1 / 3
第1話
しおりを挟む
私の事を婚約者として迎え入れてくれたソリッド伯爵様。
けれどその裏にあったのは、愛情関係などではなくただの彼の政略的な都合だけだった。
「ソリッド様、お話と言うのは何でしょうか?」
ある日の事、私は突然にソリッド様から自分の部屋まで来るよう言われ、彼のもとに向かった。
すると彼は、やれやれと言った表情を浮かべながら私に対してこう言葉を発した。
「ミラ、君との婚約関係だが、今日をもって終わりにすることに決めたよ」
「……」
…それが、私が愛されていない事の何よりの証明。
だって、伯爵様が本当に私の事を愛してくださっているというのなら、こんな一方的な言葉をかけてきたりは絶対にしないのだから…。
「ミラ、セレーナから毎日のようにクレームが入っているんだよ。その話を聞くに、彼女はどうしても君と家族になることが受け入れられないらしい」
セレーナと言うのは、正真正銘伯爵様の妹であり、私にとっては将来の義理の妹にあたる存在。
そんな彼女が、私たちの婚約関係に横やりを入れてきているのだと言う…。
「彼女いわく、君との関係をどうしても前向きにとらえることが出来ないと言っているんだ。もちろん僕としては君の事も愛しているから、二人がうまくやっていってくれることを一番望んではいるのだが、彼女が無理だと言っているものを強引に進めるわけにもいかない。そこで僕は泣く泣く、君との関係を切り捨てることを選んだ」
「……」
…正直、こうなるであろう未来は私には以前から想像できていた。
というのも、伯爵様は客観的に見ても過剰と言えるほどの愛情をセレーナにかけていて、セレーナもまたそんな伯爵様の思いを利用していた。
そこに私の入り込むすきなんてなくって、私とセレーナが言い争いになったなら伯爵様は間違いなく向こうの味方をし続けてきたし、私の言葉を聞いてくれたことなんて一度もなかった。
…私たちは本当に婚約関係にあるのかと疑いたくなったことだって、これまでに一度や二度ではなかった。
「…少々鈍感なところがある君にはわからないかもしれないが、セレーナはあれでも少し目に涙を浮かべていたんだぞ?本当につらそうな顔をしていたんだぞ?それを僕たちに気を遣って、今まで隠し続けてきたんだぞ?その健気な思いを君に理解でいるか?」
「……」
…そんなもの、全て彼女の演技に決まっているではありませんか…。
伯爵様、どうしてそんな簡単な演技に気づくことが出来ないのですか…?
あなたがもっとも愛するべき存在は、婚約者であるはずの私なのではないのですか…?
「…伯爵様、セレーナは私に向けて毎日のように嘘ばかりを言ってきます…。それを訂正しようと私が優しく反論しても、自分には伯爵様が付いているんだと言って全く聞き入れてはくれません…。でも私は伯爵様の事を信じて、彼女との関係をあまり口にすることもなくここまでやってきました…。それなのに、すべて私の方に責任があるとおっしゃるのですか…?」
「おっと、なにか勘違いしているようだが…」
思わず心の声をこぼしてしまった私。
すると伯爵様はそれに対し、非常に冷たい口調でこう言葉を発し始めた。
「ミラ、君の存在はセレーナの二の次だという事をまだ分かっていないのか?僕にとって最も大切なのはセレーナの方であり、君はその次、二番目だ。だから二人が衝突するようなことになったなら、僕は当然セレーナの方に味方をする。なぜなら、僕はセレーナのいない人生を考えることはできないが、君のいない人生は別になんら特段の問題などないのだからね。そのうえで君には婚約者としての振る舞いを、分かりやすく言えばセレーナの相手と僕の暇つぶしを両立してくれることを求めていたのだが、まさかここまで恥ずかしい勘違いをしているとは思ってもいなかったよ。君はまさか、僕から愛されるのが当然だとでも思っているのかい?」
それが、伯爵様が私に対して告げた真実だった。
…半ば強引な形で仕組まれた今回の婚約は、全て彼とセレーナの暇つぶしのために存在していたというのだ。
そして、婚約関係にあると言うのに愛されることを望むのは、筋違いだとも…。
「やはり婚約破棄を決めたのは正解だったようだ。そんな恥ずかしいほどの勘違いをするような君には、婚約関係を続けるほどの価値なんてないことは明らかだからね。早く荷物をまとめて、ここから出ていってもらおうか。それで僕もセレーナももと通りの生活に戻り、再び君よりも都合のいい婚約者を探しに行くことができるのだからね」
「……」
私はなにも言い返す気力がなくなっていた。
…一応これでも、伯爵様の夫人になるものとして恥ずかしくないよう、毎日必死に番場って来たつもりだった。
それが伯爵様のためになることだと信じて、ここまでやってきた。
…だというのに、最後の最後に告げられた言葉は私に対する感謝の言葉でもなく、愛情の言葉でもなく、ただただ都合の悪い存在を切り捨てるというものだった…。
けれどその裏にあったのは、愛情関係などではなくただの彼の政略的な都合だけだった。
「ソリッド様、お話と言うのは何でしょうか?」
ある日の事、私は突然にソリッド様から自分の部屋まで来るよう言われ、彼のもとに向かった。
すると彼は、やれやれと言った表情を浮かべながら私に対してこう言葉を発した。
「ミラ、君との婚約関係だが、今日をもって終わりにすることに決めたよ」
「……」
…それが、私が愛されていない事の何よりの証明。
だって、伯爵様が本当に私の事を愛してくださっているというのなら、こんな一方的な言葉をかけてきたりは絶対にしないのだから…。
「ミラ、セレーナから毎日のようにクレームが入っているんだよ。その話を聞くに、彼女はどうしても君と家族になることが受け入れられないらしい」
セレーナと言うのは、正真正銘伯爵様の妹であり、私にとっては将来の義理の妹にあたる存在。
そんな彼女が、私たちの婚約関係に横やりを入れてきているのだと言う…。
「彼女いわく、君との関係をどうしても前向きにとらえることが出来ないと言っているんだ。もちろん僕としては君の事も愛しているから、二人がうまくやっていってくれることを一番望んではいるのだが、彼女が無理だと言っているものを強引に進めるわけにもいかない。そこで僕は泣く泣く、君との関係を切り捨てることを選んだ」
「……」
…正直、こうなるであろう未来は私には以前から想像できていた。
というのも、伯爵様は客観的に見ても過剰と言えるほどの愛情をセレーナにかけていて、セレーナもまたそんな伯爵様の思いを利用していた。
そこに私の入り込むすきなんてなくって、私とセレーナが言い争いになったなら伯爵様は間違いなく向こうの味方をし続けてきたし、私の言葉を聞いてくれたことなんて一度もなかった。
…私たちは本当に婚約関係にあるのかと疑いたくなったことだって、これまでに一度や二度ではなかった。
「…少々鈍感なところがある君にはわからないかもしれないが、セレーナはあれでも少し目に涙を浮かべていたんだぞ?本当につらそうな顔をしていたんだぞ?それを僕たちに気を遣って、今まで隠し続けてきたんだぞ?その健気な思いを君に理解でいるか?」
「……」
…そんなもの、全て彼女の演技に決まっているではありませんか…。
伯爵様、どうしてそんな簡単な演技に気づくことが出来ないのですか…?
あなたがもっとも愛するべき存在は、婚約者であるはずの私なのではないのですか…?
「…伯爵様、セレーナは私に向けて毎日のように嘘ばかりを言ってきます…。それを訂正しようと私が優しく反論しても、自分には伯爵様が付いているんだと言って全く聞き入れてはくれません…。でも私は伯爵様の事を信じて、彼女との関係をあまり口にすることもなくここまでやってきました…。それなのに、すべて私の方に責任があるとおっしゃるのですか…?」
「おっと、なにか勘違いしているようだが…」
思わず心の声をこぼしてしまった私。
すると伯爵様はそれに対し、非常に冷たい口調でこう言葉を発し始めた。
「ミラ、君の存在はセレーナの二の次だという事をまだ分かっていないのか?僕にとって最も大切なのはセレーナの方であり、君はその次、二番目だ。だから二人が衝突するようなことになったなら、僕は当然セレーナの方に味方をする。なぜなら、僕はセレーナのいない人生を考えることはできないが、君のいない人生は別になんら特段の問題などないのだからね。そのうえで君には婚約者としての振る舞いを、分かりやすく言えばセレーナの相手と僕の暇つぶしを両立してくれることを求めていたのだが、まさかここまで恥ずかしい勘違いをしているとは思ってもいなかったよ。君はまさか、僕から愛されるのが当然だとでも思っているのかい?」
それが、伯爵様が私に対して告げた真実だった。
…半ば強引な形で仕組まれた今回の婚約は、全て彼とセレーナの暇つぶしのために存在していたというのだ。
そして、婚約関係にあると言うのに愛されることを望むのは、筋違いだとも…。
「やはり婚約破棄を決めたのは正解だったようだ。そんな恥ずかしいほどの勘違いをするような君には、婚約関係を続けるほどの価値なんてないことは明らかだからね。早く荷物をまとめて、ここから出ていってもらおうか。それで僕もセレーナももと通りの生活に戻り、再び君よりも都合のいい婚約者を探しに行くことができるのだからね」
「……」
私はなにも言い返す気力がなくなっていた。
…一応これでも、伯爵様の夫人になるものとして恥ずかしくないよう、毎日必死に番場って来たつもりだった。
それが伯爵様のためになることだと信じて、ここまでやってきた。
…だというのに、最後の最後に告げられた言葉は私に対する感謝の言葉でもなく、愛情の言葉でもなく、ただただ都合の悪い存在を切り捨てるというものだった…。
24
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。
夢風 月
恋愛
カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。
顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。
我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。
そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。
「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」
そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。
「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」
「……好きだからだ」
「……はい?」
いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。
※タグをよくご確認ください※
「おまえを愛することはない。名目上の妻、使用人として仕えろ」と言われましたが、あなたは誰ですか!?
kieiku
恋愛
いったい何が起こっているのでしょうか。式の当日、現れた男にめちゃくちゃなことを言われました。わたくし、この男と結婚するのですか……?
【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました
山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。
王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。
レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。
3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。
将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ!
「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」
ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている?
婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?
婚約者は幼馴染みを選ぶようです。
香取鞠里
恋愛
婚約者のハクトには過去に怪我を負わせたことで体が不自由になってしまった幼馴染がいる。
結婚式が近づいたある日、ハクトはエリーに土下座して婚約破棄を申し出た。
ショックではあったが、ハクトの事情を聞いて婚約破棄を受け入れるエリー。
空元気で過ごす中、エリーはハクトの弟のジャックと出会う。
ジャックは遊び人として有名だったが、ハクトのことで親身に話を聞いて慰めてくれる。
ジャックと良い雰囲気になってきたところで、幼馴染みに騙されていたとハクトにエリーは復縁を迫られるが……。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。
もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」
隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。
「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」
三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。
ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。
妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。
本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。
随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。
拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる