霊媒巫女の奇妙な日常

葉月麗雄

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予想のつかない出来事 後編

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聖菜は愛菜の霊体に首を掴まれそのまま橋の欄干(らんかん)に押さえ込まれる。

「ぐ。。」

「聖菜!」

那由多が助けに入ろうとするが、愛菜の霊体は霊剣を作り出し那由多を斬りつける。

「おっと」

那由多は霊剣の攻撃をかわすと人の姿に変身する。
愛菜の霊体がそれに気を取られた隙に聖菜は霊体の肘を掴み思い切り全体重を乗せる。
その重みで霊体の肘が曲がり体制が崩れたところでその場から切り抜けた。

普通の人なら霊体は掴めないが、聖菜には霊媒師としての能力がある。
人に見えない姿が見えて、攻撃出来ない霊体を攻撃出来る能力が。

「那由、サンキュー」

「どういたしまして」

那由多は女性の姿に変身していた。
無論、普通の人には姿は見えない。

「さて、この霊体を浄化させるわよ」

「了解(ラジャー)」

聖菜は剣を真上に上げて空中に四縦五横の格子を描くと空中に格子型の糸状の線が現れて愛菜の霊体を捕えた。

「消されてたまるか。。」

愛菜の霊体は力を振り絞って聖菜と那由多が斬りつけるギリギリで格子糸から強引に抜け出した。
聖菜は悔しさを滲ませてぐっと拳を握りしめた。

「格子糸に絡み取られたら普通なら霊体は動けないはず。私の力が未熟だから抜けられてしまうんだ。。」

実際、聖菜の霊媒師としての力は発展途上でまだまだこれからというところであった。
聖剣神楽の力もまだ活かしきれていない。
今後手強い霊体と出くわして戦う事になった場合、聖菜の力が通用しない事も十分に考えられる。

それでも母、美里の後を継いで霊媒師の役目を請け負った以上は自分に出来る事はやってやる。
そんな気持ちでこれまで霊体と戦ってきた。

「聖菜、余計な事は考えるな。目の前の霊体を倒す事に集中しよう」

「そうね。那由、ありがとう」

那由多の言葉に聖菜は気持ちを切り替える。

愛菜の霊体は再び襲いかかって来るかと思われたが、その場に留まって手を振り下ろす仕草を取る。

聖菜は何か危険を察知して身体を反転させると、目に見えない突風か衝撃波のようなものが身体の横を通過したのを感じ取った。

「今のは。。西田を殺害したのは今の技ね」

西田浩二を殺害したと思われるかまいたちのような空気カッターが聖菜の身体の真横をすり抜けていた。

「たまたまうまく避けたようだけど、そう何度も避けられるかな」

「危なかった。。気配を感じても目には見えない。厄介な代物ね」

愛菜の霊体の言う通り、今のはたまたまカンで避けられたが、次も上手くいく可能性はない。
目に見えない上に当たれば一撃で身体が斬り裂かれるとんでもなく厄介な技である。
聖菜は何か対策がないか考えていたが、ふと思いついた。

「那由、黒霧を出せる?」

「黒霧?そうか」

聖菜に言われて那由多が黒霧を出したのと愛菜の霊体が空気カッターを出したのがほぼ同時であった。
那由多が空中に黒霧を散布させた事で、円弧状の空気カッターの軌道がくっきりと視界に現れた。

「見えた」

ブーメランのように回転しながら飛んでくる空気カッターを聖菜は剣ではたき落とす。
だが、空気カッターは見えたものの、聖菜と那由多だけでは攻撃を避けるだけで精一杯だった。

「聖菜、相手の技は見えたけど、今のままだとボクは黒霧を出すだけで精一杯。聖菜は攻撃を跳ね返すだけで精一杯で霊体までボクたちの攻撃が届かないよ」

「そうね。式神を。。」

聖菜が式神を呼び出そうと式札に手を掛けた時、二人の前に意外な人物が姿をあらわした。

「聖菜さん!」

「あなたは?」

「お久しぶりです。西巻明日香です」

聖菜の前に現れたのは南駅前連続通り魔殺人事件で遭遇した西巻明日香であった。

「聖菜さん、話は後です。あの飛んでくる空気カッターは私が跳ね返しますので、聖菜さんは霊体を」

聖菜は明日香の人や物を弾き飛ばす超能力に苦戦した事を思い出し、彼女の考えを即座に理解した。

「わかった」

「もう一人邪魔者が増えたか」

愛菜の霊体が空気カッターを発動すると明日香は宙を睨む。

「私には飛び道具は通用しないわよ」

明日香と聖菜を狙った空気カッターは明日香の念力によってすべて弾き飛ばされた。
目には見えないが、自分たちから危険が回避されたのは即座に感じ取ることが出来た。

「さすがね」

聖菜はこの気を逃しまいと聖剣神楽で愛菜の霊体を斬りつけた。

「往生せよ」

身体を斬られて悲鳴をあげる愛菜の霊体。
真っ二つになった身体は空中に蒸発するように消えていった。

「終わったわね」

聖菜が除霊を終えて再び愛菜に近づくが、愛菜は呆然としていた。
実際に自分の霊体を見てショックも大きかったのだろう。

「私はとりかえしのつかない事をしてしまった。。もう生きていたくない」

明日香は同じ会社の後輩である愛菜を見て話かける。

「映美から話を聞いてもしやと思って来てみたら思った通り。愛菜も私と同じ事やらかしたのね」

「私と同じ?じゃあ明日香さんも?」

明日香は愛菜の先輩で部署は違うが映美が共通の友人であったため、面識があった。
言われてみれば数ヶ月前に社内で次々と社員が通り魔事件に遭遇するという事があった。
まさかそれが明日香の仕業だったと愛菜は初めて知った。

「愛菜は私が怖い?」

明日香にそう聞かれて愛菜は首を横に振るが、身体がそれとは反対にガタガタ震え出し声も出なかった。

「その様子じゃ怖いのね。無理もないわ。私はあなたどころじゃない数の人間を手にかけたんだから。いくら無意義のうちにとはいえ。聖菜さんに助けられなかったらさらに何人の人を殺めていたと思う」

愛菜は自分と同じ経験をした明日香の話をすがる様に聞いていた。

「明日香さん、私はこれからどうしたらいいんですか?」

振り絞るように声を出した愛菜の問いに明日香は答える。

「愛菜の出来る事は死のうなんて思わずに精一杯生きる事。誰かを助けたり人の役に立つ事をやってみたらどうかな。私も取り返しのつかない事をしてしまった以上、生きていく中で自分に出来る限りの償いをしていくつもりよ。私たちは同じ罪を犯した者同士。お互いに自分のできる事をやっていきましょう」

愛菜は明日香にそう言われてうなづいた。

「わかりました。私に何が出来るか。何をするのが償いになるのかこれから考えて生きていきます」

「それから今回の件、警察は事故で処理しているから退職しようなんて考えなくてもいいよ。私だって会社に残っているんだし、明日も何事もなかったように普通に来なさい。まあ今日の明日じゃ気分的にも仕事って状態じゃないだろうから無理はしないように」

「はい。ありがとうございました」

愛菜はそういうと聖菜と明日香にお辞儀をしてその場から去っていった。


「聖菜さん、その節は色々とご迷惑おかけしました」

「今日は助かったわ。元気そうでなりよりね」

「あれからしばらくは私も今の愛菜のようにふさぎ込んで悩んでいました。でも、いつまでも自分を責めたところで何も解決しないし前にも進めない。だから私は自分にできる償いのために少しでも聖菜さんを助けられたらと思ってます」

明日香の言葉に驚く聖菜。

「私はこれから聖菜さんの力になります。私が必要な時はいつでも声をかけて下さい」

「ありがとう、助かるわ」

こうして桐子に続いて明日香も聖菜の味方として加わる事となった。
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