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最終章
50.どうやら粛清が始まるそうです
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まさか次に自分に来るとは思っていなかった大神官は、身体を震わせた。しかしすぐに、メイベルが何かを言う前に、先手を打とうと声を張り上げた。
「恐れながら、女王陛下! この者は魔王の宣託を受けた者! 魔王を国主とした土地を許すなど、アルビアン神竜を奉る我が国のなさることではありません!」
女王陛下は取り合わなかった。代わりに、可愛い義妹をやり玉に挙げられたと、ユージェニーが口を開く。
「そうかしら。アルビアン<聖なる獣>たる王族に、おかしな話ね。そういえば、トーマス大神官。あなたの生まれはどこだったかしら? そちらの御令嬢と同じ、だったかしら?」
貴族の、クスクスと笑い声がもれた。
嗚呼だからメイベルを切り、フィリッパとオズワルド王子の婚姻を推し進めた?
だって、彼らは知っている。
年老いた大神官。その出自は、さもしい、さもしいところから。
今はプリナ伯爵トーマス・ハージー大神官と呼ばれているけれど、ハージー男爵家に運良く拾われただけの、生まれは下賤の身。
ハージー家がフローゼン伯爵家の分家だったから、大神官への道が開けただけ。
この場でその名を口にしては、晴れやかな式典が穢されてしまうようなところからやってきて、正統なる出自を差し置いて、大神官となった恥知らず!
父親は貴族でも、母親はどこの誰とも知らない少女も、何も変わらない。
そんな彼らを追い出すこの舞台。
貴族はこぞって身を乗り出し、彼らを笑った。
たとえ魔女の証だろうが、母親が貴族の娘の方がずっとマシ。そんなことも知らないで、なんてなんて哀れな小娘!
大神官ともども、もっと滑稽に踊ってみせて!
「静かに」
メイベルの平坦な声で、笑っていた貴族は固まった。
貴族らも実は、笑っていられる場合ではなかったのだが、固まっている今でさえ、本当の恐怖は理解できていなかった。
その時、少女の引き攣った叫び声が、広間に響いた。
「お前の! お前のせいなのに!! こ、この男が! お前がサボってる間に! ワタシに!!」
心得のある者がとっさに構える。
メイベルは庇うように前を出た。
「フィリッパ。おやめなさい。今はなにを言ったところで、あなたに不利なだけ」
メイベルは彼女の名誉のため迂遠に言ったが、当の本人に伝わったかどうかは分からなかった。
「ワタシを身代わりにしやがって!」
「フィリッパ」
メイベルは、ほとほと困った顔をした。
フィリッパの身にあやういことがあったのは知っているが、それは先日のことだったし、メイベルが影武者に頼んだのはそのような被害から逃れるためではなかった。
ダイヤモンドスターは貴族でなかったために黙らせる方法に困らなかったが、フィリッパは仮にも侯爵令嬢。ヒステリックな声を止める方法を持ち合わせる者は、衛士にはいない。
メイベルは仕方なく、フィリッパを止めようと息を大きく吸い込んだ。
そこに、ユージェニーの声がかかる。
「メイベル女王、御慈悲を賜りたく。これは我が国の責。わたくしどもの手で止めてもよろしい?」
正直、助かった。という気持ちで、メイベルは頷いた。
場の仕切りがユージェニーの手に移った途端、無言魔法により、フィリッパは問答無用で口を閉ざされた。
同様に、大神官の口も閉じる。いや、彼は首を絞められているようだった。
大神官が泡を吹いて倒れる。近くの貴族が、汚らわしいとばかりに逃げた。
「あら、まあ。なんてこと。口封じかしら?」
ユージェニーが言う。
その言葉の意味するところを悟った貴族たちは、みるみる血の気をなくした。
おそらく、クーデターよりも、今回の遊びに興じた貴族が危ない。大神官らを笑っている場合ではなかった。
メイベルがユージェニー王女のお気に入りだと知る者は、ごくごく限られている。
つまり、大粛清が始まろうとしていた。
「恐れながら、女王陛下! この者は魔王の宣託を受けた者! 魔王を国主とした土地を許すなど、アルビアン神竜を奉る我が国のなさることではありません!」
女王陛下は取り合わなかった。代わりに、可愛い義妹をやり玉に挙げられたと、ユージェニーが口を開く。
「そうかしら。アルビアン<聖なる獣>たる王族に、おかしな話ね。そういえば、トーマス大神官。あなたの生まれはどこだったかしら? そちらの御令嬢と同じ、だったかしら?」
貴族の、クスクスと笑い声がもれた。
嗚呼だからメイベルを切り、フィリッパとオズワルド王子の婚姻を推し進めた?
だって、彼らは知っている。
年老いた大神官。その出自は、さもしい、さもしいところから。
今はプリナ伯爵トーマス・ハージー大神官と呼ばれているけれど、ハージー男爵家に運良く拾われただけの、生まれは下賤の身。
ハージー家がフローゼン伯爵家の分家だったから、大神官への道が開けただけ。
この場でその名を口にしては、晴れやかな式典が穢されてしまうようなところからやってきて、正統なる出自を差し置いて、大神官となった恥知らず!
父親は貴族でも、母親はどこの誰とも知らない少女も、何も変わらない。
そんな彼らを追い出すこの舞台。
貴族はこぞって身を乗り出し、彼らを笑った。
たとえ魔女の証だろうが、母親が貴族の娘の方がずっとマシ。そんなことも知らないで、なんてなんて哀れな小娘!
大神官ともども、もっと滑稽に踊ってみせて!
「静かに」
メイベルの平坦な声で、笑っていた貴族は固まった。
貴族らも実は、笑っていられる場合ではなかったのだが、固まっている今でさえ、本当の恐怖は理解できていなかった。
その時、少女の引き攣った叫び声が、広間に響いた。
「お前の! お前のせいなのに!! こ、この男が! お前がサボってる間に! ワタシに!!」
心得のある者がとっさに構える。
メイベルは庇うように前を出た。
「フィリッパ。おやめなさい。今はなにを言ったところで、あなたに不利なだけ」
メイベルは彼女の名誉のため迂遠に言ったが、当の本人に伝わったかどうかは分からなかった。
「ワタシを身代わりにしやがって!」
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メイベルは、ほとほと困った顔をした。
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ダイヤモンドスターは貴族でなかったために黙らせる方法に困らなかったが、フィリッパは仮にも侯爵令嬢。ヒステリックな声を止める方法を持ち合わせる者は、衛士にはいない。
メイベルは仕方なく、フィリッパを止めようと息を大きく吸い込んだ。
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