64 / 80
第64話
しおりを挟む
「……」
物音一つなき部屋の中で、グローリアはただ静かに自身の机に向かい、瞳を閉じて彼らの訪れを待っていた。
もたらされた知らせが示す予定到着時刻は、もう間もなくである。
「(クライン、ラクス侯爵、本当によくやってくれた。これでまもなく、すべてに決着を…。そして、セシリアと…)」
グローリアが何よりも望んでいたこと、それは当然、最愛の娘であるセシリアとの再会を果たすことであった。
しかし、彼女をひどい目に合わせた旧王制派の人間を野放しにしておいたまま彼女と再会を果たすことは、自分を責め続けていたグローリアにはできないことだった。
セシリアとの再会という至上の喜びの時間は、すべての敵を仕留めた後で享受しなければならないのだと、グローリアは、さらに言えばクラインも自分の心に言い聞かせ続けていた。
コンコンコン
「グローリア様、例の者たちを載せた馬車がたった今到着いたしました」
「よし、分かった」
扉越しに、皇帝使用人が冷静な口調でグローリアにそう言葉を告げる。
「いかがなさいますか?このまま即刻全員を処分とされますか?」
「いや、この部屋に連れてきてくれ」
「こ、こちらにでございますか??」
グローリアから予想外の言葉を放たれた使用人は、やや驚きを隠せない。
「リーゲル、その妻のセレスティン、そしてその娘のマイア。私は彼らに聞きたいことがある。その3人だけこの部屋に連れてきてくれ」
「しょ、承知いたしました…」
使用人は恐る恐るといった雰囲気でグローリアからの言葉を聞き届け、そのまま命令を実現する準備に移る。
そしてグローリアもまた、いよいよすべてに決着をつけるべく3人を迎え入れる準備にとりかかるのだった。
――――
コンコンコン
「グローリア様、お呼びになられた3人を連れてまいりました」
「…よし、入れ」
「失礼します」
グローリアからの返事を聞き届けた後、使用人はゆっくりと部屋の扉を開け、リーゲルたちを皇帝と対面させる最後の仕切りを開放する。
そして一歩、また一歩と部屋の中に足を踏み入れていき、ついに皇帝グローリアとリーゲル一家は全員が揃っての対面を果たした。
「リーゲルは以前に会ったことがあるが、二人は初めてだな。それじゃあ改めて」
グローリアはすさまじい威圧感を放ちながら、それでいて気品あふれる厳かなオーラを放ちながら、自らの自己紹介を行う。
「私こそが皇帝グローリア・ヘルツ。セシリア・ヘルツの父にして、この国の頂点に立つものである」
「「…!」」
誰しもが押しつぶされてしまうそうになる強大なプレッシャーを感じさせられ、3人はそろって自身の体を震え上がらせる…。
マイアとセレスティンはグローリアに会う早々、なにか弁明の言葉を発しようとしたらしいが、すさまじいその雰囲気を肌で感じ、結局何の言葉を口にすることもできないでいた。
「まぁそう固くなる必要はない。リーゲル、お前が旧王制派の仲間をまとめてつてれてきてくれたおかげで、時間はいくらでもあるんだ。たっぷり話を聞かせてもらおうじゃないか」
「ひっ…!」
グローリアはそう言いながら、リーゲルの事を鋭い視線でにらみつける。
…そしてもはやリーゲルに、グローリアの事を睨み返すほどの気力や勇気など、残ってはいなかった。
「さて、まず最初にこれだけ言っておく。すべてを正直に話せ。お前たちが今までセシリアに何をしたのか、セシリアはそれにどんな表情をして、どんな言葉を返したのか。そのすべてを正直に話せ。…せっかくここには3人もの証人がいるのだ。最初に事実をありのまま話した者の事は、他の2人よりも軽い処分とすることをここに約束しよう」
「「っ!!」」
グローリアがそう言葉をかけた刹那、それまで死んだ動物のような目つきをしていた3人が、途端にその表情に色を付ける。
…それぞれがその心の中で、このような思いと考えを抱いていた。
「(俺はこの3人の中で、セシリアに関するすべてを知る者…。ともに暮らした時間も一番長い…。ということは、俺が知っていることのすべてを正直に話したなら、おのずと助かるのは俺になるんじゃないだろうか…!)」
「(大丈夫よ、落ち着きなさいマイア…。私がこの中で一番若いんだから、きっとグローリア様だって私の事を一番に許してくれるはず…。お姉様の事をいじめてたのだって、この中で言えば私が一番なにもしてないんだから、この2人よりも悪く言われる筋合いはないもの…!)」
「(そもそも私は無関係じゃない…!私はリーゲルに騙されて再婚させられて、彼が勝手にセシリアの事をいじめてたから一緒になってやっただけで、悪いのは全部この男じゃない…!私とマイアは巻き込まれただけだってこと、聡明なグローリア様なら絶対にわかってくれるはず…!)」
ここまで来てしまった以上、もはや隠し事は不可能。
しかしただ正直にすべてを話したところで、許されるはずもない。
そんな状況においてグローリアの発した言葉は、甘い蜜のように3人の体の中にねっとりと溶け込んでいき、そのあまたの中を誘惑するには十分な力を持っていた。
「さぁ、話を始めよう」
そしてついに、最後の審判の時間が幕を開けたのだった。
物音一つなき部屋の中で、グローリアはただ静かに自身の机に向かい、瞳を閉じて彼らの訪れを待っていた。
もたらされた知らせが示す予定到着時刻は、もう間もなくである。
「(クライン、ラクス侯爵、本当によくやってくれた。これでまもなく、すべてに決着を…。そして、セシリアと…)」
グローリアが何よりも望んでいたこと、それは当然、最愛の娘であるセシリアとの再会を果たすことであった。
しかし、彼女をひどい目に合わせた旧王制派の人間を野放しにしておいたまま彼女と再会を果たすことは、自分を責め続けていたグローリアにはできないことだった。
セシリアとの再会という至上の喜びの時間は、すべての敵を仕留めた後で享受しなければならないのだと、グローリアは、さらに言えばクラインも自分の心に言い聞かせ続けていた。
コンコンコン
「グローリア様、例の者たちを載せた馬車がたった今到着いたしました」
「よし、分かった」
扉越しに、皇帝使用人が冷静な口調でグローリアにそう言葉を告げる。
「いかがなさいますか?このまま即刻全員を処分とされますか?」
「いや、この部屋に連れてきてくれ」
「こ、こちらにでございますか??」
グローリアから予想外の言葉を放たれた使用人は、やや驚きを隠せない。
「リーゲル、その妻のセレスティン、そしてその娘のマイア。私は彼らに聞きたいことがある。その3人だけこの部屋に連れてきてくれ」
「しょ、承知いたしました…」
使用人は恐る恐るといった雰囲気でグローリアからの言葉を聞き届け、そのまま命令を実現する準備に移る。
そしてグローリアもまた、いよいよすべてに決着をつけるべく3人を迎え入れる準備にとりかかるのだった。
――――
コンコンコン
「グローリア様、お呼びになられた3人を連れてまいりました」
「…よし、入れ」
「失礼します」
グローリアからの返事を聞き届けた後、使用人はゆっくりと部屋の扉を開け、リーゲルたちを皇帝と対面させる最後の仕切りを開放する。
そして一歩、また一歩と部屋の中に足を踏み入れていき、ついに皇帝グローリアとリーゲル一家は全員が揃っての対面を果たした。
「リーゲルは以前に会ったことがあるが、二人は初めてだな。それじゃあ改めて」
グローリアはすさまじい威圧感を放ちながら、それでいて気品あふれる厳かなオーラを放ちながら、自らの自己紹介を行う。
「私こそが皇帝グローリア・ヘルツ。セシリア・ヘルツの父にして、この国の頂点に立つものである」
「「…!」」
誰しもが押しつぶされてしまうそうになる強大なプレッシャーを感じさせられ、3人はそろって自身の体を震え上がらせる…。
マイアとセレスティンはグローリアに会う早々、なにか弁明の言葉を発しようとしたらしいが、すさまじいその雰囲気を肌で感じ、結局何の言葉を口にすることもできないでいた。
「まぁそう固くなる必要はない。リーゲル、お前が旧王制派の仲間をまとめてつてれてきてくれたおかげで、時間はいくらでもあるんだ。たっぷり話を聞かせてもらおうじゃないか」
「ひっ…!」
グローリアはそう言いながら、リーゲルの事を鋭い視線でにらみつける。
…そしてもはやリーゲルに、グローリアの事を睨み返すほどの気力や勇気など、残ってはいなかった。
「さて、まず最初にこれだけ言っておく。すべてを正直に話せ。お前たちが今までセシリアに何をしたのか、セシリアはそれにどんな表情をして、どんな言葉を返したのか。そのすべてを正直に話せ。…せっかくここには3人もの証人がいるのだ。最初に事実をありのまま話した者の事は、他の2人よりも軽い処分とすることをここに約束しよう」
「「っ!!」」
グローリアがそう言葉をかけた刹那、それまで死んだ動物のような目つきをしていた3人が、途端にその表情に色を付ける。
…それぞれがその心の中で、このような思いと考えを抱いていた。
「(俺はこの3人の中で、セシリアに関するすべてを知る者…。ともに暮らした時間も一番長い…。ということは、俺が知っていることのすべてを正直に話したなら、おのずと助かるのは俺になるんじゃないだろうか…!)」
「(大丈夫よ、落ち着きなさいマイア…。私がこの中で一番若いんだから、きっとグローリア様だって私の事を一番に許してくれるはず…。お姉様の事をいじめてたのだって、この中で言えば私が一番なにもしてないんだから、この2人よりも悪く言われる筋合いはないもの…!)」
「(そもそも私は無関係じゃない…!私はリーゲルに騙されて再婚させられて、彼が勝手にセシリアの事をいじめてたから一緒になってやっただけで、悪いのは全部この男じゃない…!私とマイアは巻き込まれただけだってこと、聡明なグローリア様なら絶対にわかってくれるはず…!)」
ここまで来てしまった以上、もはや隠し事は不可能。
しかしただ正直にすべてを話したところで、許されるはずもない。
そんな状況においてグローリアの発した言葉は、甘い蜜のように3人の体の中にねっとりと溶け込んでいき、そのあまたの中を誘惑するには十分な力を持っていた。
「さぁ、話を始めよう」
そしてついに、最後の審判の時間が幕を開けたのだった。
350
お気に入りに追加
2,267
あなたにおすすめの小説
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
嫌われ者の側妃はのんびり暮らしたい
風見ゆうみ
恋愛
「オレのタイプじゃないんだよ。地味過ぎて顔も見たくない。だから、お前は側妃だ」
顔だけは良い皇帝陛下は、自らが正妃にしたいと希望した私を側妃にして別宮に送り、正妃は私の妹にすると言う。
裏表のあるの妹のお世話はもううんざり!
側妃は私以外にもいるし、面倒なことは任せて、私はのんびり自由に暮らすわ!
そう思っていたのに、別宮には皇帝陛下の腹違いの弟や、他の側妃とのトラブルはあるし、それだけでなく皇帝陛下は私を妹の毒見役に指定してきて――
それって側妃がやることじゃないでしょう!?
※のんびり暮らしたかった側妃がなんだかんだあって、のんびりできなかったけれど幸せにはなるお話です。
溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。
初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。
梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。
王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。
第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。
常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。
ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。
みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。
そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。
しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。
妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。
「不吉な子」と罵られたので娘を連れて家を出ましたが、どうやら「幸運を呼ぶ子」だったようです。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
マリッサの額にはうっすらと痣がある。
その痣のせいで姑に嫌われ、生まれた娘にも同じ痣があったことで「気味が悪い!不吉な子に違いない」と言われてしまう。
自分のことは我慢できるが娘を傷つけるのは許せない。そう思ったマリッサは離婚して家を出て、新たな出会いを得て幸せになるが……
【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。
蜜柑
恋愛
メリルはアジュール王国侯爵家の長女。幼いころから妖精の声が聞こえるということで、家族から気味悪がられ、屋敷から出ずにひっそりと暮らしていた。しかし、花の妖精の異名を持つ美しい妹アネッサが王太子と婚約したことで、両親はメリルを一族の恥と思い、人知れず殺そうとした。
妖精たちの助けで屋敷を出たメリルは、時間の止まったような不思議な森の奥の一軒家で暮らす魔術師のアルヴィンと出会い、一緒に暮らすことになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる