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第五章

44.誰がために居る場所③

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 庇うためメイベルの前に出たリオンからは見えて、後ろにいるメイベルからは見えない、死角になる場所があった。それの意味するところは。

(ノールック・ノーモーション! 一動作どころか、視線すら動かしてない! 見てなかった! たぶん、相手の気配だけで! それであの精度!)

 なにが無能だ。だれが能無しだ。
 無能なのは、これに気づかなかった彼らの方に他ならない。

 メイベルはA級に守られていたのではなく、彼女の方が彼らを守っていたのだ。そのことを理解しないでは、落ちぶれて当然だ。

 リオンは運がよかった。この状況になるまで、彼らと同じで、メイベルの実力を分かっていなかったのだから。

 付与術師エンチャンターを長期的な運用でしか考えられていなかった。潜在能力を見誤っていた。

(ああ、だから、前衛型のオレを……)

 付与術師エンチャンターとあれば前衛は得意ではないだろう。

 護衛を引き受ける際に、オズワルドから念押しをされていた。かならず守るようにと。

 わざわざ念を押すくらい大切なら、なぜ懐刀の先輩従者を充てなかったのかと思っていたが、こういうことだったらしい。

 より使いやすい、使われやすいタイプを。先輩従者のバーナードは中衛型ミドルレンジ、リオンは前衛型ショートレンジが得意の騎士だ。

 リオンは部屋のメンバーに圧をちらつかせ、護衛対象がかつてのリーダーに手紙を渡しているのを見守りながら、あらためて納得するのだった。




 メイベルはひと仕事を終えて、アヴァルランドの王城で宛がわれた居室に着くと、ほぅ、と息を吐いた。

 あの後、アヴァルランドの者として竜王二柱に謝罪の限りを尽くして魔王討伐を無事に無かったことにしてから、数日。

 顔合わせを兼ねた護衛と称して、オズワルドから新米従者を預けられたせいで、少し肩が凝っている。

 今までだったら、いずれ王子妃になる身として気にも留めていなかったが、メイベルはもうすぐ、アヴァルランドの人間でなくなる。それなのに王族直属の護衛を貸与されて、気後れしていたのだ。

 ひそかに裏切られる心配もしていた。冷静な判断力を買ったと聞いていたが、その判断力でメイベルが男系派閥に売り飛ばされない保証はない。

 アヴァルランド王国の宮中では、魔王討伐の影に隠れて、王位簒奪をもくろむ熾烈な争いがあったのだ。

 そのために、ユージェニー王女はヨルノスレルムの神という保障を、メイベルに求めていた。

 王位簒奪を目論んだ派閥は二つ。

 一つは、本人の意向を無視したオズワルド派。

 もう一つは、女王陛下の妹殿下を首魁としたジェームズ派である。ジェームズはオズワルドとユージェニーの従兄にあたる。

 第一王子の婚約者であるメイベルの追放を機に、今がチャンスと思ったのか。

 ユージェニーは元よりきな臭さを感じていて、メイベルを囮にしていた。本人から直接、メイベルを助けに動かなかった理由を聞いている。

 義姉曰く、詰問してきたオズワルドの不機嫌さが微笑ましかったそうだ。

 ――しかし、同い年の弟をいつも可愛い、としか言っていない気がするこの姉である。メイベルは、おこぼれで言ってもらっている実感があった。
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