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番外編
美村紗希と吉宗 前編
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雪の降る中、白い上着と袴を着た女が一人。
身長は一七三センチはあろうか。
女性としてはかなりの高身長である。
女は吹雪の中、白い手拭いを首から口元に深く掛け直した。
手には血のついた剣。
上下白い着物を着るのは雪の中で目立たなくするため。
そして目の前には赤く染まった雪と倒れている男の遺体が一つ。
女はひと仕事終えたのか、剣を納刀すると静かにその場から立ち去った。
とある町に辿り着き、暖と食事を求めて女はふらりと一件の酒屋に入る。
「いらっしゃい」
威勢のいい声が飛んでくる。
「とりあえず酒と適当な食べ物をもらおうか」
紀州は三年前〔一七〇七年〕に起きた宝永大地震により町が壊滅的被害を受けて、その後起きた津波によりほとんどの店は津波に流されてしまった。
唯一この地域だけが、高台にあったため地震と津波の難を逃れたのである。
適当な食べ物を頼めば顔見知りの親方はおでんとこんにゃくの田楽味噌を持ってきてくれる。
女は仕事の後、ここでの食事と酒が唯一の楽しみであった。
熱燗で飲む酒は冷えた身体にちょうど良い。
「おい、聞いたか?また辻斬りが現れたそうだぞ」
「今度は誰がやられたんだ?」
「それがな、斬られたのも最近世間をにぎわせている辻斬りの一味だとよ。仲間割れでもしたんじゃないかって噂だぜ」
そんな酒飲み話しを女は酒を飲みながら静かに聞いている。
「お姉さん」
ふいに声を掛けられて、横を向くも誰もいない。
「こっちよ」
「うん?」
下を向くとまだ五つか六つほどの女の子がちょこんと立っていた。
「私に何か用か?」
「これあげる」
女の子はそう言って小さな風車を女に手渡した。
〔こんな物もらっても嬉しくもないけどな〕
と心の中で思いつつも表向きは「ありかとうよ」と礼を言う。
「ご馳走さん」
女は代金を台におくが、そこには小判が一枚置かれていた。
酒とおでんに田楽味噌だけにしては多すぎる額である。
「いつもありがとうごぜえます」
それを受け取って店の親方は女に頭を下げてお礼を言った。
「美味い酒と美味い料理にありつければ、それで満足。親父さん頑張ってくれよ」
そう言って女は店を出た。
「ひでえもんだ。。この紀州も災害で壊滅的な打撃を受けた。ここだけが唯一残っているが、人々の生活はとてもじゃねえがまともに暮らしていけるようなものじゃねえ」
一七〇七年に起きた後に宝永大地震と呼ばれる地震により、紀州はもはや立ち直る事が不可能と言われるほどの被害が出た。
この状況から復活を遂げる大改革を遂行したのが藩主徳川吉宗。
だが、復興はそうすぐにという訳にはいかない。
徐々に効果が現れるまでには時間がかかり、貧しさから一部の武士たちは浪人となり辻斬りとなって町の人を襲うようになっていった。
「新しい殿様とやらはこの紀州を建て直せるのか?四男坊とか聞いたが、期待もあても出来ねえな」
しばらく歩くと背後から数人と思われる足音と殺気。
浪人と思われる侍たちが三人で女を囲んだ。
「私に何か用か?」
「姉さん、随分と羽振りがいいじゃねえか。少し俺たちにも分けてくれねえか」
「死にたくなければ消えな」
「大人しくすりゃ手荒な真似は。。」
そこまで浪人たちが言ったところで女は剣を抜いた。
一瞬であった。
「美村流抜刀術迅雷(みむらりゅうばっとうじゅつじんらい)」
剣が一閃されたかと思った時には三人の浪人たちは血飛沫をあげて息絶えていた。
「このご時世に簡単に金を手に入れようと考えるとこうなるって事よ」
女の子からもらった風車に息を吹きかけてクルクル回しながら女は立ち去って行った
⭐︎⭐︎⭐︎
翌日、女がいつものように居酒屋に入ると見た事のない武士が一番奥に座っていた。
姿から見てかなり身分が高そうである。
女は私には関係ないとばかりにいつもの席に座り酒と料理を頼む。
すると武士は女の席に移動してきた。
「お前の名は?」
「人に名を聞く時は自分から名乗りな。そうじゃなきゃお前に名乗る名前はない」
「これは済まなかったな。俺の名は徳川吉宗。一応この紀州の領主なんかをやっている」
「は?お前馬鹿か?御三家の領主がこんなところに来るわけないだろ」
「俺は色々と街を見てまわるのが好きなんでな」
〔本当にこいつ領主なのか?〕
女はじっと吉宗を睨みつける。
「で、お前の名前は?」
女はちっ。と舌打ちして仕方なく名乗る。
「美村紗希」
「美村紗希か、なかなか洒落た名前だな」
「抜かすなよ。いくら領主でも私を怒らせたら叩き斬る」
「お前、どれだけ人を斬った?」
「何だと?」
「どれだけ人を斬ったか知らぬが、この辺で足を洗おうと思わないか?」
「てめえ。。」
紗希は鯉口を掴み剣を抜く構えを見せるが、吉宗は座ったまま酒を飲んでいる。
「ここに来るまでにお前の事は少しばかり調べさせてもらった。美村紗希。十七歳。
生まれも育ちもこの紀州だが、両親は幼少のころに生き別れて不在。
恵まれた体格に類まれな剣術の才能があり、各地をまわり、いくつもの流派を取得していくうちに自ら編み出した美村流抜刀術という剣術を編み出した。
その実力は紀州でも飛び抜けている。そして、今はその剣術の腕を使って辻斬りで生計を立てているという訳か」
吉宗が紗希の経歴を話しているが、紗希はそれを歯軋りしながら聞いている。
「じゃあ、最初から私が美村紗希と知って声を掛けたのか?白々しく名前なんか聞いてきやがって」
「社交ってやつだよ」
「社交だか無効だから知らねえが、気に食わねえ」
「まあ、落ち着いて聞け。本来なら辻斬りは重罪。死罪は免れないところだが、お前が斬った人物を調べていくと、これはこれは意外な事がわかったのでな」
紗希が構えから刀を抜かないのは、吉宗から発する殺気が尋常ではなかったからだ。
〔ここで斬りかかっても良くて相打ちってところか。。この野郎、かなりの腕だな〕
「お前が斬ったのは我が藩でも捜索していた辻斬り一味だ。それ以外の一般町民には一切手を出していない。それを聞いた時に、どんな奴なのか見たくなってな」
「で、実際に会ってみてどうしようってんだ?」
「俺は財政破綻したこの紀州を建て直すために一人でも多くの人材を必要としている。お前にもその一端を手伝ってもらいたい」
「ふざけるな。誰が政(まつりごと)なんぞやるものか」
「慌てるな、政ではない。厳密に言えば、俺が新しく作り上げる忍び衆を鍛え上げる役目だ。名前もすでに決めてある。御庭番衆だ。いい名前だろ?」
「何だそれ?庭の手入れでもやるのか?勝手にその庭師とかにするんじゃねえ」
「庭師でも似合いそうだが、それだけの実力があるんだ。そんな事に有望な人材を使うつもりはないから安心しろ。お前とていつまでもこんな事をしているつもりはあるまい。返事は今すぐとは言わぬ。また一週間後にここに来る。その時にどう気持ちが変わっているかな」
吉宗はそれだけ言うと店から立ち去って行った。
「ふざけやがって」
紗希の仕事はいわゆる暗殺屋であった。
総元締めと呼ばれる男が依頼人から標的となる人物を聞き出し、紗希が実行班として動く。
報酬の分け前は紗希が六で元締めが四である。
依頼料の設定はないが、依頼人が払える限りの金額で折り合いを付ける。
平均でいけば一人につき一両であるが、今の紀州ではそのお金も払える人間は限られている。
「あいつの言う通り、たしかにいつまでもやっていられる仕事じゃねえけどな」
紗希が酒を飲みながらそんな事を考えていると、この前の女の子がまだ話しかけてきた。
「お姉さん」
「なんだ、お前また来ていたのか?おとうとおかあはどうした?」
「いない。。」
「いない?三年前の地震で死んだのか?」
「人斬りに斬り殺された」
それを聞いて紗希は驚いた。
「いつ?どこで?」
「三ヶ月ほど前にここから一里ほどの山道で。辻斬りはいまだに捕まってないみたいなの」
「。。そうか。悪い事聞いちまったな」
「お姉さん、お侍だったらおとうとおかあの仇を討ってくれない?」
「私にか?」
もしかしてさっきの殿様との話を聞かれていたのかと気まずい空気がよぎる。
「相手はわかっているのか?」
「うん。名前もわかっている。お金は今はないけど、仇を討ってくれたら必ず払います。一生かけても払います。だからお願いします」
「そいつの名前は?」
「たしか榊原正信とか。。」
「なんだと?」
名前を聞いて紗希は驚いた。
榊原正信とは紗希の暗殺の総元締めであったからだ。
「どういうことだ?」
紗希が考えていると女の子はじっと不安そうに紗希を見ていた。
「ああ、悪い。ちょっと考え事をしていたんでな。わかった。榊原は私が探し出して必ず仇を取ってやる」
「ありがとう。お姉さん。私、必ずお金を払いますから」
「お代はこの前くれた風車でいいよ」
「え?でも。。」
「その金は自分がこれから生きていくのに使いな。私は金が欲しくてやるんじゃない。私自身のけじめのためにやるんだ。今回は少しばかり時間がかかる。少し待ってくれないか」
「おとうとおかあの仇が取れるなら何日、いや、何年だって待つよ」
「何年もかからねえ。一週間ほどだ」
紗希はそう言って女の子の頭を撫でると、いつものように一両を置いて店を出た。
それから紗希は辻斬り一味の一人を捕まえ、散々殴り倒して自白させた。
辻斬り一味を束ねているのが榊原正信だという事を。
「辻斬り浪人一味を取り仕切っているのが榊原正信。そして、そいつらを私に暗殺させているのも榊原正信。どういう事なんだ?」
身長は一七三センチはあろうか。
女性としてはかなりの高身長である。
女は吹雪の中、白い手拭いを首から口元に深く掛け直した。
手には血のついた剣。
上下白い着物を着るのは雪の中で目立たなくするため。
そして目の前には赤く染まった雪と倒れている男の遺体が一つ。
女はひと仕事終えたのか、剣を納刀すると静かにその場から立ち去った。
とある町に辿り着き、暖と食事を求めて女はふらりと一件の酒屋に入る。
「いらっしゃい」
威勢のいい声が飛んでくる。
「とりあえず酒と適当な食べ物をもらおうか」
紀州は三年前〔一七〇七年〕に起きた宝永大地震により町が壊滅的被害を受けて、その後起きた津波によりほとんどの店は津波に流されてしまった。
唯一この地域だけが、高台にあったため地震と津波の難を逃れたのである。
適当な食べ物を頼めば顔見知りの親方はおでんとこんにゃくの田楽味噌を持ってきてくれる。
女は仕事の後、ここでの食事と酒が唯一の楽しみであった。
熱燗で飲む酒は冷えた身体にちょうど良い。
「おい、聞いたか?また辻斬りが現れたそうだぞ」
「今度は誰がやられたんだ?」
「それがな、斬られたのも最近世間をにぎわせている辻斬りの一味だとよ。仲間割れでもしたんじゃないかって噂だぜ」
そんな酒飲み話しを女は酒を飲みながら静かに聞いている。
「お姉さん」
ふいに声を掛けられて、横を向くも誰もいない。
「こっちよ」
「うん?」
下を向くとまだ五つか六つほどの女の子がちょこんと立っていた。
「私に何か用か?」
「これあげる」
女の子はそう言って小さな風車を女に手渡した。
〔こんな物もらっても嬉しくもないけどな〕
と心の中で思いつつも表向きは「ありかとうよ」と礼を言う。
「ご馳走さん」
女は代金を台におくが、そこには小判が一枚置かれていた。
酒とおでんに田楽味噌だけにしては多すぎる額である。
「いつもありがとうごぜえます」
それを受け取って店の親方は女に頭を下げてお礼を言った。
「美味い酒と美味い料理にありつければ、それで満足。親父さん頑張ってくれよ」
そう言って女は店を出た。
「ひでえもんだ。。この紀州も災害で壊滅的な打撃を受けた。ここだけが唯一残っているが、人々の生活はとてもじゃねえがまともに暮らしていけるようなものじゃねえ」
一七〇七年に起きた後に宝永大地震と呼ばれる地震により、紀州はもはや立ち直る事が不可能と言われるほどの被害が出た。
この状況から復活を遂げる大改革を遂行したのが藩主徳川吉宗。
だが、復興はそうすぐにという訳にはいかない。
徐々に効果が現れるまでには時間がかかり、貧しさから一部の武士たちは浪人となり辻斬りとなって町の人を襲うようになっていった。
「新しい殿様とやらはこの紀州を建て直せるのか?四男坊とか聞いたが、期待もあても出来ねえな」
しばらく歩くと背後から数人と思われる足音と殺気。
浪人と思われる侍たちが三人で女を囲んだ。
「私に何か用か?」
「姉さん、随分と羽振りがいいじゃねえか。少し俺たちにも分けてくれねえか」
「死にたくなければ消えな」
「大人しくすりゃ手荒な真似は。。」
そこまで浪人たちが言ったところで女は剣を抜いた。
一瞬であった。
「美村流抜刀術迅雷(みむらりゅうばっとうじゅつじんらい)」
剣が一閃されたかと思った時には三人の浪人たちは血飛沫をあげて息絶えていた。
「このご時世に簡単に金を手に入れようと考えるとこうなるって事よ」
女の子からもらった風車に息を吹きかけてクルクル回しながら女は立ち去って行った
⭐︎⭐︎⭐︎
翌日、女がいつものように居酒屋に入ると見た事のない武士が一番奥に座っていた。
姿から見てかなり身分が高そうである。
女は私には関係ないとばかりにいつもの席に座り酒と料理を頼む。
すると武士は女の席に移動してきた。
「お前の名は?」
「人に名を聞く時は自分から名乗りな。そうじゃなきゃお前に名乗る名前はない」
「これは済まなかったな。俺の名は徳川吉宗。一応この紀州の領主なんかをやっている」
「は?お前馬鹿か?御三家の領主がこんなところに来るわけないだろ」
「俺は色々と街を見てまわるのが好きなんでな」
〔本当にこいつ領主なのか?〕
女はじっと吉宗を睨みつける。
「で、お前の名前は?」
女はちっ。と舌打ちして仕方なく名乗る。
「美村紗希」
「美村紗希か、なかなか洒落た名前だな」
「抜かすなよ。いくら領主でも私を怒らせたら叩き斬る」
「お前、どれだけ人を斬った?」
「何だと?」
「どれだけ人を斬ったか知らぬが、この辺で足を洗おうと思わないか?」
「てめえ。。」
紗希は鯉口を掴み剣を抜く構えを見せるが、吉宗は座ったまま酒を飲んでいる。
「ここに来るまでにお前の事は少しばかり調べさせてもらった。美村紗希。十七歳。
生まれも育ちもこの紀州だが、両親は幼少のころに生き別れて不在。
恵まれた体格に類まれな剣術の才能があり、各地をまわり、いくつもの流派を取得していくうちに自ら編み出した美村流抜刀術という剣術を編み出した。
その実力は紀州でも飛び抜けている。そして、今はその剣術の腕を使って辻斬りで生計を立てているという訳か」
吉宗が紗希の経歴を話しているが、紗希はそれを歯軋りしながら聞いている。
「じゃあ、最初から私が美村紗希と知って声を掛けたのか?白々しく名前なんか聞いてきやがって」
「社交ってやつだよ」
「社交だか無効だから知らねえが、気に食わねえ」
「まあ、落ち着いて聞け。本来なら辻斬りは重罪。死罪は免れないところだが、お前が斬った人物を調べていくと、これはこれは意外な事がわかったのでな」
紗希が構えから刀を抜かないのは、吉宗から発する殺気が尋常ではなかったからだ。
〔ここで斬りかかっても良くて相打ちってところか。。この野郎、かなりの腕だな〕
「お前が斬ったのは我が藩でも捜索していた辻斬り一味だ。それ以外の一般町民には一切手を出していない。それを聞いた時に、どんな奴なのか見たくなってな」
「で、実際に会ってみてどうしようってんだ?」
「俺は財政破綻したこの紀州を建て直すために一人でも多くの人材を必要としている。お前にもその一端を手伝ってもらいたい」
「ふざけるな。誰が政(まつりごと)なんぞやるものか」
「慌てるな、政ではない。厳密に言えば、俺が新しく作り上げる忍び衆を鍛え上げる役目だ。名前もすでに決めてある。御庭番衆だ。いい名前だろ?」
「何だそれ?庭の手入れでもやるのか?勝手にその庭師とかにするんじゃねえ」
「庭師でも似合いそうだが、それだけの実力があるんだ。そんな事に有望な人材を使うつもりはないから安心しろ。お前とていつまでもこんな事をしているつもりはあるまい。返事は今すぐとは言わぬ。また一週間後にここに来る。その時にどう気持ちが変わっているかな」
吉宗はそれだけ言うと店から立ち去って行った。
「ふざけやがって」
紗希の仕事はいわゆる暗殺屋であった。
総元締めと呼ばれる男が依頼人から標的となる人物を聞き出し、紗希が実行班として動く。
報酬の分け前は紗希が六で元締めが四である。
依頼料の設定はないが、依頼人が払える限りの金額で折り合いを付ける。
平均でいけば一人につき一両であるが、今の紀州ではそのお金も払える人間は限られている。
「あいつの言う通り、たしかにいつまでもやっていられる仕事じゃねえけどな」
紗希が酒を飲みながらそんな事を考えていると、この前の女の子がまだ話しかけてきた。
「お姉さん」
「なんだ、お前また来ていたのか?おとうとおかあはどうした?」
「いない。。」
「いない?三年前の地震で死んだのか?」
「人斬りに斬り殺された」
それを聞いて紗希は驚いた。
「いつ?どこで?」
「三ヶ月ほど前にここから一里ほどの山道で。辻斬りはいまだに捕まってないみたいなの」
「。。そうか。悪い事聞いちまったな」
「お姉さん、お侍だったらおとうとおかあの仇を討ってくれない?」
「私にか?」
もしかしてさっきの殿様との話を聞かれていたのかと気まずい空気がよぎる。
「相手はわかっているのか?」
「うん。名前もわかっている。お金は今はないけど、仇を討ってくれたら必ず払います。一生かけても払います。だからお願いします」
「そいつの名前は?」
「たしか榊原正信とか。。」
「なんだと?」
名前を聞いて紗希は驚いた。
榊原正信とは紗希の暗殺の総元締めであったからだ。
「どういうことだ?」
紗希が考えていると女の子はじっと不安そうに紗希を見ていた。
「ああ、悪い。ちょっと考え事をしていたんでな。わかった。榊原は私が探し出して必ず仇を取ってやる」
「ありがとう。お姉さん。私、必ずお金を払いますから」
「お代はこの前くれた風車でいいよ」
「え?でも。。」
「その金は自分がこれから生きていくのに使いな。私は金が欲しくてやるんじゃない。私自身のけじめのためにやるんだ。今回は少しばかり時間がかかる。少し待ってくれないか」
「おとうとおかあの仇が取れるなら何日、いや、何年だって待つよ」
「何年もかからねえ。一週間ほどだ」
紗希はそう言って女の子の頭を撫でると、いつものように一両を置いて店を出た。
それから紗希は辻斬り一味の一人を捕まえ、散々殴り倒して自白させた。
辻斬り一味を束ねているのが榊原正信だという事を。
「辻斬り浪人一味を取り仕切っているのが榊原正信。そして、そいつらを私に暗殺させているのも榊原正信。どういう事なんだ?」
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