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そんな大人の寛容さを見せつけようとしたのに、シズナときたら、
「ところでお姉さん、そろそろご飯は?」
と、ケロッとした表情で尋ねてくる。さっきまでのしおらしい表情はどこにいったのやら。
「え? 私が作るの?」
「だって、お姉さんの部屋だし。それに、やっと出てこられたから疲れちゃって。ほら、わたしの出所祝い? ってことで」
「出所祝いって……。仕方ないか」
呆れながら、私は台所へと向かう。
買っておいた材料を炒めて、和風気まぐれパスタ。を作った。適当に作ったからちゃんとした名前なんて付けられないし、使えそうな調味料が醤油と本だしくらいしか見当たらなかったから和風。本当は丼ものにする材料だったけど、それじゃあ、なんだかおしゃれじゃないし、女子力低そうに見られそうなので、あまり作らないけどパスタ。
誰かの部屋に泊まったり、誰かを部屋に泊めたりした経験のない私は、着々とシズナにパーソナルスペースを侵食されていることに危機感を持ちつつも、ルームシェアってこんな感じなんだろうか、なんてまんざらでもない気分だった。
ふわふわとした、不思議な感覚。
###
朝。ここ最近は寝起きが悪く、更に、本当に会社に行かないとダメかな、と何度もぼんやりとしてしまうせいで、バタバタと用意をする。そんな忙しなく動く私をシズナはぼんやりと眺めていた。幽霊になれば仕事に行かなくて良いのか。羨ましい。
実はシズナは私の見ていた夢で、目が覚めれば居なくなっていると思っていたのだが、変わらず見えているあたり、どうやら夢ではなかったらしい。
「じゃあ、行ってきますっ」
玄関で向き直ることもせずに言い、私は靴を履く。後ろから「はーい」と気の抜けた返事が聞こえた。立ち上がり、玄関のドアを開けようとする。
しかし、
「あれ?」
ドアは開かなかった。鍵を開けたり閉めたりしても、ドアノブを何度回しても、思いっきり体当りしても、ドアはびくとも動いてくれない。
壊しちゃった? 修理の業者を呼ばないと。いや、先に大家さんか。ああ、その前に会社に連絡しなくちゃ、と半ばパニックでドアを睨みつけたまま立ち尽くす。
「ああ、それ、そういうものみたいよ」
慌てる私を尻目に、ひょっこりと顔を出したシズナが何事もないように言う。
「そういうもの?」
「うん。そういうもの。今のお姉さんには開けられないの」
説明を求めたつもりなのに、シズナは何も教えてくれない。
「そっか」
それだけ呟くと、寝起きに忙しなく動いた反動かどっと疲れが押し寄せてきた私は、フラフラとリビングまで歩いていき、そこで力尽きて床に寝転がった。服に皺ができるなんてお構いなしにゴロゴロと。芋虫みたいに。
シズナが何を知っていて、どうして私には開けられないのか。いつだったら開けられるのか。疑問は浮かんだけど、尋ね返す気力が湧かなくて泡のように弾けて消えた。
「ところでお姉さん、そろそろご飯は?」
と、ケロッとした表情で尋ねてくる。さっきまでのしおらしい表情はどこにいったのやら。
「え? 私が作るの?」
「だって、お姉さんの部屋だし。それに、やっと出てこられたから疲れちゃって。ほら、わたしの出所祝い? ってことで」
「出所祝いって……。仕方ないか」
呆れながら、私は台所へと向かう。
買っておいた材料を炒めて、和風気まぐれパスタ。を作った。適当に作ったからちゃんとした名前なんて付けられないし、使えそうな調味料が醤油と本だしくらいしか見当たらなかったから和風。本当は丼ものにする材料だったけど、それじゃあ、なんだかおしゃれじゃないし、女子力低そうに見られそうなので、あまり作らないけどパスタ。
誰かの部屋に泊まったり、誰かを部屋に泊めたりした経験のない私は、着々とシズナにパーソナルスペースを侵食されていることに危機感を持ちつつも、ルームシェアってこんな感じなんだろうか、なんてまんざらでもない気分だった。
ふわふわとした、不思議な感覚。
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朝。ここ最近は寝起きが悪く、更に、本当に会社に行かないとダメかな、と何度もぼんやりとしてしまうせいで、バタバタと用意をする。そんな忙しなく動く私をシズナはぼんやりと眺めていた。幽霊になれば仕事に行かなくて良いのか。羨ましい。
実はシズナは私の見ていた夢で、目が覚めれば居なくなっていると思っていたのだが、変わらず見えているあたり、どうやら夢ではなかったらしい。
「じゃあ、行ってきますっ」
玄関で向き直ることもせずに言い、私は靴を履く。後ろから「はーい」と気の抜けた返事が聞こえた。立ち上がり、玄関のドアを開けようとする。
しかし、
「あれ?」
ドアは開かなかった。鍵を開けたり閉めたりしても、ドアノブを何度回しても、思いっきり体当りしても、ドアはびくとも動いてくれない。
壊しちゃった? 修理の業者を呼ばないと。いや、先に大家さんか。ああ、その前に会社に連絡しなくちゃ、と半ばパニックでドアを睨みつけたまま立ち尽くす。
「ああ、それ、そういうものみたいよ」
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「そういうもの?」
「うん。そういうもの。今のお姉さんには開けられないの」
説明を求めたつもりなのに、シズナは何も教えてくれない。
「そっか」
それだけ呟くと、寝起きに忙しなく動いた反動かどっと疲れが押し寄せてきた私は、フラフラとリビングまで歩いていき、そこで力尽きて床に寝転がった。服に皺ができるなんてお構いなしにゴロゴロと。芋虫みたいに。
シズナが何を知っていて、どうして私には開けられないのか。いつだったら開けられるのか。疑問は浮かんだけど、尋ね返す気力が湧かなくて泡のように弾けて消えた。
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