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第十六話

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 倒したクラーケンを船で曳航《えいこう》しながらディフロへと向かう。 そして小舟に乗り沈みそうになりながら、ロープでひきずって港へと向かった。 港では歓声をもって迎えられる。

「おお!! おれはまさしくクラーケン!!」

「ああ、町長さん、すみませんが引っ張ってもらえませんか」

「ああ! もちろん! みんなで引っ張るぞ」

 港にいた大勢のものたちでクラーケンを引っ張り、港へと寄せた。

「いやはや、本当にすごい...... まさかクラーケンをあっさりと倒してしまうとは......」

 町長さんは喜びを抑えてそういう。 オレたちは歓迎され町はお祭り騒ぎのようになった。


「本当にありがとうございました!」

 町長さんの家で歓待をうけた。 

「さぞ名のある冒険者さまでしたのですな。 お名前お聞かせ願えまんでしょうか」
 
「ああ、トラです。 あっ!」

(しまった名乗ってしまった...... まあいいか)

「トラさまですか! 強そうなお名前だ。 それにしてもクラーケンをたった四人で倒すとは...... どうされたのかぜひその英雄譚、聞かせていただきたい!」

「い、いやあの......」

「実はなご老人、他に呼び寄せたものたちが百名ほどいてな。 しかし我らと違い彼らは現役の冒険者で忙しき身ゆえ、もう帰ってしまったのだ」

 わーちゃんがもっともらしいことをいった。

「そうでしたか! やはり四人ではなかったのですな。 それにしても百名もこの町のために戦ってくれたとは感激のいたり」

 町長は感激しながら頭を深々と下げた。

「そこで...... 本当に百万ゴールドでよろしいのですかな。 百名もの冒険者ならもっと必要なはず......」

 不安そうに町長さんが聞いてきた。

「ああ、問題ありません。 みんなにはオレから渡しておきます。 ギルドを通してない個人的な依頼ですからね」 

「そうだ。 トラさまの人望で集まってくれたのだ」

「おお! ありがたい! さすがトラさま! あなたならば魔王島すら解放できそうですな」

「ぶっ!」

 飲んでたお茶を吹き出しそうになった。

「ま、魔王島ですか......」 

「ええ、とても強いモンスターがいて近づけないとのこと、あなたたちほどの猛者ならばあの島とて容易いのではと......」 

「いいえ、町長さま。 あの島のモンスターはとても強く、我々もクラーケンを倒したものたちと共にかつて向かいましたが、ほうほうのていで逃げ帰ったのです...... 絶対に近づいてはなりません。 みなにもそうお伝えください」

 ミリエルが眉をひそめて苦悶の表情で話した。

「それほど...... あなたさまたちでもですか...... なるほど、まあ漁場でもないですし、特に近づく理由もないですがな。 みなに伝えておきましょう」

(ほっ、ナイス、ミリエル! これで島へ近づくものもいないだろう」

「それで話なのですが、報酬で得たお金でこちらの町にいる家畜を譲っていただけませんか?」

「ええ、他の町から安全に輸送できるようになりましたからな。 必要な分おゆずりしますよ」

 オレたちはたくさんの牛や豚、鶏、そして機織り機、糸車、針、工具などを積めるだけ船に運びディフロから帰る。

「しかし、これだけあれば、裁縫、畜産なども可能ですな。 ミリエルどの裁縫をゴブリンたちに教えてもらえますかな」

「ええ、もちろん。 私が知ってることなら」

「わ、わたしも教えていただいてよろしいですかミリエルどの......」

「ええ! リシェエラさん」

 リシェエラが喜んでるのをぼんやりみる。

「ふむ......」  

「どうしたんだトラ」

「なにか問題でもあるのでしょうかマスター」

「いや、そろそろ魔王島も落ち着くし、ルキナの村のワーキャットを探そうと思って」

「......探してくれるのか」

 ルキナがおずおずと聞いてくる。

「ああ、町を移動しながら聞いてみるか」

「そうですね。 魔王島は私とミリエルどのたちで村を作ります」

「ええトラさまはルキナさんと共に捜索してください」

「ミリエル...... ありがとう」

「よし! 一度魔王島へと帰り、そのあと捜索の旅にでよう」

 
 魔王島へと戻ったオレは、ルキナ、スラリーニョとポイルで船に乗り取り、北のほうへ航海を始める。

「でもどうやって探すんだ」  
 
 不安そうにルキナがいう。  

「北には帝国がある。 シーサーペントをおかしくしたのが帝国の魔法使いなら、ルキナの村にいった魔法使いが帝国の人間の可能性は高い。 だから帝国にいけばなにかわかると思う」 

「なるほど! ん? なにか私についてるか。 顔をじろじろみて」

「いや、かなり前から変わってしまったけど、ルキナの仲間たちはわかるのかな?」  

 そうクラーケンを倒したことでみんな進化していた。

 ルキナはワーリンクスから黒髪のワーピューマに、スラリーニョはエクススライムから、銀色のグレータースライムに、ポイルはポーショントードから、手に乗るほどの小さいエクスポーショントードに変わっていた。

(でもクラーケン討伐にいった他のモンスターはみな進化したのにわーちゃんとミリエル、トライとイータは変化はなかったな)

「大丈夫、においでわかる」

「なるほど、まあ背丈や顔はあまり変わってないしな」

 ルキナは胸を張っている。 だが少し無理に明るく振る舞ってるようにも感じる。

(まあ、無理もない。 仲間が心配だろう...... なんとか見つけてやらねば)

 二週間ほどの航海ののち帝国領へと入った。 近くの港町ガオリエの沖へと船を停泊させ、オレとルキナは小舟で町へと入った。

 町は閑散としていて活気がない。

「前のディノのいた町のようだ...... でもこの町は大きいし建物なんかもかなり古くて荘厳な感じだ」 

 オレたちは町を散策する。 町の路地には浮浪者や人相の悪いものたちもちらほら見かける。 人々は足早に通りすぎ、その顔も陰鬱に見えた。

「なんか雰囲気が暗いな...... 店も多くはしまってるし、情報がほしいけど......」

 そんなとき酒場らしきものが見える。 
 
「未成年だけど、まあ情報をえるために入るか」
   
 そうドキドキしながら入ってみる。

 中に入ると昼だというのに、大人たちが酒をのみ管を巻いている。

(なんか荒れてるな)

「......なんだ、ここはガキがくるところじゃねえぞ」 

 そうカウンターから大柄な店主がコップを拭きながら、威圧的に話した。

「いや、少し聞きたいことがあって」

 懐から少しの金をカウンターに置いた。

「......なんだ」

「実はワーキャットを探していて、聞いたことはないかな」

「ワーキャット...... そういえばサラメント村の山にワーキャットがでたって噂があったな」

「本当か! 冒険者に倒されたりとかの噂は......」

「こんなところに冒険者なんかこねえよ。 金を持ってるもんがいないからな。 だからモンスターはほったらかし...... いや」

「なんだ?」

「いやな...... 妙な噂があったなと思ってな。 モンスターを使って
国の奴らが何かしてるって話だ」

「モンスターを使って......」

(なんのために......)

「勝手してやがるのさ、魔法騎士団のやつらがな」

 吐き捨てるように店主はいった。

「でも帝国なら皇帝がいるだろう」 

「皇帝は床に伏せている。 今この国を統治してるのはまだ子供の皇女だ。 勝手されてもどうにもならんのだろうよ」

「......なるほどそうか、ありがとう」

「お前さん冒険者か」

「ああ、仕事があるかと思ってきたんだけど、どうやら無駄のようだったな」

「そうか、それは難儀だったな」  

 そう店主が笑う。 オレたちは町を出てワーキャットがいるというサラメント村に向かった。

「実験、モンスターを」

 ルキナがそういって何か考えているようだ。

(確かに...... 帝国は何かモンスターで実験をしている。 暴走させることがそれに繋がるのか)

「まあ先にワーキャットを探すのがさきだ」

「わかった」

 オレたちは街道をすすむ。 

 しばらく歩くと声が聞こえた。

「なにをする!? はなせ!!」

 見るとフードをかぶった人物を剣を持つ六人ほどに囲まれている。

(声から女の子か! 盗賊にでも襲われてるのか、助けないと!)

 と動く前に、ルキナが走り六人を叩きのめした。

「大丈夫?」

「ああ、ありがとう......」

 ルキナに助けられた少女はそう胸に手を当て礼をする。

「どこにいこうとしてるんだ」

 オレが盗賊の武器を壊しながら聞いた。

「それは......」

(わけありか......)

「オレたちはサラメント村に行くんだが、そこまで着いてくる?」

 少女は迷っているふうだったが静かにうなづいた。

 少女の名前はクエリアといい、フードをとると金色の髪の美しい少女だった。 

(なんかミリエルにめちゃくちゃ似てない?)

 そう思ってるのかラキナもこちらをみている。

(農家や町人って感じじゃないな。 貴族か、王族、富豪の娘か、皇女ではないよな...... まさか! ないない)

 言葉少なだが、きちんとした言葉遣いと堂々とした姿にそう思った。

「君たちはなぜサラメント村に? あそこは特になにかある場所てはないはずだが」

「まあ、オレたちが用があるのは、その山の方さ」

 クエリアは不思議そうに首をかしげた。

 夕方にはサラメント村に着く。 村はさびれていて、外を歩く人もいない。

「匂いがするけど、誰もいないぞ」

「いるが、息を潜めているって感じだな」

 オレとラキナが話していると、クエリアはため息をつく。

「みんなつかれているのだ...... この国は政治の腐敗で貧困がすすんでいる」

「でも、ワーキャットの話を聞きたいんだが」

「ワーキャット、モンスターか、一体なぜ?」  

「この先の山にいるらしい」

「討伐にきたのか! 冒険者なのか君たちは!」

「まあ、そんなとこだ」

 その話を聞いていたのか、何軒かの家から中年女性たちが出てきた。

「今の話本当かい?」

「ええ、ワーキャットのこと知っていますか?」 

「ああ、半年ぐらいまえ、突然この山に住み着いたんだ。 今までいなかったのに、山の斜面で畑をしていたこの村はこの有り様でね」

「おばちゃん! そのワーキャットってどんなだった!」

 ルキナがはやってきいた。

「どんなって...... 目が赤くて、無差別に暴れまわっていたよ。 仲間でも攻撃するみたいだった」 

(暴走か、ルキナの村のワーキャットの可能性は高いな)

「でもね。 なんか別々の場所で隠れてるらしいんだ。 ワーキャットって群れで生活するって聞いてたから、おかしいとは思ってたんだが」

(かろうじてある自我で他を攻撃しないようにしてるのかもな)

「それで、ワーキャットがここに現れたとき、ここらでいつもと違うことがありませんでした?」

「そうだね。 そうだ! 帝国の魔法使いたちが山へとはいったのをみていた村人がいるよ。 あいつらが何かしたんだって言うものもいるけど...... まさかね」 

(どうやら間違いないみたいだな)

「でも...... 私らおかねなんてないよ......」

「ああ、それは大丈夫です」

「本当かい......」

 一人のおばさんは怪しんでいるみたいだ。

「我らは冒険者としての力量を試すためにきているのだ。 だから、金銭は不要だ」

 そうクエリアがいうと、オレは冒険者カードを見せる。 するとおばさんは納得したようにうなづいた。

「それは助かるよ! でも気を付けなよ。 無理ならやめてくれていいからね」

「ええ、無理はしませんよ」

 オレたちはおばさんたちとわかれ山へと登る。
 
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