さくらの剣

葉月麗雄

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激闘編

三日月党との激闘 二

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桜と不知火が戦闘を開始したのはすぐに泉凪の元にも伝わってきた。

「何事じゃ?」

「敵が襲って来たようです。月光院様、お気をつけ下さい」

桜が三日月党と戦っている間、泉凪は月光院の側を離れるわけにはいかなかった。
不知火と応戦していた別式女の一人が月光院と泉凪の部屋に駆け込んで来る。

「狼藉者でございます。山のような大男で、我らでは歯が立ちませんでした。今、桜様が戦っております」

「泉凪、桜は大丈夫なのか?」

「桜なら任せておいて大丈夫でございます。それよりも新手の敵がここに襲いかかってくる事が十分に考えられます。私はここで月光院様をお守り致します」

桜と泉凪は源心の報告が吉宗から入ってきたので、三日月党が少なくとも六人以上いるとわかったが、それより前から常に二人で連携を取りながらいざという時には互いに守るべきお方〔月光院、天英院、錦小路〕を守る事を最優先すると決めていた。

一人が敵と遭遇中でも助けに行かず、自身の任務を遂行する。
互いに実力を認め合い、信頼しているからこそ出来る事であった。
それでも二人では限度があったが、次の手を吉宗が必ず打ってくれると信じている桜を見て泉凪もまずは二人で出来る事をやると決めたのだ。


泉凪も迫り来る殺気を感じ取った。

「月光院様!」

泉凪は月光院を庇うために月光院の前に出て刀を抜く。
その泉凪の前に時雨が現れた。
だらんと下げた手に刀を持ち、ボサボサの髪。
一件すると風貌の冴えない男に見えるが、泉凪に向けている殺気は尋常ではなかった。

「お前が別式か?我は三日月党六人衆が一人、時雨」

「三日月党六人衆だと?」

「名乗ったのはお主に対する礼儀。そして必ず葬るという己に対する覚悟」

「ならばその礼儀に対してこちらも礼を尽くそう。私は大奥別式鬼頭泉凪」

泉凪は自身の名を名乗ると剣を中段に構える。

「二乃型朧月(にのがたおぼろつき)」

「そのようなまやかしが通じると思うか」

時雨が泉凪の腕を狙い斬りつけてきたところを泉凪は時雨の刀に軽く自身の刀を合わせて小さく回転させ、そのまま押さえつける。

「ぬ。。」

時雨は自身の刀が上から押さえつけられ動かせないと見ると、瞬時に泉凪から離れて間合いを取る。

「なるほど、油断も隙もない」

時雨は不敵な笑みを浮かべる。

「いい獲物だ。他の奴に取られなくて良かったわい」

再び対峙する時雨と泉凪。

「秘剣一乃型月輪(ひけんいちのがたげつりん)」

時雨の繰り出した技は高速の左右袈裟斬りであった。
泉凪はこれを受け流して間合いを詰めようとするが、時雨は力づくで強引に押し込む。

〔力では敵わぬか。。〕

泉凪も間合いを開けようと高速で後ろに飛び退く。
それを狙っていた時雨が一気に間合いを詰めにいく。

「二乃型飛龍(にのがたひりゅう)」

「く。。」

泉凪は着地と同時に左に飛び下からの逆袈裟斬りを辛うじてかわす。
しかし、僅かだが左の腕を剣がかすめて出血した。

「浅かったか。見事な反応だったと褒めてやる」

泉凪は誰かを守りながら戦うのは初めての経験で、これほど戦いづらいものなのかと内心焦りを感じていた。
こちらから技を仕掛けていけば月光院から離れる事になり、泉凪は相手に合わせざるを得ない戦いを強いられた。

もっとも、桜の剣が常に先制を取り相手を圧倒する攻撃型だとすれば、泉凪は相手の剣に即座に対応出来る柔軟型であった。
従ってこの戦い方は桜よりも泉凪の方が合っているのも確かである。
そして二人とも先読みする「予測力」に優れていた。

「どうした?来ないのか?受けてばかりでは勝てぬぞ」

そう言いつつも時雨は泉凪が月光院をかばいながら戦っているのは承知の上であった。

「ならばその憂いを無くしてやろう。五乃型火輪(ごのがたかりん)」

時雨の一文字斬りを泉凪は刀で受け止めるが、相手の力が凄まじく、その威力を相殺させるために身体を横に飛ばして受身を取りつつ庭に出ざるを得なかった。

〔しまった。。月光院様から離れてしまった〕

泉凪は何とか月光院のいる部屋の中に戻ろうとするが、それを許してくれる相手ではなかった。

「安心しろ。俺の標的はお前だ。月光院には手を出さぬ」

時雨のその言葉の意味を泉凪はすぐに理解する事となる。

「別の仲間か!」

泉凪は軽く舌打ちした。
相手は自分と桜を月光院、天英院たちから引き離すために別々に襲って来た。
こうなると二人しかいない泉凪たちは数的不利だし月光院、天英院たちを助けに行くにも目の前の難敵を倒さなくてはならない。

「月光院様!しばしご辛抱を。。」


一方、泉凪が側から離れてしまった月光院は庭で戦う泉凪の様子を心配そうに見ていたが、突然の来訪者にそれは遮られた。

「何者じゃ?」

「三日月党六人衆、飛燕」

「三日月党。。」

その男は桜と同じように髪を後ろに結いだ「ポニーテール」であった。
見た目は優男(やさおとこ)風だが、月光院を睨む眼光の鋭さは紛れもない刺客である。
月光院は驚き助けを呼ぶ。

「だ、誰か?桜!誰も居らぬのか?」

「いくら叫んでも無駄だ。御庭番は我らの仲間が襲っている。今頃は応戦中であろう。邪魔だてした城内の別式女たちは全員斬り捨てた」

「ああ。。」

月光院はその言葉を聞いて愕然とした。
頼みの綱の泉凪と桜はどちらも三日月党六人衆と応戦中。
残る別式女たちは全員斬られてしまい、もはや逃げ場はなかった。

「月光院、覚悟してもらおう」

〔これが私の運命なら甘んじて受け入れよう〕

月光院は死を覚悟した。
その時、月光院の前に一人の男が立ち、飛燕に待ったをかける。

「月光院様に手出しはさせぬ」

「お主は?」

「上様の御庭番で源心と申します。男性禁制の大奥に入る事、上様よりご了承の上で月光院様をお守り致します」

吉宗は大奥のしきたりよりも月光院と天英院の命を助ける方を優先させ、源心を桜たちの応援に大奥へ送り込んだ。

「私を助けに来てくれた者を大奥のしきたりで責める事などどうして出来ようか。礼を言うぞ源心」

「お礼はこの難敵から月光院様をお守り出来た時に」

そう言うと源心は飛燕に向かって行く。

「泉凪殿!月光院様は御庭番がお守りする。まずは目の前の敵を倒す事に専念されい!」

源心の声は泉凪に届くと泉凪は表情こそ変えなかったが内心ほっとひと安心した。

〔上様が御庭番を使わしてくれたのか?上様、感謝致します〕


「新手の御庭番か。月光院などいつでも殺せる。まずはお前との戦いを楽しませてもらおうぞ」

飛燕は源心の登場に月光院の暗殺よりも戦いを優先させた。
飛燕は手裏剣を投げると同時に斬りつけて来た。
源心は手裏剣を刀を弾くが、まだ次の動作に移り切らないうちに飛燕が目の前に迫ってきている。

「くそ。。」

源心は何とか体制を立て直して飛燕の剣を受け止める。

「剣と手裏剣を組み合わせて使う戦法か」
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