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第二十五話

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「ふう、なんとか残りのアンデッドも契約できたな」

「ありがとうごさいました」

 アンデッドたちがみなで頭を下げた。 

 かつて騎士団長だったハズラスというスケルトンは、その両手で半分に崩れた王の頭を持っている。

「王様、最後にみんなに謝ってたよ......」

 オレは最後に聞いた王の言葉を伝えた。

「......そうですか、王とて後悔していたのですね...... 我らが何とか止めていられれば......」

 そういって震えている。 それはなんとなく泣いているように感じた。

「さて帰...... ん?」

 みんなの様子がおかしい。 その場でかたまっている。 ルキナやわーちゃん、マゼンダもだった。

「どうしたわーちゃん!! ルキナ!!」

「内から力が沸き上がってくるよ!」

「これは!」

 そして輝くとルキナは金髪になった。

「ルキナが、ふ、不良になった!!」

「ふりょう? 違うよ。 進化だよ。 ワーレパードになった」

「わーちゃんは...... ひっ!」

 フードの下の顔がさらに禍々しくなっていた。 まさしく死神だ。

「みてくだされ! これはリッチですよ!!」

「金持ち?」

「ちがうわよ! アンデッドの高位モンスターよ! それよりみなさいよ。 ほら」

「なに? ああ服のほつれ、知り合いならつくろえるけど」

「ちっがうわよ!! わかるでしょ! この姿よ! 私も進化したのディープピクシーにね」

 マゼンダはそういって空中でくるくるのと回った。

「お前何もしてねえじゃん」

「うっさいわね! ちゃんと物理防御とか回避上昇の魔法とか使ってあげてたわよ!」

「あっ、そうなんだ。 あんがと」 

「エクスポーショントードもなんか透明になった」

 ほらと、透明なったトードをルキナが手のひらにのせる。

「ひぃぃぃ!」

 マゼルダが隠れる、

「おお! これはミクスポーショントード!! 複合した効果を持っつポーションを作れる高位モンスターですな!」

 わーちゃんも驚いている。

「ほほー! やるなポイル」

「ゲココ!!」

「つれてきたモンスターやスケルトン、ゴーストたちも進化しましたな」

「はいわたしはスケルトンジェネラル、他のものはスケルトンナイト、ローグ、アーチャー、ゴーストはレイスへと進化しました」

 ハズラスはそういった。

「でもターンアンデッドで昇天してしまうけど......」

「いえ、トラさまには王ともどもお世話になりましたので、みなで相談し、よろしければお仕えしたいと存じます」

「うん、いいよ」

「ありがたきしあわせ!」

 そうスケルトンたちは平伏した。

「あんた簡単ね。 いいのそんな安うけ合いして」 

 あきれたようにマゼルダがいう。

「大勢のが楽しいじゃん。 魔王島は広いしさ、まだほんの一部しか使ってないんだ。 マゼルダそれでオークたちと話をしてくれるんだろ」

「まあ、そうね。 いいわ敵対するアンデッドももういないし、オークに話ししてあげる」
 
「トラ、何かくる!」

 来た方の部屋に向かってルキナは構える。

「うわああ!」

 そこに叫びながら現れたのは二足歩行のぶたさんーーオークたちはフライパン、やクワなどを各々もって走ってきた。

「あ、あれ、スケルトンが人間と!?」

 オークたちはその場で止まり、この場をみて硬直している。

「待ってよ! 無理だって危ないってば!」

 ピクシーたちも慌てて後ろから来た。

「どうしたのよ? あんたたち」

 マゼルダがオークたちに聞く。

「い、いえ、私たちのためにアンデッドを倒しに向かわれたということで、そんな危ないことはさせられないと、きてみたのですが......」 

「ああ、それならもう大丈夫、スケルトンたちは仲間になったから」

 オレが伝えると、バスケスはたちあがる。

「オークたちよ。 すまなかった。 モンスターを攻撃するように強制させられてたのだ」

 そう頭を下げた。 それをみていたオークは困惑していので、オレが事情を話した。

「は、はあ、かつてのゼーサライの王が...... そういえばアンデッドが追いかけてくるとき、苦しみながら、やめろとか逃げろとか言ってるのを聞いたものがいますね」

 オークの里長、ブルルがそううなづく。

「それでは、改めまして、わざわざ我々の問題を解決していただいたこと、本当に感謝いたします」

「アリガトー!」

「オオ、カンシャ、カンシャ」

 そうたどたどしい言葉でオークたちが感謝してくれる。

(村長は流暢なのに、他のオークはあまり言葉がうまくないな)

「それで、我らの料理を食べたいのだと聞きましたが」

「ああ、この子にどうしても食べさせたかったんだ」

 ルキナはオークに抱きつきほおずりしている。 抱きつかれたオークはつぶらな目をぱちくりして困っている。

(いいなルキナ。 オーク四頭身で表面が小さな毛でおおわれていて、めちゃくちゃぬいぐるみ感あるからな。 オレもさわりたいな)


 オレたちはオークの里へと戻った。 オークたちは歓迎して宴を開いてくれた。 肉、野菜、果物、スイーツみたこともない料理が出てきてオレたちはむさぼる。

「はぐっ! はぐっ! おい! マゼルダ! それオレの!」

「うっさいわね! 早い者勝ちよ! こんなごちそう、そう食べられないんだから! はむっ! はむっ!」

(そう食べられない?)

 その言葉が気になったが、ルキナは両手で食べ回ってる。 モンスターたちもアンデッドたちもたべている。

(そういやアンデッドって、魔力を食べ物からも取り込めるんだったな)

「どうです。 お口にあいましたか」

「ええ、この香ばしく芳醇なかおり、なんか甘くて辛くて、なんかとてもいい歯応えで、なんか...... うん美味しいです......」

 自分の味のボキャブラリーの少なさにがく然とする。 

「それはよかった」

 ブルルは嬉しそうに笑う。

「それで、もうアンデッド王がいないので、畑なんかも元に戻るんだよね」

 オレの言葉にブルルはうつむいた。

「もほるわへはい...... んぐっ、戻るわけないじゃない」

 マゼルダが口いっぱいにほうばってそういった。

「えっ?」

「一旦大地に大量の魔力が含まれると、排出にはかなりの時間をようします。 モンスターになったり、誰かが使わないと消費しきれませんからね」

 わーちゃんがそう説明する。

「えっ? じゃあ、食べ物どうするの?」

「決まってんじゃない。 外に取りに行くに決まってるでしょ」
 
「外には人間がいるぞ。 それをこんなに使ってしまったら」

「そうよ。 あんたたちに出すために無理したに決まってんでしょ、あーん、んーおいちい」

 果実のスイーツを食べながらマゼルダがそういう。

「お前、よくそれ知ってて、そんなバクバク食べられるな!」

「当たり前でしょ! 食べられるときに食べる! 遊びたいときに遊ぶ! 寝たいときに寝る! それが妖精ってもんよ! 覚えときなさい!」

「覚えるかそんなもん!」

「い、いえ、大丈夫ですよ。 アンデッドがいなくなったので、夜に出歩くこともできますし、いずれは人間とも仲良くなれればいいのですよ。 いつか、きっと......」

 そういうとブルルは沈黙した。
 
「そんな必要ないわ」

 マゼルダがにんまりしている。
 
「えっ? なぜでしょうマゼルダさん」

 ブルルも不思議そうに聞いた。   
   
「こいつのところ、魔王島にいけばいいんだよ。 そうすれば人間に怯えずに生きていける」

 マゼルダはオレを指差し得意気にいった。

「ええ!? 魔王島なんて...... モンスターの住みかだと聞いています。 私たちなんてすぐ食べられてしまいます」

「いや、オレの島なんだ」

「へ?」

 事態の飲み込めないブルルに説明した。

「そ、そんな、あの魔王島を統べるのが人間なんて......」

 そう絶句している。

「オレはオークにきて欲しいんだけど、どうかな?」

「そう! みんなにも食べさせたい! きてきて!」

 ルキナはぴょんぴょん跳ねながらいう。

「し、しかし......」 

「オラ、イキタイ」

「オラモ、ニンゲン、コワイ」

「モンスターモ、コワイ」

「お前たち...... わかりました。 トラさまがよろしければ住まわさせていただきたいと存じます」

「うん、たのむよ」

「さあ! 行くわよ~!」

 マゼルダが元気よく右腕を突き上げる。 それに合わせてピクシーたちも飛び回っている。

「ん? お前らもくるの?」

「あったり前でしょ! 私たちオークがいないと食べ物なくて飢え死にしちゃうんだからね!」

「自分たちで作る気ないのか」

「ないわ」

 悪びれもせずマゼルダは即答した。

「......まあ、いいか、じゃあ明日魔王島に行くぞ。 用意しておけよ」

「そうと決まればすべての食材を使いきりましょう。 私子供の頃からこの果実のお菓子はすごい得意なのです!」

「おお! すごい美味しい! このいい香りたまらん!」

 その日はオークたちと契約し、里にとめてもらった。 

 次の日の夜、暗くなったところで、オレたち以外はピクシーの魔法で隠れて港までいった。 

 オレはお土産を買うため町を物色する。 

「あれ、あなたたちは......」

 酒場の店主にあった。

「ああ、サンドイッチのおっちゃん」

 ルキナが失礼なことをいう。

「......オークはどうしました? やはり見つからなかったですか」

「え、ええ...... やはりいなかったですね。 多分どこかにいったんですね」

「やはりそうですか...... この香りは......」 


 オレたちがお土産を買い、船に乗り込むとブルルは港を見ている。 その短い両腕に大きな本を抱いている。

「ん? 本」

「ええ、わたしの料理の調理法を書いています」

「レシピか、大切だ」

「ええとても大切なものです。 子供の頃からの宝物ですよ」

 その顔は何だか寂しそうで、ずっと港を見ている。

「やはり寂しいか......」

「そうですね...... 土地というよりは想いでしょうか」

「おもい......」

「私にはいつかここの人間たちと仲直りして、食事を振る舞いたいという想いがあったのです。 その想いが心に引っ掛かっているのでしょう」

「......それならやめてもいいんだよ」

「......いいえ、正直ここまでこじれた関係は、お互いにそう簡単に直せるものではありません。 何年、何十年、何百年とかかるでしょう。 私に出きることはこれを後世に伝えて、いつかこの味をここの人たちに伝えることだけ......」

 そういって遠く町をみている。

「ねえ、もう限界...... 隠蔽の魔法解除していい」

 そうマゼルダが聞いてきた。

「ああ、もう船も出るこの暗さなら大丈夫だろう。 さあブルルも中にいこう」

「ええ......」

 船が港を離れ始めたとき、港の船着き場に誰かが走ってくる姿が見えた。

「あれは...... 酒場の」

「ブルル! いるのか! いるんだろ! 僕だ! マフートだ! あのお菓子の香り間違いない! ブルルのお菓子だ!」

 酒場の店主は叫んだ。

「マフート!」

 そういってブルルは船尾に戻る。 

「やはり、君か! ずっと探していた! あの時オークを蔑む大人をみんなを止められなかった! 謝りたかったんだ! すまなかった!」 

「僕は...... 君が探してくれてるのを知ってた。 でも怖かった...... 
また拒絶されるんじゃないかって...... 僕の方こそごめん!」

 そういってブルルは離れていく船から、持っていた本を投げた。 それをマフートは受け取った。

「それ! 僕が考えた料理、みんなに作ってあげて!!」

「ああ! かならず!! 必ず作るから!!」

 船は港をはなれマフートの姿は夜の闇に消えた。

「よかったのか...... あの本」

「ええ、彼に渡せば本の料理を作ってくれるでしょう。 幼い頃はよく一緒に料理をしていましたから......」

(それでブルルは言葉がうまいし、マフートはお菓子でブルルだとわかったのか......)

「これで思い残すことはありません。 ご厄介になります」

 そうブルルは頭を下げ、部屋にはいる横顔に一筋の光が見えた。
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