつけているという噂を耳にしたが…。それはどういうことだ?」
「(ギクッ!!!)」
ファーラに続き、内臓が飛び跳ねるほどの衝撃を感じたであろうレーチス。一方でそのことは初耳のファーラ。
「な、なんのことですかそれは?騎士団に目を付けられる?」
「騎士団に通じる者からの情報だが…。荒らされたセイラの部屋を見られたそうだな、レーチス?」
「っ!?」
鋭い眼光を向けられ、信じられないほどに委縮してしまうレーチス。しかしこの場において責められているのは間違いなくレーチスなのだが、ファーラの方もまたその体を震わせている様子…。
「ま、まさか…荒らされた部屋って…」
そう、セイラの部屋を怒りに任せて荒らしたのは他でもないファーラだった。だからこそその部屋を騎士に見られてしまったという事実に、体の底から震えが止まらなくなる…。
「そ、そんなはず…あ、あの部屋を見られたなんて…ま、まさか…!?」
そして前回セイラの部屋で感情を爆発させた時と同じく、伯爵の焦りは怒りへを変わっていき、近くに位置する者へとぶつけられる…。
「レーチス貴様!!!!なんてことをしてくれたんだ!!!なぜあの部屋をわざわざ騎士に見せたんだ!!!」
「ひっ!?!?」
自分が部屋を荒らしたことなど棚にあげ、レーチスにつかみかかるファーラ。
「これは由々しき事態だぞ!!!これまで父上が築き上げた伯爵家と騎士団との関係…。それを一瞬のうちに崩壊させるつもりなのか貴様!!!」
「二人とも大馬鹿者がぁっ!!!!!!」
「「っっ!!!」」
ファーラがそのこぶしを突き上げたタイミングで、恐ろしいほどの大声を上げたライオネル。その気迫の前に、二人とも一瞬のうちにその体を小さくしてしまう。
「お前たちはそろいもそろって今まで何をしていたというんだ!!!文字通りこの伯爵家を滅ぼすつもりなのか!!!」
「「も、申し訳ございません!!!!!!」」
言い訳など許される雰囲気になく、ただただ二人はその頭を下げて詫びるほかなかった。
「…相手は聖女なのであろう?戦い方を誤ればこちらの方が滅ぼされてしまうぞ…?」
ライオネルの発したその言葉は、ファーラにとっては意外なものだった。
「ち、父上…。そのことをご存じだったのですか…?セイラが聖女かもしれないという話…」
「当たり前だ。その程度の情報も持っていなくてなんとするか」
「さ、さすがはライオネル様…!」
「…まぁここには、無謀にも聖女かもしれない存在に力での連れ戻しを挑んだ者もいるらしいが…?」
「っ!?」
ドキリと心臓を震わせるレーチス。彼はなんとか勇気を振り絞り、言い訳の言葉を並べ始めた。
「ち、違うのですライオネル様!!セイラを連れ戻す計画はうまくいっていたのです!!しかし彼女に味方をしている強大な力を持つ男に、はばまれてしまったのです!」
そんなことは全くないのだが、レーチスはそうだと信じ切っている。
「お、男にはばまれただって…!?」
再びファーラはレーチスにらみ上げるが、もはや取っ組み合うだけの気力は残っていなかった様子。当のライオネルも、レーチスの話に返事はしなかった。
「まったく…。騎士団の方にはこの私から話を通しておく。下級騎士の目撃情報など、上級伯爵であるこの私が直接出向いて団長に話をすれば、事態を収めることは簡単であろう」
「おお…!」
自信満々にそう話すライオネルの案に感嘆とするファーラだったものの、部屋を見て行ったのがまさか騎士団団長その人だったとは、さすがのライオネルも考え及ばなかったらしい。
「もう失敗は許さんぞ?どんな手を使ってでもセイラをここに呼び戻し、婚約を完成させよ。さもなくば…分かっているな?」
「「は、はいっ!!!」」
二人はようやく恐怖の尋問から解放され、上級伯爵の部屋を後にした。
…そしてたった一人部屋に残されたライオネルは、その心の中でつぶやいた。
「(…最悪の時は、この私がじきじきに手を打たなければいけないかもしれないな…)」
――――
「まさかお前がこれほど無能な男だったとは…」
「も、申し訳ありません伯爵様…。(お前だって人の事言えないだろうが…。全部私だけのせいにしてきよって…。薄汚い男め…)」
上級伯爵にしぼられた直後であっても、相変わらず自分たちの失態を互いに押し付け合う二人。しかしこれ以上の失敗は許されないという点で、二人の目的は一致していた。
「も、もう四の五の構ってなどいられん…。どんな手を使ってでもセイラを連れ戻さなければ…」
「い、一体どうされるおつもりで?…もうこうなってしまっては、伯爵様が直接…」
「…私がセイラに、すまなかった、戻ってきてほしいと頭を下げればそれで済むのだろうが、あいつにあたまなど絶対に下げたくはない。ここまで腹立たしい思いをさせられては、向こうから謝らせなければ腹の虫がおさまらん」
…もはや謝ったところでセイラに許されるかどうかも疑問であるというのに、それにさえ気づけていない伯爵…。
「伯爵様~!」
これから先の事を考えあぐねていた伯爵のもとに、愛しの人物が姿を現した。
二人は扉の前で顔を合わせ、会話を始める。
「は、伯爵様も呼び出しを受けたのですか…?」
「な、なんだお前もか…。ま、まさか僕に黙って何か余計な事をしたわけではないだろうな!?」
「(うっ!?)」
”余計な事”に心当たりしかないレーチスはその心臓をドキリとさせたが、それを表に出すわけにはいかなかった…。
「も、もちろんそんなことはございませんとも…。は、伯爵様の方こそ、なにかまたお父様のご機嫌を損ねるようなことをされたのではないですか?」
「(うっ!?)」
そしてファーラもまた、心当たりを挙げればきりがなかった…。レリアとの関係ばかりを優先し、セイラをみすみす家出させてしまった事、以前にあると言っていた婚約誓書をなくしてしまっていること、さらには今に至るまでセイラとの関係を修復できていない事…。
しかしファーラもまた、その心を表に出すことなどできるはずもなく…。
「な、なにを言うか!?そんな事があるはずなかろう!?」
互いに察知されたくない思いを抱えながら、いざライオネルの待つ部屋の中へと足を進めるのだった…。
――――
「…」
「…」
「…」
机を挟んで向かい合う3人。ライオネルに対して、ファーラとレーチスは隣に並んで腰掛ける。しばらく無言の時間が続いたのち、最初に口を開いたのはライオネルの方だった。
「…一体なんでこんなことになっているのか、説明してもらおうか…?」
「「(ひっ!?)」」
心当たりしかない二人は、低く鋭いその声を聞いて心を震え上がらせる…。
「ち、父上…?いったい何のことでしょうか?」
「わ、わたくしも…。全く何のことか…」
「そうか、分からないか。それじゃあ順を追って聞いていくことにしよう」
二人にとって生きた心地のしない尋問の時間が、たった今始まった。
「ファーラよ。セイラとの婚約の話はどうなっているんだ?あれから全く進展がみられないが?」
「そ、それにつきましては…。お、思った以上にセイラが頑固でして…。僕の言う事を全く聞かないばかりか、一方的なわがままばかり繰り返しておりまして…」
「ほう。伯爵ともあろうお前が、セイラ一人に振り回されていると?」
「も、申し訳ございません…。で、ですがご安心ください!必ずやセイラの心はわがものとしてみせます!伯爵としてミスなどしませんとも!」
「前にも同じことを聞いたが?」
「う…」
冷や汗をだらだらと流しながら、手先を震わせる伯爵。セイラに対する高圧的な態度とはまるで正反対だ。
「話はそれだけではない。なんでも、騎士団が我々の事に目をつけているという噂を耳にしたが…。それはどういうことだ?」
「(ギクッ!!!)」
ファーラに続き、内臓が飛び跳ねるほどの衝撃を感じたであろうレーチス。一方でそのことは初耳のファーラ。
「な、なんのことですかそれは?騎士団に目を付けられる?」
「騎士団に通じる者からの情報だが…。荒らされたセイラの部屋を見られたそうだな、レーチス?」
「っ!?」
鋭い眼光を向けられ、信じられないほどに委縮してしまうレーチス。しかしこの場において責められているのは間違いなくレーチスなのだが、ファーラの方もまたその体を震わせている様子…。
「ま、まさか…荒らされた部屋って…」
そう、セイラの部屋を怒りに任せて荒らしたのは他でもないファーラだった。だからこそその部屋を騎士に見られてしまったという事実に、体の底から震えが止まらなくなる…。
「そ、そんなはず…あ、あの部屋を見られたなんて…ま、まさか…!?」
そして前回セイラの部屋で感情を爆発させた時と同じく、伯爵の焦りは怒りへを変わっていき、近くに位置する者へとぶつけられる…。
「レーチス貴様!!!!なんてことをしてくれたんだ!!!なぜあの部屋をわざわざ騎士に見せたんだ!!!」
「ひっ!?!?」
自分が部屋を荒らしたことなど棚にあげ、レーチスにつかみかかるファーラ。
「これは由々しき事態だぞ!!!これまで父上が築き上げた伯爵家と騎士団との関係…。それを一瞬のうちに崩壊させるつもりなのか貴様!!!」
「二人とも大馬鹿者がぁっ!!!!!!」
「「っっ!!!」」
ファーラがそのこぶしを突き上げたタイミングで、恐ろしいほどの大声を上げたライオネル。その気迫の前に、二人とも一瞬のうちにその体を小さくしてしまう。
「お前たちはそろいもそろって今まで何をしていたというんだ!!!文字通りこの伯爵家を滅ぼすつもりなのか!!!」
「「も、申し訳ございません!!!!!!」」
言い訳など許される雰囲気になく、ただただ二人はその頭を下げて詫びるほかなかった。
「…相手は聖女なのであろう?戦い方を誤ればこちらの方が滅ぼされてしまうぞ…?」
ライオネルの発したその言葉は、ファーラにとっては意外なものだった。
「ち、父上…。そのことをご存じだったのですか…?セイラが聖女かもしれないという話…」
「当たり前だ。その程度の情報も持っていなくてなんとするか」
「さ、さすがはライオネル様…!」
「…まぁここには、無謀にも聖女かもしれない存在に力での連れ戻しを挑んだ者もいるらしいが…?」
「っ!?」
ドキリと心臓を震わせるレーチス。彼はなんとか勇気を振り絞り、言い訳の言葉を並べ始めた。
「ち、違うのですライオネル様!!セイラを連れ戻す計画はうまくいっていたのです!!しかし彼女に味方をしている強大な力を持つ男に、はばまれてしまったのです!」
そんなことは全くないのだが、レーチスはそうだと信じ切っている。
「お、男にはばまれただって…!?」
再びファーラはレーチスにらみ上げるが、もはや取っ組み合うだけの気力は残っていなかった様子。当のライオネルも、レーチスの話に返事はしなかった。
「まったく…。騎士団の方にはこの私から話を通しておく。下級騎士の目撃情報など、上級伯爵であるこの私が直接出向いて団長に話をすれば、事態を収めることは簡単であろう」
「おお…!」
自信満々にそう話すライオネルの案に感嘆とするファーラだったものの、部屋を見て行ったのがまさか騎士団団長その人だったとは、さすがのライオネルも考え及ばなかったらしい。
「もう失敗は許さんぞ?どんな手を使ってでもセイラをここに呼び戻し、婚約を完成させよ。さもなくば…分かっているな?」
「「は、はいっ!!!」」
二人はようやく恐怖の尋問から解放され、上級伯爵の部屋を後にした。
…そしてたった一人部屋に残されたライオネルは、その心の中でつぶやいた。
「(…最悪の時は、この私がじきじきに手を打たなければいけないかもしれないな…)」
――――
「まさかお前がこれほど無能な男だったとは…」
「も、申し訳ありません伯爵様…。(お前だって人の事言えないだろうが…。全部私だけのせいにしてきよって…。薄汚い男め…)」
上級伯爵にしぼられた直後であっても、相変わらず自分たちの失態を互いに押し付け合う二人。しかしこれ以上の失敗は許されないという点で、二人の目的は一致していた。
「も、もう四の五の構ってなどいられん…。どんな手を使ってでもセイラを連れ戻さなければ…」
「い、一体どうされるおつもりで?…もうこうなってしまっては、伯爵様が直接…」
「…私がセイラに、すまなかった、戻ってきてほしいと頭を下げればそれで済むのだろうが、あいつにあたまなど絶対に下げたくはない。ここまで腹立たしい思いをさせられては、向こうから謝らせなければ腹の虫がおさまらん」
…もはや謝ったところでセイラに許されるかどうかも疑問であるというのに、それにさえ気づけていない伯爵…。
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これから先の事を考えあぐねていた伯爵のもとに、愛しの人物が姿を現した。
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