6 / 7
5-P2
しおりを挟む
「ごめん」
言って、仁美さんはわたしから目を逸らした。
「いつまでも一緒には居られないの。彩香には私だけじゃなくて、もっと広い世界を見てほしいから」
脳が理解を拒んでいるかのように、仁美さんの言葉が全く理解できない。
広い世界なんていらない。わたしの世界は仁美さんと一緒に居られるこの狭いアパートだけで充分なんだよ。
もしかして、やっぱり男のほうが大切で、話をはぐらかして厄介払いをしようとしてるの?
「仁美さんを困らせるような男よりも、わたしのほうが愛してるよ。それなのに、どうして離れようとするの?」
「……私、あなたを騙してた」
「え?」
「あなたが母親に捨てられて、残された父親からも虐待されていたのは以前から知ってたの。親戚でも噂になってたから。知った上で、あの日、ぼんやりと猫の死体を弄っていたあなたに声をかけて攫ったの。私なら可哀想なあなたをどうにか出来る。愛情を教えてあげれば助けてあげられるって」
何を言ってるの? わたしは仁美さんに愛されて変わったんだよ? あの日、確かにわたしは生まれ変わったんだから。
それなのに、どうしてそんな失望したような目で見るの?
「私が依存させちゃったみたいだね」
勝手にわたしを産んで捨てた母親や父親と同じように、仁美さんも勝手にわたしを拾って、手に負えないからって捨てるつもり?
「ごめんね。私なんかが誰かを救えるなんて、思い上がりだった」
仁美さんはこれまでで一番優しい、全てを慈しむ女神のような微笑みをわたしに投げかけた。
……そんなの、許さない。
そっちが勝手にするのなら、わたしだって勝手にさせてもらうから。
「あの男は仁美さんの綺麗な顔しか見てないよ。でも、わたしは違う。わたしは仁美さんがどんな顔をしてても愛してるよ」
「何を、言ってるの?」
女神の顔が引き攣る。
「これがその証拠だよっ」
言って、わたしは手に持っていたカッターナイフを思いっきり仁美さんの頬に突き立てた。
言葉にならない金切り声が部屋中に響き渡る。これまで見たことがないくらいに、仁美さんの顔が歪んだ。痛みに耐えきれないのか、陸に上がった魚のように縛られた体をジタバタと跳ねさせる。白い肌に刺さった刃を横にずらすと、真っ赤な血が溢れ出した。
「ほら、これでもわたしは仁美さんが好きだよ。少し傷がついたって、変わらず仁美さんは綺麗だもん。五月蝿い悲鳴だって、全部好きだよ」
わたしは血や涙や涎でぐちゃぐちゃになった仁美さんの顔を撫でる。わたしがつけた大きな傷に触れると、仁美さんはまた醜い悲鳴を上げた。
言って、仁美さんはわたしから目を逸らした。
「いつまでも一緒には居られないの。彩香には私だけじゃなくて、もっと広い世界を見てほしいから」
脳が理解を拒んでいるかのように、仁美さんの言葉が全く理解できない。
広い世界なんていらない。わたしの世界は仁美さんと一緒に居られるこの狭いアパートだけで充分なんだよ。
もしかして、やっぱり男のほうが大切で、話をはぐらかして厄介払いをしようとしてるの?
「仁美さんを困らせるような男よりも、わたしのほうが愛してるよ。それなのに、どうして離れようとするの?」
「……私、あなたを騙してた」
「え?」
「あなたが母親に捨てられて、残された父親からも虐待されていたのは以前から知ってたの。親戚でも噂になってたから。知った上で、あの日、ぼんやりと猫の死体を弄っていたあなたに声をかけて攫ったの。私なら可哀想なあなたをどうにか出来る。愛情を教えてあげれば助けてあげられるって」
何を言ってるの? わたしは仁美さんに愛されて変わったんだよ? あの日、確かにわたしは生まれ変わったんだから。
それなのに、どうしてそんな失望したような目で見るの?
「私が依存させちゃったみたいだね」
勝手にわたしを産んで捨てた母親や父親と同じように、仁美さんも勝手にわたしを拾って、手に負えないからって捨てるつもり?
「ごめんね。私なんかが誰かを救えるなんて、思い上がりだった」
仁美さんはこれまでで一番優しい、全てを慈しむ女神のような微笑みをわたしに投げかけた。
……そんなの、許さない。
そっちが勝手にするのなら、わたしだって勝手にさせてもらうから。
「あの男は仁美さんの綺麗な顔しか見てないよ。でも、わたしは違う。わたしは仁美さんがどんな顔をしてても愛してるよ」
「何を、言ってるの?」
女神の顔が引き攣る。
「これがその証拠だよっ」
言って、わたしは手に持っていたカッターナイフを思いっきり仁美さんの頬に突き立てた。
言葉にならない金切り声が部屋中に響き渡る。これまで見たことがないくらいに、仁美さんの顔が歪んだ。痛みに耐えきれないのか、陸に上がった魚のように縛られた体をジタバタと跳ねさせる。白い肌に刺さった刃を横にずらすと、真っ赤な血が溢れ出した。
「ほら、これでもわたしは仁美さんが好きだよ。少し傷がついたって、変わらず仁美さんは綺麗だもん。五月蝿い悲鳴だって、全部好きだよ」
わたしは血や涙や涎でぐちゃぐちゃになった仁美さんの顔を撫でる。わたしがつけた大きな傷に触れると、仁美さんはまた醜い悲鳴を上げた。
10
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
身体だけの関係です‐原田巴について‐
みのりすい
恋愛
原田巴は高校一年生。(ボクっ子)
彼女には昔から尊敬している10歳年上の従姉がいた。
ある日巴は酒に酔ったお姉ちゃんに身体を奪われる。
その日から、仲の良かった二人の秒針は狂っていく。
毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる