125 / 178
第三章 名無しのエトランゼ
3‐26
しおりを挟む
戦いの前に講堂で集まった短い時間で、既に今回の作戦は全て伝え終えてある。
その上で今ヨハンがすべきことは、『その時』が来るまでこうして街の中央広場で敵の攻勢から持ち堪えることだけだ。
住民の避難を終えた街は兵達の刃がうち交わされる音と、怒号と悲鳴に満ち溢れている。
南門から突入してきた敵部隊をエトランゼ隊が支え、東門はディッカーの部下であった兵達が必死で攻撃を受け止め続けている。
現状敵の包囲が薄いのは北門だが、そこから街の外に脱出したところでその先にあるのはソーズウェル。突破は不可能だろう。
唯一動きを見せていないのは西門だが、敵もこちらが予想外に抵抗したときに備えて、予備兵力として確保しているのだろう。
迫りくる盾と槍で武装した重装歩兵が、形ばかりのバリケードを破壊して、その防御力を生かして無理矢理に突破を図ってくる。
それを屋根の上に潜ませた弓兵の掃射で動きを止め、民家の中や路地裏に隠れたエトランゼ達がギフトを用いて迎撃。
最初こそそれによって押し留めることに成功したものの、敵の数は圧倒的に多い。戦力を順次投入されるだけでジリ貧状態に陥って来ていた。
「ヨハン様! 東側が敵に突破されました! 軽装兵の部隊ですが、一塊になってこちらに突撃してきています!」
「ヴェスターの隊を迎撃に! 手薄になる個所には俺が出る!」
兵士を連れだって広場を出る。
少し広場を離れれば最早戦場で、立ち並ぶ民家や商店の間には敵味方の兵が血を流して倒れている。
盾を構えて、狭い道を通らせまいと防ぐ味方の後ろ側から、ヘヴィバレルを構えて敵陣へとその銃口を向ける。
「道を開けろ! 一気に敵を蹴散らす!」
ヨハンの言葉で、兵士が一斉に退く。
それを好機と見た敵軍が前進すると、そこに対して引き金を引く。
豪快な発射音と共にヘヴィバレルから弾丸が発射される。
両手で保持しなければならないほどに巨大な銃身から放たれた弾丸は空中で炸裂して、そこから金属の小さな玉を敵陣に浴びせかける。
小さな、とは言ってもその口径は通常の散弾よりも遥かに大きい。圧倒的な加速から放たれたそれは、敵の分厚い鎧兜すら余裕で貫通する威力を見せた。
「ぐああぁ!」
「なんだ!?」
次々と悲鳴が上がるそこ場所に、容赦なく二発三発と打ち込んでいく。
敵兵はその火力の前に成すすべなく崩れ、倒れた味方に邪魔されて進軍が遅れ始めた。
「装填の時間を!」
「はっ!」
ヨハンが次の弾丸を込めるまでの間を、味方の兵達が身を盾にして時間を稼いだ。
敵もこれ以上やらせるわけにはいかないと、決死の覚悟でそれを突破するべく突撃してくる。
薄っぺらい兵士の壁一枚を抜けばいいだけだと、死を覚悟したお互いの兵士達は無我夢中で武器を振り、命を削りあっていた。
そこに次弾を装填したヨハンのヘヴィバレルが、二度目の砲火を放った。
「ここはこのまま時間を稼ぐ! その間に負傷者の救護しつつ後退!」
雨は激しさを増し、少し先すらも見えなくなっている。
そこに関しては、天運がヨハンに味方していた。そのおかげで敵の進軍は、ほんの僅かではあるが遅れ、厄介な弓兵が市街戦であることも含めてあまり役に立たなくなっていたからだ。
一方こちらの弓兵に関しては、高台と取ってそこから撃つだけで牽制としての役割は充分に果たしている。
「エトランゼ殿!」
「どうした?」
駆けこんできたのは、西側を見張らせておいた伝令だった。
「西側の軍が動きだしました! 一気にこちらを押し潰すようです!」
「……そうか」
ぐっと、目に入ろうとする雨水を拭う。
ヨハンの持つヘヴィバレルの火力に恐れをなしたのか、それとも西側から攻める部隊とより濃密な連携を取るためか、敵の部隊は波が引くように姿を消し始めていた。
「残った兵を中央広場に集めろ! 手筈通りに行くぞ」
まずは成功。ヨハンの苦し紛れの作戦も、最初の耐えるところが上手く行かなければそこで全て終わっていた。
それが何とか成功したことで安堵の息を吐くが、まだ状況は全く変わっていない。本当に力を尽くさなければならないのはこれからだった。
ヨハンは先程から頭の中に何度も響くルー・シンの言葉を振り払うように、次の行動に備えて思考を切り替える。
その上で今ヨハンがすべきことは、『その時』が来るまでこうして街の中央広場で敵の攻勢から持ち堪えることだけだ。
住民の避難を終えた街は兵達の刃がうち交わされる音と、怒号と悲鳴に満ち溢れている。
南門から突入してきた敵部隊をエトランゼ隊が支え、東門はディッカーの部下であった兵達が必死で攻撃を受け止め続けている。
現状敵の包囲が薄いのは北門だが、そこから街の外に脱出したところでその先にあるのはソーズウェル。突破は不可能だろう。
唯一動きを見せていないのは西門だが、敵もこちらが予想外に抵抗したときに備えて、予備兵力として確保しているのだろう。
迫りくる盾と槍で武装した重装歩兵が、形ばかりのバリケードを破壊して、その防御力を生かして無理矢理に突破を図ってくる。
それを屋根の上に潜ませた弓兵の掃射で動きを止め、民家の中や路地裏に隠れたエトランゼ達がギフトを用いて迎撃。
最初こそそれによって押し留めることに成功したものの、敵の数は圧倒的に多い。戦力を順次投入されるだけでジリ貧状態に陥って来ていた。
「ヨハン様! 東側が敵に突破されました! 軽装兵の部隊ですが、一塊になってこちらに突撃してきています!」
「ヴェスターの隊を迎撃に! 手薄になる個所には俺が出る!」
兵士を連れだって広場を出る。
少し広場を離れれば最早戦場で、立ち並ぶ民家や商店の間には敵味方の兵が血を流して倒れている。
盾を構えて、狭い道を通らせまいと防ぐ味方の後ろ側から、ヘヴィバレルを構えて敵陣へとその銃口を向ける。
「道を開けろ! 一気に敵を蹴散らす!」
ヨハンの言葉で、兵士が一斉に退く。
それを好機と見た敵軍が前進すると、そこに対して引き金を引く。
豪快な発射音と共にヘヴィバレルから弾丸が発射される。
両手で保持しなければならないほどに巨大な銃身から放たれた弾丸は空中で炸裂して、そこから金属の小さな玉を敵陣に浴びせかける。
小さな、とは言ってもその口径は通常の散弾よりも遥かに大きい。圧倒的な加速から放たれたそれは、敵の分厚い鎧兜すら余裕で貫通する威力を見せた。
「ぐああぁ!」
「なんだ!?」
次々と悲鳴が上がるそこ場所に、容赦なく二発三発と打ち込んでいく。
敵兵はその火力の前に成すすべなく崩れ、倒れた味方に邪魔されて進軍が遅れ始めた。
「装填の時間を!」
「はっ!」
ヨハンが次の弾丸を込めるまでの間を、味方の兵達が身を盾にして時間を稼いだ。
敵もこれ以上やらせるわけにはいかないと、決死の覚悟でそれを突破するべく突撃してくる。
薄っぺらい兵士の壁一枚を抜けばいいだけだと、死を覚悟したお互いの兵士達は無我夢中で武器を振り、命を削りあっていた。
そこに次弾を装填したヨハンのヘヴィバレルが、二度目の砲火を放った。
「ここはこのまま時間を稼ぐ! その間に負傷者の救護しつつ後退!」
雨は激しさを増し、少し先すらも見えなくなっている。
そこに関しては、天運がヨハンに味方していた。そのおかげで敵の進軍は、ほんの僅かではあるが遅れ、厄介な弓兵が市街戦であることも含めてあまり役に立たなくなっていたからだ。
一方こちらの弓兵に関しては、高台と取ってそこから撃つだけで牽制としての役割は充分に果たしている。
「エトランゼ殿!」
「どうした?」
駆けこんできたのは、西側を見張らせておいた伝令だった。
「西側の軍が動きだしました! 一気にこちらを押し潰すようです!」
「……そうか」
ぐっと、目に入ろうとする雨水を拭う。
ヨハンの持つヘヴィバレルの火力に恐れをなしたのか、それとも西側から攻める部隊とより濃密な連携を取るためか、敵の部隊は波が引くように姿を消し始めていた。
「残った兵を中央広場に集めろ! 手筈通りに行くぞ」
まずは成功。ヨハンの苦し紛れの作戦も、最初の耐えるところが上手く行かなければそこで全て終わっていた。
それが何とか成功したことで安堵の息を吐くが、まだ状況は全く変わっていない。本当に力を尽くさなければならないのはこれからだった。
ヨハンは先程から頭の中に何度も響くルー・シンの言葉を振り払うように、次の行動に備えて思考を切り替える。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる