さくらの剣

葉月麗雄

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激闘編

三日月党との激闘 五

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激闘から一夜が明けた。
あれから次の襲撃はなかったものの、桜と泉凪たちは激闘の後も一晩中油断せず夜回りをした事もあり、疲労はピークに達していた。

「桜、泉凪。二人とも少し休んだ方がいい」

左近がそう言っても二人はなかなか休もうとしない。

「私たちが休んでいる間にも三日月党は襲ってくるかも知れない」

「だからと言って不眠不休でいたら体調だって崩れる。万全の状態で戦えるようにしておくのも私たち御庭番の仕事でしょ」

左近にたしなめられ、桜はようやく泉凪と仮眠を取る事にした。
腹部に傷を負った源心はしばらく戦いは無理であろう。
ここは無傷の自分が頑張るしかないと左近は心中そう決意していた。

いざ、仮眠を取るとなるとこれまでにない激戦のためか思っていた以上に身体に疲労が溜まっていると感じる桜と泉凪だった。
二人は床に入ると泥のように眠ってしまった。

桜たちを休ませた左近は月光院に謁見し、江島に会いに行った事と江島から託された仏像を月光院に手渡した。

「これを江島が。。」

月光院は仏像を手に取ると握り締めるように持ち、少しだけ悲しい表情を浮かべたが、すぐに元の表情に戻ると左近に礼を述べた。

「左近、ありがとう。江島が元気で暮らしていると聞いて少しだけ胸のつかえが取れたような気がする。彼女は私をさぞ恨んでいると思うていた。私の身代わりに流罪にされたようなものだからのう。。

正直言うと恨み言をどれだけ言われても仕方ないと覚悟していた。それなのに今だに私に忠義を持ってくれているとは、感謝してもしきれぬ」

「月光院様、江島様はおそらく生涯月光院様に対する忠義が揺らぐ事はないでしょう。少なくとも私にはそう思えました」

「私は江島に甘え過ぎていた。彼女といると本当に心が落ち着くし、まるで姉のようじゃった。今でも本当に感謝している。江島に出会えて良かったと」

年齢は江島が四歳年上であったので、月光院にとっては主従の関係なく姉のように思っていたのかも知れない。
月光院も江島も江戸っ子気質でサバサバした性格で、それが女同士の陰湿なやり合いをしている大奥の中で二人が気の合った理由の一つでもあった。

江島は御年寄になってからも直接指揮しなければならない事が起こらない限りは常に月光院に一日中付いて話し相手をしたり、二人で一緒に経を読んだり、月光院が懐妊してからは肩や足を揉んだり背中をさするなどしていた。
二人はどこに行くのにも常に一緒であった。
江島は元来がマメな性格なのもあったが、それだけ月光院と気が合ったのであろう。
それだけに江島のいなくなった後の月光院の孤独感は左近にも想像に余りある。

「せめて私の感謝の気持ちを江島に伝える事が出来たらのう。。」

月光院は遠くを見るような眼差しでそう思いを打ち明けるのであった。

⭐︎⭐︎⭐︎

桜と泉凪は一刻半〔およそ三時間〕眠っていたが、左近に起こされて目が覚めた。

「少しは回復した?」

「姉さん、ありがとう。三日月党は?」

「今のところ襲ってくる気配はないよ。六人衆も二人だけになって慎重になっているのかもね」

「左近さん、ありがとうございました。桜、私は月光院様の元へ行くよ」

泉凪はそう言うとひと足先に部屋を出て行った。
泉凪は月光院付きの別式。
月光院を守る気持ちは誰よりも強かったし、桜たちにもそれはわかっていた。

「今夜も引き続き危ないって事は泉凪もわかってるんだろう。残っている三日月党はおそらく昨日戦った連中よりもさらに手強い事が予想されるからね。姉さん、私は天英院様をお守りする。姉さんは大奥にいる他の人たちを守ってあげて」

「桜たちばかりに戦わせる訳にはいかないよ。私も戦う」

「残るは敵は首領を含めても三人。ならば戦うのは私と泉凪で何とかする。姉さんには私たちに万一の事がない限り戦いには参加しないで守り付いていてほしい」

「万一って。。桜と泉凪がやられるような相手なら私でも歯が立たないよ」

「万一って言ったのは本当に最悪の事を考えた時、私たちは絶対負けない。必ずこの大奥と天英院様、月光院様たちを守る。姉さんが後ろに控えてくれているから安心して戦えるって事だよ」

「良かった。。足手まといって思われてたら落ち込むところだった」

「そんな事思わないって。じゃあ私も見廻りに出るよ」

そう言って部屋を出て行く桜の後ろ姿を見て左近は嫌な予感がしていた。

「なんだろう。。桜が負けるとは思えないのに何か嫌な感じがする。私の思い過ごしならいいんだけど」

⭐︎⭐︎⭐︎

そして夜の闇が訪れる。
昨夜は満月の月明かりに照らされたが、今夜の月は雲に隠れていた。
広い大奥の中は昼間ですら陽の光が差し込まない部屋や廊下が至るところにあり、夜になるとそこはなお暗く感じ、一層不気味さを増す。
大奥の廊下を見廻りしていた桜はふと立ち止まる。

「来る。。」

桜は殺気を感じた。
暗闇から歩み寄る気配。
いや、歩み寄るなどという優しいものではない。
ジリジリと肌が痺れるような尋常ならぬ殺気に桜は三日月党だと察知する。
最もこの大奥において桜にこれだけの殺気を放つ相手はそれ以外にないであろうが。

目の前に現れた黒い影は身長は桜よりやや低く、身体は華奢に見える。
影は桜に向かって走り寄ると左脚から蹴りを繰り出す。

〔左回し蹴り。。ならば避ける〕

桜は吹雪の左回し蹴りを顔を背けて避けた。
が、次の瞬間避けたはずの蹴りが再び左側から飛んでくる。

〔な。。〕

桜は咄嗟に蹴りの威力を相殺させるために右へ飛んだ。
左回し蹴りと見せかけてのかけ蹴りである。

「く。。」

「よくかわしたな。我が名は三日月党六人衆吹雪」
〔女性?〕
桜が初めて出会う同性の敵であった。
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