霊媒巫女の奇妙な日常

葉月麗雄

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忍耐の決壊 中編

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翌日、安西と永井の家族からの通報で昨夜から二人が家に戻っていない事を受けて警察が捜索に乗り出したところ、二人の首が近くの公園で発見された。
胴体は絵里奈が会社近くの工事現場で、安西は首と同じ公園内でそれぞれ発見された。

「こりゃひでえな。ここんとこ、この街では妙な事件が立て続けて起きてやがる。聖菜ちゃんの領域だったら俺たちの出番じゃねえ事になるが」

「何が私の領域ですって?」

突然背後からの声に龍二は飛び上がるほどびっくりする。

「せ、聖菜ちゃん。どうしてここに?」

「どうしてって帰り道ですもん。それより私の領域って事は不可解な事件でもあったの?」

聖菜にそう言われると、龍二も話せる事は話しておいた方がいいと考えていた。
警察の手に負えない「超常現象」の類だった場合、彼女の力が必要になるからだ。
最も結果としては犯人不在で自殺って事になるだろうが、龍二としては裏の真相は知る事が出来る。

今回も表向きは男の部長と新人女子社員が不倫の口論の末、部長が女子社員を殺した後に自殺ってところだろう。
他に足跡も指紋もないし監視カメラの映像にも何も映ってないのだから。

しかしそれでは釈然としないものが龍二にはある。
龍二からおおよその話を聞いて聖菜はしばらく顎に手を当てて考えていた。

「確かに猟奇的ではあるけど、それだけじゃ何ともいえないわね。私がその現場を目撃すれば一目瞭然なんだけど」

せめて遺体を見れば何かわかるかも知れなかったが、さすがに許可してくれなかった。

「しかしねえ。これが霊じゃなく人間の凶悪犯だったら女の子一人じゃ危険だからさ」

龍二は小さい子に言い聞かせるように聖菜に注意する。

「そうね。人間だったときにはすぐに警察に知らせますから」

「人間だった時って。じゃあ霊だったらやり合うの?」

「もちろん。そこは私の領域なんでしょ」

聖菜の言葉に龍二は次の言葉が浮かんでこなかった。

〔さっき俺が自分で言ってしまったからな。。〕

「龍さん、情報ありがとう。いくら探しても犯人は出てこないと思うけど、無駄な捜査頑張ってね」

「ひと言余計なんだよ」

思わず売り言葉に買い言葉で出てしまったが、聖菜は涼しい顔をして手を振って行ってしまった。

「本当に、顔は可愛いのに出てくる言葉は毒ついているんから可愛げがない。知り合いの娘じゃなかったら公務執行妨害で逮捕してるところだ」

いやいや。ちょっと落ち着こう。
龍二は少し頭を冷やして冷静にならなければと深呼吸をする。
刑事が女子大生の言う事にいちいち腹を立てるわけにはいかないだろう。
そう自分に言い聞かせるのだった。


聖菜は龍二の情報から犯人像を考えていた。
人間が起こしたものなら普通に考えれば猟奇的殺人。
だけど霊の仕業となると抑制されていた恨みや怒りが飛び出したものという考え方も出来る。

「被害者の勤め先をちょっと見てみるかな」

絵里奈と安西の名前と勤め先はさっき龍二が教えてもらったので、聖菜は殺された二人の勤めていた会社に向かった。

⭐︎⭐︎⭐︎

明日香は絵里奈と安西を殺害した後も会社の人間を一人、また一人と消していった。

「私を見下した者、馬鹿にした者は一人残らずこの世から消してやる」

明日香はこれまで差別と言っていい事をされてきた。
そのストレスはかなりのものだったであろう。
なまじ忍耐力が強いためにその怒りや悲しみを押し殺して溜め込んでいくうちにもう一つの闇が出来上がってしまった。

実は本体の明日香は休養明けの朝に突然起き上がれなくなり、床に伏してから目が覚めていない。
幽体離脱で恨みのエネルギーだけが身体から離れて行動をしていたのである。

一人暮らしなのと、離脱した霊体が動いているので本体が眠ったままだという事は誰にも気づかれていなかった。
明日香本人でさえも。

「ここが被害者が勤めていた会社ね」

聖菜は建物をじっと見つめる。
しかし今は犯人というべき霊体の気は感じられない。
ここにはいないという事か。
聖菜はいったん会社のあるビルから離れて辺りを見回っていた。

「被害者の二人は同じ部署の上司と部下の関係。その二人を知る人物の犯行と見るのが一番可能性があるんだけど、誰か会社の人を見つけて聞いてみるかな」

「聖菜、誰か狙われている」

那由多の声に聖菜は気を集中させる。


「た、助けて。。助けて下さい」

建物の路地裏から突然走って来て聖菜に必死ですかる女性。
その顔は恐怖で引き攣り、体は小刻みに震えている。
聖菜は「そいつ」が近くにいる事を察知する。

「あなたを狙っているのは先日殺された女性と中年男性をやった奴ね」

女性はその問いに声にならない声を上げて何度も首を縦に振る。

「そいつは何者なの?知っている人?」

「わ、私たちの同僚で名前は西巻明日香」

「その西巻明日香って人に何故あなたは狙われてるの?」

「私はただ部長と絵里奈が明日香に嫌味を言っていたのを聞いていただけ。そりゃ、あれだけ部長に毎日のように小言を言われてたら周りから見れば仕事の出来ないトロい子だって目で見るわよ。でも、そんな事で命まで狙われる理由がわからない」

「そう、わからないの。幸せな人ね」

「え?」

「その西巻明日香って人が毎日の理不尽な暴言に耐えていたんだとしたら、今回の事件はその怒りが限界値を超えてしまった事によるものね。そうなる前に周りが止めていたら、あるいは起きなかったかも知れない。

今さら何を言っても遅いけど。周りも見下した目で見たり、見ているだけで止める事が出来なかった以上、積もり積もった恨み辛みから命の狙われるのは当然ね」

「そんな。。助けて下さい」

「彼女もずっとそう思っていた。でも誰も助けてくれなかった。違う?」

「ごめんなさい。。ごめんなさい」

「私に謝ってもどうしようもないわ。で、どうして欲しいの?その西巻明日香を警察に突き出す?なら早く警察を呼んだらどう?」

「スマホを壊されて連絡できないの」

聖菜は頭を掻く仕草をする。

「仕方ないわね」

聖菜が女性の額に札を貼り付けると女性はその場に倒れた。

「結界を張ったからとりあえずは安全よ。しばらく眠ってて」

式札で結界を張って女性の安全を確保し、聖菜が前を見ると一人の女性が立っていた。
邪悪というより怨念の塊のようなドロドロとした気を感じ取れる。

「おおよその事情はわかった。かなりの恨みの強さ。。これは厄介ね」
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