明日への架け橋~絆~

ひっつー

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第三章 煩乱

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 【  】あぶない!!
 少女の顔に靄がかかっていて誰か判別が出来なく、俺はその少女に向かって喉が張り裂けるんじゃないかってくらいに大声をあげ、少女の下へ走って行く。
 そして、少女の元へ辿り着いてはすぐに勢いよく突き飛ばしてしまった。その瞬間、右半身に途轍もない痛みに襲われ、気がついたら目の前に少女が涙を流し俺を見ている。
 何かを口にしようと思った、その時――。
「――――はっ、はぁはぁ……一体、何だ、あの夢は……?」
 たらり、と流れる汗を拭き取り、俺は布団から出る。
「……嫌な夢だった、あの夢に出てきた子、雰囲気といい、声といい誰かに似ていたような気がするけど、あれは一体だったんだろう?」
 そんなことを考えつつ、汗でびしょびしょになったシャツを替えて、その上から制服を着る。
 着替え終わり、部屋を出ようとしたとき……。唐突に昨日の事を思い出してしまった。
 ただ、昨日はふとあんなことを思ったけど、あれは考えすぎだ、と内に秘め、部屋を出て階下した。リビングへ入るといつもの様に母さんは台所で朝食の支度を、親父はソファで新聞を読んでいる。
「聖耶、おはよう。もう少しで朝ご飯出来るから顔を洗ってきなさい」
「おう……」
 そうそうに洗面所に向かい、顔を洗い、再びリビングへ戻る頃には丁度良く朝食の準備が出来ていた。
 手早く朝食を済ませ、時間はまだあるものの俺は鞄を手にし、
「――行ってきます」
 ややトーンの低い声で言い残し、静かに家を出た。
 学校に向かっている間、今朝見た夢の事が忘れられず『一体あれは何を意味していたのか……』と、ずっと考えていた。
 そして気がつけば、海斗と文乃と合流していた。
「聖耶、おはよう」
「よっ! 聖耶」
 海斗を見た途端、昨日の放課後の事を思い出してしまい、もうすべてがどうでもよくなってきた……。
「? どうしたの聖耶、気分でも悪いの?」
「いや、大丈夫、問題ない……」
「本当に? 無理して――」
「大丈夫だって言ってんだろ!! ほっといてくれ! ――――……すまん」
 それだけを言い残して俺は走って去った。
「……聖耶」
 どのくらいの距離を走ったかは分からないが、椛高の近くまで来ていた。
「はぁ、はぁ……こっちに来てから変だな、俺……」
 昔ならこれくらい造作もない筈なのに――。
 さらにそんな事を考えていると、あっという間に校門を潜り、校舎の中に入って、教室へと足が動いていた。
 クラスメイトに挨拶を交わしつつ、奥の方にある自分の席に向かった。
 やっとの思いで席に座ったのだが、何か落ち着かなくて直ぐに教室を出て行き、即座に屋上へ向かい時間を潰した――。 
「そろそろ戻るか……」
 重い足取りで俺は屋上を後にして、階下し教室に戻った。
「あ、聖耶……どこに行ってたの?」
 教室に入ると、文乃が駆け寄って来た。
「別に良いだろ、そんなこと……」
「む~、聖耶、昔と比べて意地悪だよ……」
「そりゃあ、昔とは今は違うからな」
「それはそうだけど――」
「まぁ、そういうことだ」
「あ、ちょっと聖耶」
 俺は話を切り上げ、席へ戻る。そして、丁度良いところでHRの始まりを知らせる予鈴が鳴り響き、仕方なく文乃も席に着いた。
「みんなおっはよ~!」
 今日はやけにテンションMAXで葛城先生が教室に入ってきた。
「それじゃ、HR始めます!」
 点呼を取り、主な連絡をした後――。
「今日はやけにテンション高いですけど、何か良い事でもあったのですか?」
「実はね~」
 いきなり真面目な表情をし、少し間を置きゆっくりと口を開き――。
「……特に何も無いよ!」
 俺や文乃、海斗を含めたクラスのほとんどが一斉に転けた。
「特に何も無いのに、ただテンションが高いのは少々可笑しい人にしか見えませんよ……」
「いつも、静かな感じでやってたから、たまにはこういうテンション高めにやるのもいいかな、と思ってね」
「正直言って、全然静かな雰囲気出ていませんよ……」
「え、そうなの!?」
「ここにいるみんな全員知っていますよそのこと……。先生だけですよ、自覚が無いのは」
 俺の言葉に続いて、他の奴らが「そうそう」と頷き、呟いた。
「う~。――あ、そういえば近藤君、昨日転校して来たばかりなのに、もうみんなと仲良くなったのね。ちょっとビックリ……」
「歓迎会と称した質問会のおかげで、いきなりこうなりました……」
「それなら問題ないね、それじゃ、HR終わります」
 挨拶をした後、葛城先生は何か鼻歌をしながら教室を出て行った
 そして、隣の席に座っている文乃が俺をジッと見ていた。
「――ど、どうしたんだ? 俺の顔に何か付いてるか?」
「っ! な、なんでもない!」
 顔を真っ赤にし、教室を飛び出して行った。
「どうしたんだ文乃? 顔を赤くして出て行ったけど……聖耶何かしたのか?」
「いや、別に何もしてないんだけど……ただ、文乃が俺をジッと見てたからさ、ちょっと声掛けたら、ああなった」
「ふ~ん、もしかしたら聖耶が気になって見ていたり、とか?」
「ば、ばかかお前は!?」
 突拍子も無いことを言われてかなり動揺してしまった。

「ふっ、冗談だよ、何本気にしてんだ――。……それだから奪いたくなるんだよ……」
「ん、何か言ったか?」
 海斗が何かをボソッと呟いたが、俺には何を言っていたの分からなかった。
 少し気になりながらも、俺は次の授業の準備に取り掛かった。この日も変わりなく時間は過ぎていきあっという間に放課後を迎えた。
「それじゃあ、これでHRを終わりますね、みんな今日もお疲れ様~。また明日も頑張ろう」
 葛城先生が挨拶をして、それに続く感じで周りが挨拶をして、今日の日程は終了したかに見えたが――。
「聖耶……? ちょっといいかな?」
 席を立とうとした際、文乃に声を掛けられ、再び席に着く。
「どうした?」
「聖耶、今朝から様子が変だったけど……何か嫌な事あったの?」
「あ――、あの時は悪かったな、実はさ――」
 俺はあの夢の事について話した。勿論、海斗と話した事は伏せた。
「しかし、それであんなになるなんて昔と変わらないね聖耶は」
「しょうがないだろ、気になるものは気になるんだから……」
「まぁ私も自分が何かに轢かれる夢なんて見たら、暗い方向に考え込んじゃうかも。でも、そこまで考え込む必要は無いんじゃない?」
 実際文乃の言う通りだ。
「そうだな、ごめんな文乃……八つ当たりなんかして……」
「ううん、いいよ別に、私は気にしてないから」
「ありがとう。――それじゃ帰ろうか……」
 文乃の頭を撫で、言った。
「うん、行こうか」
 席を立ったそのとき、見計らったように海斗がやってきた。
「お前ら帰ろうぜ」
 鞄を手にし、教室を後にする。
「ところで、聖耶」
「ん。なんだ?」
 その帰り道、海斗が突然俺を呼ぶ。
 すると、かなり真剣な声音で、俺の耳元で聞こえるか聞こえないかってくらいの声で囁く。
「お前の答えは見つかったのか?」
 その途端、体の奥底から怒りに近い何かが込み上げてきたが、とりあえず今は何とか抑えた。
「……いや、まだだ。つか、何で俺にそんな不用意に言ってくるんだ……」
「それを言ってる時点でお前は本当に鈍感だな――」
「――――」
 絶句。それが今の俺の状況に丁度いいと思う。実際、海斗の言う通りなのかもしれない、
それでも、俺なりに文乃の事が気になってきているのは分かっている……。
 だけど、その真意に辿り着いたら、この日常が崩れてしまうのではないか、と臆病になっている自分に無性に腹が立ってくる。
「――何こそこそ話してんのよ、そこの二人……」
「なんでもないよ別に、ちょっと聖耶の相談相手になってやってるだけだから、そうだよな聖耶?」
 ここで正気に戻った俺は、「あぁ」と素っ気無く返事をする。
「ふ~ん、まぁ別にいいけど……」
 暫しの沈黙の後、別れ際にふと海斗に、
「これから文乃とどこか適当に遊んでから帰るけど、聖耶はどうする……?」
 本人は普通に言ったつもりだろうが、俺の目には皮肉な笑みを浮かべてこっちを見る海斗が映し出されていた。
「くっ……。――いや、いいや、俺はパス」
「そうか、分かった。じゃあな」
「聖耶また明日」
 だんだん遠くなる二人の後姿を見つめて、
「ふざけるな……」
 無意識にそんな言葉が口から漏れた。
 そして、静かに俺は帰路に着く。
 その夜――。
 風呂から上がった俺は自室のベットの上で突っ伏していた。
 こっちに来てから大分平和な日常からだんだん掛け離れてきているような気がする――。
「あいつは一体何を考えてんだよ……」
 また無性に苛立ちを感じ始め、挙句の果てにベットを思いっきり殴っていた。
 そして、次第に考えることが面倒になり、布団に潜り込み、驚異的な速さで眠りに就いた。
 翌朝、またあの夢を見た。
 しかも、始めから終わりにかけて昨日見たものに全く同じだった……。
 2日連続で同じ夢を見るなんて思いもしなかった、「偶然だよな……」と自分にそう言い聞かせ、布団から出て、ゆっくりと制服に着替え、部屋を出る。
 そして、いつもの通りの朝を過ごし、自宅を出て学校に向かう。
 転校3日目、初日に比べればそれなりに学校にはなれてきたが、何か物足りなさを感じた。
 ――そんな事が2日続き、約束の土曜日を迎えた。
 事前に時間と場所を指定して、二人と待ち合わせをし、現在その待ち合わせ場所である紅葉ヶ丘に予定より少し早めに行き、二人を待っているところだ。
「聖耶、おまたせ~」
 若干遠い位置から文乃がこっちに向かって大きく手を振って、駆けてきた。その文乃の後ろを海斗が追う様にやって来た。
「待った?」
「いや、ちょうど今さっき来たばかりだから大丈夫」
「そうなの……? ならさっさと行こう、椿さん待たせちゃ可哀想だし」
「よっぽど椿さんに会いたいんだな、文乃は」
「だって、数年も会ってないもん……」
「ほんとに文乃は母さんと仲いいもんな――。それじゃあ、行こうか」
 この場を後にし、他愛も無い会話をしつつ自宅へ向かった。
「母さん、文乃と海斗連れてきたぜ」
「おかえり~、あら文乃ちゃん海斗君、久しぶり~」
「椿さん、相変わらず元気そうですね」
「当ったり前でしょ~が、まだ弱音を言ってられないわよ」
「これからも元気でいてくださいね」
「もちろん、今もこれからもずっと頑張ってくから」
 そんな母さんと盛大に会話を楽しんでる文乃を見ていると、なんだか今までの事がどうでもよくなって――
 ……って、何を考えてんだ俺は……? 本当に、どうかしてる……こんな状況なのに――。
「まぁ、こんな所で立ち話もなんだからさ、中に入れよ」
「そうよ、さぁ入って」
「はい、お邪魔します」
「お邪魔します~」
 二人をリビングへ通し、
「俺、ちょっと、部屋に行くわ……」
 俺は一旦二人をそこにおいてそそくさと自室へ戻った。
「――はぁ。今日は変な気を起こさないように、って気をつけていたのに……」
 ほんと、何やってんだ俺は――。
 ただ胸の内に残っているのは、一つの罪悪感だけ……。紅葉町に来てからというもの何か運命の歯車が狂い始めているような気がしてやまない――。
「――聖耶。どうかしたの?」
 突然、扉越しに文乃が声を掛けてきて若干驚いたが、
「い、いや、何でもない」
 実際は嘘ではあるが――、平然を装い落ち着いた口調で返す。
「――また、何か悩み事でもあるの……?」
「――――っ!」
 だが、文乃に鋭いところを突かれ、俺は言葉を返せなかった。
「……図星ね、今度は一体何どうしたの?」
「何でもねぇよ、お前には関係の無いことだから……」
「関係がないなら、尚更教えてくれるよね」
「うっ、それは――」
 これは完全に墓穴を掘ってしまった……。
「――まぁ話すのが嫌ならそれでいいけど……」
「悪いそうしてくれ……」
「わかった、あと椿さんが聖耶を呼んでこいって」
「あぁ、今行く」
 少々部屋から出るのは嫌なのだが、いつまでもそんな事言っても仕方ない……。
 文乃を先に行かせようとしたが、そうさせといて俺がまた部屋に籠もるのではないかと文乃が疑っているから、仕方なく一緒にリビングへ向かった。
「あ、来た来た。ごめんね文乃ちゃん、手間掛けちゃって」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「ふふ、ありがとう。それじゃあ夕飯の支度をするわね」
「私手伝います」
 そう言って母さんと文乃は台所に向かい夕飯の支度をしているその間、俺、海斗、親父は男性陣はというと……。
「親父さん、仕事どうすか?」
「まぁ、それなりだな……。ところで大分昔と雰囲気変わったな、文乃ちゃんも海斗君も」
「そりゃあ、時が経てば誰だって変わりますよ、……そういう親父さんはあまり変わってないですけどね、あはは」
「それは褒めてるのか、それとも貶してるのか?」
「一応褒めてるつもりなんですけど……」
「ならいいが――――聖耶、どうしたさっきからぼーっとして?」
「――ん? あ、あぁ……ごめん、何でもない……」
 心配の眼差しを向ける親父に俺は、本当の事を言わず嘘をついてしまって自分に少し腹が立った。
 やや暫しの沈黙が起きたものの、それを破ったのは海斗だった。
「まぁ、聖耶の変な所は今に始まったわけじゃないからな」
 ふっ、と鼻で笑ってそう言う。
「お前な……。その感じだと小さい時から変人だって言いたいのか!?」
「べ、別にそういうわけじゃないんだけどさ、聖耶って昔から何かしら考え事があるとそうやってぼーっとする事が多々あったからな……主に――」
 そう言って海斗は、台所で母さんの手伝いをしている文乃を横目で見てから、聖耶の耳元に顔を近づけて小声で、
「文乃に関しての時だけ……な?」
 それを聞いて初めは何の事か?としか思わなかったものの、つい昔の事を思い返している内に色々思い出してしまい、一気に顔が熱くなった。
「ば、ばかっ! んなことないからっ!?」
 思い当たる節がそれなり処か……思った以上に多く出てきた。確かに海斗の言う通りで、事ある毎に俺は文乃の事で悩んでいた……。
「そのわりには凄い動揺してるように見えるが?」
 親父が冷静に呟いた。
 うっ、と言葉が詰まり何も言い返せない……。
「ま、まぁそれは昔の事だからもういいじゃないか」
「何、開き直ってんだよ、ほんとに昔と変わらないな聖耶は」
「そういうお前も見た目は多少変わったものの、中身は昔と変わらねぇよ」
「――結果的に2人とも昔から変わってないと、結論付けていいわけね」
 文乃が台所からふと出てきて3人の会話に割って入ってきた。
「え~とね、確か海斗が川で溺れかける夢とか、私が近所の公園で遊んでるときに転んで手首を骨折とか、だったかな?」
「随分と現実的なのばかりだな……」
「ただね、これら全て実際に起きてるんだけど気づいてた?」
「――いや、それってただの偶然じゃないか?」
「聖耶ならそういうと思ったけど、あともう一つあるんだけど……、一度だけ海斗だけに話をしてたみたいだね、私に関しての夢について」
 ――それだけは覚えてる……。
 それをあの時の文乃に話したら怯えて泣くに決まっていたから、それを分かったうえで俺はあえて海斗にだけしか話をしていない。
  ……それなのに、
「海斗、あの事はいつ話したんだ?」
「えーと、最近だったかな? ふと思い出したもんだからさ今なら大丈夫かと思ってな」
「まぁ別にいいけどな、それで?」
「聖耶には知られていないけど、私、一回だけ誘拐されたことがあるの」
「――っ!」
「といっても、半日だけだけどね……。ねぇ、聖耶そろそろ気づいてるんじゃない? 聖耶が見る現実的な夢は、その人の未来を映しているのじゃないかって事を……」
 こんな話があるわけないだろ――。そう思いたかった……、だけど母さん、親父、海斗の証言はそのこと事を認めざる得ない確かな証拠があった。 
「それじゃ、今度俺が見た夢は――」
「これが正しければ、今回聖耶が見た夢は、近いうちに誰かが何かから誰かを庇って事故的な何かに巻き込まれる――。というのが、私の見解。ただそれがあっているかは分からないけど……」
 俺も何となくそんな気がした……。
「つか、思ったけどさ……」
「ん? 何だ?」
 やや真剣な眼差しで俺らを見て――。
「何かはしゃぎ過ぎて腹減っちまった~」
 海斗の今の雰囲気とは不釣合いな発言によって一瞬、間が空いて……。
「ほんと、お前は空気が読めないよな……」
「事実なんだからしょうがないだろ?」
「まぁまぁ聖耶、そろそろ夕飯時だからお腹が空くのはしょうがないでしょ」
 この時、時計の針は6時を指していたのに気がついた……。
「もうこんな時間か……あっという間だな時間が過ぎるのは……」
「この話は今日はここで終わりにして夕飯にしましょう」
 そう言って母さんは夕飯の準備を始めた。
 今度は全員で分担して行ったから、すぐに終わり、皆席につく。
「「いただきます」」
 さっきの事などすっかり忘れて、6年前から今に至るまでのそれぞれの出来事を話題にしつつ、夕食を楽しんだ。
 いつしか俺の中にたまっていたストレスは静かに抜けていった。
 そして、楽しい時間はあっという間に過ぎ、食休みを少々した後、俺は二人を途中まで送って行くことにした。
「ん~、楽しかった~っ!」
「相変わらず椿さんの料理は美味かったな~」
「ね~。ねぇ聖耶、また遊びに行ってもいいかな?」
「あぁ、いつでも構わないよ、むしろ大歓迎だ」
「うん、それじゃあ次はいつにしようかな~?」
 文乃のはしゃぎっぷりはまるで、遊園地に行く前日の子供のような感じだ。
 その姿はとても微笑ましくて、頬が弛む。
「あ、そうだ。海斗あの話はどこまで進んでた?」
「あれか、まぁ約束の日までには何とか間に合いそうだから大丈夫だよ。そう言う文乃はどうなんだ?」
「私はもう完璧っ! あとは当日を迎えるだけ」
「――あのさ、一体何の話をしてるんだ二人は?」
 二人の会話が気になって、俺はつい聞いてしまった。
「う~んとね……聖耶には悪いんだけど、これは教えられないの……」
「――悪い、聖耶……」
 二人は悪気があってこうやって俺を除け者にしているわけじゃない、ということは分かってるけど……、だけど無性にイライラしてくる……。それにさらに追い討ちをかけるかのように、こんな俺を尻目に二人は楽しそうに話をする姿にさらにイライラが強まり、その結果――。
「――――」
「楽しみだね――ん? 聖耶どうかした?」
「……俺そろそろ帰るわ」
「どうしたのいきなり……? 体調でも悪く――」
「うるせぇっ! 俺に構わなくていいから、二人で仲良く帰れよ!」
 一方的に怒鳴り散らして、俺は呼び止める文乃に聞く耳を持たず、この場を走り去った。
 文乃は一体どんな顔をしているのかは、見ていないが呼び止めたときの声で大体伝わった。
 家に帰ってからも、さっきの事を酷く後悔した……。
 ――以前の、いや昔の、6年前の俺だったら一体どうしていたのか……。
 ふとそんなことが頭をよぎった。
「文乃……」
 明日、文乃に謝ろう。そう決意して俺は布団に潜り込んだ。

 そして、翌日。
 身支度を早々に済ませ、パンっと両頬を叩き気合を入れて「大丈夫、上手くいく」と、自己暗示をかけて家を出た。
 だけど、いつものように二人と合流したのはいいけど……思った以上に気まずくてなかなか話しを切り出せなかった。
 授業中、休み時間、放課後……。話す機会はたくさんあったのにも関わらず、結局「ごめん」の「ご」の字も言えなかった。
 さらに、この状態が暫く続き、俺はいつしか文乃と海斗とまともに会話が出来なくなっていた。
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