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第7話
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想像を絶するほどの重い雰囲気を前に、私は息をすることさえもままならなくなる。
めをつぶってなんとか自分自身を落ち着かせ、呼吸を整える。
こんな状況であっても私が自分自身を制することができているのは、間違いなくジーク伯爵様への思いがあるからこそだ。
きっと彼はここに現れてくれる。私の話を聞いて、私を助け出してくれるに決まっている。
私は彼のかけてくれたこれまでの言葉を心の中に思い起こし、目の前の恐怖感を鎮めることに努めた。
婚約してから少ししか時間が経ってないときの私なら、もうあきらめていたかもしれない。
婚約者である伯爵様と言えども、どうせ魔女の血を引くと迫害される私の事を助けてなどくれないだろうと。
けれど、今の私は違う。
最後の最後まで彼の事を信じぬく。
それだけの愛情を伯爵様はかけてくださったのだから。
――――
「伯爵様、ご到着でございます」
場を仕切る人物がそう声を発した。
その途端、それぞれの人々が会話をしていた部屋の中は急に静かになり、伯爵様を迎え入れる雰囲気が整えられる。
そして人々の視線の先に、その本人は姿を現した。
いつもとなんら変わらない堂々とした彼のその雰囲気を見て、私は自分の心が穏やかになっていく感覚を覚える。
「みなさま、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。これより、私に対するミレーナの反逆罪について話し合いをしたく思います」
伯爵様はそう言葉を発し、人々の視線を一身に集める。
…お集まりいただきありがとうございますとは、どういう意味だろうか…?
「さて、何から話をするべきか…。我が最愛の婚約者であるミレーナが、この僕に反逆を企てるとは…」
「「…(笑)」」
伯爵様の言葉を聞いて、人々はくすくすと笑い始める。
私にはなにが面白いのかわからなかったけれど、誰かがその理由を小声で発した。
「最愛だってさ(笑)本人を目の前にして、まったく伯爵様も意地悪だなぁ(笑)」
「それでこそ伯爵様でしょう?いい気になってる女に現実を教えてあげるには、それくらいしないと…(笑)」
誰のものともわからない、嫌味たらしい声が私の耳に入ってくる。
けれど、今の私にはなんの痛みにもならない。
絶対にそんなこと、ありえないのだから。
「ですが、残念ながらこれは事実なようです……。僕はこの上ないほどの愛情をミレーナに注いだというのに、あろうことか彼女は僕の前から逃げ出し、婚約を破棄する意思を示してきたのです」
サーっと、体が冷たくなっていく感覚を覚える。
…伯爵様はいったい、何を言っているのだろうか…?
「僕だって信じたくはありませんでした。しかし、あらゆる証拠が彼女の反逆の意志を示しているのです。心の広い僕であっても、こんな身勝手を許してしまっては示しがつきません」
…普段ならその声を聞くだけで心が温かくなって、気持ちが落ち着いていた。
けれど今は、その声を聞くほどに息が苦しくなり、頭から倒れそうになってしまう。
伯爵様が言っているのはきっと、先日一緒に出掛けた買い物の事を言っているのだろう…。
た、たしかに私はよくないことをしたかもしれないけれど、それでも反逆だなんて…。そんな意志は絶対に…。
「僕とて、こんなことをしなければならないのは心苦しくて仕方がないのです…。ですが皆さま、これは僕なりの覚悟だと思ってみていただきたいのです…!伯爵として皆様を支えていけるなら、僕はたとえ愛する婚約者であっても罪を見逃しはしないと!」
「「おおぉぉぉぉぉ!!!!!!」」
まるでなにかのコンサートかのように、大きな歓声が伯爵様に対してあげられる。
それはまるで、私の処刑をショーの一部にしているかのように感じられた…。
めをつぶってなんとか自分自身を落ち着かせ、呼吸を整える。
こんな状況であっても私が自分自身を制することができているのは、間違いなくジーク伯爵様への思いがあるからこそだ。
きっと彼はここに現れてくれる。私の話を聞いて、私を助け出してくれるに決まっている。
私は彼のかけてくれたこれまでの言葉を心の中に思い起こし、目の前の恐怖感を鎮めることに努めた。
婚約してから少ししか時間が経ってないときの私なら、もうあきらめていたかもしれない。
婚約者である伯爵様と言えども、どうせ魔女の血を引くと迫害される私の事を助けてなどくれないだろうと。
けれど、今の私は違う。
最後の最後まで彼の事を信じぬく。
それだけの愛情を伯爵様はかけてくださったのだから。
――――
「伯爵様、ご到着でございます」
場を仕切る人物がそう声を発した。
その途端、それぞれの人々が会話をしていた部屋の中は急に静かになり、伯爵様を迎え入れる雰囲気が整えられる。
そして人々の視線の先に、その本人は姿を現した。
いつもとなんら変わらない堂々とした彼のその雰囲気を見て、私は自分の心が穏やかになっていく感覚を覚える。
「みなさま、本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。これより、私に対するミレーナの反逆罪について話し合いをしたく思います」
伯爵様はそう言葉を発し、人々の視線を一身に集める。
…お集まりいただきありがとうございますとは、どういう意味だろうか…?
「さて、何から話をするべきか…。我が最愛の婚約者であるミレーナが、この僕に反逆を企てるとは…」
「「…(笑)」」
伯爵様の言葉を聞いて、人々はくすくすと笑い始める。
私にはなにが面白いのかわからなかったけれど、誰かがその理由を小声で発した。
「最愛だってさ(笑)本人を目の前にして、まったく伯爵様も意地悪だなぁ(笑)」
「それでこそ伯爵様でしょう?いい気になってる女に現実を教えてあげるには、それくらいしないと…(笑)」
誰のものともわからない、嫌味たらしい声が私の耳に入ってくる。
けれど、今の私にはなんの痛みにもならない。
絶対にそんなこと、ありえないのだから。
「ですが、残念ながらこれは事実なようです……。僕はこの上ないほどの愛情をミレーナに注いだというのに、あろうことか彼女は僕の前から逃げ出し、婚約を破棄する意思を示してきたのです」
サーっと、体が冷たくなっていく感覚を覚える。
…伯爵様はいったい、何を言っているのだろうか…?
「僕だって信じたくはありませんでした。しかし、あらゆる証拠が彼女の反逆の意志を示しているのです。心の広い僕であっても、こんな身勝手を許してしまっては示しがつきません」
…普段ならその声を聞くだけで心が温かくなって、気持ちが落ち着いていた。
けれど今は、その声を聞くほどに息が苦しくなり、頭から倒れそうになってしまう。
伯爵様が言っているのはきっと、先日一緒に出掛けた買い物の事を言っているのだろう…。
た、たしかに私はよくないことをしたかもしれないけれど、それでも反逆だなんて…。そんな意志は絶対に…。
「僕とて、こんなことをしなければならないのは心苦しくて仕方がないのです…。ですが皆さま、これは僕なりの覚悟だと思ってみていただきたいのです…!伯爵として皆様を支えていけるなら、僕はたとえ愛する婚約者であっても罪を見逃しはしないと!」
「「おおぉぉぉぉぉ!!!!!!」」
まるでなにかのコンサートかのように、大きな歓声が伯爵様に対してあげられる。
それはまるで、私の処刑をショーの一部にしているかのように感じられた…。
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