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第6話
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――トリガー視点――
「マリン!マリン!!…おかしいな、今日はこの時間に約束したはずなんだが…」
マリンが約束の時間を守らなかったことなど、これまでに一度もない事だった。
僕はそこに違和感を抱きながらも、引き続き周囲に声掛けを続けていく。
「マリン!僕の事を試しているのかい?自分で見つけてみろと言っているのかい?それならその誘いにのってあげるまでだけれど…。マリン??」
そんな軽口を挟みながら、僕は自分の心をごまかす。
しかし、いくら声をあげようともマリンの事を捕まえることができない。
「おかしいな…。彼女は僕の事を相当好いてくれている様子だったし、約束をすっぽかすようには見えないのに…」
僕はここ最近で一番と言ってもいいくらい、一体どうしたものかと頭を悩ませる。
…今日はもうあきらめて引き返してしまった方がいいのだろうか?
彼女も一人の人間なのだから、約束を忘れてしまうことだってあり得ないわけではないはず。
…もちろんそうとわかったところでこのもやもやが晴れるわけではないけれど、だからといってこの場所に居続けることほど無駄に思えることはない。
「今日は引き返すか…。あまり気は進まないが、フローラルのやつに相手をしてもらうか…」
マリンとの時間を返上してそれをフローラルとの時間に充てるなど、正直かなり嫌な事ではある。
しかしたまにはフローラルの相手でもしておかなければ、それこそこの先どんな言葉をかけられるか分からない。
手遅れになる前に、とりあえず彼女のもとに戻っておくべきか…。
「致し方ないか…。それじゃあマリン、また次の日に…」
そう言葉をつぶやき、その場から引き上げようとした僕。
しかしその時、それと同時に複数人の男が僕の背中の方から姿を現した。
「な、なんだ??僕に何か用なのか?」
…その雰囲気から察するに、彼らは王宮に関係する人間だ。
僕はその事を瞬時に理解し、彼らの目的を見抜きにかかる。
…しかし、次の瞬間にはその必要を失わされる…。
「クリティス第一王子様がお呼びです。今すぐ我々と一緒に来てください」
「…??」
…その言葉が差す意味に、僕は心当たりがあった…。
――――
「…な、なんでしょう?クリティス様、僕は毎日を必死に」
「トリガー、お前には心底がっかりした」
「!?!?!?!?」
…がっかり、と言う言葉を聞かされて、背筋が凍らない者などいない。
ましてやその言葉を発した人物が第一王子様ともなれば、その冷たさは他に比較のしようもないほどすさまじいものであり…。
「トリガー、お前には大きな期待とともに、騎士のトップたる立場を与えてきた。…しかし、まさかこんな形で裏切られるとは…。非常に残念であると言わざるを得ないな…」
「ちょ、ちょっと待ってくださいクリティス様!!僕はなにもクリティス様の事を裏切ったような事などしておりません!!なにかの間違いに決まっています!!」
それは僕の心の底からの叫びだった。
僕は本当に、クリティス様の事を裏切るようなことはなにもしていないのだ。
であるならば、今クリティス様が僕に言っている言葉は間違いなくなにかの誤解だということになる。
そこに弁明をしないないはずがない。
…しかし、クリティス様は冷たい表情を変えることなく、刺々しい口調でこう言葉をつぶやいた。
「なにか勘違いしているなトリガー。私がお前に期待していたのは、人々を守護する騎士としての振る舞いというものだ。騎士たるもの、多くの者たちから信頼される手本となるべき存在でなければならない。お前を騎士として任命した時、確かにそう言ったはずだが?」
「そ、それは確かに…き、聞きましたが…」
「にもかかわらず、お前は婚約者としていたフローラルの思いを無下にした。…彼女にかけたお前の言葉、そのすべてを聞かせてもらったが…あれはもう、騎士ではないな。ただの性欲にまみれた不埒《ふらち》な男だ」
「…!?!?!?!?」
…これまで良好な関係を築き上げてきたはずのクリティス様との関係…。
それがまさか、一瞬のうちに…。
「正直、ここでお前と一緒の空気を吸う事さえ私には嫌で仕方がない。私はそういうう輩が本当に嫌いだからだ」
「そ、そんな……」
「告げるべきことはそれだけだ。トリガー、もうお前はこの国に必要はない。さっさと立ち去れ」
「…!?」
…僕はその場に膝から崩れ落ち、あまりのショックに意識を手放してしまったのだった…。
「マリン!マリン!!…おかしいな、今日はこの時間に約束したはずなんだが…」
マリンが約束の時間を守らなかったことなど、これまでに一度もない事だった。
僕はそこに違和感を抱きながらも、引き続き周囲に声掛けを続けていく。
「マリン!僕の事を試しているのかい?自分で見つけてみろと言っているのかい?それならその誘いにのってあげるまでだけれど…。マリン??」
そんな軽口を挟みながら、僕は自分の心をごまかす。
しかし、いくら声をあげようともマリンの事を捕まえることができない。
「おかしいな…。彼女は僕の事を相当好いてくれている様子だったし、約束をすっぽかすようには見えないのに…」
僕はここ最近で一番と言ってもいいくらい、一体どうしたものかと頭を悩ませる。
…今日はもうあきらめて引き返してしまった方がいいのだろうか?
彼女も一人の人間なのだから、約束を忘れてしまうことだってあり得ないわけではないはず。
…もちろんそうとわかったところでこのもやもやが晴れるわけではないけれど、だからといってこの場所に居続けることほど無駄に思えることはない。
「今日は引き返すか…。あまり気は進まないが、フローラルのやつに相手をしてもらうか…」
マリンとの時間を返上してそれをフローラルとの時間に充てるなど、正直かなり嫌な事ではある。
しかしたまにはフローラルの相手でもしておかなければ、それこそこの先どんな言葉をかけられるか分からない。
手遅れになる前に、とりあえず彼女のもとに戻っておくべきか…。
「致し方ないか…。それじゃあマリン、また次の日に…」
そう言葉をつぶやき、その場から引き上げようとした僕。
しかしその時、それと同時に複数人の男が僕の背中の方から姿を現した。
「な、なんだ??僕に何か用なのか?」
…その雰囲気から察するに、彼らは王宮に関係する人間だ。
僕はその事を瞬時に理解し、彼らの目的を見抜きにかかる。
…しかし、次の瞬間にはその必要を失わされる…。
「クリティス第一王子様がお呼びです。今すぐ我々と一緒に来てください」
「…??」
…その言葉が差す意味に、僕は心当たりがあった…。
――――
「…な、なんでしょう?クリティス様、僕は毎日を必死に」
「トリガー、お前には心底がっかりした」
「!?!?!?!?」
…がっかり、と言う言葉を聞かされて、背筋が凍らない者などいない。
ましてやその言葉を発した人物が第一王子様ともなれば、その冷たさは他に比較のしようもないほどすさまじいものであり…。
「トリガー、お前には大きな期待とともに、騎士のトップたる立場を与えてきた。…しかし、まさかこんな形で裏切られるとは…。非常に残念であると言わざるを得ないな…」
「ちょ、ちょっと待ってくださいクリティス様!!僕はなにもクリティス様の事を裏切ったような事などしておりません!!なにかの間違いに決まっています!!」
それは僕の心の底からの叫びだった。
僕は本当に、クリティス様の事を裏切るようなことはなにもしていないのだ。
であるならば、今クリティス様が僕に言っている言葉は間違いなくなにかの誤解だということになる。
そこに弁明をしないないはずがない。
…しかし、クリティス様は冷たい表情を変えることなく、刺々しい口調でこう言葉をつぶやいた。
「なにか勘違いしているなトリガー。私がお前に期待していたのは、人々を守護する騎士としての振る舞いというものだ。騎士たるもの、多くの者たちから信頼される手本となるべき存在でなければならない。お前を騎士として任命した時、確かにそう言ったはずだが?」
「そ、それは確かに…き、聞きましたが…」
「にもかかわらず、お前は婚約者としていたフローラルの思いを無下にした。…彼女にかけたお前の言葉、そのすべてを聞かせてもらったが…あれはもう、騎士ではないな。ただの性欲にまみれた不埒《ふらち》な男だ」
「…!?!?!?!?」
…これまで良好な関係を築き上げてきたはずのクリティス様との関係…。
それがまさか、一瞬のうちに…。
「正直、ここでお前と一緒の空気を吸う事さえ私には嫌で仕方がない。私はそういうう輩が本当に嫌いだからだ」
「そ、そんな……」
「告げるべきことはそれだけだ。トリガー、もうお前はこの国に必要はない。さっさと立ち去れ」
「…!?」
…僕はその場に膝から崩れ落ち、あまりのショックに意識を手放してしまったのだった…。
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