上 下
9 / 19

第9話

しおりを挟む
「っ!!!!」

心臓に剣先を突き立てられた感覚がよみがえり、私は横たわっていた体を勢いよく起こした。
…けれど、あの時確かに感じた痛みは、すっかり消えていた。
後ろに結ばれていた両手も、いつのまにか自由になっている。
いやそれどころか、ついさっきまでいたはずの場所とは全く違う場所にいる様子…。

「起きたか、人間さん」
「っ!?」

不意に後ろから声をかけられ、私はどきっと反応してしまう。
なんとか勇気を振り絞り、自分の顔を声の主の方向へと向けていく。
そこには不思議な人?が腰かけていた。
パッと見た感じは人間だけれど、よく見れば人間じゃない。
頭のあたりには黒い角のようなものが生えているし、手足もよく見るとなんだか少し形状が違っている。
背中には黒っぽい翼まで生えているし、両目はなんだか赤く光っているように見えた。

「なかなか起きなくて退屈してたんだ。じゃあ、さっそく話を始めよう」

私と少し離れた位置にいた彼はそう言うと、腰かけていた椅子から翼をはためかせて飛び上がり、一気に私の隣に腰を下ろした。

「え、えっと…。私って、殺されちゃったんですよね…?それで地獄に落ちちゃったんですかね…?」
「地獄?あぁ、地獄はそっちだよ。よく見ると見えるだろう?」
「??」

彼に指さされた方を見てみる。
するとそこには、確かに赤く禍々しい不気味な世界が広がっているのが見えた。

「それと、あっちが天国」

同じく彼に言われた方向に目をやってみる。
さっきは下の方だったけれど、今度は上の方だった。
そこには美しく輝く大樹があり、その周辺に宝石のように輝く空間がいくつも広がっていた。

「そして今俺たちがいるのが、そのどちらでもない場所というわけだ」
「え…。え?」
「腑に落ちないか?まぁすぐにわかるさ」

そういうと彼は改めて私の方に向き合い、自己紹介を始めた。

「俺はマティス。ここで死神をしている」
「し、死神…!?そ、それに結局ここって一体…」
「ここは天国でも地獄でもない、第三の場所さ。死んだ人間はあのどちらかにその魂を運ばれていくわけだが、俺たち死神は時々こうやって人間の魂をねこばばしてる」
「ね、ねこばば…?そ、それはどうして…?」
「人間の死に方にもいろいろあるが、中でも人間に殺された人間の魂はいい味がする。なのにそれをそのまま馬鹿正直に天国だの地獄だのに送ってしまうなんてもったいないじゃないか。お前もそう思うだろう?」
「え、えっと…」
「まぁつまり何が言いたいかというと…」
「!?」

彼は突然私の頭をつかむと、そのまま自身の口元へと私の耳を導き、そのそばで低い声でつぶやいた。

「お前にもう一度、命をやる。その命で、お前を殺した人間たちに復讐するんだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

妹に全てを奪われるなら、私は全てを捨てて家出します

ねこいかいち
恋愛
子爵令嬢のティファニアは、婚約者のアーデルとの結婚を間近に控えていた。全ては順調にいく。そう思っていたティファニアの前に、ティファニアのものは何でも欲しがる妹のフィーリアがまたしても欲しがり癖を出す。「アーデル様を、私にくださいな」そうにこやかに告げるフィーリア。フィーリアに甘い両親も、それを了承してしまう。唯一信頼していたアーデルも、婚約破棄に同意してしまった。私の人生を何だと思っているの? そう思ったティファニアは、家出を決意する。従者も連れず、祖父母の元に行くことを決意するティファニア。もう、奪われるならば私は全てを捨てます。帰ってこいと言われても、妹がいる家になんて帰りません。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

処理中です...