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第三十八話
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「勇者グランディオスだったのか」
「そうだ...... 勇者などではないがな。 ただの愚者だ......」
そう老人はまゆをひそめ苦悶の表情でそういう。
「確かあんたはデュエルワキナから力をえたんじゃないのか?」
「ああ、私は自らの国と魔王を倒すためデュエルワキナと契約した。 しかしそれはワナだったのだ......」
「ワナ......」
「......そうだ。 デュエルワキナは魔王にも他のものたちにも力を与えていた。 魔王の軍、人間、モンスター互いを戦わせ、その憎悪から生じる大量の魔力を得たのだ。 そして魔王を倒させると、更に私と契約をし帝国を作らせた......」
「それでじいちゃんは......」
「ああ、妻も国を失なった私は、あやつの狙いどおりに他国を滅ぼした。 最初はそれがあやつの狙いだとしらずにな......」
「だけど、あいつから恩寵を受けてここにきたんじゃないのか」
「......そうだ。 私はあやつと契約し力を得た。 そうデュエルワキナの力をな」
「契約......」
「私はあやつの策謀だということに遅ればせながら気づいた。 復讐はしてはならないという最後の妻のアイディメナスの言葉を思い出してな...... そこで私は帝国を作る契約をし、あやつの力を得た。 それほどあやつはこの計画を進めたがっていたからだ」
「どうしてだ?」
「あやつは万能、まさに神のごとき力を持つ、しかし、取り込むことはあってもその魔力を自然に回復はできぬ」
「つまり吸収し続けなければならないということか」
「そうだ。 だからこそあやつは魔力を大量にえる方法を考えだした」
「それが帝国なのか......」
「そうだ。 帝国をつくり世界を支配したのち、独裁、圧政を行い、貧困による暴力や憎悪、内乱や反乱、またはモンスターの凶暴化などで得られる魔力を増大させようとした。 だが......」
「......オレたちが阻止した」
「ああ、それでもう魔力を奪い取ることにしたのだろう。 世界には憎悪や怒りが渦巻いている。 このまますべての魔力を奪えば、私に与える前ぐらいには戻せるだろうからな」
「でも、それを止めようが......」
オレは無力感から拳を握る。
それをグランディオスが静かにみていた。
「......ある。 私が力を与えればな」
こちらを見すえてグランディオスはそういった。
「それならなんで最初にくれなかったんだ」
「信頼だ...... 私はそのため今まで三度、人を転生させた」
「オレ以外にも......」
「ああ、一人はアゼルベードだ」
「アゼルベード...... あのヴァンパイアか!」
「アゼルベードは元の世界で幼き頃よりの病で死んだ。 それゆえ不死を望んだ...... ゆえにヴァンパイアの体をあたえた。 だが、あやつは自ら我欲を満たすため、デュエルワキナのように魔力を奪い続けた」
「そうか、アゼルベードがいってたのはグランディオスのことだったのか」
「二人目は、レギンゲルサだ......」
「レギンゲルサもか」
「優秀だったあやつは早々にデュエルワキナ...... レギレウスの異常さに気付いた。 本当は彼にここにきてもらうつもりだったが、優秀過ぎてデュエルワキナに目をつけられた。 私が与えたドールマスターの力だけではデュエルワキナを到底倒せない」
「そして三人目は......」
「そう、お前だトラ...... レギンゲルサにも与えなかった記憶保持をお前に与え、モンスターテイムの力も与えた」
「そうか、オレたちを試したのか、全ての力を与えてしまえば......」
「そうだ。 悪用されないため、そしてデュエルワキナに取り込まれ操られないためにな」
「それで...... ここであいつを倒せるものを待ち続けていたのか......」
「あやつの力のように私も魔力は与えるだけだ。 増えることはない。 だからデュエルワキナが前と同じ力を持ってしまえば、あやつを止める術がなくなる」
「それをオレに与えてくれるのか」
「ああ、お前はあんな境遇なのに小さき命のために、自らの命を投げ出した...... そしてトラお前は私とは違い、モンスターを道具としてではなく命として扱い、そして今デュエルワキナを倒そうとしてくれている」
「でもそれじゃ、じいちゃん...... いやグランディオスは......」
「......私は消えるだろう。 むしろそれでいいのだ。 あやつと契約したのはその野望を消し去るためだ...... 頼むトラよ。 デュエルワキナを倒してくれ」
「オレの望みでもある」
「ありがとう...... 契約だ」
そういうとグランディオスは手を差し出す。 オレはその手をとった。
「最後にひとつだけ...... 妻をアイディメナスを天へと返してくれ」
「......わかった。 約束する......」
オレが答えると、グランディオスは満足したような笑顔で神殿と共に消えていった。
「なぜだ...... なぜ死なん。 これほどの魔力を出しながら人間の体が維持できるわけがない」
デュエルワキナが剣を受けながらそういった。
「当然だ! この力は大勢の想いでできてんだ! お前一人の欲望とは違う!」
「バカな...... この魔力を放ちながら意識を保つだと...... 人の力を束ねてもこのような力になるわけが......」
「オレにはこのスラリーニョのようにモンスターたちも力を貸してくれてるんだ! この世界の全てのものたちがな!」
オレはスラリーニョの剣に魔力を込め、デュエルワキナを切りつけた。
「ぐぅ!! なぜだ...... これほどの力は、我以外には......」
デュエルワキナは驚いて目を見張っていった。
「最後だ...... 消えろデュエルワキナ」
「なぜ我の名前を...... そうか! グランディオス、あやつ我の力をお前に与えたのか!」
「そうだ! お前に苦しめられたグランディオスの分も食らいやがれ!!」
オレは全ての魔力を込めデュエルワキナに剣を突き刺した。 デュエルワキナの体はひび割れ、その間から黒い霧が漏れだすと雷のような轟音を響かせた。
「グオオオオオオ!!!」
獣のように咆哮するとデュエルワキナは輝き、黒い粒子となって空に散った。
「これで......」
オレは意識を失った。
「う、うん......」
目が覚めるとオレは魔王城の部屋にいた。 周囲にはみんなが心配そうにみている。
「このバカ!!」
「ぴーー!」
「トラー」
そういってマゼルダとスラリーニョ、ルキナが泣きながら抱きついてきた。
「......ああ、みんな...... 無事か」
「......ええ、マスター、あなたのお陰です」
わーちゃんは震えている。
デュエルワキナが消えたあと、レギンゲルサはみんなに事情を全て話したらしい。 オレもことの顛末をみなに話した。 転生者であることも......
「......なるほど、それでトラはモンスターテイムの力を持っていたのか」
ギュレルはうなづいている。
「......グランディオス、そのような事情があったとは、あやつは我に何も話さなかった......」
マティナスは怒っているような悲しいような顔をしている。
「おそらく、デュエルワキナに気づかれることを恐れたのでしょう」
ファーガがそういうと、ブルル、エイバム、クワロ、ごーぶもうなづく。
「しかし、あのアゼルベードが転生者だとは......」
エルフのリディエートが驚いてる。
「前の世界では病気で満足に動けなかったみたいですね。 だから生きることへの執着があったのでしょうね......」
そうマーメイドのリシェエラが複雑な表情でいう。
「それで今どうなっている?」
「皇帝を継承したミリエルどの...... いえクエリエルさまは他国にたいし講和を行うように指示し、更にここを国と認めてくれました」
わーちゃんがそういった。
「ミリエルが...... 他のものは」
「ええ、 クエリアどのはミリエルどのについておられます。 そしてバスケスどのは冒険者ギルドに事情を話して、モンスターの保護を願い出ています」
マリークがそう説明してくれた。
「そうか......」
オレはそれを聞き安心して、もう一度眠った。
それから一ヶ月たち、ミリエルが帝国からやってきた。 オレたちの国との正式な外交関係を締結するためだ。
「ミリエル..... いや、クエリエルさま、わざわざ今日は我が国、モンスター共和国へとご足労いただき誠にありがとうございます」
「いえ、トラさま。 こちらこそお招きにあずかり、ありがとうございます」
クエリエルは凜とした所作で静かに答えた。 傍《かたわ》らにはクエリアがいる。
(もう、完全に皇帝なんだな)
すごく遠い存在になったかのように感じる。
オレたちは外交文書に署名し、歓迎の夕食会員を開いた。 その時一人城のバルコニーに出たクエリエルをおった。
「......なんだかとても懐かしい気がします」
「そうだね。 一ヶ月しかたってないんだけど、何年もたったような気がする」
何かうまくしゃべられず沈黙が続く、クエリエルは風で揺れる髪を触りながら、ゆっくり話し始める。
「転生者という話しは聞いています。 ......トラさまは、なぜ転生されたのですか、ここはモンスターのいる危険な世界だということはきいていたのでしょう?」
「ああ、うん、でもオレはどうしても生きたかった」
「どうして? トラさまはなにかに執着する人とは思えませんが」
「夢があったんだ。 前の人生では叶えられなかった夢が......」
「夢ですか...... お聞きしてもよろしいですか」
「......ああ、オレは小さいとき両親を事故でなくしたんだ...... だからずっとひとりぼっちだった。 だから家族が欲しかったんだ」
「............」
クエリエルは遠くの大きくなった町の光を見ながら沈黙したままだった。
そして次の日帝国へと帰っていった。
それから、数日あとオレは朝から雑務におわれていた。
「ではこの書類にサインを」
マリークはどさりと書類の束を机においた。
「ま、まだこんなに......」
「ええ、国として税や刑罰、さまざまな法制度の策定が必要です。 国王には認可していただかないと、国は成り立ちませんよ」
「国って大変なんだな......」
「更に新たに保護したモンスターとの契約をお願いします」
「ふぇーーー!」
「では昼までにお願いします」
そういってマリークはつかつかと部屋を出ていった。 それからすぐ部屋をノックされた。
「なーにー、まだ仕事あるのー」
「失礼します」
はいってきたのはクエリエルとクエリアだった。
「なっ! なんでクエリエルさまが!?」
「クエリエルさまは皇帝は退位し、レギンゲルサさまに皇帝の位を譲位《じょうい》したのだ」
クエリアが笑顔でそういう。
「えっ? うそっ! 皇帝やめたの!!」
「......はい、あの国で一度も政治などに関わったことがないのですから、資格があるというだけで人々の未来を預かることなどできません...... レギンゲルサさまなら帝国を正しい国へと導けるでしょう。 責任感がないとおっしゃられるかもしれませんが......」
クエリエルはそういって少し悲しい顔をする。
(そうか、帝国での生活もしたことはない...... ここでの生活しか知らないんだもんな、オレもだけど......)
「クエリエルさま。 それで今日はどうしたのですか」
「いいえ、私はもうクエリエルではありません......」
「クエリエルじゃない......」
「トラさま、私との約束覚えていますか」
そういうクエリエルの服の一部が黒くにじんであることに気づく。
「それは、オレがミリエルに最初に......」
その時、サキュバスに襲われたときした約束を思いだした。
「約束を守りにきたのです」
そうミリエルはいったのだった。
「そうだ...... 勇者などではないがな。 ただの愚者だ......」
そう老人はまゆをひそめ苦悶の表情でそういう。
「確かあんたはデュエルワキナから力をえたんじゃないのか?」
「ああ、私は自らの国と魔王を倒すためデュエルワキナと契約した。 しかしそれはワナだったのだ......」
「ワナ......」
「......そうだ。 デュエルワキナは魔王にも他のものたちにも力を与えていた。 魔王の軍、人間、モンスター互いを戦わせ、その憎悪から生じる大量の魔力を得たのだ。 そして魔王を倒させると、更に私と契約をし帝国を作らせた......」
「それでじいちゃんは......」
「ああ、妻も国を失なった私は、あやつの狙いどおりに他国を滅ぼした。 最初はそれがあやつの狙いだとしらずにな......」
「だけど、あいつから恩寵を受けてここにきたんじゃないのか」
「......そうだ。 私はあやつと契約し力を得た。 そうデュエルワキナの力をな」
「契約......」
「私はあやつの策謀だということに遅ればせながら気づいた。 復讐はしてはならないという最後の妻のアイディメナスの言葉を思い出してな...... そこで私は帝国を作る契約をし、あやつの力を得た。 それほどあやつはこの計画を進めたがっていたからだ」
「どうしてだ?」
「あやつは万能、まさに神のごとき力を持つ、しかし、取り込むことはあってもその魔力を自然に回復はできぬ」
「つまり吸収し続けなければならないということか」
「そうだ。 だからこそあやつは魔力を大量にえる方法を考えだした」
「それが帝国なのか......」
「そうだ。 帝国をつくり世界を支配したのち、独裁、圧政を行い、貧困による暴力や憎悪、内乱や反乱、またはモンスターの凶暴化などで得られる魔力を増大させようとした。 だが......」
「......オレたちが阻止した」
「ああ、それでもう魔力を奪い取ることにしたのだろう。 世界には憎悪や怒りが渦巻いている。 このまますべての魔力を奪えば、私に与える前ぐらいには戻せるだろうからな」
「でも、それを止めようが......」
オレは無力感から拳を握る。
それをグランディオスが静かにみていた。
「......ある。 私が力を与えればな」
こちらを見すえてグランディオスはそういった。
「それならなんで最初にくれなかったんだ」
「信頼だ...... 私はそのため今まで三度、人を転生させた」
「オレ以外にも......」
「ああ、一人はアゼルベードだ」
「アゼルベード...... あのヴァンパイアか!」
「アゼルベードは元の世界で幼き頃よりの病で死んだ。 それゆえ不死を望んだ...... ゆえにヴァンパイアの体をあたえた。 だが、あやつは自ら我欲を満たすため、デュエルワキナのように魔力を奪い続けた」
「そうか、アゼルベードがいってたのはグランディオスのことだったのか」
「二人目は、レギンゲルサだ......」
「レギンゲルサもか」
「優秀だったあやつは早々にデュエルワキナ...... レギレウスの異常さに気付いた。 本当は彼にここにきてもらうつもりだったが、優秀過ぎてデュエルワキナに目をつけられた。 私が与えたドールマスターの力だけではデュエルワキナを到底倒せない」
「そして三人目は......」
「そう、お前だトラ...... レギンゲルサにも与えなかった記憶保持をお前に与え、モンスターテイムの力も与えた」
「そうか、オレたちを試したのか、全ての力を与えてしまえば......」
「そうだ。 悪用されないため、そしてデュエルワキナに取り込まれ操られないためにな」
「それで...... ここであいつを倒せるものを待ち続けていたのか......」
「あやつの力のように私も魔力は与えるだけだ。 増えることはない。 だからデュエルワキナが前と同じ力を持ってしまえば、あやつを止める術がなくなる」
「それをオレに与えてくれるのか」
「ああ、お前はあんな境遇なのに小さき命のために、自らの命を投げ出した...... そしてトラお前は私とは違い、モンスターを道具としてではなく命として扱い、そして今デュエルワキナを倒そうとしてくれている」
「でもそれじゃ、じいちゃん...... いやグランディオスは......」
「......私は消えるだろう。 むしろそれでいいのだ。 あやつと契約したのはその野望を消し去るためだ...... 頼むトラよ。 デュエルワキナを倒してくれ」
「オレの望みでもある」
「ありがとう...... 契約だ」
そういうとグランディオスは手を差し出す。 オレはその手をとった。
「最後にひとつだけ...... 妻をアイディメナスを天へと返してくれ」
「......わかった。 約束する......」
オレが答えると、グランディオスは満足したような笑顔で神殿と共に消えていった。
「なぜだ...... なぜ死なん。 これほどの魔力を出しながら人間の体が維持できるわけがない」
デュエルワキナが剣を受けながらそういった。
「当然だ! この力は大勢の想いでできてんだ! お前一人の欲望とは違う!」
「バカな...... この魔力を放ちながら意識を保つだと...... 人の力を束ねてもこのような力になるわけが......」
「オレにはこのスラリーニョのようにモンスターたちも力を貸してくれてるんだ! この世界の全てのものたちがな!」
オレはスラリーニョの剣に魔力を込め、デュエルワキナを切りつけた。
「ぐぅ!! なぜだ...... これほどの力は、我以外には......」
デュエルワキナは驚いて目を見張っていった。
「最後だ...... 消えろデュエルワキナ」
「なぜ我の名前を...... そうか! グランディオス、あやつ我の力をお前に与えたのか!」
「そうだ! お前に苦しめられたグランディオスの分も食らいやがれ!!」
オレは全ての魔力を込めデュエルワキナに剣を突き刺した。 デュエルワキナの体はひび割れ、その間から黒い霧が漏れだすと雷のような轟音を響かせた。
「グオオオオオオ!!!」
獣のように咆哮するとデュエルワキナは輝き、黒い粒子となって空に散った。
「これで......」
オレは意識を失った。
「う、うん......」
目が覚めるとオレは魔王城の部屋にいた。 周囲にはみんなが心配そうにみている。
「このバカ!!」
「ぴーー!」
「トラー」
そういってマゼルダとスラリーニョ、ルキナが泣きながら抱きついてきた。
「......ああ、みんな...... 無事か」
「......ええ、マスター、あなたのお陰です」
わーちゃんは震えている。
デュエルワキナが消えたあと、レギンゲルサはみんなに事情を全て話したらしい。 オレもことの顛末をみなに話した。 転生者であることも......
「......なるほど、それでトラはモンスターテイムの力を持っていたのか」
ギュレルはうなづいている。
「......グランディオス、そのような事情があったとは、あやつは我に何も話さなかった......」
マティナスは怒っているような悲しいような顔をしている。
「おそらく、デュエルワキナに気づかれることを恐れたのでしょう」
ファーガがそういうと、ブルル、エイバム、クワロ、ごーぶもうなづく。
「しかし、あのアゼルベードが転生者だとは......」
エルフのリディエートが驚いてる。
「前の世界では病気で満足に動けなかったみたいですね。 だから生きることへの執着があったのでしょうね......」
そうマーメイドのリシェエラが複雑な表情でいう。
「それで今どうなっている?」
「皇帝を継承したミリエルどの...... いえクエリエルさまは他国にたいし講和を行うように指示し、更にここを国と認めてくれました」
わーちゃんがそういった。
「ミリエルが...... 他のものは」
「ええ、 クエリアどのはミリエルどのについておられます。 そしてバスケスどのは冒険者ギルドに事情を話して、モンスターの保護を願い出ています」
マリークがそう説明してくれた。
「そうか......」
オレはそれを聞き安心して、もう一度眠った。
それから一ヶ月たち、ミリエルが帝国からやってきた。 オレたちの国との正式な外交関係を締結するためだ。
「ミリエル..... いや、クエリエルさま、わざわざ今日は我が国、モンスター共和国へとご足労いただき誠にありがとうございます」
「いえ、トラさま。 こちらこそお招きにあずかり、ありがとうございます」
クエリエルは凜とした所作で静かに答えた。 傍《かたわ》らにはクエリアがいる。
(もう、完全に皇帝なんだな)
すごく遠い存在になったかのように感じる。
オレたちは外交文書に署名し、歓迎の夕食会員を開いた。 その時一人城のバルコニーに出たクエリエルをおった。
「......なんだかとても懐かしい気がします」
「そうだね。 一ヶ月しかたってないんだけど、何年もたったような気がする」
何かうまくしゃべられず沈黙が続く、クエリエルは風で揺れる髪を触りながら、ゆっくり話し始める。
「転生者という話しは聞いています。 ......トラさまは、なぜ転生されたのですか、ここはモンスターのいる危険な世界だということはきいていたのでしょう?」
「ああ、うん、でもオレはどうしても生きたかった」
「どうして? トラさまはなにかに執着する人とは思えませんが」
「夢があったんだ。 前の人生では叶えられなかった夢が......」
「夢ですか...... お聞きしてもよろしいですか」
「......ああ、オレは小さいとき両親を事故でなくしたんだ...... だからずっとひとりぼっちだった。 だから家族が欲しかったんだ」
「............」
クエリエルは遠くの大きくなった町の光を見ながら沈黙したままだった。
そして次の日帝国へと帰っていった。
それから、数日あとオレは朝から雑務におわれていた。
「ではこの書類にサインを」
マリークはどさりと書類の束を机においた。
「ま、まだこんなに......」
「ええ、国として税や刑罰、さまざまな法制度の策定が必要です。 国王には認可していただかないと、国は成り立ちませんよ」
「国って大変なんだな......」
「更に新たに保護したモンスターとの契約をお願いします」
「ふぇーーー!」
「では昼までにお願いします」
そういってマリークはつかつかと部屋を出ていった。 それからすぐ部屋をノックされた。
「なーにー、まだ仕事あるのー」
「失礼します」
はいってきたのはクエリエルとクエリアだった。
「なっ! なんでクエリエルさまが!?」
「クエリエルさまは皇帝は退位し、レギンゲルサさまに皇帝の位を譲位《じょうい》したのだ」
クエリアが笑顔でそういう。
「えっ? うそっ! 皇帝やめたの!!」
「......はい、あの国で一度も政治などに関わったことがないのですから、資格があるというだけで人々の未来を預かることなどできません...... レギンゲルサさまなら帝国を正しい国へと導けるでしょう。 責任感がないとおっしゃられるかもしれませんが......」
クエリエルはそういって少し悲しい顔をする。
(そうか、帝国での生活もしたことはない...... ここでの生活しか知らないんだもんな、オレもだけど......)
「クエリエルさま。 それで今日はどうしたのですか」
「いいえ、私はもうクエリエルではありません......」
「クエリエルじゃない......」
「トラさま、私との約束覚えていますか」
そういうクエリエルの服の一部が黒くにじんであることに気づく。
「それは、オレがミリエルに最初に......」
その時、サキュバスに襲われたときした約束を思いだした。
「約束を守りにきたのです」
そうミリエルはいったのだった。
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