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第14話
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それから数日の時間が経過したそのとき、ある一人の人物が私の住む屋敷を訪れた。
「クレア様、シュルツ侯爵様の姿がお見えでございます」
「わかったわ。私のお部屋に通して差し上げて」
「かしこまりました」
私の言葉を聞き届けると、サリナは召し使いらしい上品な動きで私の前を後にしていった。
私は部屋に掛けられている時計に目をやる。
シュルツ侯爵様、事前に届けられたお手紙に書かれていた通りの時間のお越しだ。
私は鏡に向かい、自分の身なりを確認する。
鏡に映る自分の姿に、相変わらず違和感はあるけれど……それでも数日間ここで暮らしたおかげか、最初よりはこの姿に慣れてきた気がする。
失礼のないよう、最後のチェックを行い、私彼の到着を待った。
…彼が到着するまでのわずかな時間、私は胸の高鳴りを止められなかった…。
そしてそれを自分でも認識して、一段と恥ずかしくなってしまう…。
どうして私がここまで心臓の鼓動を早めているかというと、シュルツ侯爵様はほかでもない、私がただ一人恋した人物だったからだ。
彼は私より2つほど年上の20歳。
まだまだ若いけれど、お父様が亡くなった関係でそのまま侯爵の座につかれたらしい。
若くして貴族家の長となったそんな彼を見る周囲の目は冷ややかだったけれど、シュルツ様はそんな冷たい目を実力で跳ね返されてきた。
私はそんな彼の姿に惹かれて、気づいたら彼の事を好きになっていた…。
けれど、魔女の血を引くなんて言われている私と彼が結ばれるなんて夢のまた夢。
そんな妄想をすることさえ、自分でも滑稽に思えるほどに。
でも彼は、ほかの人とは違って私の事を馬鹿にしたり、見下したりしては来なかった。
”普通”に接してくれた。
それがあの時の私には、何よりうれしく感じられた。
…でも、そんな幸せな時間も刹那だけ。
ジーク伯爵様との婚約が決まってからは、話をすることどころか会うことだってかなわなかったのだから。
コツコツコツ…
「(あ、足音が聞こえてきた……。ほ、本当に変なところとかないよね…。だ、大丈夫だよね…)」
…生まれ変わった私の使命は、ジーク伯爵への復讐を果たすこと。
侯爵様によく思われようが悪く思われようが、それには全く関係のないこと。
…それでもやっぱり、少しでもきれいな自分を見てほしい。
そう思わずにはいられなかった。
「シュルツ様、ようこそお越しくださいました」
「突然押しかけて申し訳ない。クレア様、どうしてもあなたに聞きたいことがありまして…」
「全然かまいませんよ!さぁ、こちらのお部屋へどうぞ」
私はつとめて丁寧にシュルツ様を部屋の中へと案内した。
――――
「それで、お話とはいったい…?」
「えぇ、まずはこれを見てほしいのです」
「………っ!?!?」
シュルツ様が机の上に、一枚の紙を差し出す。
そこには一人の女性のイラストが描かれていた。
それだけならなんてことのない話なのだけれど、私はそれを見て全身に火花が散ったような感覚を覚えた。
なぜならそこに描かれていたのはほかでもない、魔女の血を引くと言われジーク伯爵によって処刑された、ミレーナの姿が描かれていたのだから…。
「この女性、ここに来られたとか、近くで見かけたことなどはありませんか?」
「え、えっと……」
…なんと返事をするべきなのか、頭の中がパニックになってしまう…。
これは私です、なんて言えるわけがない。
けれど、動揺しながら否定したって、なにか裏があるのではないかと思われてしまうかもしれない…。
いやそもそも、このイラストを私に見せに来られたということは、私が生まれ変わりの存在であると察知されているということなんじゃ…。
全く言葉に詰まってしまった私は、ひとまず彼に話題を振ることにした。
「そ、その女性がどうされたのですか?」
「あぁ…。実はこの女性、名前はミレーナという方なのだが、もう1か月ほど行方が分からなくなっているんだ…。彼女は地方出身ながら貴族令嬢だから、貴族の人たちに聞いて回れば何かわかるかもしれないと思ったんだ。だから、君にも…」
「そ、そうだったのですか…」
それを聞いて、私の中に一つの疑問が生じる。
この世界で生きていくには全く関係のない疑問。
解決したところで、なんの得にもならない疑問。
けれど、私は我慢できなかった。
「…そのミレーナ様という方を、どうして探されていらっしゃるのですか?」
私の投げかけた疑問に、彼はあまり間を置かず、それでいて真剣な表情で答えた。
「僕の……大切な人だから……」
「クレア様、シュルツ侯爵様の姿がお見えでございます」
「わかったわ。私のお部屋に通して差し上げて」
「かしこまりました」
私の言葉を聞き届けると、サリナは召し使いらしい上品な動きで私の前を後にしていった。
私は部屋に掛けられている時計に目をやる。
シュルツ侯爵様、事前に届けられたお手紙に書かれていた通りの時間のお越しだ。
私は鏡に向かい、自分の身なりを確認する。
鏡に映る自分の姿に、相変わらず違和感はあるけれど……それでも数日間ここで暮らしたおかげか、最初よりはこの姿に慣れてきた気がする。
失礼のないよう、最後のチェックを行い、私彼の到着を待った。
…彼が到着するまでのわずかな時間、私は胸の高鳴りを止められなかった…。
そしてそれを自分でも認識して、一段と恥ずかしくなってしまう…。
どうして私がここまで心臓の鼓動を早めているかというと、シュルツ侯爵様はほかでもない、私がただ一人恋した人物だったからだ。
彼は私より2つほど年上の20歳。
まだまだ若いけれど、お父様が亡くなった関係でそのまま侯爵の座につかれたらしい。
若くして貴族家の長となったそんな彼を見る周囲の目は冷ややかだったけれど、シュルツ様はそんな冷たい目を実力で跳ね返されてきた。
私はそんな彼の姿に惹かれて、気づいたら彼の事を好きになっていた…。
けれど、魔女の血を引くなんて言われている私と彼が結ばれるなんて夢のまた夢。
そんな妄想をすることさえ、自分でも滑稽に思えるほどに。
でも彼は、ほかの人とは違って私の事を馬鹿にしたり、見下したりしては来なかった。
”普通”に接してくれた。
それがあの時の私には、何よりうれしく感じられた。
…でも、そんな幸せな時間も刹那だけ。
ジーク伯爵様との婚約が決まってからは、話をすることどころか会うことだってかなわなかったのだから。
コツコツコツ…
「(あ、足音が聞こえてきた……。ほ、本当に変なところとかないよね…。だ、大丈夫だよね…)」
…生まれ変わった私の使命は、ジーク伯爵への復讐を果たすこと。
侯爵様によく思われようが悪く思われようが、それには全く関係のないこと。
…それでもやっぱり、少しでもきれいな自分を見てほしい。
そう思わずにはいられなかった。
「シュルツ様、ようこそお越しくださいました」
「突然押しかけて申し訳ない。クレア様、どうしてもあなたに聞きたいことがありまして…」
「全然かまいませんよ!さぁ、こちらのお部屋へどうぞ」
私はつとめて丁寧にシュルツ様を部屋の中へと案内した。
――――
「それで、お話とはいったい…?」
「えぇ、まずはこれを見てほしいのです」
「………っ!?!?」
シュルツ様が机の上に、一枚の紙を差し出す。
そこには一人の女性のイラストが描かれていた。
それだけならなんてことのない話なのだけれど、私はそれを見て全身に火花が散ったような感覚を覚えた。
なぜならそこに描かれていたのはほかでもない、魔女の血を引くと言われジーク伯爵によって処刑された、ミレーナの姿が描かれていたのだから…。
「この女性、ここに来られたとか、近くで見かけたことなどはありませんか?」
「え、えっと……」
…なんと返事をするべきなのか、頭の中がパニックになってしまう…。
これは私です、なんて言えるわけがない。
けれど、動揺しながら否定したって、なにか裏があるのではないかと思われてしまうかもしれない…。
いやそもそも、このイラストを私に見せに来られたということは、私が生まれ変わりの存在であると察知されているということなんじゃ…。
全く言葉に詰まってしまった私は、ひとまず彼に話題を振ることにした。
「そ、その女性がどうされたのですか?」
「あぁ…。実はこの女性、名前はミレーナという方なのだが、もう1か月ほど行方が分からなくなっているんだ…。彼女は地方出身ながら貴族令嬢だから、貴族の人たちに聞いて回れば何かわかるかもしれないと思ったんだ。だから、君にも…」
「そ、そうだったのですか…」
それを聞いて、私の中に一つの疑問が生じる。
この世界で生きていくには全く関係のない疑問。
解決したところで、なんの得にもならない疑問。
けれど、私は我慢できなかった。
「…そのミレーナ様という方を、どうして探されていらっしゃるのですか?」
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「僕の……大切な人だから……」
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