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第三十四話

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 それから数ヶ月、オレたちはモンスター保護と魔王島から魔王城への物資の移動も始めた。 魔王島の船は五十隻をこえ、交易も活発におこなっている。 

「かなりモンスターも増えて、文化的にも進んだな」

「ええ、魔王城の軍事力も教育や衛生面も進みました。 もはや国家といっても差し支えはないでしょう。 完全なる新たな魔王の誕生ですな!」

 城の会議室で、わーちゃんはゴブリンたちと両手をあげて喜んでいる。

「よせやい! 魔王なんてテレる!」

「ですが、モンスターの王であることは間違いありませんね」

 ミリエルが笑顔でそういうと、クエリアはうなづく。

「そうだな。 しかし国交を結べんのが残念だ」

「でもさ、でもさ、クエリアが皇帝になれば結べんじゃない」

 マゼルダがオレの肩にのって足をバタバタさせてそういっている。

「そうだな。 私が皇帝をつげればな......」

「まあ、そうなればいいな。 ああ、それでマティナスあれはなんだったかわかった?」

「ああ、お前たちが持ち込んだあの球体の欠片だな。 お前たちの予想通りやはり魔力をためるものだった。 おそらくドワーフが作ったものだろうな」

「やはりか......」

「だが、それだけではない。 あれを逆流して使えば魔力暴走を引き起こせるということもわかった」
 
「それじゃあ......」

「おそらく、各地のモンスター暴走の原因だろう」

「ということは帝国絡みか...... 法王国にまでその手を伸ばしていたとはな」

 クエリアがそういって黙る。

「まあ、帝国の動向は調べさせているし、今のところ動きもない。 だから今は更に多くのモンスターや物資を魔王城に移すのと、交易による発展、更なる技術の獲得、それらを進めていこう」 

 オレはみんなにそう頼んだ。 それぞれが部屋を出ていった。

「トラとわーちゃん少し話がある......」

「何だマティナス」  

 オレとわーちゃんは部屋に残り、マティナスと話をする。

「トラ...... そなた私たちに隠し事があるか......」

「えっ? どういうこと」

「フィニシスオーバーは神の御力なしで、操れるものではない。 ましてただの人間ならなおのこと、モンスターテイムのことといい、そなた何者だ」

「マティナスさま! 何をおっしゃいます! マスターはなにも隠し事など......」

「何か関係していることをしらねば、この先さまざまな障害も出よう。 他言するつもりもない」

「しかし」

「わーちゃんいいよ」 

「マスター......」

「まあ、おかしいと思われて当然だ。 オレも隠していたつもりもない。 説明してもわからないと思ったからだ。 わーちゃんは聞かなかったが、最初から気づいていただろ」

「......は、はいまあ、へんな老人からもらったとおっしゃっていましたし......」

 そう少し遠慮ぎみにわーちゃんは答えた。

「そうだな...... なぜオレがこの力を持ってるのかから話そう」

 オレはこの世界の人間ではなく、死んでこの世界に転生し、この力は老人に与えられたことなど、伝えられることはすべて伝えた。

「......そんな、異世界」

「ふむ、狭間とやらにいた老人か......」

「オレが知ってるのはそれだけ、なぜこの力を与えられたのかも、なぜこの世界にいるのかもわからん。 まあ信じてもらえるはわからないけど」

「何をおっしゃいます信じます! それに私はあなたが何者だろうが構いません!」

 わーちゃんは興奮していった。

「ああ、別に疑っているわけではない。 お前は正直で極めて単純な男だ。 たいした策謀など企めんしな」

 そういってマティナスは笑う。

「それほめてる? バカにされてるの?」

「まあしかし、マスターに力を与えたものか...... 何者でしょうな?」

「わからんがかなりの力を持つものだろう。 だが、この世界を救えとはどういうことか......」

「うーん、なぞね」

「おわっ!! マゼルダ!? お前いつの間に」

「普通にいたわよ。 隠蔽の魔法でね。 私をのけ者にしようなんて百年速いわ」

 マゼルダはにっと笑うと肩に乗った。

「まあ、いいか、でも他にはいうなよ。 混乱するかもしれん」

「聞いたところでみんなの態度が変わるとは思えないけど、元々あんた人間なんだし」
  
「そんなことはわかってるけど、変に気をつかわれんのもしんどいんだよ」

「わかったわよ。 はい」

 マゼルダはオレの前にその小さな両手をだした。

「なにその手?」

「口止め料」

「お金とんの!?」

「当然じゃない、この世はなにかを得るには対価が必要なのよ」

「わかったよ...... 今月あんま残ってないんだけど...... ミリエルは結構お金に厳しいんだ。 オレ、おこづかい制なんだから」

 オレはおこづかいからお金をマゼルダに渡した。

「まいどありー!」

「ん」

 マティナスが手をだした。

「......マティナスなに?」

「我にも口止め料」

「なんで!?」

「得られるときに得る。 これも世の摂理だ」

「くそっ......」

 オレはなけなしのおこずかいをとられた。 もしやと思いわーちゃんをみる。

「だ、大丈夫です。 私には必要ありませんので!」

 そうわーちゃんはいってくれた。

 
 そこから一年あまり、何事もなく魔王島から魔王城の移動ははすすむ。 交易により財政が潤い、かなりの貯蓄はできた。

「魔王城への財貨の移送も完了した。 これで最悪この島になにかあっても大丈夫だな」
 
「でも、こんなところ誰も攻めてこないでしょ、もぐっ」 

 マゼルダは俺の肩にお菓子をこぼしながらいう。

「しかし、これだけ大量かつ高品質な生産物の製造、交易を行っているのに、どこの国でもないことは、さすがに気づかれているはず、どこかの国がこの島の存在を知るのも時間の問題かと」

 わーちゃんは机に広げた地図をみながらいう。

「ええ、この近辺に他国の偵察の船舶らしきものをみたと警戒中のマーマンとマーメイドたちがみています」

「モンスターの減少により他に兵力や余力を回せるからな。 調査などをする余裕ができたのだろう」

 クエリアがそういった。

「オレたちがモンスターを保護しているからか...... まあしかたないな」

「冒険者と交易を行うモンスター以外、魔王城に移しておきましょう」

「だな」

 わーちゃんに同意する。

「それでマティナス、ギュレル、他の場所へ設置の方できたかな?」

「ああ、各地の辺境に装置は完成し、すぐに配置した」

「大変だったぞ復元するのは、技術が失われていたからな。 確認してみろ」

 装置のある魔王島の洞窟へと向かう。

 そこには左右に柱がたちその上に二つの球体がある。

「これが完成品か」 

「ああ、トロールの里にあった魔王城への装置と同じ技術を複製したものだ」

 オレにマティナスが答える。

 両柱の中央にたつとその瞬間、魔王城のみえる草原にいた。

「すごいな! 転送装置! これを各国に設置したのか」

「ああ、人のいない小島や洞窟内に、結界をはる魔法装置と共に置いた。 これで世界各地へと移動もできる」

「もう各地へと船の移動をすませた。 そこから交易も行える」

「ありがとう二人とも、でもあの神殿どうする?」

「アイディメナスか...... あの棺だけ移動させるか」

「頼めるかマティナス」

「わかったやっておこう」

「これで、なにか起こっても平気だな。 とりあえず更にモンスターの保護、交易やここの発展に力をつくそう」

 それから一年は何事もなく進んだ。 魔王城にこの世界の多くのモンスターが保護され、それらと契約と名前をつける日々が続いた。 

「マスター、ミリエルどの。 今日の契約は終了です」

 わーちゃんが書類に目をやりながらいった。

「ふひぃ! 終わった......」

「はい、今日は1000はいったんじゃないでしょうか」

 魔力供給をしてくれていたミリエル大きくなったイータを膝にのせ、そういった。

「そんなに、かなりの数契約できるようになったな」

「さすが! マスター! まさに王!」

 わーちゃんが誉めてくれる。

「よせやい!」

「かなり魔力が増えているようだな」

 クエリアが感心したようにいう。

「ええ、マスターはもはや、この世界に並ぶもののいないほどの魔力を保有していると考えられます」

 わーちゃんはわがことのように誇らしく胸を張る。

「そういえば多くのモンスターが進化しておりますね」

「えっ、そうなのミリエル」

「はい、冒険者となったもの以外でも、モンスターが進化していますよ。 ごーぶさん、ファガーさんやブルルさん、エイバムさん、クワロさんやリシェエラさんなどそれぞれの長たちも進化しています」

「どういうこと? 進化するのって戦闘だけじゃないの」

「いいや感情の変化が魔力の発生に関係してる。 必ずしも憎しみや憎悪ではなく、幸福や安心なども魔力を発生させるのだ。 それで進化したのだと思う」

 ギュレルの言葉にマティナスはうなづいた。

「つまりここが心地いいからってことか、いいことだな」

「それもこれも、マスターの尽力につきますな!」

「よせやい...... ここまでこれたのはみんなのお陰だよ。 ありがとう」

「そうよ! わかってんじゃない!」

 マゼルダはそういって頭に乗っかってきた。

「そうですね。 みなさんのおかげです」

「よい仲間がいたからだな」

 ミリエルとクエリアは笑顔で答えた。

「まさか、モンスターたちが共存できる日が来るとはな」

「いかにもです」

 マティナスとギュレルは感慨深げだ。

「だけど、まだ終わりじゃない」

「ですな」

 オレとわーちゃんはうなづいた。

「なによ。 もうやることなんてないでしょ」

 マゼルダは頭の上から覗き込んでくる。

「いいや、人間とモンスターの共存させることだ」

「共存...... そんなのできないから、この城にみんなをつれてきたんじゃないの?」

「今はな。 だが、事情を知るものたちが増えて、みんながモンスターを受け入れてくれるようになることが、一番だろ」

「まあね......」

「いずれそうなるように、それを目指していくんだ」

「素晴らしい考えですトラさま」

「......それが可能なら、いや可能にしたいものだ」

 ミリエルとクエリアはうなづいた。

「それはいままでだれもなせなかった夢物語......」

「しかし、トラ、いやここの皆ならばあるいは......」

 ギュレルとマティナスもうなづく。

「やりましょう! マスターなら、いや私たちならばそれ可能!」

「よし!! 今からかんばるぞー!!」

 オレたちがそう決意を新たにした四日後、グランディオス帝国皇帝の死去の一報が届いた。
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